其は正義を手放し偽悪を掴む   作:災禍の壺

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( °壺°)「そうそう!前話が何故か土曜に公開されてたんですよ!」
( °壺°)「九分九厘こっちの投稿日の確認ミスなんですけどね!?」
( ✕✝︎)「誠に申し訳ございません。何度目だろうねそういううっかりミス」


第六十四話

 暗闇の中、カタルパはミルキーを抱えて駆けていた。

 

「まったく……世話が焼ける」

 

 抱えられているミルキーは喋らない。

 抱えられている事実を前に興奮して気絶した――訳ではない。

 彼女のHPゲージは、残り1割を切っていて、今は気を失っていた。

 であれば、カタルパが抱えたから気を失ったと言うよりも、気を失ったからカタルパが抱えた、という方が正しいのだろう。

 アイラの鎖により、カタルパがミルキーを抱える負担は軽減されている。が、0ではない。走れば走る程に息が切れていく。元より筋力や持久力に自信が無いカタルパだ。当然の事だろう。

 ただ、疲労の原因はそれだけではない。

 

 カタルパ達は今、明確に逃げている(、、、、、)のだから。

 それは今も継続中だ。カタルパの高いAGIをもってしても、未だに。

 その逃走劇を、皇国中央部から国境である辺境まで繰り広げていた。

 逃げられない相手から、逃げようとしていた。

 ――それは物理的に逃げきれない、という事でしかない。ただ単にカタルパのAGIよりも、相手のAGIの方が圧倒的に高かっただけの事だ。AGIが5桁に到達した現在のカタルパは、超音速で活動する事が出来る。

 その超音速が、逃げきれないのならば、相手も超音速であることは自明の理。

 それでも……。

 

「AGI特化じゃねぇと今の俺に追い付くのってムズくね……?」

 

 それも非戦闘職であるが故の高AGIを有するカタルパだ。並大抵の戦闘職のAGIでは、簡単には追い付けない筈なのだ。(勿論、何処ぞの【抜刀神】は除外されている)

 時刻は間もなく日付が変わる頃。草木は眠らずとも人々は眠る頃だ。……現実では午前8時頃だから、マスターは活発的かもしれないが。

 その活発的なマスターの一人かもしれないが、いきなりミルキーを瀕死にさせた輩だ。危険極まりない。危険人物、という括りだとカタルパもミルキーも入る為、危険人物とは言わないでおいたのは、カタルパに自虐癖が無い為だ。

 

「ミルキー……起きねぇよな」

『起きたら走らせたいね。……それよりもカーター、逃げる算段はついたのかい?』

「いや……全く。悪人認定は出来るだろうから一分は逃げれるんだろうが……その先だよ。一分経ったその後だよ。ここまで追っかけてくる奴だ。この後も延々とミルキーを襲いにかかるかもしれない。それこそここでデスペナにしても、だ」

 

 そこは厄介な所である。一度程度のデスペナルティで引き下がってくれるなら、元より不意打ち――いや、自己紹介やら何やら程度はしていたが――強襲と言って差し支えないそれを、しなかっただろう。

 それ以前に、今のカタルパで、あれを倒し、デスペナルティにする事は不可能だろう。不可能に近い、よりはハッキリと不可能と言える程度の確率だった。

 ミルキーのHPを意識外からの不意打ちであれ9割持って行ったのだ。対象がカタルパであったのなら、気付く間もなくお陀仏だ。

 ミルキーを殺し得る戦闘能力と、カタルパに追い付ける程のAGIを有する敵。――正々堂々、なんて言葉を有さない、挨拶からの殺人への移行の速さ。挨拶し、確認。そして刹那の内に奴は金属製の靴――ブーツのように見えた――でミルキーを比喩なく蹴り抜いた。

 この時期であれば、マスターもそれ程強い輩がいるかもしれない。もっと初期であれば、トムのような管理AIの仕業だと思えたのだが……。

 

(いや、それにしたってミルキーを襲う理由が無いか。アリスの仕業だったとしても、ジャバウォックであったとしても……先に俺を狙う筈だ)

 

 無論、ジャバウォックがこれ以上カタルパに〈UBM〉を自分から(、、、、)けしかける事は無いだろう、と既に察していたが。

 であれば、何者(、、)なのだろうか。

 皇国のマスターか……それとも未知の敵か。

 前者であれ後者であれ、足りないのは情報だ。序に戦力。今のカタルパ達では、先ず太刀打ち出来ないだろう。

 

 追いかけて来ているのはミルキーと戦う為……ならば、カタルパが生き残る為に成すべき事は、ミルキーを置いて逃げる事だった。だが……。

 

「やっぱそういうのって、出来ないよなぁ!」

 

 それは、正義の味方を志しているから――ではない。もっと根本的な何かだ。その何かに何という呼称を付ければいいのかはカタルパは知らないが、今はただ、見殺しには出来ない、という感情を筆頭に置くことでそれを考える事を拒んでいた。

 カタルパが振り向くと同時、無人であった街道に人影が出来た。

 初めからそこに居たかのように。いつでもそこに居ないかのように。浮ついた『正義の味方(カタルパ・ガーデン)』と同じで、虚構(フィクション)染みた存在だった。

 

「なんで襲うのか、ってのは聞いてもいいのか?」

「なんで答えなくちゃいけないの?」

 

 カシミヤと同じくらいだろうか……それほどの幼さに見える少年が、カタルパのその問いに応答した。兎の耳を生やしているのは、明確な違いか。

 

「そこのミルキーさんは第6形態に辿り着いた。だから戦う。それに……早く終わらせるに限るんだよ」

「うっわぁ、訳わかんねぇ。アイラ、翻訳頼める?」

『ハハッ、カーターに分からないものが私に分かるものか。マスターである事は分かったが、それ以外が不明だぞ……?』

「よし、逃げるか」

「逃がさないよ」

 

 踵を返し、逃げる為に少年に背を向けたカタルパは、次の瞬間。

 

 ――少年の目の前に(、、、、、、、)、立っていた。

 

「『…………は?』」

 

 未だ起きないミルキーを置いて、正義の味方と鎖は、驚いたその表情のまま、世界から消失した。ミルキーよりも低いENDとHPで、同じ一撃に耐えられる筈もなかったのだ。

 

「正義の味方……だっけ。いいね、暇そうで(、、、、)

 

 と言ってから。取り残された狂騒の姫もまた、当初の目的通りに殺された。残りの1割も、9割と同じように、蹴り抜いて持って行った。

 殺された、という事実だけがそこには残された。

 数の神と狂騒の姫が死んだ痕跡だけが、そこには残された。

 後にはもう、その少年の姿すら取り残されてはいなかった。

 

□■□

 

 本来彼等は、【終点晶楔 ギャラルホルン】の改修を頼みに皇国に来ていた筈だ。

 だがその目的を果たすより早く、彼等は王国に、しかも三日後に舞い戻る。

 これでは、永久に改修は出来ない。行く度に、殺されて、戻される。それでは永久に辿り着けない。それこそ、アキレスと亀のように。

 永久に、【ギャラルホルン】はこのままである。

 終末の喇叭は、それ以上でもそれ以下でもないものに叩き落とされた。変える為には、あの少年を倒さなければならない。

 打倒し、乗り越えるのが妥当なのだ。

 だがそれは、非現実的だ。トライアンドエラーを繰り返せる程、カタルパは暇ではない(、、、、、)

 ベッドの上で盛大な舌打ちをした梓は、既に鳴り響いている携帯に手を伸ばす。

 

「何者だあいつは」

『知る訳ないじゃん……てか、どんな姿だったかも見てないわよ……』

「なんつーか、ウサミミ生やしたクソガキだったぞ」

『見た目は当てにならないでしょ……特に【抜刀神】見ちゃったら尚更』

「それはセンススキルもあるから不問」

 

 とりとめのない会話から本題に入るのは、最早恒例。二人は何が起きたかを可能な限り相手に伝えた。

 

 微妙にキャストタイムのある自動防御スキルが発動する直前に(、、、)一撃を貰った事。

 自動反撃のスキルが当たる瞬間にはその地点に居なかった事。

 そして、カタルパのAGIよりも高い事。

 

『臨戦態勢にほんの一瞬だけ入ったのは見えたのよ。でもそれだけ(、、、、)。瞬きより速く、あいつは私の横っ腹に一撃当てたわ』

「俺もそんなだな……気付いたらそこに居た。俺が死んだ時も、後ろに居たはずなのに目の前にいやがった」

『なら、私達が認識出来ないレベルの高AGIを有していながら、そこそこに高いSTRもあるって事ね』

「一撃で死ななかった所を見ると、そんな感じだな」

『まぁ?梓ならワンパンだろうけど?』

「言ってくれるな」

 

 ガチャリ、と鍵を渡していない筈なのに扉が開く。梓は電話の向こう側からも同じ音が聞こえたのを合図に切った。

 自然視線は扉に向く。天羽 叶多の来訪である。

 

「作戦、どうする?」

「戦わずして逃げる…………事が出来たら、どんくらい幸せかねぇ。一度改修してやるって言ったのにしねぇのは、沽券に関わる」

「梓らしいねぇ」

「言ってろ。兎に角、【ギャラルホルン】にしてやると言ったからには、やってやる。とことん足掻くさ。あいつの正体とか何も知らねぇが……いつもの事だ。俺の攻略は、現実(ここ)から始まるのさ」

 

 二人で一つのパソコンの画面を覗き込む。

 コキコキと指を鳴らす。首が曲がる。目が見開かれる。

 矢張り梓は、その状態(臨戦態勢)がお気に入りなのだろう。

 

「さぁ、攻略開始だ」

 

 子供のような笑みを浮かべて、智将が進軍を異世界にて開始した。

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