( ✕✝︎)「大丈夫、待ってない」
( °壺°)「……どういう意味ですかねぇ…」
( °壺°)「そして、暫くこの、リリース後から半年経った『少し未来』の話が続きます」
■カタルパ・ガーデン
言いたい事は沢山あった。
言えない事が沢山あった。
だから言える事は何も無かった。
天秤はいつも傾いているが、そのどちらの皿にも、物は乗っている。
俺はその天秤を操作して、公平を保とうとしている。
だがそれは、不正だ。
片方の皿に、何かを乗せて付加価値を付けて、無理矢理にでも、無価値に価値を見出した。
この世界の人命に、価値を俺は見出した。
『おいおい、お前は無価値を見出したんじゃなかったのか』
「……いいや、それは『僕』の事だ」
瓜二つで、同一人物のようで、差異がある。
そこには、確かにある。名前以外に、カタルパ・ガーデンと庭原 梓には、どうしようもない、あまりにもハッキリとした径庭がある。
俺は、【絶対裁姫 アストライア】を手に入れたその瞬間は、まだ庭原 梓だった。
だからあの時の俺は、人の命を無価値と思っていた。この世界もあの世界も。人命に意味を見出してはいなかった。
その天秤は、釣り合っていた。だから彼女は危機感の産物であり、TYPE:メイデンだった。
現在、俺は人に価値を見出していて。現在、『僕』は無価値を見出していた。
今、その天秤は釣り合っていない。
一人の中に、二つの思想が入り交じっていて。
ぐちゃぐちゃで。ごちゃ混ぜで。
俺は。
間違いを犯して、正義を掴む。
『僕』が正しいから。それに対立する俺は、間違いだから。『僕』が
いや……その偽善という正義すら、過程に過ぎない。
俺は、その正義を糧に、其の正義を手放し偽悪を掴む。
悪ではあるが、正義でもある、偽善であり偽悪であるモノ。それが俺。
鎖の化け物。
鎖が化けた獣。
有限である、鎖と。
無限である、意志を以て。
また俺は、道を違える。
刀と手甲と魔導書の物語は、その誤りと過ちの、精算に過ぎない。
■□■
俺が2体目の〈UBM〉を倒して得た刀、【怨嗟連鎖 シュプレヒコール】。
俺がまだ、シュウ達と一緒に切磋琢磨していた頃に――今でも闘技場で闘いはするけど――倒した、伝説級〈UBM〉【怨嗟共鳴 シュプレヒコール】のMVP特典。
厳密に言うと、MVP特典は【共鳴怨刀 シュプレヒコール】であり、【怨嗟連鎖 シュプレヒコール】はそれの強化形態――若しくは進化形態――だ。
どうしようもない俺が、どうしようもなくなった原因。それが【怨嗟共鳴 シュプレヒコール】だ、と言える。俺が【数神】になった一因であり、俺が“
【怨嗟連鎖 シュプレヒコール】は《
と言うか、それが此度の本題だ。
刀から鎖が放たれたのは、新たなるスキルなのかと思ったが、スキルの欄に追加要素は無く、相変わらず第3のスキルとして《???》が存在するだけ。その《???》が今回の騒動の正体なのかもしれないが、ミルキーの《鑑定眼》をそう易易とすり抜けられるとは思っていない。
それは俺が【怨嗟連鎖 シュプレヒコール】を甘く見ているからであり、ミルキーを信頼しているからだ。
だから俺は、見落としていた。
【怨嗟共鳴 シュプレヒコール】と
□■□
結局、俺は何も分からぬまま、アイラと共に日常というものを繰り広げるだけだった。再び【怨嗟連鎖】が暴走する可能性も勿論考慮はしていたけれども、どうやらそれは杞憂だったらしい。とは言え、またあの客に出会った時に暴走しないとは限らないから、解決するまであの店には行けそうにないが。
危険が露骨に待ち受けているのに、実態が見えない。
そこには、得体の知れない恐怖があるだけ。俺の所有物に、他ならぬ俺が恐怖しているだけ。
連なり、繋がり、鎖のようになった怨嗟。
一人きりでは、怨嗟になり得ず――
「一人きりでは『怨嗟になり得ない』……?」
「……カーター?」
「アイラ……俺達は酷い見落としをしていたぜ……!」
『どういう事だ、マスター』
俺は、たった今作り上げた、仮定だらけの推論を述べる。
「【怨嗟共鳴 シュプレヒコール】は……厳密には一人じゃなかったじゃないか!」
「…………あ」
『……?』
【シュプレヒコール】戦当時に居なかったネクロは分からなかったみたいだが、アイラは勘づいた。
そう。【怨嗟共鳴 シュプレヒコール】と
アレはアンデッドにアンデッドが纏わりついた化け物。
ソレを倒して得たMVP特典、【怨嗟連鎖 シュプレヒコール】は、あの時の彼女の能力、『アンデッド等の怨念を纏う能力』が、移ったと思われる。『怨みを集める能力』等に変化したのかは不明だ。
〈UBM〉の特性をMVP特典は色濃く継いでいる、というジャバウォックの言を信じるならだが、これが最も信憑性の高い理論だろう。
「怨念が集う刀、【怨嗟連鎖】……ならば、その鎖の正体も、そのアンデッドなのかな?」
「かもしれない。
ただ……分かった所で発動条件が分からない。
そればかりは、二の轍を踏んじゃいけねぇ。だから……推理を進めなくちゃいけねぇってのに……」
『その先、か。
ならばマスターにブライドよ』
そのネクロの問いかけというか誘いに、俺達は一瞬だけ、過去の何かを思い出しそうになった。
『英訳してくれないか?』
「「もういい。『Let us in?』」」
そう言えば、あったなそんなの、なんて。
俺とアイラは、街中にも関わらず魔書の中に姿を消した。
□■□
「てか、来たはいいが時間の流れとかってどうなってんだ、ここ?」
『この世界はマスターのいた元々の世界より3倍時間が早く進み、この魔書の世界では更に3倍。計9倍である』
「まじか凄いな!」
『――なんて事はなく、精々落ち着いて考えられるくらいだ』
「おい。……まぁ、それでもいいよ、今更だ。
……問題は、お前が此処に呼んだ意味だ。周りに誰も居ないからといって、それは精々【怨嗟連鎖】の暴走を抑えるくらいだ」
『安心したまえ。それ以上の効果を期待出来る。まぁ、『解けば』分かるさ。
――《
訳の分からないスキルをネクロ自身が唱えるや否や、その枯木を中心に、文字の羅列が現れた。
それは、英語でも、日本語でもなく……言ってみれば未知の言語だった。
自慢ではないが、俺は大抵の言語は解しているし、話せる。
そんな俺が未知としか答えられない言語……創作言語に近しいそれは、云わば暗号だった。
『さて、始めようか。なに、貴公なら「一瞬で」終わる筈だろう?』
挑発的にネクロが笑う。最近、この枯木も感情表現が豊かになってきた気がする。……こいつの場合は、『魔法』と『人間』を学習するのだから、当然と言えるが。
これは、翻訳ではなく、解読だ。そこの違いはハッキリしている。それが、難易度がどれ程違うのかを物語っている。
そしてネクロが態々《議題記す偽題の琴》という新たなスキルを使った理由は、必ずある筈。
俺はそれに応えなくちゃいけない。
だからこれに答えなくちゃいけない。
それは俺の義務だ。
意味を見出すのは。価値を見出すのは。
『俺』の、義務なんだ。