其は正義を手放し偽悪を掴む   作:災禍の壺

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なんかUAが徐々に増えてて驚きました。皆様のお陰です。
感謝感謝です。


第九話

 曇天は現実の事で、晴天はこの世界での事。

 それでも、庭原 梓――カタルパ・ガーデンの心は曇っていた。

 

「そりゃ、勝てねぇって……」

 

 闘技場、そこはプレイヤー達が切磋琢磨する場所。

 では果たして、そこに『悪』などというものが存在するのだろうか?

 《秤は意図せずして釣り合う》の効果が発揮されなかったのは、梓にとっては予想外だった。

 結界によってデスペナにならないと言えど、殺す事に代わりはないのだから使えるだろう、と高を括っていた。

 ……現実は、ただの3桁ステータス(一部に至っては2桁である)で闘う非戦闘職の姿があっただけだ。

 観客の誰もが『なんで闘ってんだアイツ』と冷たい目を向けていた。

 

「うん、まぁ、お疲れ様?」

 

 ミル鍵――天羽 叶多もフォローしきれない。

 

『弱すぎるクマ……予想外クマ……』

「……ミル鍵さんは彼にキルされたんじゃ?」

 

 シュウは呆れ、フィガロもフィガロで疑わざるを得ない。《秤は意図せずして釣り合う》を使わなければ雑魚以外の何者でも無いカタルパに殺されるなんて、ミル鍵が弱いのか?と思ったが、フィガロはミル鍵と決闘し、中々強かったという印象を受けていた。殺られるとは思えない。

 実際、フィガロは《秤は意図せずして釣り合う》の効果を知っている(シュウは『素ステが低けりゃ釣り合いすらしねぇだろうけどな』と辛辣な感想を言っていた。実際その通りだが)し、使い方も知っている。

 

(悪、って何だろうね)

 

 悪に対する特攻、とは言わないが、悪に強いとは、どういう事か(「かくとう」や「むし」、「フェアリー」という事ではない)。

 悪とは何か。それに対して強くなる、カタルパ・ガーデンとは何者か。

 フィガロの疑念は尽きない。

 

「やっぱ駄目だわ。今日は帰る」

「ん?なに、ログアウト?……1人で?」

 

 ミル鍵は首を傾げ……90°近く曲がったが、傾げた。

 

「あー、いや……そうだな。1人で冒険、かな?所謂ソロプレイだ」

『ソロプレイ?お前がそういうのに……そういや拘る奴だったクマ』

「ソロプレイはオススメするよ」

 

 シュウは納得し、フィガロは推奨した。ミル鍵も同調した。男3人揃えば文殊の知恵、では無い。ただ、ミル鍵は反論が意味を成さないと踏んで、同調しただけだった。

 まあ、そんな事はカタルパには全く関係ない。3人を置いて、闘技場を後にした。

 

『いきなりどうしたんだ?あいつらしくないクマ。頭打ったかどうかしたクマ?』

「闘技場で負けた事による傷心、かな?」

「仲はいいのに容赦は無いんだ、二人とも」

 

 ミル鍵は「今から暫くこの二人のブレーキになんなきゃいけないのか」と、空を仰いだ。

 

□■□

 

 以前のように、繰り返し言っておこう。【絶対裁姫 アストライア】に、《感知》などのスキルは存在しない。けれども。

 ――――感覚的か、はたまた別の理由か、分かってしまう(、、、、、、、)。何が、とは言わないが。

 分かってしまうから、それを教えられたカタルパは、町を出た森林にまで来ていた。

 

ここらでいいかな(、、、、、、、、)

 

 カタルパは第1段階の【絶対裁姫 アストライア】――片手剣のアイラを持ちながら、突如そう言い放ち、振り返った。

 果たしてそこに居たのは。

 

「……まあ、そうなる。英雄叙事詩(ヒロイック)というものは総じて、神か何かが主人公に困難を与えたがるからな。『振り返った事が間違いだった』と気付くのは、手遅れになってからだ」

 

 ――化物だった。怪物だった。

 成人男性の体躯ではあるが、様々な化物が混じっている、キメラのような印象を受ける『何か』。そんなモノが居た。眼鏡が辛うじて人と断定出来る材料となってはいたが、焼け石に水感が否めなかった。

 

「……アリスンかと思った」

「私はあいつの代理だ、と言っておこうか。まあどうあれ、物語は進める必要があり、苦戦や苦難を与えるのは私では無い(、、、、、、、、、、、、、、、、)

 

 代理?だとか、苦難?などと問う暇は無かった。

 

 突如放たれた斬撃を、受けなくてはならなかったから。

 

 カタルパは、振り返った事を後悔したが、アイラのお陰で助かった。片手剣がその斬撃を放った爪のようなものと鍔迫り合いをしている。

 それが意味するのはアイラで相手の攻撃をちゃんと受け止めたという事だ。カタルパの貧弱ステータスで、である。

 ただ、アリスンの代理(名前は分からない)が動いていない。ならこの攻撃は?と思いモンスターが視界に映る。なら、モンスター召喚系のスキルか何かで喚ばれたのか?とカタルパは《看破》を使用した。

すると。

 

 【五里霧虫 ミスティック】という名前が見えた。

 

 その表記は〈エンブリオ〉のそれと似ていて。

 その姿形は〈マスター〉のような人型で。

 それで尚、モンスターでしかないモノだった。

 4本ある後ろ足。前足は蟷螂のように鋭い。顔もガスマスクと虫の顔を無闇矢鱈に混ぜ合わせたようだ。

 

「さあ、お前が闘うのは〈UBM〉。私では無い、『お前に苦戦や苦難を与える者』」

「……ユニーク……ボスモンスター……!!」

「Ma……Maaaaaaaaaah!!!」

 

 〈UBM〉、【五里霧虫 ミスティック】が咆哮し、戦闘は何の前触れも無く始まった。

 

□■□

 

 そう言えば、とカタルパは思案する。

 かつて(とは言えつい最近だが)、シュウとフィガロが協力して〈UBM〉と呼ばれるモンスターを倒したと言っていた。

 それを思い出し、やれやれと首を振る。

 曰く、「あいつらから引き離す為にこうしたのに、結局あいつらの方が詳しい事だった」と。

 

(二人がかりでようやっと倒せたモンスターと同等の相手にソロプレイで立ち向かう、か。この非戦闘職の貧弱野郎が、か)

 

 生憎、『モンスターがプレイヤーを狩る』限りは梓の語る『悪』に抵触しない。ティアンが襲われない限りは、《秤は意図せずして釣り合う》も機能しない。《不平等の元描く平行線》も3桁ステータスしか写せない。

 何より。

 

「Maaaaaah!!」

「……こいつ、デバッファーじゃねぇか」

「ほう?早いな、予想以上に。まあ、それまでだが」

 

 男が化物の見た目で醜く笑う。見ればカタルパのステータスは減少の傾向を見せていた。

 辺りに霧が立ち込めている。どうやらそれが【五里霧虫 ミスティック】という〈UBM〉の能力らしい。霧を発生させ、霧の中の相手のステータスを減少させる、そんな能力。

 

「お前は、僕を知っているな?その上で、対策を取ってきた。写し取られないよう、代入されても構わないよう……この〈UBM〉を創りやがったな?」

「否定はしない。寧ろ正しい。そうだとも。私が創った。あいつがお前を危険視する理由を私は知らない。だが、お前を殺さなければならない使命感がある。何故かは知らないが。

情報はある。であれば対策を打つのは『容易い』」

「いや……ボスモンスター創るのが容易いとか何言ってんだお前」

 

 創れるなら、殺せるという事じゃないか、と。カタルパは冷や汗を流す。

 ……シュウによると、〈UBM〉を倒すとそのモンスターに因んだ装備品が貰える、らしい。

 目の前の化物は、それを創る事を容易だと言った。作成者であるなら、倒し方も熟知している事だろう。なら、その報酬とやらも目の前の化物は――――

 然し乍ら、カタルパの《看破》は化物に対して正常に作動していない。キメラのような見た目からか、はたまた別の理由か。

 それ故にカタルパは、その化物も〈UBM〉と断定した。〈UBM〉を創る〈UBM〉なのだと、誤認した(、、、、)

 

「さて、そろそろ耐えられなくなった筈だ。【ミスティック】の霧は他の〈マスター〉やティアンが入れないようにする結界の役割も果たす。

お前が勝てる見込みは、万に一つすら有りはしない」

「Maaaaaaaaaah!!!」

「ぐっ……!」

 

 化物は語る。現状を打破する方法が今は無い事を。

 そう、化物は語ったのだ。

 今は(、、)無い事を。

 ならば。彼が打てる新たなる手は?

 無い。

 では、彼()が打てる新たなる手は?

 ――有るには有る。

 そして。その結論に辿り着き、カタルパは開口する。

 

「アイラ。お前が今の今まで喋らなかったのは、『近い』からだな?」

『…………』

「何を、話している」

 

 化物は思わず問い質し、【ミスティック】を止めた。これから何が起こるのか、気になったから――これから起こり得る、英雄叙事詩(ヒロイック)を、見る為に。

 

「アイラ、僕は……いや、『俺は』、裁かなくちゃならない」

 

 それは、プレイヤー、庭原 梓の言葉では無かった。

 それは、〈マスター〉、カタルパ・ガーデンの言葉だった。

 

「僕は、目の前のこれを悪とは断定しない。『モンスターがプレイヤーを狩る』だけだから」

『…………』

「だが『俺』は、これですら悪と断定する。無慈悲に、無尽蔵に悪を蔓延させるのは良くない事だ。

俺にのみ特攻が働くような〈UBM〉を態々創ったそうだ。それは他のプレイヤーにも当てはまってしまうかもしれない。シュウが、フィガロが、ミル鍵が……まだ見ぬプレイヤー達が一方的に虐殺されるような世界になるかもしれない」

『…………』

 

 カタルパが語っているのは、IFの話。確証なんてのは何処にも無い、伽藍堂の理論。

 

「俺はそれを許さない。悪が蔓延る世界を許さない。

『これ』は『僕』が抱いた使命感で――」

『これは、私達がやらねばならない、という危機感の元行う、断罪だ』

 

 アイラの声が聞こえたと同時、膨大なリソースが蠢くのを、化物――ジャバウォックは感じた。

 今まで蓄えてきた己がリソースを、この時の為だけに使い切ろうとする、愚者の行動を見た。

 【絶対裁姫 アストライア】と、その〈マスター〉、カタルパ・ガーデンの、愚かしくも勇ましい、希望を見た。

 

 ――これは、プレイヤーの中で初めて第3段階に到達した――

 

『■■■起動、断罪の旗を掲げよ。その旗は道を示し、其の首を撥ね飛ばす』

 

 ――それ故にリリース開始時に始めた者の中で最後に第4段階に到達する――愚者と嘘つきの物語。

 

「Maaaaaaaaaaaah!!!」

【Form shift――】

 

 【ミスティック】が振るった凶爪は、然れど届かず――

 

【――Cross Flag】

 

 十字架に塞き止められた。

 それは、十字架。「Flag」と名乗っておきながら、その旗は鎖によって十字架に固定されている。石突は無く、旗頭も無い。

 正しく『十字架(Cross)(Flag)』ではあったが、誰もが『何かが違う』と訴える事だろう。

 旗が旗の役割果たせてねぇよ、と。だがそれでも。

 それは十字架と旗であり、それ故に『Cross Flag』だった。

 鎖が巻き付いているからか、振り回せば棍のようだった。

 爪を弾き、一撃を叩き込み、攻撃を受け止める。

 非戦闘職ならざる動きではあったが、特にステータスの変化も無ければスキルを発動している様子も無い。ならあれは、彼の、庭原 梓の戦おうとする意思の権化。闘おうとするのではなく、蔓延る悪に対しての危機感が、戦おうとする意思が、彼を動かしていた。

 ジャバウォックはそれを全て悟り、無意識の内にその戦闘の観客となっていた。

 デバフを受けながらも、逸話級であれど〈UBM〉と比肩する非戦闘職の〈マスター〉。

 これは、後に語られるべきものだ、と。

 ジャバウォックは直感した。

 そして。

 ――その時は、来た。

 愚者と嘘つきが、英雄になる瞬間が。英雄叙事詩を刻む瞬間が!!

 

「――鎖は解かれ、世界は一度、我が蒼に染まる」

『人が仰ぎ見、また見下ろした世界を此処に』

「『闇を祓う光を此処に』」

 

 詠唱のように、二人は詩を紡ぐ。

 【ミスティック】の爪は届かない。それはこれまでも。そして、これからも。

 鎖が解かれて、表面が蒼一色、裏面がシマウマのような白と黒の縞模様の旗がたなびく。

 

「『《揺らめく蒼天の旗(アズール・フラッグ)》!!』」

 

 その紡がれた詩が放たれると同時、晴天の空を写すように、世界は蒼に染まり――――

 

 次いで、白と黒に彩られた。




(庭原)「一体《揺らめく蒼天の旗》の能力とは何なのか!!……次回ですね分かります」
(天羽)「世界を一度蒼に染めた意味……」
(庭原)「……なんでだろうな」
(アイラ)「それ以上はネタバレだぞ、カーター」
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