其は正義を手放し偽悪を掴む   作:災禍の壺

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アイラのキャラが定まらない今日この頃。


第六話

■ 庭原 梓の視点の話

 

 先ず見たのは、灰色。と言うか、先ずも何も灰色。白と黒と、その中間色のみ。変に混ざって全部灰色に見えてくる。微妙な違いはあるんだろうけど、灰色の近似色って感じだ。

 彩られた世界、はあるにはあるだろう。だが所詮、それは一部のみだ。自分の生きる世界……特に自分が生きているこの場所に、そんな『輝かしいもの』は存在しない。

 左手に"鎖の巻かれた十字架"の紋章は無い。彼女、【絶対裁姫 アストライア】が『此処』に居ない事を示している。だからこそ、その手もモノクロに映る。

 モノクロの天井、モノクロの部屋、モノクロの家。

 見渡せば見渡す程に、明暗の付いた白と黒が視界に映った。

 「えー、左手に見えますは、モノクロなリビングに御座います。本当は青系で彩られた鮮やかなリビングなんですけどねー。

そして右手に見えますは、モノクロな寝室に御座います。こちらは緑を基調とした部屋になっている筈ですー。昭和のテレビよろしく白黒ですねー。<Infinite Dendrogram>にログインする為の媒体も有りますねぇ」

 なんてつまらない観光案内をされているようだ。

 鏡を見れば……自分とよく似た灰色の『誰か』がいらっしゃった。

 自分なのは理解している。色の無い、この部屋と同じモノクロ。自分に『輝かしいもの』が無い何よりの証だ。

 〈DIN〉のサイトを見る気にもならない。ログイン出来ない事を態々確認するつもりも無い。<Infinite Dendrogram>に今触れてしまうと、待てなくなってしまう。待つしかないのに、足掻いてしまう。

 だからと言って、何か、他にする事も存在しない。

 別に、<Infinite Dendrogram>が大切だ、なんて思った事は殆ど無い。無くなっても構わない、と思っていた筈だ。

 それなのに、この喪失感は何なのだろう。

 

「僕にとって、<Infinite Dendrogram(あのゲーム)>は何だったんだろう……」

 

 考えて答えが出てくるならば、そんなに嬉しい事は無い。けれど、出る気配は無い。

 また、答える声は無い。いつも隣にいた、『もう1人の自分』。

 自分と異なる意見を出してくれた、異なる見解を示してくれた彼女は、ここには居ない。

 きっと彼女にこの事を話したら、僕が思いも寄らない考えを言ってくれるに違いない。彼女はそういう人だ。〈エンブリオ〉っていう枠組みでは無く、彼女は【絶対裁姫 アストライア】、アイラという、僕にとってかけがえのない……大切な、人なんだ。

 そうして、そうする事で漸く僕は気付くのだ。

 

 ――彼女が、自分と『違った』事に。

 

 〈エンブリオ〉が自分(マスター)の分身だと言われているからって、自分と同じな訳が無い。少し考えれば分かる事だろうに、今の今まで気付いていなかった。なんと愚かしい事か。

 

(アイラに会いたいと思うのは、強欲なのだろうか……)

 

 まだ暫くログインは出来ない。だからこそ、彼女が愛おしい。

 そして、ようやっと僕の意識は<Infinite Dendrogram>に移った。

 

「そう言えば……アリスン、だったか。なんで急に殺しに来たのか……」

 

 生憎、それの答えは出ている。知られたくないから、だ。

 僕が何かに気付きそうだったから、口封じでは無いが、知られる前に殺した、のだろう。

 『知ってからでは遅い』何かを知られる前に、殺したのだろう。

 自分で言うのも何だが、勘はいい方だと思っている。彼女の言動から何かを察する事は、不可能じゃない。今回はそう言った、(或る意味の)口封じの意味が込められていた事を、死の間際に察したのだ。

 

「となると問題は逆に、察されそうだって事を、何故アリスンが気付けたか、になるのか」

 

 僕の勘の良さを人間離れなどと言い表すなら、彼女のそれも人間離れしている。母性的な人だったからな。母は何でも知っている、と言うが、そういう事なのだろうか。まあ、僕に母親はもういないんだけれどさ。

 そうこう考えている内にもう1時間経過していた。残り23時間。

 短いようで、まだ長い。

 と言うか再ログインした時にまたアリスンが殺しに来たらどうしようか。リスキルなんてもんじゃねぇ。

 

「……取り敢えず、何しようか」

 

 電話……する相手がいない。態々シュウにかけてゲームを中断させるのも気が引ける。

 友達もいるけど、何を話そうか、ってなると話題に困ってしまう。

 

 ――噂をすれば影、と言おうか。

 

 携帯が鳴った。着信が来た。相手は……ああ、天羽(あもう)じゃないか。

 天羽と言うのは僕の数少ない異性の友人の1人(同性も少ない)だ。高校時代からの関係で、大人になった今でも連絡を取り合ったり酒を酌み交わす仲だ(お互いあまり飲めないけれど)。

 そういやもう僕も25か……。もうシュウに出会ったのは10年くらい前なんだな(シュウは現在26だった筈だ。同学年ではあったらしいが、僕が早生まれの為年齢がズレている)。

 おっと。着信を無視してしまうところだった。久々に友の声を聞こうじゃないか。あわよくば、相談相手になってもらおう。

 

「もしもし」

『あ、梓?おひさー!元気してるー?死んでないー?』

「死ぬか阿呆!」

 

 妙にハイテンションだな…。何かいい事でもあったのだろうか。

 ……と言うか、ゲーム内で死んだよ、などとジョークでも言うべきだったか(ジョークではなく真実だが)。

 

『あのさ、梓が発売日に買ったって言ってたゲームあったじゃん!』

「ああ、<Infinite Dendrogram>な」

 

 確かに発売日に買って「現実逃避に行ってきます」とか言っておきながらグラフィックとか凄すぎ!って自慢してたな。記憶に新しい……って、1週間程度前の事じゃねぇか。

 

『私も買ったんだけどね!いやー、思った以上に楽しかったの!』

「……そっか。それは、良かったよ」

 

 自分が始めた理由は兎も角、天羽が始めた理由が僕ってのは、中々に嬉しいものがある。布教、とは少し違うけどな。

 

『でもさ、プレイヤーを倒すのって難しいね!』

 

 おっと?雲行きが怪しくなって……ってか、なんか、嫌な予感がする。

 

『私の〈エンブリオ〉でピョンピョン跳ねて戦うんだけどさ、1回目は真似されて倒されちゃって……』

 

 ……へぇ、真似、か。ナンカイヤナヨカンガスルヨー。

 

『2回目もぶった斬られちゃってさ。今ログイン出来ないんだよねー』

「……一応聞こう。天羽、PNは何だ?」

『ん?『ミル鍵』だけど』

「…………そう、か」

 

 ……悪い予感程、的中するのがこの世界の悪い所だと思う。

 さて、正しい事を言うべきか否か。その内<Infinite Dendrogram>内で会おうとか言われて、会ったらリベンジマッチ開始、とかシャレにならん。なら、早めに言おうかな。

 

「多分だけど、お前を(キル)したの、1回目は僕だ」

『え?そーなの?』

「PNはカタルパ・ガーデン。いや、名乗ってなかったな、そう言えば」

『へー…………へー』

 

 因みに、何故僕がミル鍵の名前などが分かったのかと言うと、【会計士】のジョブには《看破》があるからだ。アイテムの売値等が分かれば会計に応用出来るから、だとか何とか。後《暗視》があった。夜でも文字見るからね、この職業。今は【演算士】だけど。

 さて、携帯の向こうの天羽の反応がおかしくなってきた。怒っているのだろうか?

 

『そっかー。梓が私を……。梓が私の初めてなんだね』

「おい、その言い方に悪意を感じるぞ」

 

 なんか気持ち悪い。友人が気持ち悪い。ゲーム内で着ぐるみ着てる友人とか宗教やってる友人とか、電話の向こうで気持ち悪い事言ってる友人とか僕の周り気持ち悪い奴しかいねぇ!……僕も気持ち悪い奴の1人なんだけどな。類友とか言った奴はぶん殴る。

 

『てへ。

ま、殺されちゃったのは、仕方ないよね。だって『自由』が売り文句なんだもん。殺す自由と、殺される自由があっていいと思う』

「…………」

 

 その自由を、僕はあのゲームで言う自由だとは思いたくない。けれど、僕の言っている事の方が我儘なんだろう。彼女の言っている事の方が、周りの人間は納得するんだろう。

 

『まぁ、暴論だよね。

それに勝てないし。流石にもうPKはやめようかなーなんて思ってるよ』

「……因みに、戦績を聞いても?」

『2戦2敗!』

「少なすぎるのと、諦めるの早すぎな気がする」

 

 聞いて呆れるわ。抑PK向いてねぇんだよ、お前。

 天羽は根は優しいんだが、如何せん楽をしたがりだ。金策に困ったら稼ぎのいい方へいい方へと行きたがる。今回はモンスター狩るよりプレイヤー狩る方が稼げるんじゃ…とか思ったんだろう。

 その後、24時間ログイン出来ない方が結果的に損なんじゃないか、と考えたに違いない。まあ、それでPKをやめてくれるなら、こちらとしては嬉しい限りだ。

 

『ねぇ、今度一緒にクエスト行かない?私あと23時間くらいで再ログイン出来るからさ、待ち合わせて』

「あー……あぁ、いいぜ」

 

 無理に断る必要も無い。それに、アイラと話し合う時間は、天羽と一緒にクエストに行ってからでいいだろう。

 1人より、2人の方が稼ぎがいいもんね、とか言う本音があるんだろうが、触れないでやる僕は超絶優しい。

 

「で、天羽」

『どったの、カタルパ・ガーデンさん』

「……お前、後23時間何するんだ?」

 

 少しイラッとしたが、俺の聞きたい事の為にその怒りは抑えておこう。後23時間、と言うのは、奇しくも僕とほぼ同じ時間だ。

 彼女の過ごし方を参考にしてみようじゃないか。

 

『うーん、そーねー』

 

 と、言う声が、ヤケに近くから聞こえた気がした。そりゃ携帯から聞こえる訳だから近いでしょーよ、ってなるけれど、そうじゃない。それとは別で、近くから聞こえたのだ。

 ……まさか!

 

 ――ノックの音がした。

 

「取り敢えずお邪魔しよーかな、ってね」

「帰れ……と言っても帰らな……なんで当たり前のように鍵開けてんだお前」

 

 合鍵を渡した覚えは無いのに、スススっと家に入ってきた天羽。不法侵入で訴えていいか?

 携帯を置いて、リビングのテーブルに2人向かい合って掛ける。

 それから前置きもなく、天羽と僕は語り出した。

 天羽は<Infinite Dendrogram>での自分の〈エンブリオ〉、【上半怪異 テケテケ】の事を語っていた。元敵であった僕に、スキルの事や、攻撃力の事、使い勝手の事とか色々と話してくれた。

 僕も自分の〈エンブリオ〉、【絶対裁姫 アストライア】の話をしていた。珍しいメイデンの〈エンブリオ〉である事、相手にかけられているバフをパクれる事、そして。

 

「僕の〈エンブリオ〉の第2スキルは《不平等の元描く平行線》と言ってな……」

 

 新しいスキルの事も、話していた。

 目の前にいるのは確かに、過去の敵、ミル鍵なのだろう。

 だけれども、今目の前にいるのは天羽(あもう) 叶多(かなた)であって、PKミル鍵では無い。そしてもう、ミル鍵自身、PKでは無い。

 これから旅の仲間になるかもしれない相手を前に、無駄な隠し事をする意味が無い。多分それは、天羽が先に気付いていた事だろうけど。

 

「自身が受けるダメージが発生した際、自身のENDでは無く別のステータスで肩代わりして計算させるスキルなんだ」

『…………どゆこと?』

「つまりだな。AGIが200、ENDが100あったとしよう」

 

 そのステータスは、【演算士】を得た今の僕のステータスの近似値だ。

 

「その状態で《発生ダメージ-END》でダメージを受ける攻撃が発生した。発生ダメージは250。さぁどうなる」

「250-100で150ダメージ受ける、ってなるよね?」

「そうだな。でも《不平等の元描く平行線》を使うと、そのENDの値に他のステータスの値を代入出来る」

「って事は今回AGIを代入すれば50ダメージにまで軽減出来ますよって事ね」

「って事だ。今んところはダメージを受ける際にしか使ってねぇから攻撃時に使えんのかは分からん。ただ防御面に関しては殆どの攻撃がさっきの計算みてぇなの使うからな。使うタイミングはあると思う」

 

 実際、あの光る槍の攻撃を耐えたのはこのスキルがあったから。あまりにもギリギリだったけどな。ENDの欄に一番高かったAGI入れたらああなった。もっとあったら死ななかっただろう(その場合、アリスンが次の案で僕をデスペナルティにさせた事だろう)。

 

「私は第2形態になってもスキルで上がるステータスが上昇したくらいだったよー」

「僕みたいに広いとそういう上昇値とかが低い傾向にあると思うからそっちはそっちでいいと思うぞ。上昇するステータスも、空中歩行可能時間も伸びた筈だ」

 

 それを僕がやろうとすると、効果時間延長か、代入時に倍率補正がかかるくらいだろうな。

 

「あー、あと21時間だねー」

「逆に言うと2時間も話し込んでたのか。……腹減ったか?」

 

 僕は彼女の茶色い目(、、、、、、、)を見ながら言う。

 天羽は二つ返事で頷いて、朝……昼食を待つ。気付いたら朝じゃなくて昼だった。ゲーマーあるあるかもしれないが、初めて経験したよ。多分。

 

「楽しみだね、再ログイン」

「あー、そうだ、な」

「どったの、返答がなんか曖昧だけど」

 

 こういう時、恐らく僕以上に天羽は聡い。

 

「アイラに謝るべきかな、ってさ」

 

 もう天羽には、僕が自分の〈エンブリオ〉をアイラと呼んでいる事は伝えている。後々の為だ。

 だからそこにつっかかりはせず、本題の方に気を向けた。

 

「謝らない方がいいよ」

 

 天羽は、優しくそう言った。

 

「だって今、アイラちゃんは罪悪感感じてるもん。〈マスター〉が死んじゃったのは自分が弱いせいだー、って」

「あいつは悪くない!僕が……弱かったから」

「梓も弱かった。アイラちゃんも弱かった。どちらが悪いか、なんて誰にも分からないよ。それを理解するには、多分そのアリスンって人は強すぎた。為す術もなくやられちゃ、何が敗因なのかも分からないじゃん。弱かったからって、全部片付いちゃうじゃん。そこに、何の悪さがあるのさ。

だから梓も、アイラちゃんも、弱かったけど、悪くは無かったと思うよ」

「……そういうもんなのか?」

「そーゆーもんなんだよ」

 

 天羽はニカッと笑った。童顔なのもあり、高校生が笑みを浮かべているようだった。

 本人の前では言わないが、な。言うと怒るんだよ、高校生とは何事かー!と。若く見られる事を良しと思わない、らしい。

 それから僕と天羽は昼食を頂いた。面倒くさかったけどな、2人分作るとか。

 

「楽しみだね、梓」

「ああ、そうだな」

 

 最後まで自分がデスペナになった事は言わず、僕達は時が経つのを待った。

 時が経つのを楽しみだと思ったのは、久し振りな気がした。




《不平等の元描く平行線》
自身のステータスを用いた判定全てに使用可能。使用可能制限、使用範囲などの指定は一切無し。第2形態でのみ使用可能なアクティブスキル。
ステータスを用いた計算の際に、その計算で本来使わないステータスの値を代入する事が出来るスキル。自身が受けるダメージ判定の際にはENDの代わりにEND以外のステータスであるHP、MP、SP、STR、AGI、DEX、LUCの何れかを当て嵌める事が可能。
特化職であれば、当て嵌める数値を極大化させる事が可能。ステータスを偏らせても似たような事が出来るが、【会計士】と【演算士】という非戦闘職の為、大きな値の代入は出来ない。

追記。
また、計算時に常時マニュアルで数値を入力する必要がある為(常時ウラノスの必殺スキル状態)、常人がやれば頭がパンクする。

↓カタルパ・ガーデンの現在のステータス。( )内は装備品込のステータス……と言えど装備補正がアイラ以外に無い為、END等への補正が無い。
HP:98
MP:102
SP:63
STR:93(+76)
AGI:184(+51)
END:86
DEX:100
LUC:80

後、『ミル鍵』の名前に意味は無いです。天羽 叶多の名前とは何もかかってない。ただアナグラムで「キルミー(Kill me)」になるだけ。
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