( °壺°)「矢張りゲームしながらはいかんね!」
( ✕✝︎)「…………もう何も言わない」
分かりやすく、それらは拮抗していた。カタルパが【刻印】を刻みに行けない程に。
互角。五分五分。戦線は平行線を描いている。
謎の男はカタルパの《看破》を以てしても、その真名も、〈エンブリオ〉の名も不明であった。
だがその形状が鎖である以上、〈エンブリオ〉についてはある程度察しはつく。
だが――根底の延長線として鎖を使用する場合、アストライアのような例外もある。推理は慎重に、然れど迅速に、正確に行う必要があった。まったく面倒な、とカタルパは内心で舌打ちをする。
鎖を使用する伝承は、それ程多くない。フェンリルに食い破られた鎖など、無名のものも含めると多くなるが(最終的にフェンリルを縛ったグレイプニルは縄である為、推理からは除外していいだろう)。
と、そこで。おかしな事にカタルパは気が付いた。本当に奇妙で、あまりにも些末な点だ。
「なんで……
それは、思わず口に出た回答。何かの的を射た解答。そんな時に、こんな状況で、不意に現れた、無謀な人間にピッタリな、そんな解答。
拮抗する。互角である。それは相手の行動を見切り、態とであれ何であれ、
奇しくも、【幻想魔導書 ネクロノミコン】の十八番と同じ。
コピー、等とは少し違う。相手に合わせるだけの〈エンブリオ〉。【始源万変 ヌン】を知っていなければ(カタルパは話に聞いただけだが)、理解しきる事は出来なかっただろう。或いは、【幻想魔導書】を所有していなければ。
バトル物の小説に無くてはならないものは、無効化とコピーだ、とは誰の弁だったか。確か『僕』だったな、と。
間の抜けた会話、若しくは思考をしなくてはいけないというルーティンでもあるのか、カタルパは笑う。それこそ自分に向けた嘲笑であったのだが。自嘲にして自傷にして自虐。自らの心を傷めなければ前に進めないなど。嗚呼、なんと――
『正義の味方染みているのだろう』
その言葉は、鎖の少女が継いでいた。見れば少女の放つ銀の鎖に混じって、血が滲みたような赤黒い鎖がある。
《延々鎖城》の能力によって放たれた、【怨嗟連鎖 シュプレヒコール】の鎖だ。
「…………」
何も言わず、その一撃一撃を無駄なくあしらう男には、まだ余裕があるように見受けられた。【絶対裁姫】の鎖は〈エンブリオ〉に任せて、《延々鎖城》の鎖を糸を縫うように躱している。回避性能だけを見れば、恐らくトップクラスだろう。だが戦闘能力に関しては、現状模倣するばかりであり、決定打はどこにも無い。まるで、拮抗を作る為だけの存在とでも言うかのように。
「っ……ネクロッ!」
『了解した。が……当たるのか?』
ネクロが躊躇うのも無理は無い。攻撃されないからと言って、今のカタルパは全ての鎖を攻撃に回している。つまり今迄のように、鎖の怪物と化してはいない。その全てが、攻撃に回されている。それでも、演じているのは拮抗勝負である。こんな状態でネクロが幾らか魔法を放ったところで、焼け石に水だろう。
だがそれでも、何かが変わるのなら。何かが変わると主人が判断したのであれば。ネクロに、断るという選択肢は、無い。
『《学習魔法・紅炎之槍》』
それは、嘗て【ギャラルホルン】との戦いの時に代償とした筈のスキル。その為、学習しきれてはいない。カタルパのMPを容赦なく、ごっそりと持って行った。
構わない、と犬歯を見せてカタルパは笑った。
その方が
最早、彼にとって正義とは娯楽と同義なのだ。勇者という職業ではなく、正義の味方という趣味に甘んじた一因が、今更になって鎌首をもたげた。
正義の執行。その敢行。遂行。その全てが、正義の味方にとっては娯楽の類であり、正義の女神にとっては……さて、何なのだろう。
宿命か、運命か、必然なのか、家業とも言うべきモノなのか。
その答えは、少女には分からない。
正義の女神の名を冠するだけであり、正義の女神そのものではないからだ。
況してや――
『おいおい効かないぞマスター』
「分かり切った事を言うなよネクロ。大体の正体が掴めたってのに」
『カーター。それは、あの男についてかい?あの〈エンブリオ〉についてかい?』
「後者」
『『了解』』
《延々鎖城》の鎖以外が、停止する。それを男は矢張り、達人級の動きで躱している。
「…………何故、そうする」
それは多分、鎖と炎を引っ込めた事に関してだろう。
「さぁな。なんでだと思う、【ミミクリー】」
「……ん?私は〈エンブリオ〉について語ったか?」
「それが回答になっちまってんだが……まぁいい。ごっこ遊びとは、よく言ったもんだ」
「……何処で理解した」
「ん……そう、だな。いや、初めは直感っつーかなんつーか。ただ、そうだと思ってからポンポン線が繋がる感じがして、な」
「それで確信出来る根拠が理解不能だ」
「よく言われる」
そこで初めて男は、人間らしい表情をした。
鎖の交わる音を聞いてか、店内からミルキーが顔を出す。
「んー……お邪魔?」
「出来れば用が済むまで引っ込んでて欲しい」
「あいさー」
飲み込みが早くて助かる。こういう時に首を突っ込まれると、面倒なこと請け合いである。
「確かに私の〈エンブリオ〉は【転移模倣 ミミクリー】と言う。……いやはや、其方の推理力には脱帽だな」
「簡単な後出しジャンケン。しかも一つだけ。如何なる伝説にもそんなものは有り触れているようで、殆どない。況してや、
模倣するだけなら、有り触れている。グラムを模倣した(とされる)エクスカリバーのように。
だが模倣するのに、模倣する側に原型が存在しない、というのは無い。何処ぞの『無貌』であっても、スライムという原型が存在すると言うのに。
だからこそ、伝承は全く関係ないとカタルパは断じたのだった。正答を、引き当てたのである。
「化け物だな……だから智力の……成程」
「は?……あんた、何を知っている?」
「さぁ、何だろうか。さて、取り敢えず私の目的は遂行された」
クルリ、と躱しながら踵を返す。驚く事に彼は、被弾せずにこの戦闘を切り抜けた。未だに鎖の乱打は止んでいないと言うのに。
カタルパは《延々鎖城》を封印し、追いかけようとした。
だがそこに、もう彼は居なかった。
【転移模倣 ミミクリー】
TYPE:???
転移は心理学用語で、現在の人間に不釣り合いな感情等が発現した時、幼児期に接した誰かの感情などを再現していた、とする用語。ミミクリーは子供の行うごっこ遊びである。転移模倣の元ネタは天衣無縫である。寧ろそれ以外の何だと言うのだろう。