其は正義を手放し偽悪を掴む   作:災禍の壺

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( °壺°)「1日おーくれーましたー」
( °壺°)「あと少し訂正」
( °壺°)「なんと言うか、合わせよう、と思いました」


第八十六話

 三つの装備スキルを併用して尚、たった一つの必殺スキルには届かなかった。

 結論だけを言えばそうだった。

 何処まで模倣しても究極の一には辿り着けないように。

 何処まで高みを目指しても、その頂きには届かない。

 無い場所には辿り着けない。存在しない絶対正義には至らない。至る事は出来ない。

 正義の女神、アストライア。()()()()()正義の概念を司る神様。

 彼女の口から出るもの全てが正義であり、その言動と天秤にかけられるもの、それこそが悪である。

 天秤にかけられた時点で、善悪は決している。二元論のように決まっている。故に彼女の正義は、どうあれ正義である。狂気染みた、凶器の塊のようなものだとしても。

 だからこそ、正義の女神と同じ天秤にかけられる、その時点で運命は――

 

□■□

 

 【オステオトーム】には、二つの装備スキルが存在する。

 一つは《廻り巡る断絶の刃(オステオトーム)》。

 もう一つは《骨を折り肉を断つ刃(オステオトーム)》。

 何方も読み方が同じ事から同一のスキルが分裂したのだ、と入手当時のエイルは考えていた。

 だが逆だった。何がと言われれば、発想が、だろう。

 オステオトームはそのスキルによって、夫々から見てもう片方のスキルが、()だったのだ。

 つまりオステオトームは《廻り巡る断絶の刃》若しくは《骨を折り肉を断つ刃》の使用により、逆回転するのだった。

 逆回転するという事はどういう事なのか。分かった当時のエイルはそう考えた。通常の駆動をそのまま加速させる動きが《廻り巡る断絶の刃》で、それが逆に駆動するのが《骨を折り肉を断つ刃》だった。

 高速起動する電動鋸は一見逆回転か否かの判別が出来ず、また逆回転だからと言って何か切れ味などそうしたものに違いが生まれる訳でもなかった(逆回転をしても切れ味が変わらない、というのは現実的には些かおかしな話ではあるが)。

 モンスターを切り倒し、ようやくその違いを理解した。

 《廻り巡る断絶の刃》は『廻れば廻る程に使用者を強化する』刃であり、《骨を折り肉を断つ刃》は『廻れば廻る程に敵を弱体化する』刃である事に。

 逆回転であるが故に、与える結果も逆になる。

 『永久駆動』。それこそが【結合祖式 オステオトーム】という〈UBM〉の命題だった。

 廻れば廻る程に強くなる刃と廻れば廻る程に弱くする刃は、ある意味その究極形である。

 無限ではなく永久。その違いは〈UBM〉たらしめる『何か』の否定に相違ないが――今となっては、その真相はエイル自身にすら図れない。

 

□■□

 

 【監獄龍姫 デルピュネー】は上半が人で下半が龍の化け物だった。接触当初、人のサイズであった為にその時はエイルも人と見間違えた。

 だが、明らかに人語は話しておらず、かと言って意思疎通も図れなかった。人に擬態したモンスターと違わなかった為にエイルは武器を取った(結局は【アジ・ダハーカ】による蹂躙だが)。戦闘に入り体積が肥大化し、神話の再現もかくや、という大激闘を繰り広げたのは、永久に語られる事は無い。

 そうして手に入れた【禁牢監叉 デルピュネー】は枷だった。

 対象の能力を奪取し、封印する。正しくギリシャ神話のデルピュネーであった。仮に丸々その通りならば、結局は奪い返される末路だが。

 《噛み砕く牙は蝕みて(デルピュネー)》は伝承通りとは言わないが、奪い取ったステータスを相手に返す、というスキルだ。

 ステータスが対象に返還される方法はエイル自身がデスペナルティになるか、このスキルを使用する以外に方法は無い。

 そしてまたこのスキルも、ただ返す訳ではない。勿論オマケ(いらんもの)が付く。一定時間解除不能の【下半身不随】だ。それは神話にて脚の健(一応は手脚だとされる)を切った事からその効果があると思われる。

 その特性上、手脚ではなく脚だけが不随となる為に【上半怪異 テケテケ】とは相性が悪い事となる。偶然の産物ではあるが。《考える脚(バラバラボトム)》使用中であれば影響はあるにはあるだろうが、まぁそれは蛇足だろう。

 何故手を自由にさせてしまうのか、とエイルは今迄も何度か嘆いたが、特典武器になった際の調整の仕業、と言う事で納得せざるを得なかった。

 

□■□

 

 【拮抗障武 ミミクリー】はエイルが初めて討伐した〈UBM〉だった。

 故に【転移模倣 ミミクリー】はエイルが初めて手に入れた特典武具という事になる。

 フィルム状の薄っぺらいものを戴いた時には正直舐めているのかとも思ったが、自分自身を〈ティアン〉に偽装出来る事に気が付いてからは――寧ろ本質は其方であったのだが――【オステオトーム】に次ぐ愛用の武具となっている。

 【ミミクリー】で己を偽り、【デルピュネー】で人質(ステータス)()り、【オステオトーム】で純粋に脅す。

 正しく諸悪の根源であり、【ミミクリー】はその第一歩であったとも言えた。

 己を〈ティアン〉であると騙っても《真偽判定》をすり抜ける性能付きであり、偽りの紋章を貼り付けておけば《紋章偽装》の完成でもある。

 利便性が高い分、〈エンブリオ〉の使用は出来ず、【ミミクリー】自体にステータス補正は無く、【ミミクリー】そのものは模倣しか行えない。

 そんな【転移模倣 ミミクリー】の装備スキルは《猿真似は元来を越える(ミミクリー)》と言う。

 効果は『対象の使用しているスキルを一部弱体化して模倣する』というもの。

 今回の、《仰げば尊き正義の断片(ライト・フラッグメント)》相手ではほぼ意味の無いスキルだっただろう。

 

 なにせ《廻り巡る断絶の刃》を使用していた為にステータス弱体は入っておらず寧ろ強化されており(そもそも彼等は弱体化を此方には使わなかった)、【デルピュネー】を己に噛ませていた訳でもなかった。

 弱体化して模倣する為相殺出来る筈もなく。

 結果は最早、言うまでもない。

 

□■□

 

 ミルキーが其処に着いた頃には、全てが決着していた。

 旗を杖代わりに立つ正義の味方と、光の塵になり始めている諸悪の王が、そこには居た。

 

「どうも、ミルキーさん」

 

 《噛み砕く牙は蝕みて(デルピュネー)》によりステータス返還が行われた為、確実に威力は落ちていただろうに致死に至らしめたのは、間違いなくセムロフのお陰だろう。《鏡に映せぬ七つの呪い(セブンス・マッドナイト)》の倍率弱体は伊達では無いのだ。

 

「あちゃー、私、出遅れたっぽい?」

「そうですね。恐らくではありますが……いえ、おかしいですね」

 

 セムロフは首を捻る。視線は諸悪の王とこの空間を行ったり来たりしている。

 

「ん……どったのセムロっちゃん」

「彼が……【アジ・ダハーカ】の使用者がデスペナルティとなって消えると言うのに、この空間には何の変化も無いな、と」

「成程ねー……言われてみれば奇妙、かも?」

「……?偉く落ち着いていますね」

「まーねー。さて。《轢かれた脚は此処に(テケテケ)》、《考える脚(バラバラボトム)》」

 

 斬られた下半身のみが壁を駆け上がり、アルカを蹴り飛ばして救出していた。彼がダメージを受けているのは気の所為だと思いたい。

 

「さて、解除されない、と。ふむ……?干渉されてる扱いでログアウトも不可能。どうしたもんかしら」

 

 光の塵への変換は進行している。先程から何も語らないのは不可解だが――それについては正義の味方も含めてだが――着実に、確実に。その身はこの世界から離れようとしている。なのにその〈エンブリオ〉は離れるどころか定着しようとしている。

 

「――かふっ」

 

 漸く、諸悪の王が口を開いた。

 

「いや、はや。見事。そこの女の子無しで勝利するとは、ね」

 

 満足したような、口振りだった。

 

「本当に、初めは一対一なら勝てるだろうと高を括っていたんだが……勝てないものだね。うん。矢張り王は座すれど統治はしない。席を立つべきでは無かったようだ」

 

 独り言のような、辞世の句のような。ただ雨粒のようにポツリポツリと言葉が落ちる。

 

「良い物語では無かった。正義の味方が一心不乱に、このような諸悪の王を……矮小で貧弱な王を、殺すなど……嗚呼、つまらない。つまらないが……人生とは案外、そんなものなのだろうな」

 

 少しづつ、その言葉すらも、虚空へと消えて行く。【龍幻飛後】の内に、泡沫のように浮かんで消える。

 

「餞……餞は……無いか……いや、コレが、そうか……コレが、あったか」

 

 光の塵で構成された腕が、矢張り虚空を掴む。

 それは、自分の塵を掴みに行くかのような。

 何が起きるのかは分からない。

 だが、ハッキリと理解出来たのは。

 

 善くない事が、起ころうとしている事。

 

 光の塵が、宵闇のように黒く染まり、今更ながらに【龍幻飛後 アジ・ダハーカ】が解除されない理由を知る。

 カタルパは()()()()と手を伸ばす。しかし、その手は届かない。

 

 腕がなかった。

 

 一歩でも近付こうと踏み出した。

 

 脚がなかった。

 

 御旗は地に刺さっている。魔書は宙に浮いている。だが、正義の味方は進めない。

 勝利は目前であっただろうに。

 

「《其は玉座を手放し巨悪を敷く(コンシアス・イヴィル)》」

 

 ――――それが、【諸悪王】唯一無二の固有スキルである事をカタルパは知らない。

 だが分かる事がある。

 それから逃がす事も、逃げる事も叶わない事を。

 運命は非情にして残酷だった。

 それは残念ながら、奇遇にも、カタルパが、梓が、初めて知ったことだった。

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