其は正義を手放し偽悪を掴む   作:災禍の壺

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幕間

 天羽 叶多は、武力の持ち主、とは言い切れない人間だ。

 散々庭原 梓とカデナ・パルメールと列挙するにあたり「智力」「武力」「勇気」として並べてはいるものの、彼女本人、つまり武力として彼らの横に並び立つ天羽 叶多は、残念ながら、武力と言うよりは、暴力の持ち主だった。

 

□■□

 

 十数年前の話だ。

 何処にでもいるような男達が殴り飛ばされた。

 別段何かしらの組織に属していた訳でも、指名手配がされているような悪人であった訳でもない。言うなれば、俗にチンピラと呼ばれるような者達だった。

 当時中学生であった天羽は――つまり梓と出会う前の――華奢な体躯とは裏腹に、どこにそんな力を隠しているのか、男相手でも立ち向かえる程の膂力を有していた。

 さてそこに、彼女が「武力」を有していない、と言える一因がある。

 

「躊躇なく金的狙いやがった……」

「やべぇってアイツ……」

「エホッゴホッ……」

「大丈夫かたっちゃん、鳩尾とか笑えねぇっての……」

 

 口々に男達は声を発しては、彼女から離れて行く。

 端的に言って、彼女はセコかった。

 不意打ち、騙し討ち、掟破りは十八番。

 倒せれば勝ち。勝てば全て良し。

 そう、彼女が有していたのは厳密には、正確には、武力などではなく――暴力だった。

 

□■□

 

 『力無き秤は無力、秤無き力は暴力』という言葉がある。

 中世ヨーロッパで唱えられていた、正義の女神を用いた司法での格言のようなものだ。ここで言う女神は散々この物語で語られた彼女を指す事もあれば女神ヘカテなどを指すともいう。

 ともあれ、中学時代の彼女は秤無き力であったと言える。だからこそ力無き秤(庭原 梓)に出会ったと言えるが。

 兎角彼女はそうしたズル賢さを得たまま、かの青年と対峙し、あろう事か自らを常人と例えて「危なっかしい」と表現したのであった。

 今でこそ「それはどっちだ」と返せるであろう梓も、当時はただの高校生。況してや親を豚小屋にぶっ込んだ直後の時系列。とてもでは無いが彼自身、マトモでは無かっただろう。

 だからこそ接触し、知り合った。化け物と、化け物が。埒外と例外が。

 

 ――これは、最悪から逃れる為の物語。

 

 天羽 叶多の、真実は矢張り何処にも無い。

 何故ならば彼女は、庭原 梓に出会った瞬間に始まったからだ。

 だからこそ、どれ程の過去があろうとも、彼女の歴史はそこから始まっている。つまり先の中学時代の物語などあってないようなものなのだ。

 あってないような物語。ある意味の無い物語。

 

 天羽 叶多の物語は矢張りそこから始まっている。

 その語られる事の無い物語で、誰をどう殺したか、それは黒いヴェールに覆われて何処にも見えない。

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