其は正義を手放し偽悪を掴む   作:災禍の壺

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( °壺°)「待たせましたな」
( ✕✝︎)「大丈夫、待ってない」
( °壺°)「……どういう意味ですかねぇ…」
( °壺°)「そして、暫くこの、リリース後から半年経った『少し未来』の話が続きます」


第五十五話

■カタルパ・ガーデン

 

 言いたい事は沢山あった。

 言えない事が沢山あった。

 だから言える事は何も無かった。

 

 天秤はいつも傾いているが、そのどちらの皿にも、物は乗っている。

 俺はその天秤を操作して、公平を保とうとしている。

 だがそれは、不正だ。

 (いびつ)(ゆが)んだ正義の味方が、天秤を故意に操作しようとしている。

 片方の皿に、何かを乗せて付加価値を付けて、無理矢理にでも、無価値に価値を見出した。

 この世界の人命に、価値を俺は見出した。

 

『おいおい、お前は無価値を見出したんじゃなかったのか』

「……いいや、それは『僕』の事だ」

 

 瓜二つで、同一人物のようで、差異がある。

 そこには、確かにある。名前以外に、カタルパ・ガーデンと庭原 梓には、どうしようもない、あまりにもハッキリとした径庭がある。

 

 俺は、【絶対裁姫 アストライア】を手に入れたその瞬間は、まだ庭原 梓だった。

 だからあの時の俺は、人の命を無価値と思っていた。この世界もあの世界も。人命に意味を見出してはいなかった。

 その天秤は、釣り合っていた。だから彼女は危機感の産物であり、TYPE:メイデンだった。

 

 現在、俺は人に価値を見出していて。現在、『僕』は無価値を見出していた。

 今、その天秤は釣り合っていない。

 一人の中に、二つの思想が入り交じっていて。

 ぐちゃぐちゃで。ごちゃ混ぜで。

 俺は。

 間違いを犯して、正義を掴む。

 『僕』が正しいから。それに対立する俺は、間違いだから。『僕』がヒーロー(英雄)なら、俺は正義の味方(偽善者)だ。二項対立していて、彼方が正義だと言うならば、此方は悪……性悪説に倣えば、矢張り偽善なのだ。

 いや……その偽善という正義すら、過程に過ぎない。

 俺は、その正義を糧に、其の正義を手放し偽悪を掴む。

 悪ではあるが、正義でもある、偽善であり偽悪であるモノ。それが俺。

 

 鎖の化け物。

 鎖が化けた獣。

 有限である、鎖と。

 無限である、意志を以て。

 また俺は、道を違える。

 刀と手甲と魔導書の物語は、その誤りと過ちの、精算に過ぎない。

 

■□■

 

 俺が2体目の〈UBM〉を倒して得た刀、【怨嗟連鎖 シュプレヒコール】。

 俺がまだ、シュウ達と一緒に切磋琢磨していた頃に――今でも闘技場で闘いはするけど――倒した、伝説級〈UBM〉【怨嗟共鳴 シュプレヒコール】のMVP特典。

 厳密に言うと、MVP特典は【共鳴怨刀 シュプレヒコール】であり、【怨嗟連鎖 シュプレヒコール】はそれの強化形態――若しくは進化形態――だ。

 どうしようもない俺が、どうしようもなくなった原因。それが【怨嗟共鳴 シュプレヒコール】だ、と言える。俺が【数神】になった一因であり、俺が“不平等(アンフェア)”と呼ばれるようになった一因だ。俺が、間違えて、間違えて、間違えに間違いを重ねて、正しくなった、根源だ。

 【怨嗟連鎖 シュプレヒコール】は《音信共鳴(ハウリング)》と《怨嗟の感染(シュプレヒコール)》という二つのスキルを有し、つい最近、事件を起こした刀である。

 と言うか、それが此度の本題だ。

 刀から鎖が放たれたのは、新たなるスキルなのかと思ったが、スキルの欄に追加要素は無く、相変わらず第3のスキルとして《???》が存在するだけ。その《???》が今回の騒動の正体なのかもしれないが、ミルキーの《鑑定眼》をそう易易とすり抜けられるとは思っていない。

 それは俺が【怨嗟連鎖 シュプレヒコール】を甘く見ているからであり、ミルキーを信頼しているからだ。

 だから俺は、見落としていた。

 【怨嗟共鳴 シュプレヒコール】と名乗っていた(、、、、、、)のは、果たして何なのかを。

 

□■□

 

 結局、俺は何も分からぬまま、アイラと共に日常というものを繰り広げるだけだった。再び【怨嗟連鎖】が暴走する可能性も勿論考慮はしていたけれども、どうやらそれは杞憂だったらしい。とは言え、またあの客に出会った時に暴走しないとは限らないから、解決するまであの店には行けそうにないが。

 危険が露骨に待ち受けているのに、実態が見えない。

 そこには、得体の知れない恐怖があるだけ。俺の所有物に、他ならぬ俺が恐怖しているだけ。

 連なり、繋がり、鎖のようになった怨嗟。

 一人きりでは、怨嗟になり得ず――

 

「一人きりでは『怨嗟になり得ない』……?」

「……カーター?」

「アイラ……俺達は酷い見落としをしていたぜ……!」

『どういう事だ、マスター』

 

 俺は、たった今作り上げた、仮定だらけの推論を述べる。

 

「【怨嗟共鳴 シュプレヒコール】は……厳密には一人じゃなかったじゃないか!」

「…………あ」

『……?』

 

 【シュプレヒコール】戦当時に居なかったネクロは分からなかったみたいだが、アイラは勘づいた。

 そう。【怨嗟共鳴 シュプレヒコール】と呼ばれる(、、、、)〈UBM〉は、一体しか居ない。だが、俺達が倒した【怨嗟共鳴 シュプレヒコール】という存在は……一人ではなかった。

 アレはアンデッドにアンデッドが纏わりついた化け物。

 ソレを倒して得たMVP特典、【怨嗟連鎖 シュプレヒコール】は、あの時の彼女の能力、『アンデッド等の怨念を纏う能力』が、移ったと思われる。『怨みを集める能力』等に変化したのかは不明だ。

 〈UBM〉の特性をMVP特典は色濃く継いでいる、というジャバウォックの言を信じるならだが、これが最も信憑性の高い理論だろう。

 

「怨念が集う刀、【怨嗟連鎖】……ならば、その鎖の正体も、そのアンデッドなのかな?」

「かもしれない。

ただ……分かった所で発動条件が分からない。

そればかりは、二の轍を踏んじゃいけねぇ。だから……推理を進めなくちゃいけねぇってのに……」

『その先、か。

ならばマスターにブライドよ』

 

 そのネクロの問いかけというか誘いに、俺達は一瞬だけ、過去の何かを思い出しそうになった。

 

『英訳してくれないか?』

「「もういい。『Let us in?』」」

 

 そう言えば、あったなそんなの、なんて。

 俺とアイラは、街中にも関わらず魔書の中に姿を消した。

 

□■□

 

「てか、来たはいいが時間の流れとかってどうなってんだ、ここ?」

『この世界はマスターのいた元々の世界より3倍時間が早く進み、この魔書の世界では更に3倍。計9倍である』

「まじか凄いな!」

『――なんて事はなく、精々落ち着いて考えられるくらいだ』

「おい。……まぁ、それでもいいよ、今更だ。

……問題は、お前が此処に呼んだ意味だ。周りに誰も居ないからといって、それは精々【怨嗟連鎖】の暴走を抑えるくらいだ」

『安心したまえ。それ以上の効果を期待出来る。まぁ、『解けば』分かるさ。

――《議題記す偽題の琴(カーヌーン)》』

 

 訳の分からないスキルをネクロ自身が唱えるや否や、その枯木を中心に、文字の羅列が現れた。

 それは、英語でも、日本語でもなく……言ってみれば未知の言語だった。

 自慢ではないが、俺は大抵の言語は解しているし、話せる。

 そんな俺が未知としか答えられない言語……創作言語に近しいそれは、云わば暗号だった。

 

『さて、始めようか。なに、貴公なら「一瞬で」終わる筈だろう?』

 

 挑発的にネクロが笑う。最近、この枯木も感情表現が豊かになってきた気がする。……こいつの場合は、『魔法』と『人間』を学習するのだから、当然と言えるが。こいつじゃない(【ギャラルホルン】の)場合は、俺にはさっぱりだ。

 

 これは、翻訳ではなく、解読だ。そこの違いはハッキリしている。それが、難易度がどれ程違うのかを物語っている。

 そしてネクロが態々《議題記す偽題の琴》という新たなスキルを使った理由は、必ずある筈。

 俺はそれに応えなくちゃいけない。

 だからこれに答えなくちゃいけない。

 それは俺の義務だ。

 意味を見出すのは。価値を見出すのは。

 『俺』の、義務なんだ。

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