其は正義を手放し偽悪を掴む   作:災禍の壺

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第七話

 1日と言うのは、意外にも過ごしてみれば長く感じない。

 「あー、なんかもう終わってたなー」等と言ってお終いだ。

 3日と言うのは、短いようで長い。

 待とうと過ぎようと「すっげー長ぇなぁ」と思う程度だ。

 前者は、庭原 梓の心情だ。

 後者は、カタルパ・ガーデンの心情だ。

 であれば。そうであるならば。

 『庭原 梓(カタルパ・ガーデン)』とは違う彼女(アストライア)は、何を思うだろう。

 

□■□

 

 降り立ったのは、見慣れた情景の中の一コマ。

 新しい仲間であるミル鍵と共に、カタルパ・ガーデンは24時間ぶりに、この世界でいう72時間ぶりに、<Infinite Dendrogram>の地を踏んだ。

 大して飲めない酒を2人で煽り、へべれけになってテーブルに突っ伏して、寝たのに気付かず「後10分で再ログイン可能だ!」「うそん!」等と焦っていたのは、誰も知らない話。

 天羽が隣室だったので、アルテアのクリスタル前(セーブポイントであり、デスペナになった2人のリスポーン地点)に集まるよう話してから、隣室同士で同時にログインした。

 そんな小話、裏話も、ログインをした2人が立つ『この世界』の話では無い。

 そう、だからここでは、『この世界』での話をしよう。

 

□■□

 

「…………ただいま」

 

 着いて早々、カタルパの目の前には真白な少女がいた。

 ミル鍵も久々に見る、梓も1日ぶりに見る、【絶対裁姫 アストライア】、愛称が「アイラ」の少女だ。

 

「…………ようこそ、<Infinite Dendrogram>の世界へ。

私は【絶対裁姫 アストライア】……君の、君だけの〈エンブリオ〉だ……私は、君という存在の、分身で、苦楽を共に分かち合う……仲間だ……」

 

 その、セリフに――拙く、心の脆さが露呈してしまっているそのセリフに、カタルパは咄嗟に何かを返せなかった。

 アイラは、ログインしていなかった間の記憶を、つまり天羽と梓の会話の記憶を梓から継いでいる。

 元から知っていた梓の勘違いが消えた事は、とても嬉しかった。天羽が自身の本心を言い当てた事には驚かされたが、漸く、梓は梓なりの正解に辿り着けたのだろう、と。そう確信していた。

 だから、自分がどうやって、そして何を言えばいいのか分からなかった。分かった彼を、称えるべきか。変わった彼を、褒めるべきか。変わらなかった、変われなかった自分を……嘲るべきか。

 でも、どれも不正解だろう、と読心していたアイラは分かっていた。

 それ故に、上がっていた候補は全部却下された。だから、心の思うまま、自分が思うまま、紡ごうにも上手く紡げない、拙い……それでも、『伝わる』言葉を、ありのままカタルパに伝えた。

 その本心の吐露は、鈍い彼にも伝わったらしい。動揺したのが分かった。アイラは安堵した。

 

「……ありがとう、アイラ。やっぱお前は俺だけの〈エンブリオ〉だ。

それに、凄いな、天羽も。言った通りだ。お前に悟られたみてぇでちょいとゾクッとするけどな」

 

 ……褒める際に違う女性と一緒にして褒めるという失態をしていたが。況してや、それを良くないと思ったのが2人共であった事には、カタルパ、つまり梓は一生気付かないのだろう。

 

「まあ、いつもの事だからいーけど」

 

 天羽……ミル鍵は嘆息する。長年の付き合いは、彼女に何を思わせたのだろうか。彼女に対しては読心を使えないアイラ……と当の本人、カタルパは分からない。

 

「にしても、PKが実は知り合いだった、なんてね。

流石にカーターは顔をリアルと同じにしているそうだから分かったのでは?」

「もっともなんだけどねー、ほら、やっぱ目とか合わせちゃうと殺しづらいじゃん?だから積極的に見なかったんだよね。今見たら梓以外の何者でもないんだけど。燕尾服はファンタジーなこの世界に於いては『無いわー』ってなるけど、梓ってこういう人だし」

「見ていたらあの時に貴女がデスペナルティになる事も無かった、と言う事なのか。これは貴女の落ち度と見るべきか、カーターが知り合いだと気付かなかった事を鈍感だったと評するべきか……後者だろうな」

「まさか。俺に何か落ち度があんのかよ。リアルとアバターが違い過ぎて間違い探しどころじゃねぇぞ。どうやって気付けってんだよ」

 

 カタルパは容赦の無い発言をする。それにまた、二人揃って嘆息するのだった。その理由もまた、カタルパは気付かない。或いは、そう嘆息された事にさえ。

 何故ならば、と問われるならば、彼が愛を知らないからだ、と答えよう。愛無き者の〈エンブリオ〉が、乙女とは笑わせる。TYPE:メイデンであり、乙女座のルーツ(となったとされる。ペルセポネという説もある)、『アストライア』とは、皮肉なものだ。

 

「あ、そーだ、梓。ギデオン行かない?」

 

 ミル鍵にそう誘われて、アイラとカタルパは見合わせる。「いきなり何を言ってんだ」と心の中で揃って呟くが如く。

 

「ギデオンには闘技場ってとこがあってね!プレイヤー同士で闘えるんだよ!」

「PKやめたと思ったらそれか!」

 

 因みに。PVN(プレイヤーバーサスノンプレイヤー)NVN(ノンプレイヤーバーサスノンプレイヤー)も可能だが、今の〈マスター〉が闘技場に出るような〈ティアン〉と闘うには、まだ彼らは弱すぎた。

 

「で、その闘技場とかギデオンとかって何処にあるんだよ。地名だろ?アルテアじゃねぇんだろ?どーせこっから遠いんだろ?」

「遠いっちゃ遠いけど、Lv51以上のみが参加出来るって言ってんだから、道中何があったって、今の梓のLvなら死ぬ事はないでしょ」

「なぁ、その『Lv51以上のみが参加可能』ってさ、本来戦闘職に向けて言ってるよなぁ?

俺は確かに51には辿り着けているけどさ、HPとか『低すぎワロタ』ってなるぜ?」

「モーマンタイ。私も大体そんなだから。職業も【兇手】だから」

「おい、それ戦闘職っぽくないか」

「暗殺者系統上級職だよ」

「戦闘職じゃねーか」

 

 加えて言えば。Lv51以上で無ければならない理由は別に、そこまで辿り着く為に必要なLv、という事では無いのだが……それはお互いに知る由もない。

 

「それにさ、梓は非戦闘職だろうと戦闘職の私に勝ってるじゃん。その枠組みは、梓に於いては無意味だよ」

「それでも嫌だ。闘いたくないで御座る」

「働きたくない、みたいに言わないでくれる?

 アイラちゃんも飽きて梓の左手に戻っちゃってんじゃん」

「それお前のせいじゃね?九分九厘お前のせいじゃね?」

「まっさかー」

『まさか』

「えぇ……」

 

 悪事や悪意は自覚が無ければ尚危険だ。悪気は無い、然れど人を殺す、などと宣う輩がいれば、梓で無くとも精神に異常があるのかと考える事だろう。

 天羽は梓程では無かったが、近しいものではあった。

 庭原 梓が『壊れている』なら。

 天羽 叶多は『狂っている』のだ。

 一歩間違えたら(、、、、、、、)イカれた奴。踏み外していないからおかしい奴。天羽 叶多とは、そういう人間だった。

 庭原 梓が生活環境で精神が壊れたなら。

 天羽 叶多は生まれた時から狂っていた。

 いずれ語るだろうから今はここで締めるが、天羽 叶多とは、と問われたならば。

 彼女を知る誰もが『狂人』と称える事を、覚えておいて頂こう。

 

「さ、行こっか」

「話聞いてたか?行かねぇよ?」

「じゃあ賭けしよう。四五六賽を振って1、2、3が出たらペアでゴー。4、5、6が出たら2人でゴー。どうよ?」

「……何一つ『いいよ』と返せる点が無い件について」

 

 抑、四五六賽。

 抑、1から6のどれが出ても結末が変わらない(1、2、3は出ないが)。

 

「初めから『2人で行きたい』と言えばいいものを」

 

 カタルパは同じくらいの身長のミル鍵の頭に手を乗せた(2人共、リアルと身長は同じに設定しているので、リアルでの身長差もほぼ無い)。

 それは、庭原 梓が天羽 叶多の頭を撫でているようだった。

 ――実際には、リアルと変わらない風貌だが燕尾服を着たカタルパが、身長以外原型の残っていない金髪紅眼の盗賊(何処と無く、フェ○トのよう)、ミル鍵を撫でていた。

 

「梓ー、天然ジゴロとか呼ばれた事ないー?」

「お前になら何度か」

「…………鈍いなー」

 

 その言葉は何故か、「鈍い」と言われたのに鋭く梓の心に突き刺さった。心做しか、紋章の中でアイラも同調している気がした。

 

「面倒だな……行きたくねぇ」

「そうゆー事言わないの。嫌と言っても引き摺って行くからね」

「おいおい、この世界のモットーとも言える自由は何処行った」

「梓に限っては存在しませーん」

「おい待て、あんま強く言い返せねぇ!あ、ちょっ、マジで引き摺んな!STR高っ!いや違ぇ、これセンススキルだ!」

 

 ズルズルと、引き摺られていくメイデンの〈マスター〉は。

 引き攣った笑みを浮かべながら、この先起こるであろう悲劇を察して、空を見る。

 

『楽しみだな、カーター』

 

 そんな声が聞こえたのは、きっと気のせいじゃない。だから。

 

「……そーだな」

 

 ミル鍵……天羽に聞こえないようにそっと、呟いた。

 

 

 そうして。これより始まるは。否、既に始まっているこれは。

 後の超級、"不平等(アンフェア)"カタルパ・ガーデンの物語。

 計算スキル特化型超級職【■■】となる、カタルパ・ガーデンの物語。

 まだ、誰も語れぬ物語――――

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