其は正義を手放し偽悪を掴む   作:災禍の壺

50 / 121
( °壺°)「これから大体日曜更新にしようと思っています」
( °壺°)「読んで下さる皆様に多大な御迷惑をおかけします」
( °壺°)「ただ、日曜以外にも更新する時はありますのでご了承ください」


第四十六話

■カタルパ・ガーデン

 

 フワリとした、無重力に似た感覚がした。無重力なんか経験した事無いんだけどな。ジェットコースターが最高点に達した時のような、タワーオ○テラーのラストのような……そんな感覚。

 さて。さてさて。

 コキコキと指を鳴らす。首が曲がる。目が見開かれる。

 いつ以来かの、『臨戦態勢』。

 もしかして、前回やったのって、【数神】になる時じゃ……?

 それはつまり、俺がこうして『戦おう』と思った事が、それ以来無かったという事を示唆している訳で……まぁ、態と間違えようとしていた日々だったのだ。あった方がどうかしている。……それは逆説的に、今の俺は間違えようとしていないという事を意味するのだが。

 

「一瞬の旅が、終わりますよ」

「ん?あ、あぁ、分かった」

 

 ジェットコースターだろうとタワーオ○テラーだろうと終わりはある。

 これから無限に落ちていくような、そんな気持ち悪さを最後に錯覚して、俺達はその地に立った。

 その場所は残念ながら、これと言った名前が無い。見知った場所を挙げて説明するなら……〈ノズ森林〉が最も近くにある辺鄙な場所、かな。草原のような場所。だがこれと言った特徴の無い場所。

 ともあれそこは、俺達が望んだ場所である。

 対【零点回帰 ギャラルホルン】の為の、云わば専用ステージだ。

 ……まぁ、勝てるかどうかは、別問題なんだけどな。

 勝てるかどうかは別問題だったとしても、やらなくちゃいけないというのは、どうしようもない。

 眼前の【ギャラルホルン】が周りを見回し、(恐らく)罠が無い事を確認した。

 

『何故、其方はこの場所を選んだ』

「何も無いから、かな。いやまぁ、とある友人がここにしろ、と言ってきたからなんだが」

『……そうか。此方が干渉出来ぬ別世界の事のようだな。

これでは……遠い、な』

 

 何が遠いのかを公言しなかったものの、その目はアルテアの地を見ている……ように見えた。

 人の形を得た事で、人らしさ、なんてものを得たのだろうか。

 

「カタルパさん、足りません(、、、、、)が、それでもいいんですか?」

「構わない。俺達でも……まぁ、追い出せる。足りる(、、、)と倒せる可能性も出てくるが……それもまた低い。

足りる(、、、)ってのはただ、あいつを追い払える可能性が上がるってだけだ。

……さてアルカ、出来たか?」

「勿論」

 

 ここまでの会話が、ただの時間稼ぎであった事に、【ギャラルホルン】は気付いていたようだ。

 だから、先手は同時に打たれた。

 

「《森輪破壊(メイキング)》」

『《宝玉精製》』

 

 土中から天を掴む腕のように、木の龍が何頭も姿を現し、その天からはバベルの塔を打ち砕いた雷のように、何本もの氷柱……のような水晶が半径百メートル程の円を描くように突き刺さった。

 ステージは【イグドラシル】によって造り上げられ、それの限界は、【ギャラルホルン】により定められた。

 そこで、【ギャラルホルン】はとても悲しげに……人間の『哀しみ』と似たような感情を表に出して、ぽそりと呟いた。

 

『とても、脆いな』

 

 何が、とは言わなかった。

 【イグドラシル】の木々に言ったのかもしれないし、或いは何か、俺達とは全く関係の無いものに向けられたのかもしれない、そんな一言。

 俺達はその一言の重み、というものに息を飲んだ。

 何を意味するかは分からないのに、聴き逃してはならない、と、そう確信したのだ。

 いやはや……【七亡乱波】から【零点回帰】になって、本当に人間性ってのを得たんじゃないのか?

 

『カーター、そろそろ来るぞ』

「総員、作戦通りに」

「「了解」」

 

 総員と言っても三人しか居ないけどな、なんて冷やかしは飛ばない。

 アルカは木々に隠れるように。セムロフは流動する木々に乗って。俺はその木々を駆け巡って。

 その直径二百メートルの世界は、木々の迷路。全くの別世界。

 流石はテリトリーのハイエンド……TYPE:ワールドだ。

 つい最近の事ではあるのだが、アルカのエンブリオ、【平生宝樹 イグドラシル】は第5形態に到達し、スキル等の強化に加え、TYPEが変わった(セムロフを殺した時には既にそうだったらしい)。

 内外干渉に於ける定義がああだこうだ言ってはいたが、専門的な知識が必要そうなので半ば聞き流していた。結論だけ言うに、その内外干渉の定義によって、ワールドと、もう一つのハイエンドに達する事が出来るそうで。

 テリトリーとは文字通り領域。それの内外となるならば、『己の』内か、外か。

 なら今回は『外』だったのだろう。だから世界(ワールド)ね。なら内なら(ルール)か?

 あぁ、ホント。戦いの最中だってのに、俺は無駄な考えが多いなぁ……。思えば前回【ギャラルホルン】と戦った時も、《愚者と嘘つき(アストライア)》を使う前にこんな、気の抜けるような会話をしていた気が……。

 

『そこがカーターのいい所さ。シリアスブレイクというやつだね!』

「それ世間一般ではKYって言うんだぜ?」

『マスターの周りにはそういう人間ばかりでは?』

 

 ……否定出来んなぁ。

 

『それで……来るようだが』

「もうちょいギャグっぽく行けないもんかねぇ!」

 

 合図も無く飛んできた宝石の弾丸を、十字剣で弾く。木々をいとも容易く貫いた弾丸。その弾道を追えば、必然的に俺と【ギャラルホルン】の目が合った。

 その瞬間は一秒と満たなかったが、あの宝石人間にはその僅かな時間でも充分過ぎただろう。

 

『《宝玉精製》』

 

 《Crystal Storm》で無かったのを安堵しながら――流石に、開始早々終わらせに来る程、『楽しみ』を理解していない奴だとは思っちゃいないが――それでも暴力的な水晶の雨を、【イグドラシル】が育てた植物を足場や盾にして、縦横無尽に躱す。

 今回アルカはこの《森輪破壊》によるステージメイクを専門にやって貰っている。一応【付与術師】による補助もしてくれているが、そちらは今回の主な役割では無い。

 セムロフもセムロフで【マジックミラー】が壊れているので(、、、、、、、)、カウントと、行動の観測などの援護役になっている。

 アルカによるステージメイクを除けば、これは実質俺対【ギャラルホルン】の一対一なのだ。タイマンはらせて貰うぜ。

 

『まったく、煩わしい』

「こちらとしても、なんで襲ってきたんだー、とか聞きたい事が山ほどあるんだが?」

『それについては、分からん。ただ使命感や義務感、そういったものが此方を駆り立て、変質させたのは事実だ』

「駆り立て……変質?」

 

 なぁ……まさかそれ、さ……。

 

「セムロフのせいじゃね?」

『彼女以上にカーターを殺したい奴がどうの、だったっけ?

……納得』

 

 つまりこれは、セムロフが引き起こした【ギャラルホルン】の暴走って訳か!納得!

 

「ふざけんじゃねぇぞクソ探偵!」

 

 遠くから「ごめんなさーい」と平謝りが返ってきた。後でなんとかしなくては。

 後で、と暴走を止める事を最重要事項に出来た辺り、感情的では無くなったみたいだな、俺は。

 

 そう言えば。

 

「アイラ」

『何かなカーター』

 

 水晶弾を躱しながら、またいつもの気の抜けた会話をする。

 

「一度目に死を見た時、アイラは都合良く成長した」

『見た時……あぁ、そうだね』

「一度目に死にたくないと思った時、溜め込んだ力が放たれた」

『死にたくない……そう、だったっけ?』

「そうだったよ。

一度目に正しい道を歩んだ時、一緒にアイラは歩いてくれた」

『……カーター、君は何を……』

「俺のエンブリオが成長する時、それは決まって何かが始まる時だった。

死を見た時、弩弓はそれを弔うのだ。

死にたくないと思った時、旗は活路を示すのだ。

正しい道を歩んだ時、天秤はその公平を保証するのだ。

なら、今は?

正義の味方になる時(、、、、、、、、、)()が俺達をどうする(、、、、)?」

『カーター、君は……悪い人だね。

私のそういった成長を見透かすような事をしないでおくれよ。君の裏をかけない』

「そういう策略で、俺に勝てるとでも?」

『勝つよ。何せ私は、君のエンブリオ(子ども)なんだからね』

 

 こんな会話が、水晶弾の合間を縫って交わされていた事を、【ギャラルホルン】は認識していなかった。

 だから奴が認識したのは、精々、アイラが力を解放した際に発せられた、尋常じゃない程のリソースの流れのみだろう。

 

『何事……と言うよりは、其方に何者、と問う方が余程良い気がするな』

「残念だな、それの答えは、随分とありきたりの事なんだ」

 

 木の龍が、雲が裂けるように水晶のステージの端に寄る。アルカに告げた、手筈通りだ。

 確信があったのだから、後は実行するしかない。そうだろ?

 

 そうして造られた闘技場(、、、)には、二人の化け物が立っていた。

 片や宝石の化け物。陽光を四方八方に乱反射させて煌めく、〈終末〉の喇叭。

 片や正義の化け物。鎖を巻き付け、引き摺り、またそれに巻かれている(、、、、、、)、正義の味方。

 

【Form Shift――Cross Chain】

『第5形態……成程、これは少々……手古摺るな』

 

 観客と言える観客のいない闘技場で、俺達は開始の合図も無く激突した。

 空から決闘を見下ろす者も、この時に限っては居なかった。




【絶対裁姫 アストライア】の第5形態
 絶対『を』裁く姫にして絶対『に』裁く姫。
 剣、弓、旗、秤。そして遂に鎖となった。
 形状は何本もの鎖であり、そのどれもが自在に動く。
 仮にではあるが、カタルパが【紅蓮鎖獄の看守】を入手したら酷いことになる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。