其は正義を手放し偽悪を掴む   作:災禍の壺

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( °壺°)「新しい展開の為の布石デス」
( °壺°)「なので今回は短め」


第六十三話

 光が途絶えた。

 月に影が差すように、灯がいずれ消えてしまうように。

 泡沫の夢は、幸せな悪夢は、必ず覚めてしまう。

 

「どーしてこーなるかなー」

 

 ミルキーが頭を搔く。上半身だけの身で器用な事だ。

 彼女の眼前には、正体不明の化け物と、鎖の化け物が居た。

 正体不明の化け物。名はクロノス・クラウンと言った。

 こんな事なら出掛けるんじゃなかった、とミルキーは思案する。まだその化け物がこちらを襲わない内に、出来る限りの思考をする。

 このままでは、二人とも敗北してしまう。

 どうすればあの鎖の化け物を連れて逃げられるのか。

 ミルキーは策を練るのが精一杯だった。

 

□■□

 

 至極単純に言えば、【ギャラルホルン】の装飾をミルキーが行う事は出来なかった。技術的な問題もあったが何よりも、

 

『此方は怪異に修繕される身では無い』

 

 などと本人が拒否した事が原因だろう。それでミルキーのやる気も削がれた。

 

「じゃあ、技術大国行こうよ、技術大国」

 

 技術大国……と言うのは、言わずもがなドライフ皇国の事だろう。

 当時の王国と皇国は戦争も起こらず比較的安全だった為、ミルキーも気安く語っていた。

 

「ドライフか……何も無いといいんだが」

 

 ――このアルテアにも、“最弱最悪”の名は届いている。天下のマッドサイエンティストに出会っても、何も無いと良いのだが。いやそも、出会わない方が、良いのだが。何か難癖を付けられて酷い目に逢うのは避けたい所だ。

 だがこの心配は、意味を成さなかった、と言える。

 これは全てが終わったからこそ言えた事なのだが、それに関しては杞憂だった。

 問題はもっと違う所だ。『最悪』が【大教授】で、『最強』が【獣王】若しくは【魔将軍】であると言うのなら、(【魔将軍】は煽り耐性的な問題で『最強』ではないと思うが)カタルパのような人間の極めるところである、『最速』は誰なのか。今まで散々『そうしたもの』と関わってきたカタルパが、勘づかない筈が無かったというのに。

 実際、カタルパはこの王国で『最速』を目指す者達とは何度か出会っている。

 かの【抜刀神】、カシミヤとも闘技場で何度か手合わせしている。まぁ、結果は悲惨なものだったが。

 そうしていたから、何処か慣れていたのだろう。故に見落とした。

 【兎神】……聞けば大体察せた筈なのに。見れば理解出来た筈なのに。

 カタルパ・ガーデンは、見落とした。

 

□■□

 

 皇国には知り合いが居るのか、とカタルパはミルキーに問うた。ミルキーははぐらかすばかりで、答えようとしなかった。

 何か隠したい事があるのだろう。

 知りたいという好奇心よりも、『親しき仲にも礼儀あり』の精神が勝ったカタルパは、それ以上問うことをやめた。

 ただ、ミルキーが今度会わせてくれるらしいので、期待はしていた。

 

「お前は各業界に踏み入れはするから、顔が広いんだな」

「でもセンススキルとかは無いから付け焼き刃だし、やっぱり本職には敵わないよ」

 

 そう自虐するミルキーを横目に、カタルパはカチャリと刀を鳴らした。

 それはミルキーの作品であり、スキル《延々鎖城》が追加され、それ故に『刀の精算』が発生した鎖という刀。楔にもなる刀。【怨嗟連鎖 シュプレヒコール】。

 もっと胸を張ってもいいと思うのだが、ミルキーは決して自慢しない。それは、『してはならない』という意識の表れであるようにも感じられた。少なくともカタルパはそう認識した。

 自分の行いを『真似事』と断じているからか……それとも、何か、『造る』事とは全く違う目的、手段、理由があるのか……。

 

(どうであっても、俺は引き止める権利が無い)

 

 彼女の進む先が奈落であろうと、彼は止めない。寧ろ押してやるだろう。奈落に落ちる事よりも、ミルキーは進めなくなる事を恐れる人間だから。

 誰よりも、何よりも停滞を望むのはカタルパ・ガーデンだけであり、誰よりも、何よりも前進を望むのがミルキーである。

 

「楽しそうだね、二人とも」

 

 それに則れば、誰よりも、何よりも不変を望むのが、アルカ・トレスなのであった。

 

「よう、アルカ」

「どったのー急に」

「いや、見かけたから挨拶に、くらいだよ」

「別にそんなに距離を置く必要は無くないか」

「そうだけど、僕にも予定はあるからね。

僕が僕のやりたい事をする為には、一人でいた方が都合がいいんだよ」

 

 そういうのもあるか、とカタルパとミルキーは頷いた。

 こうしてみると、カタルパとミルキーを夫婦と見、アルカを子と見る家族に見えなくもない。

 

『カーター?』

「……え、何その不機嫌な声」

 

 最早八つ当たりか理不尽としか言い様がないアイラの声に、カタルパはたじろぐ。

 アイラも本気でそう思っていた訳ではないのだろう、その不満そうな声も聞こえなくなった。

 

 一行はアルカと別れ、ゆっくりとドライフ皇国に向かっていく。

 

 ゆっくり、ゆっくり。

 

 停滞と前進を交互に繰り返すように。

 

 奈落へと、向かっていく。

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