異世界はシーカーストーンとともに。   作:愚の骨頂だよねぇ?

14 / 17
#14 英傑は死力を尽くし、倒れる

「くっ……! 厄介でござるな!!」

 八重はガーディアンの追跡を振り切ろうと一生懸命走る。しかし、奴の動きもなかなか速く、距離は離れない。しかも時々放つ熱光線のせいで下手な動きができないのが厄介だ。

 もはや何度目かわからない熱光線が八重の長い髪をわずかに掠め、チリチリと痛み始めた瞬間、八重はぞっと背筋を凍らせる。次は当てる。そう、機械兵が言葉なしに伝えてきたような気がした。

 いったいどうすればいい? こんな敵に対してどうやって戦えばいい?

 ――思えば、旅の途中でリンクと名乗る青年と出会ってから、妙な体験をしていた。自分が今まで見たことも聞いたことのない化け物とこうして戦っている。今必死に八重を追い回すガーディアンという敵もまた見たことがなく、そして強い。恐るべき破壊力と耐久力は、正直ミスミド王国を飛び回る黒龍以上だと思う。

 また気になるのは、リンクはこんな奴らと戦ってきた、という事実だ。リンクは自分の国でこんなにも厄介な敵と戦い続けていた。しかし、こんなにも強力な敵ならば、噂くらいは耳にしてもいい筈である。それはいったいどういうことなのだろうか――

「――危ない、ヤエ!」

 突如、八重は叫び声と共に地面へと押し倒された。背に何かが乗っており、もがこうとするが直後、目の前の地面が爆発と共に砕け散っていたのが見えた。

 八重はくるっと首を回すとそこには銀の長い髪をした少女が覆いかぶさっていた。八重はふうと一息ついてコクリと頷いた。

「かたじけないでござる、エルゼ殿」

 そういうとエルゼは八重からどいて、二人を睨み付けるガーディアンへと対峙した。

 ――いけないでござるな。今は余計なことを考える暇などない。

 八重もまた深呼吸して、剣を抜き払って構えた。そして体制を取り戻したガーディアンが再びこちらへと照準を合わせた。

「ヤエ、後衛の二人が今魔法を溜めてくれている。それに気づかれないように攪乱するわよ」

 ぼそりとエルゼが指示をするとヤエは黙ってうなずき、剣をガーディアンの足へと斬り付けた。無論、リンクのようにスパスパと切れるわけではない。だが、何度も攻撃していればいつか壊れるだろう。そう信じ、一撃を加えていく。

 一方ユミナと生き残った住民の避難誘導を終えたリンゼはガーディアンの視界に入らないところで両手をかざし、魔力を集中させた。すぐに詠唱はできるのだが、奴等にただの魔法は通用しない。最大威力で放つ必要がある。それには時間を要するのであり、当然無防備になる。一応護身用に予め作っておいたリンゼの氷の壁があるが、せいぜい一発程度しか持たないだろう。

「ユミナ殿とリンゼ殿の魔法は、どれくらいで出来るのでござろうか?」

 斬り終えて距離をとる八重が、代わって動き回るエルゼに問う。

「終わったらリンゼが教えてくれるって! それまで耐えるわよ!」

「承知したでござる!」

 八重はだっとその場を離れ、エルゼが注意を引き付けている間に背後に回った。そしてガーディアンの背後を斬りつけていく。エルゼを焼き払おうと躍起になっていたガーディアンは、背後からの襲撃に怒りを感じ、ギロッと瞳を八重へと向ける。そして再び照準を合わせてきた。だが、これは二人にとっては予定内。二人で別々に攻撃してターゲットを変えてもらい、時間を稼ぐ戦法は成功している。

 だが、二人は自身の武器の限界を理解し始めた。あれほどまでに強固な外装に攻撃し続ければ、武器の消耗具合は激しくなるのは必定だ。八重の刀もすでに歯こぼれが激しく、エルゼのガントレットもヒビが入っていく。それにエルゼのあまり多くない魔力も底が尽きかけている。《ブースト》が発動できなければ、人間相手ならともかくガーディアン相手には使い物にならない。

 エルゼはガントレットを睨んで舌打ちすると、ガーディアンに攻撃している八重に叫んだ。

「八重! あと何回程度持ちそう!?」

「もう限界でござる! 剣が折れるでござる!」

 八重がばっと剣を振り切ると、皮肉げに笑って見せた。

「奇遇ね……私もあと一回が限界よ!」

 エルゼが最後の魔力を振り絞って、《ブースト》を発動する。身体能力が格段と上昇し、体が羽根のように軽くなる。そして奴の体を殴り付けた。その瞬間、右腕に装備されていたガントレットがガラスのように儚く弾け散った。

「くっ……!」

 拳を降りきり、ガーディアンを睨み付ける。やはりというべきか、奴はあまり堪えていない。赤いレーザーを放ち、エルゼを貫く準備を行う。

「エルゼ殿、逃げるでござるよ!」

 八重はそう叫ぶが、もはや逃げても無駄だ。エルゼは精一杯自分を守れるよう腕を交差して防御体制をとった。

 だがーー

「お姉ちゃーーん!! いくよ!!」

 遠くから、叫び声が聞こえた。希望の光が差してきた。エルゼはにっとそちらにむかって笑うと急いでその場から離れた。

 ガーディアンは逃げる獲物を追いかけるべく駆動した。エネルギーが充填され、獲物を焼き殺そうと、空気を白く染め上げかけた瞬間ーーエルゼは口角をあげていた。

 刹那、ガーディアンは目にする。空から飛来する、巨大な二本の槍を。一本は雷のエネルギーを、もう一本は氷のエネルギーを秘めている。

 その二本の槍は、ガーディアンの目前で軌道が一点に重なり、ぱっと眩く光った瞬間、槍は一本となった。ずっと太く、ずっと強大になって。

 雷と氷のエネルギーが螺旋状に槍の表面を駆け巡り、大気が悲鳴をあげるほどに空気の中を貫いていく。ガーディアンは、逃げていくエルゼではなく、そちらに釘つけになっていた。そして、獲物をとらえる目で、しかと自身を殺す槍を見つめーーそのまま突き刺さった。

 瞬間、槍に内蔵されていたエネルギーが解放を求め、弾けとんだ。電気を纏った絶対零度の空気がガーディアンを、内外ともに侵食し、その後爆発が巻き起こった。

 エルゼと八重は、リンゼが張った氷の壁へと退避し、そこからガーディアンの様子を眺めた。ガーディアンは喰らってからずっとびくびくと体を震わせていた。そして、電気が消えていくとーーがたんと力尽きたように崩れ落ちた。

「お、終わったの?」

 エルゼが尋ねた。あれほど強大だった敵が倒れるということが、正直信じられない。

 だが、ユミナは確信をもった表情でうなずいた。

「ガーディアンは倒れました。あれを喰らって倒れないはずがありません」

「私たちの全魔力を集中させて放ったんだよ、お姉ちゃん」

 胸を張ってリンゼとユミナは答えるが、正直疲れは隠せないようだ。そうというように二人は人形になってしまったかのように力が抜け、その場でへたれ込んでしまった。

「……そういえば、リンク様はどこでございますか?」

 ユミナが憔悴しきった顔で尋ねる。

「分かんないけど、あいつなら一人で倒しているんじゃないの? そろそろ終わるころだろうし、休んだら探しに行きましょうか」

 そうエルゼが言うと、彼女も座って体力回復に努めた。

 

 

 

 

「がっ……!!」

 背を強く打たれ、短く喘いで倒れる。ぶつかった家屋は、リンクの背後で脆く崩れていく。何とかリンクは腕に力を込めて立ち上がる。地面には血痕が残っている。口からも塩っぽい味のする赤い液体が流れ落ち、リンクはそれをぬぐいながら目の前の敵を睨み付ける。

 奴はガーディアンではない。ハイラルの野生の獣だ。だが、その強靭さはどの獣よりも勝る。自身が絶対王者であると信じて疑わないほどの、自信と威厳に満ち溢れた瞳で傷ついた賎しい生物を嘲る。そして、手に握りしめる死神の鎌に似た、死を呼び寄せる凶刃が、もはや何度目かわからないほどに覗かせた。回復料理も食いつくし、また使えるようになったミファーの祈りも発動してしまった。もう回復の手段は一切残されていない。次に大きなダメージを喰らったら、終わりだ。

「くっ……!」

 その事実を理解し、全身が粟立ったリンクは横に転がってなんとかかわす。そして必死にライネルから距離を取るべく走る。破壊され尽くした村には死体や物資などが色々転がっている。リンクは村の大通りに横たわっている死体が握り締めていた剣を取り、追撃してくるライネルへと投げつけた。ライネルはそれを避けもせず顔面で受けた。しかし、裂傷一つ負わず、足を止めること無くこちらへと迫る。

 リンクは舌打ちをしながらシーカーストーンを取り出す。武器の収納画面を表示するがそこには悲しい事実しか残されていなかった。もうほとんど武器が残っていないのである。巨岩砕きも、七宝のナイフももう壊れてしまった。残っているのは、ゾーラ族の英傑が用いていた、《光麟の槍》と、力を失った《マスターソード》のみ。リンクは《光麟の槍》を出現させ、手に握ると足に力を込めてその場に立ち止まり、ライネルに向けて突き立てた。

 だが、奴の皮膚はあまりにも頑丈であり、槍の先端が突き刺さることはなかった。せいぜいわずかに食い込む程度であり、針をちくちく刺しているのと変わりはない。

 ライネルはギロッと双眸を光らせ、必死に突いてくる下賤な存在を見下ろすと、ぶんと大剣を振り下ろした。リンクはとっさに回避し、その隙にライネルの体へと再び攻撃を開始する。しかし、全力の突きを放ったその瞬間、槍は粉々に砕け散ってしまった。

「――!!」

 キラキラと、金属の破片が輝きながら虚しく散っていく。彼女の形見に近い存在が、無残にも破壊された。リンクはその輝きの消滅を防ごうと、必死に手でつかもうとする。しかし、握りしめられたのは、ただの屑だけ。もはや跡形もなく、消えていった。

 これでもはやリンクに残されたのは、朽ちたマスターソードだけ。つまり、使える武器はもう、ない。その事実をリンクが、認めざるを得なくなったその時、ライネルの大剣が全てを吹き飛ばした。

 世界が回る。ぐるぐると回る。たまに赤い飛沫が視界を遮っていく。赤い海の中に溺れそうになるほどに、意識が正常に保てない。

 焦げた地面に叩きつけられた。固く重い衝撃と、わりと粘性のある感触が襲いかかる。息が乱暴に吐き出され、その場でえずく。そして立ち上がろうと腕に力を込めようとしたときに気づく。左肩から右脇腹にかけて、深く裂かれていることを。

 だがここで横たわっているわけにはいかない。死力を振り絞ってなんとか立ち上がり、とっさに右手で傷口を抑える。じわりと血が付着しリンクは血走った目でライネルをにらんだ。マスターソードの"声"は、まだ聞こえない。

「グルゥァ!!」

 ライネルは再び、焦げた空に剣を掲げた。そして、死神の鎌にも似たその刃はまっすぐ振り下ろされた。

 だがリンクにそれが届くことはなかった。ゴロン族の英傑の守壁が阻んだのだ。

 大きく弾かれたライネルはその場で跪く。その間にリンクはなんとか距離をとり、シーカーストーンから《リモコンバクダン》を選択し、手元に出現させる。そして、無事である右肩の力を使って放り投げ、起爆させた。青白い光がライネルを包み込み、土煙が舞う。

 だがーーライネルはその煙を突っ切って、だっと蹄を鳴らしてリンクへと迫った。

「……くそっ、やはりダメだったか!」

 リモコンバクダンはいかんせん攻撃力にかける。故に強靭なライネルには無意味に等しい。

 リンクは再びゴロン族の英傑の守壁を張って、突進を防ぐ。だんだんとヒビが割れ始めており、次の一撃で壊れることを示している。つまり、次を過ぎたら死が待っている。とにかく祈るしかないだろう。《彼女》が目を覚ますまで。

 再び膝をつき、ライネルが肩で息をし始める。リンクは《オオワシの弓》でライネルを爆撃し、少しでもダメージを与えていく。だが、左肩に深い傷をおっているため、意識が飛びそうなほど痛い。一発放つだけでも限界を迎えていた。

 必死の攻撃もむなしく成果は現れない。それどころか、相手の怒りを増長させてしまった。ライネルは憤怒の表情でリンクへと駆け寄り、剣を乱暴に横に振った。リンクは毒を付きながら瓦解寸前の守壁を張った。そして、ライネルの攻撃を受けた瞬間、それは甲高い破裂音と共に砕け散った。

 リンクは舞い散る破片を見つめ、いよいよ死を覚悟する。ライネルはまたもその場で膝をつくが、すぐに起き上がる。そして今度こそリンクを冥土に送るだろう。

 まだなのか? まだ覚醒しないのか?

 リンクは必死に《彼女》に呼び掛ける。だが、声は弱々しかった。もう猶予などはない。

 ライネルは鼻息を立てながら立ち上がり、吠えた。そして地を蹴り上げて、リンクへと疾る。そして、前足を高く上げ、剣を高く掲げた。盾でもこの威力は殺しきれない。瀕死の自分では、いかなる方法でも生き残る可能性が零だ。リンクは瞳を閉じ、死の瞬間を待つ。

 

 

 ーー……! ……!

 

 

 声が、聞こえた。

 どくんと、何かが鳴った。背に仕舞う聖剣に、命が宿った。この時を、待ち望んでいたんだ。

 気づけば、リンクの右手は導かれるように背へと回され、束を握りしめていた。傷ついた体に力が流れ込み、ぼやけていた視界がクリアになる。そのままリンクは剣を抜き払い、その勢いを殺さずにライネルの剣へと振り抜いた。

 火花が激しく散る。青く光輝く聖剣が、焦げた空気を神々しく照らす。ライネルの、困惑と怒りに満ちた表情がよく見える。

 二つの剣がぶつかり合い、ライネルがその衝撃で弾き飛ばされる。絶対王者である自分を押し返した。その事実に納得できないのか、ライネルは猛々しく吠え、大剣を大きく振り下ろした。

 リンクはじっと大剣を睨む。空気を裂き、その先にいるリンクを断つべく迫る剣のエッジを見つめる。徐々に殺気が空気を通して伝わり、それがぞわっと肌を震わせる。

 ――集中しろ。

 リンクは瞳を閉じる。見るよりも、感じる方が、分かるからだ。波が見える。殺気の、威力の波が見える。それが、最高に達した時を、狙うんだ。

 果たして――それは訪れた。

 リンクは右足を思い切り横に蹴る。直後、ライネルの振った剣で起こった風が服を揺らす。

 だが、当たらない。それはリンクが一番よく分かっていた。瞳を開け、光景を目に焼き付ける。全てがスローに見え、リンク以外のあらゆる存在が時を止めている。風も、空気も、ライネルも、全てリンクと違う次元に存在している。というよりも、リンクだけが世界の理から逸脱し始めた。

 左足から着地し、リンクは剣を腰へと引く。ライネルの剣が地面へと触れ始め、地面がゆっくりと割れていく。だが、その二倍の速度で、リンクは剣を振り、ライネルの肉体を裂いた。いくら強靭な肉体でも、聖なる光を湛えた剣の前では、簡単に皮膚を貫き、肉を断てる。鮮血がリンクの顔面へとゆっくりと飛び掛かり、視界が赤に覆われていく。

 振り切った後に剣を返して、もう一度振る。またもライネルの皮膚を裂き、ライネルの自慢の筋肉も悲鳴をあげている。

 だが、悲鳴をあげているのはリンクも同じ。活力はある。だが、体に深く刻み込まれた傷はごまかせない。ただでさえ肉体時間の加速で負担がかかっているのに、こんな傷ついた体でそんな無茶をすれば、尋常ではない痛みをこうむるのは必然だ。いつ失神しても、おかしくはないだろう。

 だが、今は耐えなくてはならない。もうこれからこんなチャンスは、訪れないのだから。唇を噛み切るほどに噛んで、意識を呼び起こしながらも追撃を入れていった。

 もう何発か入れた後、体の軋みが限界を迎えていた。とどめを刺すべきだ。そうリンクは本能で感じ、ぐっと剣を腰までひきつけた。そして健の先端を正面に向けて、勢いよく突き刺した。狙いは、ライネルにつけた、傷口だ。

「――ハァァァァァッッ!!!!」

 魂を燃やすほどに叫びながら腕を駆動させ、奴の強靭な肉体に、剣を突き入れた。その瞬間、時間は元に戻された。リンクの口から夥しいほどの血が飛び出し、一瞬脱力しかける。だが、まだその時ではない。もう少しだ。

 リンクは最後の力を振り絞り、剣を限りなく奥へと入れる。そのたびに肉が裂ける音が聞こえた。ライネルの血を揺るがすほどの叫び声など聞こえない。聞こえるのは、命が消えていく音だけ。

 果たして、ライネルはだらりと両腕を垂れ下げて身体が黒く染めあがり、その後すぐに消滅した。ライネルの体が風に消えた後でも、リンクは剣を突いたままだった。もはや、剣をしまう気力もない。

 リンクは視界が虚ろになっていく。思考が凍り付き、今はただ眠りたいという本能が支配する。そして、気が付いたら、地面へと伏していた。

 

 

 

 

 




長々と話数を使いましたが、激闘はこれで終わりです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。