異世界はシーカーストーンとともに。   作:愚の骨頂だよねぇ?

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更新大幅に遅れて申し訳ありません。
結構忙しくてハーメルンすら見てませんでした。


#17 英傑は朽ち、光を見る

「陛下、大変です!」

 

 きらびやかな照明の下、輝く衣装に身を包んだ貴族たちが談話を楽しんでいる空気の中に、切羽詰まった声が割り込んできた。参加者はみな怪訝な顔を浮かべるが、乱入してきた者たちはそれどころではない。人波をかき分けて、奥に座る王の下へと滑り込む。

 

「宴の真っ最中ですがご無礼をお許しください!! 急ぎの報告がございます!!」

 

「良い。何の報告だ?」

 

 ミスミドの国王が神妙な顔つきに変えて家来を見る。

 

「はっ! ミスミド領土にて、謎の生命体が蹂躙し、町を破壊し尽くしているそうです! 我々兵士たちも尽力いたしましたが、奴の力は底知れぬものです」

 

「なんと、宴の最中にそのような大事が……こうなれば宴を中止にし、戦闘できる者は全員対応に当たってもらう他はないだろう。我が臣下よ、すぐに支度を頼む!」

 

「御意!」

 

「私たちも今すぐ向かうわ!」

 

 酒で赤くした顔を引き締めて、すぐに獣人たちは駆け出していった。その場で同席していたエルゼ達も、それぞれの武器を取り出すべく更衣室へと急いで向かった。

 

「時にリンク殿はどちらにおるか?」

 

 国王が家来に尋ねた。

 

「リンク様とすれ違ったのですがリンク様は、恐らく先に向かわれていると思われます! 急ぎ救援に向かった方が……」

 

「うむ……リンク殿であれば救援はいらぬではあろうが、他国の者に任せるというのは王としての沽券に関わるな。では儂も向かうとしよう」

 

 そういうと、国王は立ち上がり宴会場を後にした。

 国王達が武装を済ませて問題の現場へと向かうと、そこは地獄と化していた。

 

「ひどすぎる……もうめちゃくちゃじゃない!」

 

 エルゼが叫ぶ通り、そこはもう荒れに荒れまくっていた。家屋はほとんど倒壊しており、炎は鎮まることを知らない。獣人の死骸があちこちに横たわっており、中には子供を抱いているものもあった。エルゼ達や臣下達はその惨状に打ち震えていた。そのなかで国王は、静かに口を開いた。

 

「ーー儂は愚かだ。国民がこうして苦しんでいる間にも、酒を飲んで呑気に城にいた。愚か極まりない!」

 

 国王の声は震えていた。己の責を痛いほどに感じているゆえだろう。国民を守る義務を、果たせなかったのだ。

 

「ならば、今ここで償う他はない。儂は仇敵を討ちにいく。そなた達は、愚かな儂のせいで死んだ者共を弔ってくれ」

 

「国王様! 私たちもお供をーー」

 

「いや、儂一人にいかせてくれ。儂がやらねば意味がない。それに、敵は強大だ。いったところで、生きては帰れぬやもしれない。ならば、一人でも多く生かしたいのだ」

 

 国王の悲痛に満ちた決意に部下達は一瞬言葉をつまらせる。しかし、きっと目を細めて言い返した。

 

「ですが、私達はミスミドを守る宿命があります! どうか、戦わせてください!」

 

「ならん! もう命を、若い命を落とすのはたくさんだ! 死ぬのはこの、老いぼれだけで十分だ」

 

「し、しかしーー」

 

「忠義は、受け取った。それだけで、儂は力を得た。必ず、この国に光を取り戻す。では、またな」

 

 国王はそういうと、加速魔法《アクセル》を用いて彼方へと消えてしまった。残された部下たちの声は届かず、国王は死地へと、乗り込んでいったのだった。

 

 

 

 

 

 

「ちっ……思った以上にきついな……」

 

 リンクは、汗ばむ手に握りしめられたマスターソードを構えながら呟く。リンクが目の前で相手をしているのは、ガノンの怨念と、水晶の魔物が融合した化物だ。ガノンの怨念が放つ禍々しい光の一撃と、水晶の魔物特有の固さにリンクは苦しめられている。ガノンの怨念に反応し、強化されたマスターソードですらそう簡単には破れず、剣をいたずらに摩耗させていくだけだった。

 水晶の魔物はこちらへと歩み寄ってくる。その歩み寄りはゆっくりだが、決してリンクを警戒している故ではなかった。むしろ、こちらに打つ手がないと読んで、こちらの精神をあざけるかのような動きだ。実際、決定的な有効打はない。

 ――しかし、打つ手なしといわれるほど、詰んではない。

 リンクはばっと飛びのき、剣を腰まで引く。そしてぐっと剣に力を籠め、瞳を閉じた。すると、瞳裏にぼうっと凛々しい女性の幻影が映る。そして彼女は、指を鳴らした。

 途端、轟雷がリンクの周囲に落とされ、槍のように化け物に突き刺さった。たいていの魔物を焼き尽くし、強靭な魔物でも痺れるこの雷撃を喰らえば、ひとたまりもない。

 果たして、奴は電撃を喰らったとたんその場で歩みを止めて痺れに悶えていた。チャンスと思ったリンクは、だっと駆け出して追撃を狙いに行く。ウルボザの怒りはあと2回打てる。追撃を決めて、さらに打てば勝つ見込みはある。そう踏んでリンクは剣を振り上げた。

 が、直後風を切るように水晶の足が飛び込んできた。まさか、ほとんど効いていないのか。

 リンクはとっさに剣を下ろし、無理矢理ぶつけた。軌道がそれ、擦り合ってできた火花が、粉々に舞うのを視界の隅に置きながら、リンクは水晶の魔物から距離を取る。

 あまりにも強靭すぎる。ウルボザの雷を喰らっても、すぐに体勢を回復できるタフネスは尋常ではない。こうなれば雷を超えるほどの攻撃力を生み出さなくてはならないが、どうすればいいだろうか。

 しかし――リンクの思考は、奴の攻撃によって中断された。うねる様に奴の足がリンクを突き殺そうとしている。

 

「くっ……!」

 

 駄目だ、もう避ける時間もない。盾を掲げて無理やり防ごうとする。

 だが、盾に強烈な衝撃が訪れることはなかった。

 

「ーーウォォッ!」 

 

 リンクの前をたくましい体躯と剛毛を持つ獣の王が遮って、奴の足を弾いた。どうやら得意魔法《アクセル》を用いてここまで来てくれたらしい。

 

「大丈夫か、リンク殿」

 

「国王陛下……なぜこんなところに?」

 

「国を、民を、儂の周りにあるものすべてを守るためだ」

 

 水晶でできた足を剣で受け止めながら国王は応えた。

 

「苦戦しているようだ。儂も手を貸そう」

 

「ありがとうございます! ただ奴にはとてつもなく強固な皮膚があります。並大抵の攻撃で破れません」

 

「なるほどのう……ならばーー《アクセル》!」

 

 国王が魔力を発すると、リンクの横から瞬時に消えた。風と一体化した国王の剣は真っ直ぐ水晶の魔物へと向かっていく。さながら光速の槍のようだ。果たして剣は水晶の魔物へと衝突し、破片が飛び散った。しかしその破片は、銀色に輝いていた。

 

「ーーぐっ!」

 

「国王様!」

 

 国王の剣先がリンクの足元へと飛んでくる。まさか、折れてしまうとは。国王はというと、アクセルで衝突した衝撃に耐えきれず、大きく後ろへと仰け反ってしまう。

 

「ーー信じられん。儂のアクセルをもってしても打ち破れぬとは……」

 

「奴の体の頑丈さは常識を超えています。二人同時に打って掛かっても破れるかどうか、わかりません」

 

「――だったらさ、あたし達も行けばどうにかなるんじゃないの?」

 

 ふと、後ろから女の声が聞こえた。そこには、エルゼリンゼ姉妹、八重、ユミナ王女、そしてリーンがそこにいた。王とともに避難した場所にいたはずの彼女たちがいることに王は驚愕する。

 

「おぬしら、何故……」

 

「リンクがそこに行ってるんでしょ? 仲間を助けなくてどうするの、王様」

 

「私はリンク様の将来の奥様です! 助けになりたいのです!」

 

「それにあのような化け物、放ってはおけぬ。微力ながら尽くさせていただきたいでござる」

 

「エルゼ、ユミナ、ヤエ……」

 

 リンクはこの世界で出会った仲間を見渡して瞳を閉じる。

 ――仲間、か。こんな口下手な俺でも、こんなに逞しい仲間ができるとはな。

 思えばリンクは仲間に恵まれていた。100年前も5人の頼りになる仲間がいて、そして今も仲間に囲まれている。社会の重圧によって口数を減らしてしまったはずなのに、こうして俺と共に戦ってくれる仲間ができたことに、感謝すべきだろう。

 

「――ありがとう、皆。皆の力を合わせれば、きっと奴に勝てる。一斉に攻撃をあてればきっと、奴の装甲ははが

せるだろう」

 

 そうリンクが言うと、皆は黙ってうなずいた。そして己の武器を握りしめ、奴を睨む。

 

「グラァ!」

 

 奴は再び頭上に真紅の光を集中させる。恐らく強力なビームを放つつもりだろう。リンクは仲間たちの前へと歩み、奴のビームを睨みながら盾を構える。

 

「――いいか、俺はあいつのビームを反射する。そうして奴が怯んだら――後は頼んだぜ」

 

「承知した、リンク殿。儂はもはや戦えぬが、他者にアクセルを掛ける程度ならできる。使いたいものはいつでも声をかけてくれ!!」

 

 王の指示に皆が頷くと、リンクは全神経を奴の光へと向ける。凝縮されていく光の動きがだんだんと遅くなっていく。エネルギーの密度が溜まり、最高潮に達した瞬間、禍々しい殺気を感じた。

 

 ――ここだ!

 

 果たして、ビームはリンク目がけて放たれた。それは、真紅の槍が空を引き裂くように飛び、大気を狂わせていく。だけれども、よけいな感覚は捨てる。肌を揺らす暴風も、奴の尋常ならざる殺気も、皆の不安げな表情も気にするな。ただ光の先端だけを、見ればいい。その一点が、その光の先端が、リンクを貫こうとする直前、リンクの全神経が活性化した。もう、ここしかない。そう確信したリンクは躊躇なく、盾を振った。

 

 ――ガァァン!!

 

 激しく衝突する。手首が折れそうだ。少しでも緩めたら盾など遥か彼方へ吹っ飛んでしまう。だからそれに逆らうように、重心を前へと傾けて抵抗する。この間、わずか一秒もない。

 

「――おおおおおおっ!!」

 

 刹那のつば競り合いは、リンクへと軍配が上がった。光は、リンクの盾からちょうど軌跡を逆に描いていき、真紅の槍は奴の強硬すぎる体へと突き刺さった。

 

「グルルゥァ!?」

 

 爆煙を上げて悲鳴をあげながら体勢を崩す。これだ。この一瞬を待っていた。

 

「――今だ!!」

 

 リンクが叫ぶと、仲間たちがばっと前へと躍り出た。その中でも、戦法を勤めるのはユミナ王女だ。リンクにもらった王家の弓をつがえて、矢を放つ。奴の身体へと命中した瞬間、電気が全身を包んでいく。どうやら、木の矢に魔力を仕込んでおいたようだ。彼女は確かに成長している。リンクはそっと微笑みながらも、剣を再び構え始めた。

 そして次にはリンゼが魔法を詠唱した。

 

「炎よ来たれ、紅蓮の炎槍、ファイアースピア!!」

 

 紅蓮に染まった炎の槍が空から飛来し、電気に纏われた奴の体に命中する。だが――炎が起こす煙の中から禍々しい光が見えてきた。

 

「――!? よけろ、リンゼ!!」

 

 リンクは目いっぱい叫ぶが時すでに遅し、光はリンゼへと放たれた。リンゼはというと、追加の詠唱をしてしまっている。禍々しい光がリンゼを貫こうとし、リンクは目を逸らす。

 

「――《シールド》」

 

 ふと、リンクの横からぼそりと声が聞こえる。はっと振り向くとそこには、リーンがいた。リーンは横目でリンゼを見るように言うと、リンクはリンゼへと視線を向ける。すると、リンゼの身体には傷一つついていなかった。

 ――それどころか、リンゼの視線の先にいるやつがもだえ苦しんでいた。まさか反射したのだろうか。あの威力のビームを。

 

「――予定通りね、奴に穴が開いたわ。さぁ、王様」

 

「任せるがいい。《アクセル》!!」

 

 王様は両手をかざし、魔力を思いっきり放出する。その魔力の行き先は、八重、エルゼ、そしてリンクだった。

 なるほど――これで意図が読めた。リンクが集中している間に、奴の体に穴をあけ、とどめを刺す作戦を練っていたようだ。

 ならその役割を果たさねばならない。リンクは、八重とエルゼに合図を送ると一斉に地を蹴った。

 体が軽い。まるで自分が風になってしまったかのようだ。リンクはそっと権を風の勢いに乗せ、全体重をかけて剣を突き出した。すぐさま、剣が刺さった感触がし、まったく同じタイミングで八重とエルゼの攻撃が奴を貫く。

 

「おおおおおおおおおっっ!!」

 

 まだだ、まだ深くない。もっと深く、貫くんだ。リンク達は叫びに叫ぶ。これで、終わらせるんだ――

 

「「「あああああああああああああああああっっっーーーー!!」」」

 

 剣が、刀が、拳が進んでいく。体の中央へと一撃が突き刺さり、だんだんと、赤い光が漏れだし始めている。それは奴の血か、命の源かわからない。でも、終わりはもう近いだろう。

 

 果たして――光は爆散した。それとともにリンク達は吹き飛ばされ、地面へと投げ出される。数度転がって起き上がってみると、奴の身体から夥しい体液が噴き出しているのが見えた。

 

「血が噴き出ている……」

 

「どうやら、決したようじゃな」

 

 怨念で汚された血が地面を濡らし続ける。そのたびに奴は力ない悲鳴をあげ続けている。リンクのマスターソードの強化反応も消えたので、もう奴は死んだも同然だろう。

 やがて水晶の器から奴の体液がすべて放出されると、破片と化した。それを見て各々が武器を収めて、背を向けた。

 

「終わりましたね。リンクさん」

 

 リンゼがやややつれた表情で声をかけた。

 

「ああ、終わったな。はっきり言って今回ばかりは無理だと思っていた」

 

 そうリンクが頭をかいていると、

 

「リンク様、私の弓は如何でしたか?」

 

「ああ、流石だったよ。おかげで奴の動きを止められた。ありがとう」

 

「あ、いえ! 未来の妻として当然のことをしたまでですので……」

 

「だから君との結婚は――」

 

 できないと、リンクが答えようと口を開くと――

 

 何故か血が出てきた。

 

 

「り、リンク様!!」

 

「リンク!!」

 

「え――」

 

 皆が悲壮的な叫びをあげて初めて何かが身体を貫いている事に気づいた。剣だ。だけど――いったい誰が?

 リンクは振り向く。そこには、男がいた。リンクと身長があまり変わらない。けれど――厄災が浮かべるにふさわしい笑みが、リンクの全身を粟立たせ、全てを理解した。

 

「――!?」

 

 ガノン。

 その言葉を叫ぼうとした瞬間、剣は体から引き抜かれ、鮮血が地面へと散る。呆気なく膝から崩れ落ち、リンクは地面で激しく暴れる熱に悶え始めた。

 

「ククク……まさか再び言語を話せる日が来るとはな……。異世界というものは、よいものだ……」

 

「き、さま――」

 

 本来、厄災ガノンは長年怨念により汚されて言語をしゃべることができないと聞いていた。そもそも、大きさも尋常なものでもないし、剣を使うことも聞いていない。故に、何かが起こって、ガノンが変化したと捉えるしかない。

 ――いや、もはやわかっている。水晶の生き物の影響だ。奴は知性があると、リーンが言っていた。先ほど厄災ガノンと水晶の生き物が融合したせいで、そういった変化が生じたのだろう。

 だがなぜ、生きている。先ほど命を絶ったはずなのに。

 リンクは必死にガノンを見上げて睨む。だが、奴はそれすらも愉快に受け止め、分厚いブーツで踏みつけてきた。

 

「がぁっ……!!」

 

「クックック……ようやくハイラルを手にすることができる。1万と100年経った末に、我が悲願を達成することができる……」

 

「ちょっとアンタ!! リンクから離れなさいよ!!」

 

 エルゼがそういうと、ガノンに殴りかかった。しかしすぐにエルゼの痛々しい悲鳴が聞こえてきた。王様や他の仲間もみな奴に立ち向かうが、全員が叫び声をあげてそのまま黙ってしまった。

 

「やめろ……目的は俺のはずだ……やるなら俺をやれ……!」

 

 そういいつつも、ミファーの祈りの発動を待つ。だが、ミファーの祈りはリンクの命がほぼ完全に失われた時に発動する。腹を貫かれた程度では、発動しないのだ。だから、ここはいっそ倒された方がいい。

 

「――貴様の考えは読めているぞ」

 

 そうぼそりと言われ、リンクの思考は凍り付きかける。

 

「どうせ貴様は、加護を待っているのだろう? 我がかつて殺めた、ゾーラ族の女の力を」

 

「貴様……!!」

 

「だが――復活したところで戦う力が無ければ、意味が無いだろう?」

 

 ガノンは歪んだ笑みを浮かべて、リンクの脇腹を蹴り飛ばす。意識が飛びそうな痛みに視界が白くなり、火花が散る。そして、リンクの背から重たいものが消えていた。それが意味することは、リンクの闘う手段が奪われたということだ。

 

「か、かえせ……!!」

 

「返してやろう。この剣を二分した後でな!」

 

 そういうと、ガノンは手に尋常でない魔力を込め、地面に置かれた退魔の剣へと振りかぶる。

 

「やめろ……っ!」

 

 リンクが掠れ声で制すが、ガノンはニタリと歪んだ笑みを浮かべ、一気に拳を振り下ろした。

 

 

 

 

 その時――光が見えた気がした。

 

 

 

 温かい光だ。しかも、どこか懐かしい。ずっと探し求めていた、姿。

 絶望で凍った精神が暖められていくような感覚。一筋の光が、沈み切った意識を明るく照らしてくれた。

 ガノンの漆黒に染まる拳が、黄金に光る。ガノンは惹かれるように――いや、恐れる様に光を凝視する。

 

 

 

 鮮血が飛び散る。

 リンクからではない。リンクの目前には、ガノンの腕だったものが転がっていた。

 虚ろな目で俺は光を見上げる。

 そこには、仙女がいた。白い衣を身を纏い、全身から光が溢れでている。

 そして絹のように美しい手には、輝く弓が握られていた。

 仙女はこちらを見る。慈愛に満ちた笑顔を向ける。

 

「ーーッ」

 

 双眸から、熱いものが流れ落ちるのを感じた。

 ああ、この笑顔はもう手に入らないと思っていたのに。 

 責務に押し潰され、苦悩する彼女の姿などもう微塵もない。今の彼女は、女神だ。世界を光で満たしてくれる聖者。

 彼女は、リンクへと歩み寄る。リンクの眼前で転がる奴の腕に握られているのは、魔を討つ聖剣。彼女はそれを拾い上げ、光を点す。刃こぼれは戻り、輝きは猛っている。

 彼女は剣を持ち、リンクの目の前で立ち止まった。そして――神々しい手を、こちらに伸ばす。

 

「姫……」

 

 掠れた声で彼女を呼ぶ。穢れたこの身で触れるのは許されない。でも、それでもリンクは彼女を呼ばずにはいられなかった。

 彼女は一瞬、口元を複雑にゆがめ、顔を上げる。だが、すぐに天使のような笑みを浮かべて、口を開いた。

 

 

「漸く会えました。私の、息吹の勇者様」

 

 

 

 最上の言葉だ。天国で奏でられる音楽そのものだ。

 もう二度と、この音楽を聞き逃さない。絶対に守り通す。

 

「さぁ、立ってリンク」

 

――ああ。立つとも。何度だって。

 リンクは立ち上がる。不思議と、痛くない。全身が暖かい光で覆われているから、というわけでもない。きっと、これは奇跡だ。

 リンクは彼女を見つめる。抱きしめたくなるくらいに愛おしい。こんな小さな体で、100年も戦ってきたかと思うと、狂いそうだ。

 でも、それはまた後にしよう。いまは、護らなくてはいけない。

 

「……もう、離さない。貴女を、ずっと守り続けます」

 

 リンクは彼女の持つ退魔の剣を手に取る。そして頭を下げ、背後で呻く奴に切っ先を向けた。

 

 

 

 




ゼルダを復活させたかったんです……!
ここは本当に気合を入れて書きました。

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