其は正義を手放し偽悪を掴む   作:災禍の壺

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( °壺°)<挙げてから数分は個人的な読み直しタイム
( °壺°)<その為微妙な訂正が乱舞します
( °壺°)<ごめんなさいね


第八十九話

 そうして。【ギャラルホルン】と【諸悪王】という二つの障害を乗り越え、遂にカタルパ・ガーデンは平穏を手に入れ――はしなかった。

 寧ろそれらの物語を経た事により、より歪に正道から捻じ曲がり、退廃した場所に辿り着いたと言えよう。

 これは、彼が“不平等(アンフェア)”と呼ばれてから暫く経ち、“〈UBM〉ハンター”と呼ばれる少し前の話だ。正義の味方が、またほんの少しだけ前に進むだけの、そんな物語だ。

 

□■□

 

 【諸悪王】を退けたとは言えど、あれはただの撤退である。勝利しただけで、一時的に勝利しただけで、大局的には何も変わっていない、と言える。だが正義とはいつでも後発的であり、ただの抑止力である。

 つまり今ここから『潰しに行く』、というのは正義の味方としても正道から逸れている。

 無理矢理しなければならないならまだしも、当人にその意思はない。

 だからこそ、新たなる悪の萌芽まで『英雄』は目覚めないし、正義の味方も動かない。

 

 今日も今日とて庭原 梓は、そんな思いを抱きながらカタルパ・ガーデンに成り代わり、デンドロの世界を楽しむ――筈だった。

 

□■□

 

 アルテアの地に降り立ったカタルパを待ち受けていたのは、鎖の少女だった?

 ――疑問符を付けなければならなかった。

 

「やぁ、どうしたのかな、カーター」

 

 アイラだ。間違いない。いやそもそもカタルパはそれを間違えない。

 それを疑わず、カタルパは己の目を疑った。

 つまり、()()()()()()()()()で立つ、【絶対裁姫 アストライア】の姿を疑った。

 

「……ゑ?」

 

 思わずワ行で唱えるカタルパを他所に、ヒラリヒラリと白のワンピースを踊らせるアイラ。

 銀髪も銀眼も白のワンピースも腰に巻かれたベルト代わりの鎖も変わっていない。変わっていたのは身長だ。

 伸びた身長に伴って髪も伸びているが問題はそこじゃない。大人びた顔つきになった、とかも関係ない。

 ()()()()()しているという事だ。

 

 成長、している。初めこそ十歳程度の見た目であったアイラが、だ。中途十三、四程の見た目にもなっていたが、今は十八かそこらの見た目に見える。

 それこそ、カタルパと年齢的に『釣り合う』ような。そんな外見になった、と言える(法律的に十八程の見た目の女性と二十代半ばの男性が年齢的に釣り合うかは置くとして)。

 

 ――いや、問題はそこだがそうじゃない。

 カタルパは覚えている。

 嘗て彼女の見た目が成長した時は、形態が進化した時であった事を。

 記憶している彼女の形態はⅥ。

 つまり……つまり。

 

「超、級……?」

「さぁ、どうなのだろうね?」

 

 どうやら本人が一番自覚していないようだ。

 だが、成長したという事は、そうなのだろう。そういう事、なのだろう。

 彼女は〈超級エンブリオ〉と成り、カタルパ・ガーデンは〈超級(スペリオル)〉となった、のだろう。

 自覚も実感も無いが、或いは確証も無いが、彼女は、カタルパ・ガーデンは辿り着いたようだ。

 

「とは言え、アルカの時と一緒でこう、喜びみたいなもんはないな」

 

 【兎神】との戦いで発揮された第7形態――〈超級〉の力は、確かに凄まじいものではあったが、そこと同じ土台に立ったと言われても、矢張り実感とは湧かないものだ。

 

「取り敢えず、おめでとう?」

「あぁ、ありがとう」

『我々と同じで〈エンブリオ〉もまた際限なく成長して行くが……果たして、上限は何処にあるのだろうね』

「……急に入って……ん?どういう事だ、ネクロ」

 

 突如として割って入った【幻想魔導書 ネクロノミコン】の言葉に、カタルパとアイラは同時に首を捻った。

 

『いや、つまりだな?第7形態が最終形態だ、などと言われてはいるが……元来〈エンブリオ〉とは無限の可能性を秘めているもの。然らば上限などなく、無限に強くなる、筈では?』

「成程な。だが少なくともアイラは相手によって無限に強くなれると思うけれど」

 

 ステータスを変更する能力には、確かに上限が無い。相手が強ければ強い程、かつ悪人であれば、《秤は意図せずして釣り合う(アンコンシアス・フラット)》のステータス上昇に数値上の上限は無い。

 

 それとこれは、意味合いが異なるが。

 無限の可能性を秘めたものが、有限に収まるのか、という事なのだ。

 言ってしまえばそれだけの問題で、だからこそ注視すべき問題だった。

 言われてみれば確かに、と思えるような見落とし。

 ――未だ〈無限エンブリオ〉の実態を知らないからこそ言えたセリフである。その名を知らず、姿を知っていても、正体を知らないからこそ言えたセリフである。

 そんな、どれ程見上げてもまだ足りない頂の話よりも、カタルパ達の話題は今しがたなったばかりの第7形態の話に移った。

 

「何かしら新しいスキルがあるんじゃないか?」

 

 と、自然に振るカタルパではあるが、確かに【絶対裁姫 アストライア】は第5形態を除いて全ての形態に新しいスキルが存在した。

 第1の《秤は意図せずして釣り合う》。

 第2の《不平等の元描く平行線(アンフェア・イズ・フェア)》。

 第3の《揺らめく蒼天の旗(アズール・フラッグ)》と《仰げば尊き正義の断片(ライト・フラッグメント)》。

 第4の《感情は一、論理は全(コンシアス・フラット)》。

 第6の《左舷に傾く南方の凶爪(ズベン・エル・ゲヌビ)》、《右舷に傾く北方の真爪(ズベン・エス・カマリ)》、《上皿の如き世界に審議を(アース・トライアル)》。

 第5形態だけ仲間外れ、という感じになってしまうが、その分第6形態にて新スキルが三つあるという暴挙。

 いかなる手段を用いてでも悪を『潰す』、正義の味方らしいと言えばらしいが。

 兎角、第7形態はその第5形態と同列なのか、それともそれを例外と認めるのか。

 

「あるね、新しいスキル。《彼方の星を繋ぎ(スターロード)神話と鎖を紡げ(オーバーライト)》……かな?」

「……なんだそら」

 

 カタルパはステータスを確認し、その結果、第5形態が仲間外れ云々という意識は飛んだ。

 確かに彼女は、《彼方の星を繋ぎ、神話と鎖を紡げ》という未知のスキルを持っていた。だがカタルパが困惑している原因はそれそのものではない。

 叶多とカデナ()を意識したかのようなスキル名に対してでもない。

 つまりはその内容、効果についてである。

 

「『ステータス内の対象の数値を一定時間入れ替える』ってどういう意味だ?」

「文字通りだろうさ、カーター。2桁の数字があるならば、()()()()()()()()入れ替える」

「……え?つまり?19が91になる、って事か?」

「そういう事だね」

 

 有り得ない。その言葉をカタルパは飲み込んだ。

 19であれば91に出来る。10009であれば……91000に出来る。逆にするでもなく入れ替える。シャッフルするでもなく並び替える。80991の差は、言うまでもなく大きいだろう。

 カタルパの現在のAGIは23690。それが《彼方の星を繋ぎ、神話と鎖を紡げ》を使用する事で96320にする事が出来るという。その差、脅威の71730。たった一つのスキルで、AGIが4倍強に肥大すると言う。破格も破格、規格外だ。〈超級(スペリオル)〉だからこそ為せる技、と言えばそこまでだろうが。

 

「ふむ……どうやらステータスとは言っても、HP、MP、SPは変えられないみたいだね」

「そこまで変えられたらたまったもんじゃ……ん?」

 

 スキル説明には書かれていない文言を聞き、カタルパはアイラを見る。今の彼女は、変身せずにスキルを確認した。いや、きっと使ったのだろう。変えられた実感こそ無かったが、確認していたステータスの一部……ENDが、一時的に変わっていた。

 だが今まで彼女は、銀剣、弩弓、御旗、天秤、鉄鎖、剣盾の何れかに変身していなければスキルを使えなかった筈だ。

 つまり――どういう事だ。

 規格外と例外が重なり、許容量を超えている。キャパオーバーだ。

 

「なん、で……アイラは、それを?」

 

 或いは、恐らくは。そうした憶測はあれど、それは真実の前では意味をなさない。いや、真実であろうと思われる憶測があるからこそ、確かめずにはいられない。

 

「――【Cross saver】」

 

 果たして。

 

「――それこそが、私の第7形態にして、今のこの姿の名だ」

 

 正義の味方が一人であってはいけない事を守るように、彼女は遂に、正義の味方と隣合わせで戦う事になるのだった。

 

□■□

 

「それで、私は運が……良いのか悪いのか、兎に角実験台って事ねー」

「すまないな、無理矢理付き合わせて」

 

 コロシアムに行けばよかろうに、お互いに加減をするからと、町外れにて手合わせを始めるらしい。ミルキーはそれに対してあまり頓着は無いらしく(恐らくアルカであっても同じだっただろう)、何か壊したりしないよう細心の注意をはらっていた。

 

「別に?ホラ、私って《轢かれた脚は此処に(テケテケ)》とかもそうだけど、情報開示多すぎるから?寧ろこういう時にそっちの情報仕入れとかないとねー」

「……以前そんなノリで《感情は一、論理は全》で仕返しされてなかったか?」

「気の所為」

 

 強い制止を受け、カタルパも引き下がる。

 そうして引き下がった先で、雌雄は並び立つ。

 

「……あれ?アイラちゃんおっきくなった?」

 

 先程から前に居たにも関わらず、今気付いたように言う。実際に今気付いたのだろう。それ程までに、周りを見ていた……のではなく、ある人物のみを見ていたのだろうが。

 

「【Cross saver】、アイラの第7形態だ」

「第7ぁ?へー、成程、つまり私だけ置いてけぼり、と」

「まぁ、そうなるな」

「……戦闘職なんだけどなー。三人で、四人に増やしたって唯一の戦闘職なんだけどなー……」

「愚痴るのは構わねぇけどさ、ミルキー」

「私『達』を前にその態度は、慢心にも程がある」

 

 嘗てのカタルパ・ガーデンの戦い方は、どれも【絶対裁姫 アストライア】を中心に繰り広げられており、必然的に、或いは逆説的に、第7形態となり武器でなくなったアストライアを武器としては扱えず、進化したにも関わらずカタルパ・ガーデンとしては弱体化する――――筈だった。

 

「《不平等の元描く平行線(アンフェア・イズ・フェア)》」

 

 そのスキル名を、アイラの口から聞くまでは。

 

「え、ちょ、なぁっ!?」

 

 慌てふためかずにいられようか。エンブリオであった少女が、突如として弩弓を握り、此方に接見してきたとあれば。

 驚愕は続く。

 

「《左舷に傾く南方の凶爪(ズベン・エル・ゲヌビ)》」

 

 今度は第6形態のスキルだ。それを今度は両手に盾と剣を持って使用してきた。ここまで来ればカタルパでなくとも分かる。

 

「今まで覚えてきたスキルが……全部一度に使えるのっ!?」

 

 手鎌でギリギリの応戦をしながらミルキーは叫ぶ。

 スキルの全使用、併用、同時発動。その全てがあの一身にて行える。

 〈超級エンブリオ〉に相応しい機動である。

 そこに更に加わった《彼方の星を繋ぎ(スターロード)神話と鎖を紡げ(オーバーライト)》を以て完成する。

 単純明快。それこそがTYPE:メイデンwithアブソリュート・カリキュレーター。戦闘を捨てて演算機と成り果てた筈の乙女は、彼から武装を取り上げて、その身に集約させたのだった。

 そして、だからと言ってカタルパが無力になった訳では無い。

 

「――【怨嗟連鎖】、【七天抜刀】」

 

 そう、アストライアが無くとも既に、カタルパの両手は埋まっている。だからこそ、アストライアはその手を離れたのだ。

 【怨嗟連鎖 シュプレヒコール】と【七天抜刀 ギャラルホルン】にその手に掴まれる権利を渡して、彼女は隣に立つ事を選んだ。

 

「《彼方の星を繋ぎ(スターロード)神話と鎖を紡げ(オーバーライト)》!」

 

 アイラがそう唱えるや否や、カタルパのAGIが跳ね上がる。理論上最高値に。

 その速度でカタルパが――そしてアイラも爆走した。

 【絶対裁姫 アストライア】の馬鹿げた規格外の力の一端はそこにある。

 アイラは、【絶対裁姫 アストライア】はカタルパと同じSTR、END、AGI、DEX、LUCを持つ。より正しく言えば、常にカタルパのステータスが反映される。

 その為、カタルパを強化する事によりアイラは同様に強くなる。

 先程の《左舷に傾く南方の凶爪》も、アイラの盾で受け止める事でカタルパのAGIが上昇するのである。どういう原理だと言うのだろうか。

 兎角そこには正義の味方しか残らない。悪に対する強者打破(ジャイアントキリング)は、正義の味方とその相棒によって成り立つ、どちらかだけでは成り立たない、真の『二人で一人』により完成するものだった。

 

「……とまぁ、こんなとこだが」

「…………わぉ」

 

 首筋に剣を突き立てられ、ミルキーもグゥの音も出ない。

 第7形態に到達した事により、正義の味方は完成したのだ。

 後はその正義を、後発的に発動していくだけである。

 まだ正義の御旗は、掲げられたばかりだ。

 

□■□

 

 その町外れの戦闘を、陰ながら見ていた者がいた。

 者とは言えど、それは一匹の虫であった。

 

 それは、一匹の蝿。

 

 体長はおよそ5cm程の、現実世界であれば見慣れたような、そんな蝿。

 しかしそんな蝿も、デンドロの世界に於いては異質である。

 魔法やステータスがある世界において、小さいというのはデメリットでしかない。

 にも関わらず小さいというのは、それは『外から仕入れられた』何かに寄るものだ。

 

「ふーん、成程成程……正義の味方、ねぇ」

 

 蝿が、喋りだした。

 しかしその声は蝿に響いているようで、声の主は遠くにいるようだ。

 

「くだらねぇ」

 

 と。蝿は――誰かは正義の味方の進化を嘲った。

 

「んなくだらないもんにあの人は負けたのかよ……」

 

 苛立ちを隠せない男の声は、遂に蝿の真後ろから聞こえた。

 

「俺が……俺達が潰してやるよ、その正義とかいうもんをよ」

 

 男の服の隙間から、見慣れた筈の蝿が湧き出す。

 男の目は確かに、あの正義の味方を捉えていた。

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