其は正義を手放し偽悪を掴む   作:災禍の壺

53 / 121
( °壺°)「申し訳ございません!日曜に投稿と自分で言っておきながら!」
( ✕✝︎)「因みに。理由は?」
( °壺°)「『とじとも』ってあるやろ?」
( ✕✝︎)「ハイ、もういい。皆様、誠に申し訳ない」
( °壺°)「すみませんでした」
( ✕✝︎)「次そういうのあったらゲーム消そうぜ」
( °壺°)「シンデマウ……」


第四十九話

 ソレは近く、またとても遠い。

 昔のようで、それでいて今のような物語。

 いや、そうじゃない。

 コレは昔から、今尚続く物語なのだ。今尚続くから、どちらでもあるように思え、またどちらでもないように感じられるのだ。

 

 コレを諦められるなら。

 コレを締められるなら。

 今すぐにでもそうしただろう。

 

 けれど、未だそうしないのは、きっと――

 

□■□

 

 意外な事は、何も無かった。

 ただスキルを発動しただけなのだから。

 だがそれでも、いやだからこそ、セムロフ・クコーレフスは驚きを隠せなかった。隠そうともしていなかったが。

 対マスタースキルを、今、カタルパは、マスターではない化け物に使わなかったか、と。その問いを彼本人にぶつけたかったからだ。

 脳内で警報が鳴り響く。それは警戒というよりは、それよりももっと悪質な何かを告げる警報。疑心……とも違う、けれど安心する事の無いものを告げる、そしてまた鳴り止む事の無い警報。

 アレは今、前提を否定したのだ。悪とは本来、人のみが持ち得るモノだ。それを本来持たない化け物に、つまり人外に、使った。つまり自分の設定を改変したのだ。それは、改悪であったかもしれないというのに。

 

 厳密には《秤は意図せずして釣り合う》は対マスタースキルではなく対悪スキルである為否定はしていないが――善悪の判断を人外は基本行えない為、一概にセムロフの理念を否定する事は出来なかっただろう。

 

 恐らくそれを、カタルパ自身が否定する事も無かっただろうし、【絶対裁姫 アストライア】が否定する事も無かっただろう。

 結局、正義はいつでも、正しいとは限らないのだから――悪の方が正しい時ですらあるのだから尚更――カタルパ達は否定しなかっただろう。

 正義の味方であって、正義そのものであって、彼等が目指したのは『正しい何か』では無い。

 正義の味方という抽象的なものであれば、それで居られれば、それだけで良かったのだから。

 

「それでも、彼の正義は根底から覆されてしまう、筈じゃないですか」

 

 セムロフの苦言に、アルカも苦々しい表情をしながら答えた。

 

「けれど多分、それでもアズール達は満足だよ。

だって悪を倒せれば、正義でいられるんだもん。それで、いいんだもん。

だから、躊躇なくあの、以前の自分からしたら間違ってるような正義を翳すよ。アズール達はそういう人だよ。

そういう人だから……なのに……」

 

 最後の方は、セムロフの耳には届かず、またセムロフも言及もしなかった。言い方からして過去の事であろうと察したからであり、過去の事ならば、この後知れる事だ(、、、、、、、、)と、思ったからだった。

 

 ――この、未だ絶望的である現状に於いて勝利を確信した事に、この探偵はその時、気付けてはいなかった。

 

 万来の喝采は無く、凡百の理すら、これこの瞬間に至っては尊主されていないようにさえ見える空間で。

 宝石で造られた終末の喇叭と。

 鎖に巻かれた正義の味方と。

 上半だけの狂騒の怪異がいた。

 自由取り巻くこの世界に於いて、これ程までに或る意味自由な輩も早々居るまい。

 そう思わせる程に、彼等は『普通』の枠から逸脱しており、個性というものが強調され過ぎていた。

 個性豊かな面子、と言うのは本来、こういうものを指すのだろう、とでも言うかのようだ。

 まぁ、こんな存在を『個性豊か』という概念に於ける模範解答にしたがる者も居るまい。

 人外。埒外。例外。

 誰も彼も、何かから外れた者達だから。

 『人』という観念から外れた宝石の化け物。

 『埒』という境界から逸れた鎖の化け物。

 『例』という事象からズレた上半の化け物。

 そこに普通は無く、寧ろ『異常』と呼ばれるべきものが並んでいた。

 

 その様に恐怖をセムロフが覚えていた頃、戦場では、目にも止まらぬ猛攻が繰り広げられていた。

 

□■□

 

「《学習魔法・紅炎之槍(ヒートジャベリン)》」

 

 炎の槍が、魔本から射出され、宝石の壁に阻まれる。

 豪雨のように降り注ぐ透明な水晶の槍は、鎖が弾き、また一方は上半のみという体積の小ささを活かして躱す。

 まさに一進一退。二対一を以てして拮抗していた。

 鎖の化け物の周りを、月のように周回する魔本、【ネクロノミコン】は、この状況の異質さに、圧倒されていた。

 嘗ての【七亡乱波】から、弱体化はしていない、寧ろ強化されている筈の【零点回帰】を前に、何故二人程度で拮抗出来るのか、と。

 確かにそこには【ネクロノミコン】自身の協力があったりはする。だが、それでも。

 本来釣り合う可能性の無い天秤が、何故かこれこの時に限り、釣り合っているのだ。

 それを、運命と呼ぶならば。

 なんとも幸運に見舞われたものだ、と思う……が。

 

(そんな、甘い幻想の通りなのか?嗚呼、我以外の常識ある者が、もう一体居れば……!)

 

 拭えない不安は、この戦場には不要。それどころか足でまといだ。

 仮に【ネクロノミコン】が人であったなら、何粒もの冷や汗が頬を伝い、顎から地に落ちていただろう。

 焦燥。猜疑心。正の感情とも言えず、されど負の感情とも言えず。そんなものを内包しながら、【ネクロノミコン】はまた、学習した魔法を放つ。

 それを引き金に。撃鉄が落とされるように、【零点回帰】が動いた。

 

『《Crystal Storm》』

 

 再び放たれた、彼の使い得る最強の攻撃スキル(、、、、、)。最早これでは殺せない事を確信している【ギャラルホルン】は、《Crystal Storm》を放つのに、最早何の躊躇いも無かった。

 ミルキーは先程と同じように、《五体投地結界》と《アストロガード》を同時に発動した。

 然し今回は、先程範囲から外れていたカタルパが、範囲内に居る。

 【ギャラルホルン】は、カタルパがどう対処するかを見るためだけに今、こうして放ったのであった。

 カタルパは落ち着いた様子でミルキーに向けて右手を差し出すと、次の瞬間、その手に刀が握られた。

 ミルキーが渡したソレは、鞘や細かな装飾を見るだけで様々な意匠が凝らされているのが分かる、外見だけで名刀と断じても構わない程の作品だった。

 暗い赤を基調とした鞘に、金糸で施された刺繍。柄もそれに見合うように、されど派手では無い装飾が施されている。

 一応、ソレの存在を【ギャラルホルン】は認知している。

 何故ならば、ここ一ヶ月程、【ギャラルホルン】は天から全てを(、、、)見ていたのだから。

 

『久しいな、【シュプレヒコール】』

「ご名答。それと、忘れていたが。新たなスキル、とかいうのについては不正解だったな」

 

 今更、第5形態になった際の応答を引っ張り出す辺り、カタルパに真剣味はないように思われる。

 だがそれも、一瞬の事。今の会話の内に、宝石の嵐はカタルパの眼前にまで迫っていた。

 

(感情戻したら(、、、、、、)すぐコレか。返答も遅くて困る。全部預けたのは間違いだったなぁ。

さて……)

 

「《怨嗟の感染(シュプレヒコール)》」

 

 サラリと。

 【シュプレヒコール】の固有スキルを発動させ。

 

「《架空の魔書(ネクロノミコン)》」

 

 更に【ネクロノミコン】の固有スキルを重ねた。

 そして自身も鎖を鎧のように纏わせた。

 直後に起こった爆音。然れど二人ともケロリとした様子だった。最早、それに【ギャラルホルン】も驚きはしなかった。

 

 ……後に夫々のスキルの効果を知ったミルキーは語る。『耐えられて当然じゃないか』と。

 

□■□

 

 そこにあったのは未知だった。天から見下ろしているだけでは見れない、人の内と同じ、未知だった。

 【ギャラルホルン】は戦慄した。

 あの時。以前対決したあの時に、彼はこんなスキルを有していなかった。

 思えば彼はいつもそうだ。

 自分を含めた誰かの死を経験して、意識して、成長して行く。

 人を殺した経験から第2形態になった事に始まり、殺される事を危惧して第3形態となり、人を殺して成長する事になり第4形態となり、正義の為に殺し必殺スキルを得、此度。

 アルカ・トレスの死か、【ギャラルホルン】自身に殺される事への感情か、若しくはそのどれでもない何かに因って、第5形態へと化した。

 そしてまた、成長したのは何も、エンブリオだけではない。今回に限っては、彼がよく使うMVP特典の二大巨頭、【共鳴怨刀 シュプレヒコール】と【幻想魔導書 ネクロノミコン】が成長し、固有スキルの発動を可能とするまでに至った。

 《怨嗟の感染(シュプレヒコール)》と《架空の魔書(ネクロノミコン)》。

 どのような効果かは分からなかったが、同時に発動すれば《Crystal Storm》すら耐え得るスキル……その為、発動されては【ギャラルホルン】に一撃で決着を付ける方法は無い。

 これでは持久戦は必至である。

 まぁ、そうなればMPやSPに余裕の無い彼等の方が先に根が折れるだろうが。

 それでも拭えぬ死の恐怖。ありもしない、だが感じるそれは、未知というものへの恐怖であり、別にカタルパやミルキーに向けられたものではない。

 それが一層、恐怖を加速させる。

 誰かが『停滞を加速させていた』ように。明確な解答が無いが故に。

 

 ――そして、しばしば。

 

 恐怖は、その者に異変を起こさせる。

 恐怖そのもの、或いはそれを与えるものから生き残る術を画策するという行動の――その真逆。

 つまり、思考の放棄である。

 

『《Crystal Storm・Another》』

 

 それは、たった今創作されたモノ。

 だから敢えて名を付けるならば、そうなった。

 生きる術の画策、その最果てに、矢張り殺さざるを得ない事を理解したのか?

 

 否である。

 

 未知であるならば、既知になるまで使わせればいい(、、、、、、、)

 今この瞬間この場に。また、碌な思考能力を有していない化け物が一人、増えた。曲解にして、この場に於ける、模範解答であった。

 

「成程……再発目当てか」

 

 あっさりと目的を看破し、カタルパはミルキーに目配せをする。

 ミルキーはそれだけで察し、一度頷いてから化け物二体から距離をとり、人工林の中へと消えて行く。

 

『いいのか、マスター。彼女は退る必要は無いのでは?寧ろ再攻撃が遅れるだけでは……?』

「いいんだネクロ。これは初めから(、、、、)一対一なんだから。それに……」

 

 【ネクロノミコン】の心配も尤もではあったが、杞憂であった。

 鎖のエンブリオが、十字架を模した片手剣に変貌する。

 それに、ネクロは(無いが表現として)目を見開いた。

 

『マスター、まさか……!』

「もうお開きだから、な。

坊や、良い子だねんねしな……ってな」

 

 左手に刀、右手に剣を握る。攻守を入れ替えたいなら盾を取れ。

 

 これより始まるは強者打破。

 ――鎖で与えたダメージは計1000程。プラスで魔法もあったが塵ほどである。そして、鎖の一撃で与えたダメージは1。【ギャラルホルン】のENDは高すぎたのだろう。

 さて。そうすると、どうだろう?

 

 嘗ての事を鑑みると、どうなるだろう?

 

 その、答えは。強いて言うなら――

 

「『《愚者と嘘つき(アストライア)》』」

 

 ――()のみぞ知る、のだろう。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。