其は正義を手放し偽悪を掴む   作:災禍の壺

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( °壺°)「先週無断で更新しなかった事を謝罪しますっ!」
( °壺°)「理由はある……んですが個人的な事情なんですいません!」
( °壺°)「次は無いようにします!てか次がある前に完結しそう!」


第八十五話

【数神】カタルパ・ガーデン

 

 世界は意外にも、驚く程にシンプルだ。

 二つの物があり、そこに優劣がある。以上。

 何方に於いても、為す側と為される側がある。加害と被害があり、得るものと失うものがある。プラスとマイナスで、驚く程にフラットだ。

 であれば、正義と悪はどうなのだろう。

 正義が悪の上に則を敷くのか。

 悪が正義の上で胡座をかくのか。

 どちらが上であったとしても、どちらにせよ精彩を欠くものだけど。

 どちらであったとしても、それが誰かにとって正しい事を願う事しか、今は出来ない。

 正義の味方にとって、その裁定の放棄は怠慢もいい所だが仕方ない。

 俺の正義が、誰もが思い描く正義とは限らないのだから。

 

 ――そう言えば。

 【絶対裁姫 アストライア】。絶対に裁く姫。絶対を裁く姫。

 不可逆を圧し折る執念の姫君。

 彼女の元ネタと言える正義の女神様。

 女神様の掲げる『正義』ってのは、一体どんなものだったんだろうな。

 

□■□

 

 鎖が掠める。炎弾が炸裂し、衣服を焦がす。

 諸悪の王の焦る顔、正義の味方のしたり顔。鋸の駆動と鎖の蛇行が重なり、火花を散らす。

 今、俺は今までで一番『正義の味方』をしている。

 そう思う。きっと、銀剣も頷いてくれるだろう。鎖を放出し続ける刀剣も納得してくれるだろう。

 この正義に、水晶の剣は頷くだろうか?

 ――この正義は、正義の女神に届くのだろうか?

 

「《廻り巡る断絶の牙(オステオトーム)》」

 

 諸悪の王は、その思考を断ち切りに来た。

 駆動音があからさまに変わる。過剰に廻る鋸が悲鳴をあげる。それと競り合う【怨嗟連鎖】の鎖が火花を散らす。

 どうやら、シンプルに攻撃力を上げるスキル……らしい!いやまだ確定はしていないが。

 腕に当たったらミンチになるだろう。風を裂く刃の駆動が、それを示唆してくれる。

 

「切る。斬る。――KILL」

「おっと、()()()()かよ!」

 

 矢張り血は争えない、のだろうか。いや、俺は……『僕』は庭原 椿という人間を母親と認めた事は無いんだけども。

 それでも、そうした世界が変わる事によるスイッチ。『僕』と俺みたいに。エイル・ピースとしての奴と、庭原 椿としての奴が、混在しているのかもしれない。

 

 別れたのは、【アジ・ダハーカ】の顕現の前か後か……今の奴を見るに、後なんだろうが。

 庭原 椿の根底は無垢な悪(イノセント・イヴィル)であり、その本質を、少なからず【アジ・ダハーカ】も有しているからだ。

 別に、だからと言ってエイル・ピースはいかなる悪を有しているのかは知らない。

 だが悪なのであれば。正義の上に胡座をかくのであれば。

 

 俺は、どうであれ倒さねばならない。

 何をしても。何がなんでも。

 正義の味方は、()()()()()()()正義の味方でなくなってしまうから。

 正義の味方が正義の味方である為に、悪というものは必要なのだ。

 その観点からすれば、悪というものは例外なく「必要悪」と呼べてしまうものなのかもしれない。

 俺の視点から見れば、どんな悪でも、差異なく必要悪なのかもしれない。

 多少の違いを受容して、それに叛逆する。ただそれだけの機構。

 ――それが、正義の味方。

 美学などではない。ただ、それが生き様で、生き甲斐で、生きる意味、つまり使命なのだろう。

 俺という存在は、矢張り危機感以前に使命感が突出しているようだ。

 

 ――今の俺が知っている情報ではないが、乙女(メイデン)とは危機感の産物であり、使徒(アポストル)とは使命感の産物であるそうだ。

 ならば俺の傍らに居るべきは、乙女ではなく使徒であるべきだったのではなかろうか。

 何故、危機感の産物なのか。

 その正義の味方足り得る為の使命感よりも、もっと先に、危機感を抱いたのだろうか。

 その問への回答は、イエスだ。

 俺は――あの時『僕』だったのだから。

 英雄がいるのであれば、悪は必要とされる。

 あの日、降り立った日に理解していた。

 奴は言ったのだから。

 『英雄になるのも魔王になるのも、王になるのも奴隷になるのも、善人になるのも悪人になるのも、何かするのも何もしないのも、<Infinite Dendrogram>に居ても、<Infinite Dendrogram>を去っても、何でも自由だよ。出来るなら何をしたっていい』――と。

 なら、『僕』は魔王と敵対すべきだったし、俺は悪人と敵対すべきだった。

 だが、『僕』は間違えていたから。

 悪への危機感を抱いていた。

 自分が倒さなければ蔓延してしまう、という危機感を少なからず抱いていた。

 両親と言いたくはないが、あいつらから生まれ落ちたが故の悪への嫌悪感は、第二の自分を作ってはならないという危機感だ。

 だから彼女は乙女(メイデン)だ。

 今も、これからも。

 それだけでいい。

 それだけで、構わない。

 彼女が彼女である理由。

 俺が俺である理由。

 それさえあれば。それがあるならば。

 正義の味方は、正義の味方で居られる。

 

□■□

 

 無力を、無意味を証明しよう。

 俺がここで、【諸悪王】を打倒しても、三日後、同じ地獄が繰り返される事を証明しよう。

 【諸悪王】を淘汰しても、新たなる悪が芽吹き、俺達に敵対する事を証明しよう。

 証明をするその為に、銀剣を振るう。

 鎖が再び掠める。炎弾を含め、これで三度。

 《愚者と嘘つき(アストライア)》の種は割れている。これ以上の被弾が、回復した所で取り返しが付かなくなるだろう事を、奴は理解している筈だ。今はまだ三度であれ。この先上限無く増える【刻印】は脅威でしかない。

 そんな状態で《愚者と嘘つき》を起動した後に《怨嗟の感染(シュプレヒコール)》にて放つ《仰げば尊き正義の断片(ライト・フラッグメント)》を受ければ――しかも【デルピュネー】によるステータス奪取が今なお継続されているこの状態で――デスペナルティは避けられない。

 だから、何かしらの対策がある筈だ。《仰げば尊き正義の断片》使用時に【デルピュネー】で奪取したステータスを返す、とかな。

 やり方はいくつかある。だが何をするかは予想が出来ない。

 相手が何をするのであれ――此方の手は変えない。緩めない。

 

「記憶を消去。対象は《紅炎之槍(ヒート・ジャベリン)》」

『了解。発動タイミングは?』

「3秒後だ」

『――――起動』

「『《架空の魔書(ネクロノミコン)》』」

 

 1番使ってきた、それ故に記載されている中では最も記憶されている量が多い魔法、《紅炎之槍》を消去する。

 《架空の魔書》により召喚出来る最大時間は10秒程。

 【実在虚構 ヨグ=ソトース】は、絶対的な防御力を誇るが、それ以外に能がない。

 攻撃は出来ない。強化も弱体化も無い。ただそこに『存在しないが存在する』曖昧なモノ。

 それが、顕現した。

 

『――――――――』

 

 陽炎のように揺らめきながら。無音の咆哮をあげながら。それはその姿を瞬時に現した。

 そして。それに【諸悪王】の視界は覆われる。

 俺の動作を、ほんの数瞬見失う。

 【ヨグ=ソトース】が顕現しているその10秒の内にその曖昧な存在を駆け上がる。

 頭頂から旗を手に跳躍する。目下にあるのは諸悪の王。

 

「《噛み砕く牙は蝕みて(デルピュネー)》」

「《仰げば尊き(ライト)――

 

 俺の行動を理解していたというのだろうか。

 【ヨグ=ソトース】に見向きもせずに、俺を、睨みつけている。

 

「《猿真似は元来を越える(ミミクリー)》」

正義の(フラッグ)――

 

 理解していたのだろう。彼(中身的には彼女だが)の動きは規則的だ。

 

「最()だ。《骨を折り肉を断つ刃(オステオトーム)》」

「――断片(メント)》ッ!」

 

 最大戦力が炸裂し、俺は――『僕』はその日初めて。

 

 親子喧嘩をした。




( °壺°)「先週休んだ分長い、訳でもない」
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