其は正義を手放し偽悪を掴む   作:災禍の壺

88 / 121
第八十四話

 ミノタウロスの伝承……遥か昔、ギリシャ神話に記された、勇者テセウスの物語。だが、今回綴られるのは、語られるのは、そんな勇者がいる英雄譚では無い。正義の味方しか居ない、冒険譚だ。

 道標(アリアドネ)の無いハードモード。

 ここで【諸悪王】を沈めたならば、彼はいずれ第六門にて猛威を振るう事になるのだろうか。

 ――第六門は、『この世界』には、ありはしないのだろうが。

 それと同様、ミノタウロスの伝承は『この世界』には存在しない。

 そもギリシャ神話と呼ばれる神話体系も、況してやそのギリシャと呼ばれる国すら存在しない。

 だがギリシャ神話の産物であるアストライアが【絶対裁姫 アストライア】として存在し、同じように『この世界』には存在しない拝火教の教典、『アヴェスター』に登場するアジ・ダハーカが、【龍幻飛後 アジ・ダハーカ】として存在する。

 どちらも、否、【マジックミラー】も【イグドラシル】も【テケテケ】でさえも。

 存在しないが存在している。

 『この世界』に元々あった神話は、“化身”の襲来で退廃したという。

 では『存在しない神話体系』はどのように流布されたのか、退廃したのか。

 或いは彼等(ティアン)にとって、それ等は――

 

□■□

 

 眼を開くと、そこは薄暗い洞窟のようだった。

 喰われた記憶がカタルパにはある。であれば、ここはあの邪竜にして蛇龍の腹の中という事……細長い形をしているのを見るに、首の中途かもしれないが。肉の壁が延々と、トンネルのように続いている。咀嚼され、噛み砕かれたという記憶もありはするのだが、今こうして見える世界が死後の世界で無いのであれば、どうやら幻想であったようだ。

 

「不思議と血肉の臭いはしませんね……」

 

 声がして振り返れば、カタルパの背後にはセムロフが居た。だが逆に、他の二人は居ない。

 となると三つ首それぞれに等分配されるように別れた、のだろう。

 此方の人数が4人であった為にこのように、一つだけ二人のグループが出来たと思われる。

 【アジ・ダハーカ】の首はそれぞれ苦痛と苦悩と死を示す。

 死の首に食われたら死ぬ、みたいなお話があるならば、アルカかミルキーのどちらかがそうなったと言うのなら、笑えない。

 残念なことに、喰われた事は理解していても、どの首に喰われたのかは分かっていない。つまり自分達がその『死の首』に喰われた可能性も、多分に有るという訳だ……分かったところで覚悟が出来るか否か程度の違いしかないが。

 セムロフは恐怖に屈しやすいが――それについては《三種の辛苦(アジ・ダハーカ)》を喰らった時に分かってはいた――それを克服出来る。

 彼女は『疑心』の持ち主ではあるが、庭原 梓、天羽 叶多、カデナ・パルメールのそれとは違い、智力や武力、勇気を有していない訳ではない。

 勇気と武力のないカタルパにとって、それはどれ程羨ましい事か。

 『持っていない』ものに憧憬を抱くか嫉妬心を抱くかはその者によるがカタルパの場合、運が良いのか悪いのか、憧憬を抱く方であった。

 だからカタルパは、それには憧れている。疑いながら、智力と武力を有しながら、前に進む勇気も持ち合わせているのだから。

 それが本来の、そして普通の人間の姿である事に、カタルパはいつ頃気付くのか。

 ――神のみぞ知る、と片付けておこう。

 改めてカタルパ達は辺りを見回す。マッピングは重要だ。

 

「自分に使うと、自分自身が【アジ・ダハーカ】を乗っ取り、その【アジ・ダハーカ】が迷宮になる……そういう解釈でいいんですか?」

 

 セムロフのその見解に、カタルパは首を捻る。

 

「いや、それは違う……かな」

「と、言うと?」

 

 煮え切らない返答に、半ばイラつきながらもセムロフは続きを促す。

 

「問題はそこじゃない……と言うかそれは問題視していない。俺達は別れた。ならまたどこかで合流出来るだろう。三つに別れたってのはラビリンスと名乗るならば不可解だが。とにかく……奴はその地点にいる筈だ」

「つまり……彼は【アジ・ダハーカ】に呑み込まれた(、、、、、、)んですね?」

「そう。だからこいつは迷宮(クノッソス)になったんじゃなくてなっていた(、、、、、)……んであいつは、迷宮の主(ミノタウロス)になったんだ」

「えっと……だとすると、私達は糸を持っていませんが」

「元より倒せるか否かだよ。出た後の事を考える事が出来たアリアドネとテセウスには脱帽だ」

 

 出る事が叶わないかもしれない。

 カタルパ達は今、迷宮に閉じ込められている。

 迷宮なのに、その最果ては別れているかもしれないという。

 三つの道が合流する(、、、、)という事はその地点から見れば一本道ではないということだ。

 ラビリンス――迷宮というのであれば、本来一本道である必要がある。

 そういう点に於いて、アリアドネの糸は本来必要無い。

 別れ道のない迷宮で、迷う事は有り得ないからだ。前後が分からなくなるならば別だが。

 迷宮を抜ける為には迷宮の全ての路を通る必要があると言うのに……首が三つに別れている【アジ・ダハーカ】の中身が迷宮になっているのであれば……それは、どういう事なのか。

 

 迷宮と迷路は違う。

 路が別れるか否か。

 通り路を全て通るか否か。

 ラビリンスとは迷宮だ。

 だが【アジ・ダハーカ】のコレは……迷路だ。

 路が別れていて、未知の領域が生まれている。

 

 TYPE:ラビリンスと名乗る〈エンブリオ〉内にある迷路。

 矛盾にも等しいそれに、カタルパは混乱を隠せない。

 全ての路を通れない迷宮。

 別れ路のある迷宮。

 ここにあるのは無秩序な、迷宮ならざる迷宮。

 迷宮型の迷路。

 無論、TYPEに於けるラビリンスは本当に迷宮を意味している訳ではない。だから、名義はそれで中身が迷路でも、何ら問題は無い。

 その二つの概念の差異ですら、エイル・ピースは愚弄している。

 何処へでも、何処までも。玩弄して使い潰す。

 エイル・ピースにとってデンドロは……二つ目の遊び場でしかないのだ。

 

「舐められてんなぁ……」

 

 世界を敵に回すような思想。いや、回している思想。

 それ故の――悪。

 エイル・ピースは、中途半端も何も無く、ただの悪だった。悪質な、悪意しか無いような、悪。

 己が何かしらの悪を成す事に意味を見出すのではなく、何かしらの悪を成す己に意味を見出している。

 矢張り正義の味方とは、相容れない。

 

 手段は無い。目的しか無い。だから手段を選んでいられない(、、、、、、、、)

 正義の味方は、エゴの塊でなければならないから。

 世界平和の為。復讐の為。

 理由は何であれ、そうした目的の為に手段を選ばない。

 それが正義の味方だ。

 対話が出来ないなら、戦争しかないのがこの……いや、この世界ではなくとも、世界の必定なのだから。

 

「カタルパ?独り言は終わりましたか?」

「元から殆ど口にはしてねぇよ。兎に角……ラビリンスとは名ばかりの迷路なのは分かった。だとしたらハズレの道も少なからずある筈だ。慎重に行くぞ」

「…………えぇ、分かり、ました」

 

 セムロフは何か納得行かない所があるのか、不承不承といった感じで着いて行った。

 

■ 別ルートその一

 

 一人きり、という事に少年は慣れている。

 元より人間とは一人である事も知っている。分かり切っている。学生にしては老けた価値観ではあるが、正しいのもまた事実。群れる事を好かない、いや出来ないカデナ・パルメールにとって、デンドロという世界もまた、生きるには辛い。

 アズール()が居るのであればオールオッケーな価値観の持ち主でもあるので、その辛さは梓、この世界でのカタルパがいる事で強制的に解消されているが。

 

「また、多分会えるんだろうけど……デスペナになるのも不正解だろうし……どうしたらいいんだろ?」

 

 勇気しか持ち合わせていない少年にとって、考え事というものは難しい。学校に行かない理由の一つが、勉強が分からない、というものなのだから。

 義務教育程度の学習能力であれば備えてはいるのだが、如何せん元々スペインの生まれである為、日本の価値観とは結びつけづらい所もある。

 そんな蛇足、無駄な補足を置いて、アルカは取り敢えず、と進んで行く。

 未知に対しての絶対耐性、勇気を持っているが故の所業と言えた。

 途中の別れ路も、逡巡こそすれ、立ち止まる事は無かった。

 止まらない。止まれない。今更止まれる場所などない。止まる事など有り得ない。

 アルカ・トレスがカタルパ・ガーデンとミルキーと釣り合う(、、、、)為には、勇気を持ち合わせていなければならないから。

 そうでなくては不平等になってしまう。

 対等でくなって、隣に居られなくなってしまう。

 そうなってしまったら、アルカ――カデナの『何か』が絶対に壊れる。

 それだけは、自信を持って言える。己の破滅を、勇気を持って誓って言える。

 自分はアズール無しでは生きられない、と。己の依存を独白する。

 

 そうして止まらなかったからこそ、少年は辿り着く。

 

「…………どうしたらいいかなぁ?」

 

 半径三十メートル程の半円型の空洞。自分が来た路以外に二つの路が見える。ここは三叉路。

 そして中央に誰が立っているのかは、言うまでもなく。

 

「先に倒したら、ここが壊れちゃうとか、無いといいんだけど……あ、無理だ。育つ環境じゃないや、ここ」

 

 言いながら【司教】の少年は壁にもたれかかる。初めから勝機が無いと分かったらしい。

 

「取り敢えず、待ってていいかな?」

 

■別ルート その二

 

 上半身と下半身が繋がっている事に気付く事から、迷宮探査は始まった。

 《轢かれた脚は此処に(テケテケ)》の発動の為に切り落とした半身は、デスペナにならないと解除されない。若しくは《轢かれた脚は此処に》を解除した後に治療する以外に無い。

 記憶の中で解除した覚えは無いし、無意識の内に解除出来るものでもない。

 ならば死んだのか、と腹を摩る。

 だが視界に入る金髪は天羽 叶多のものではない。

 自分が纏っている装備も、現実世界にあるものではない。デスペナには……なっていないようだ。

 死んだが、死んでいない。

 

「私、【死兵】はビルドに突っ込んでないし……少なくともあれは、10秒だし……それにそれはデスペナとは違うか」

 

 じゃあ、どういう事だ?と改めて首を捻る。

 

「ラビリンス……でもテリトリー系列じゃないなら別世界みたいな線は無い……幻想、幻覚の類かしら?」

 

 それならば合点がいく。そもそも《三種の辛苦(アジ・ダハーカ)》というスキルは、此方に死の概念を付与する為に自分達に幻覚を見せてきたのだから。

 

「あれは幻覚じゃないんだっけ?あれが【アジ・ダハーカ】の内部と仮定するなら、私がいるこの場所も、食われて入った内部の筈。二つに差異があるのはおかしい……」

 

 智力は無い。だがそれは思考不可能、と言うわけではない。

 況してや庭原 梓を長い事追いかけ続けた人間だ。彼の思考が伝染る事も、有り得てしまうのだった。

 

「だとしたら……このお腹の件もそうだけど、やっぱ幻覚の類である可能性高いわねー……」

 

 ならば解除条件は何か。頬をつねれば良いのだろうか。

 気絶する、というのも良い手だが、諸悪の王との戦いは終わっていない。今倒れれば戦局はあちらに傾倒するだろう。

 

「もう……どうしろってのよ……」

 

 取り敢えず進むしかない。その結論に至るまでそう時間はかからなかった。

 

「使う……必要は無さそう、よね」

 

 手鎌で自分の腹を斬ろうとして止める。

 仮に敵が出て来ても、どうにか出来てしまう実力が今の彼女にはあるからだ。

 慢心の無い武人。

 ミルキーはただひたすらにその路を進んだ。

 矢張り彼女も止まらない。障害は潰す事が出来るから。

 先天的な才能と、後天的な努力の結晶。

 庭原 梓の為に使うと決めた力を、現実世界で使う事は結局無かったけれども――その力が、今は必要だ。

 必要とされているならば、なりふり構わずその力を発揮しよう。

 ミルキー――天羽 叶多に出来る事など、初めからそれくらいだ。

 それ(武力)だけが、天羽 叶多に残されたモノなのだから。

 

□■□

 

 迷宮とは名ばかりの迷路を、二人は進む。厳密には宙に浮く魔書と十字の銀剣がある為に二人きり、とは言い難いが。

 

『肉の壁、と言う割に、どこか無機質だな』

 

 ポソリ、と【幻想魔導書 ネクロノミコン】のネクロが零した。聞こえるか聞こえないかの瀬戸際、届いたのは偶然だったのだろうか。

 

「無機質?生物的じゃねぇって事か?」

『そう……とも言えるやもしれん。あの【アジ・ダハーカ】のTYPEはラビリンス・ギアなのだろう?乗るなり乗り込むなり、そうした機構が元からあった訳だ』

「つまりアレか?あいつだけ『初期位置が集合地点』みたいな事が有り得るのか?」

「迷路の中に裏道がある、というのはよくある話でしょう」

 

 それもそうだが、とセムロフの言葉に頭を搔く。そういう掟破りはアリなのだろうか、と少し不満気だ。

 

『確かに裏道というものは、或いは裏技というものはあって然るべきだろうけれども、あれかい?カーターは正攻法じゃないとダメなのかい?』

「そういう訳でもねぇんだが……なんか、諸悪の王にしては、狡いな、と」

「『『狡い、ねぇ…………』』」

 

 異口同音に三者が唱える。

 “不平等(アンフェア)”が今更何を言うか、とセムロフは今にも口にしてしまいそうだ。

 アイラもネクロも、『正攻法からは遠いだろうに』と苦笑している。その一端を担う者達なので、片端から否定してはならないのが彼女たちなのであった。

 

「…………セムロフ」

 

 カタルパの空気が変わる。『終わり』が近い事を何となく悟ったのだろう。

 その察知能力とも呼べるそれは、【ミスティック】の時にも発揮された、スキルとしては存在しない【アストライア】の力だ。

 

「ようやく、ラストステージですか」

「手中どころか腹の中が舞台ってのには笑えないがな」

 

 冗談めかして言うものの、余裕はない。元から余裕なんてものは存在していない。

 必殺スキル、《三種の辛苦》の効果はまだ持続している筈だ。ならば矢張り、『何が起こるか分からない』。

 それでも、いやそれだからこそ、前に進む。前に進むしかないから。今更引き下がれるものか。

 いや、それも違う。

 引き下がってしまったら、正義の味方が正義の味方でなくなってしまう。

 

「いやホント、なんでヒーローってのは、諦めが悪いのかねぇ」

「それは、逆ではないですかね?」

「……と言うと?」

 

 路の終わりが近いと言うのに、真剣味の欠けた会話だ。

 セムロフの回答が気になってか、立ち止まり、振り返り、セムロフと目を合わせる。

 

「逆なんですよ。ヒーローだから諦めが悪いんじゃなくて――」

 

 何度も言われた、言ってきた『逆』。

 

「諦めが悪いから、ヒーローになれるんですよ」

 

 今更、それに意味を見い出せた気がした。

 救われた気さえした。

 英雄。正義の味方。

 庭原 梓とカタルパ・ガーデン。

 二人の違いが明確になってくれた。

 

英雄(庭原 梓)は諦めてはならない」

 

 カタルパは、再び視線を前方に戻した。セムロフからは、どのような顔をしているかは窺えない。

 

正義の味方(カタルパ・ガーデン)は諦めが悪い」

 

 二人の違いを、ただ簡潔に述べる。

 

「矢張り俺は『僕』にはなれない。いつからか別れた俺達は、矢張り相容れる事は無い」

 

 自分に……自分自身に言い聞かせている。それがセムロフには分かる。庭原 梓の劣化品としてのカタルパ・ガーデンではない。

 見事な棲み分けによって隔離させた、他の誰でもない、誰の代わりでもないカタルパ・ガーデンが、そこに居る。

 

「正義の味方が諦めが悪いなら……やっぱこういう苦境は必要だよな。そう思わないか、諸悪の王様」

「そう思うよ。正義の味方」

 

 開けた空間。その中央に彼はいた。

 その姿は今までとは違った。

 先ず生傷が無い。戦い抜いてきた証である傷口も、破れた衣服ですら元に戻っている。

 エイル・ピースの、本来の姿がそこにはあった。

 カタルパ――梓には、見覚えのある姿だった。

 

「あー……成程。だから、か。分かった分かった」

 

 嘆息一つ。呆れた態度をあからさまにとっている。

 

「妄執に取り憑かれていたのは、俺じゃ無かったのか」

 

 識っている。俺は彼を識っている。

 知っている。僕は彼を知っている。

 

「だが、あいつじゃあない」

 

 カタルパ・ガーデンの身形が庭原 梓そのものだと言うのなら。

 目の前の人間の身形は――あの日の奴だ。

 

「正体が割れたな、庭原 椿」

 

 告げる。我が母の名を。

 

「あ、バレた?」

 

 対して男、エイルは茶目っ気たっぷりの声色で言った。声帯が男のそれなので、酷く低い音ではあるが。

 

「流石にあいつを真似てると分かれば、誰でも分かる」

 

 推理ではなく直感でそれを理解していた者が約三名、自分の周りに居るとは知らず。

 

「庭原 槐……まさかこの世界のラスボスがそれかよ、クソが」

 

 現実でもデンドロでも最終的に立ちはだかるのが親とは、呪われた運命だ。

 だが悲観はしない。する必要もない。

 寧ろ正面を突っ切ってぶん殴りに行けるのなら。一世一代の親子喧嘩を二度も行えると言うのなら。

 正義と悪が戦えると言うのなら。

 ぶっちゃけ、願ったり叶ったりだ。

 

「愚弄に関しちゃ納得だ。あんたは確かに飄々としているが……あんたは無垢な悪(イノセントイヴィル)だ。何も考えなくても、物事を悪い方向に持って行ける『才能』がある」

 

 自分の智力、親友の武力、友人の勇気、知人の疑心を棚に上げる。多分下ろす事は無い。

 

「どっかできっと分かってた。アイラの反応とかネクロの反応とか、多分あの辺で。でもやっぱ有り得ないと思ってた。でも今なら納得だ。あんたはあいつを模倣する事で、本物のあいつを見つけたかったんだな」

 

 庭原 槐は既に故人だ。ゲームのように簡単に引き継げる訳でもなく、また死んだ後に乗り継ぐ事は出来ない。梓がクローン技術を知るまでもなく、庭原 槐は死んでいる。

 だが、それを易易と受け入れられない人間は、少なからず存在する。庭原 椿はその一人だった。

 

 演じる事で、「何真似てんだ」と本人から言われる事で、『居る事』を証明しようとしたのか、それとも第二の庭原 槐としてこの世界に新たな地獄を生み出そうとしたのか。

 庭原 梓(カタルパ・ガーデン)には分からない。

 分からないが、それが善くない事なのは分かる。

 だから止める。だから潰す。

 そうしなくてはいけない。現実世界でそうしたように。

 

「始める前に、アルカとミルキーは何処だ?」

「アルカ君は頭上にて捕獲中。ミルキーちゃんはまだ迷路の中だね」

「ほぉー……あ、ホントだ」

 

 見上げて存在を確認する。「やっほー」と軽く返されたが、小腸の肉のヒダに挟まっているかのようなあの体勢は、割と余裕がある風には見えない。

 ドーム状の広場には三つの路があり、恐らく三つの首それぞれに繋がっているのだろう。とすれば、自分達が来た路ではない他の二つの内どちらかからミルキーがその内……多分、来るのだろう。

 

「オーケーオーケー。状況は大体理解した。初めから分かってたもんの仔細が今更開示された。それはどーでもいい。俺は正義の味方だ。悪の背景なんざ知るかってんだ」

『問答無用、だね。カーター』

『王国に指名手配されていたかな、彼……いや現実の事を鑑みるに彼女なのか?』

「ちょっと、カタルパ、来ますよ」

 

 話す間にエイルは【オステオトーム】を手にしている。電動鋸にしか見えないそれの詳細を、カタルパ達はまだ知らない。いや、恐らく知る事はない。

 【デルピュネー】に奪われたステータスはそのまま。

 【アジ・ダハーカ】の体内で【ミミクリー】が使えるのかは不明。

 最初から“不平等”な戦いだ。

 

「アルカー、そっからバフ盛れるか?」

 

 頭上からは「多分ー」と返ってくる。山彦みたいだな、とセムロフはどうでもいい事を考えながら、「私もバフ役じゃん」と嘆息する。

 正義の味方と諸悪の王。

 最後の戦いに観客はいらない。

 関係者立ち会いの元、唐突に。

 正義は牙を向いたのだ。




( °壺°)「次回決着ゥ……するといいですね」
( ✕✝︎)「嗚呼、何やったって半端!」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。