異世界はシーカーストーンとともに。 作:愚の骨頂だよねぇ?
この世界で初めての戦闘を終えたリンクは、例の男に角を渡し、渋々と金貨を渡された後、エルゼ達と宿屋へと向かった。名前を「銀月」というらしく、ふさわしいかどうかはわからないが、豪華でも質素でもないたたずまいをしている。扉を開けるとそこには、受付にいる若い女性が出迎えてくれた。
「いらっしゃーい。お食事ですか、それとも宿泊ですか?」
「とりあえず食事にしようかしら。3人ね」
「かしこまりました。こっちです!」
女性はリンク達を席へと案内し、ごゆっくりと言って去っていった。女性二人と対になる形でリンクも座り、一息ついた。女性二人は水を一口含むと、リンクを見据えた。
「ねえリンク、本当にさっき魔法を使わなかったのよね?」
「使ってない。言っただろうけど俺はそもそも魔法の使い方も知らないんだ」
よほどリンクの身体能力が常人離れしすぎたようで、二人の疑いの目は一向に変わらない。ここに来る道中にも同じ質問をされ、もはや何回目かわからなくなってきた。
「そういう二人は魔法を使うのかい?」
「ええ。リンゼは主に火と水と光の魔法を使うの。私は身体強化の魔法を使ってるわ」
「なるほど……あの時やけに強い力だったのはそういうことか」
リンクは彼女たちとの出会いを思い出す。とっさに割って入って盾を取り出し防いだ時に感じた衝撃は並のものではなかった。あれは彼女の筋力によるものではなく、魔力によって強化されていたのか。リンクも時たま食べ物によって力を強化するときもあるが、あれほどまでの上昇量は見込めないだろう。
「まあね。といってもさすがにあんな動きはできないけど。というかブーストしたパンチをあっさり受け止められるのは初めてだったわ」
「それは盾のおかげだろうな。普通の盾だったら壊れていただろう」
「背中にしまってあるものですね。すごくかっこいいです」
「俺の故郷にある伝統的な盾でさ、昔国を救った勇者が代々使ってきたものらしい」
「そんな代物を使うなんてね……とんでもなく大物なんじゃないの?」
実際只者じゃないのは確かではある。だがリンクはそれには何も答えなかった。
「あと少し聞きたいことがあるんだ。リンゼに」
「え、わ、私ですか?」
「ああ。君の方が魔法には詳しそうだ。単刀直入に効きたいんだけど、転移魔法みたいなものはあるか?」
「て、転移魔法ですか? ゲートというものがありますよ」
リンクは眉をあげ、思わずほうと呟く。転移魔法があるとは。異世界に来て初日目で大きな収穫だ。
「そ、それはどうやってつかうんだ?」
「えっと、使うにはまず無属性魔法の適性がないとだめなんです」
「適性か……どうやって図ればいいんだろう」
「一応ここに魔法石があります。これに触って、魔法を唱え、発動ができれば適性を持っているということになります」
「なるほどな。ゲートと叫べばいいんだな? ……よし」
リンクは息を深く吸って、吐く。もしこれに成功すれば、恐らくハイラルに戻ることが叶う。リンゼから魔法石を受け取って、強く握りしめる。
「……ゲート!!」
リンクは大きく叫んだ。全ての力を振り絞り、託す。すると、手の内から微かに熱を感じた。何かと思い、リンクは魔法石を見つめる――
「あっ……!!」
エルゼが突然声を上げ、立ち上がる。そして、恐る恐る空間に指をさし始めた。その先にあるのは、小さな、小さな穴だった。渦のような模様をした輪郭がぐるぐると周囲を回り、その内側には、青く濁った水面のようなものが小さく見えた。
「こ、これってもしかしてゲートじゃない?」
「そ、そうだよね……? リンクさん、すごいです!」
「……これが」
リンクは穴を覗きみる。すると――夕日に照らされた大地が見えた。草木は風で激しく揺らされ、魔物たちがワイワイと集落で踊りに興じている。そして、奥には怨念で汚された、ハイラル城が在った。
「――ッ」
リンクはぐっとこぶしを握り締める。今すぐにでも、城へと向かいたい。だが、穴はあまりに小さすぎる。赤ん坊の拳がやっと入れる程度のものであり、成人したリンクには到底不可能だ。それに、なんだろうか。全身から力が抜け始めている。
せめてと思い、リンクは指をいれてみる。ハイラルに少しでも触れたい。無駄だとわかっていても、リンクの指は動いていく。
が、ゲートによって一時的に穿たれた穴に指が入り込んだ途端、ビリっと鋭い痛みが指先に走った。電気を浴びせられたような、熱くて尖った痛み。思わずリンクは指を引っ込め、握りしめていた魔法石を落としてしまう。途端に穴は閉じていき、黄昏の世界は消えていく。あの世界では死者と化したリンクは、ハイラルに拒まれたのだ。
リンクは落としてしまった魔法石を拾って、リンゼに返す。ハイラルの大地は、この世界から消滅した。
「……ありがとう。でも、これじゃあ意味はないな」
リンクは項垂れた。待ち望んでいたものが現れ、しかしまた遠くへと離れていった。そんな気分だ。手に掴めると思ったのに、掴めなかった。
リンゼはそんなにリンクを見て、不思議に思う。本来なら適性がある時点で喜ぶものだ。だが、残念がるどころか、悲しそうに項垂れるとは。何か、深い理由があるのだろうか。
「そんなことないですよ。適性はあります。あとはリンクさんの魔力の問題です」
リンゼはフォローを入れるが、リンクは頬をわずかにあげるだけにとどめた。
あれは魔力の問題だろうか。別の世界の場所への移動が、禁じられているということではないのだろうか。リンクを殺した神が元の世界への蘇生を不可能としているのだから、たかが一介の人間の使う魔法程度で可能になるわけがない。
しかし、リンクはとてつもない脱力感を感じている。ということは、わずかながらにあるリンクの魔力を激しく消費した、ということになるのでは、ないだろうか。もしかしたら、魔力をかなりあげていければ、いずれはきっとーー
「なぁ、魔力をあげるにはどうしたらいいんだ?」
「……基本魔力というのは生まれ持った時点で固定ですが、何らかの効果などで上昇することはあります。たとえば、魔力を持った生物を摂取するとかそういった事をすれば変わると思います。ただそういう生物は基本、危険生物として認定されており、簡単にはいきません」
「一応ギルドの方にもそんな生物の討伐以来は出てるけど……ここらじゃ誰も受けないわね」
「そうか。何かもっと簡単に魔力補給ができる依頼とかはないのか?」
「そればっかりはギルドに行かないとわからないわね。それよりも、どうしてそんなに魔力にこだわるのよ?」
「お、お姉ちゃん……!」
リンクにはきっと深い何かがあると察した妹は姉を制止する。が、リンクはいいんだというようにリンゼに頭を振る。
「……話せば長くなるが、とりあえず国に俺は帰らなくちゃいけないんだ。おれには、果たさなければならない使命があって、それをやり遂げなくてはならないんだ」
「そうなんだ……だからゲートを」
「そういうことだ」
そういうとリンクはそっと息を吐いて、リンゼに向き直る。
「とりあえずギルドに行けばわかるんだよな?」
「はい。ギルドに行けばきっと何か依頼がありますよ」
「わかった。」
「ちょうどいいわ、私たちももういい加減にギルドに入ろうと思ってたしね。行ってみましょう」
「そうだねお姉ちゃん……もうあんな目に遭いたくないからね」
リンゼはほっとしたような表情を浮かべている。どうやら姉のエルゼの方がずっと反対していたのだろう。
「じゃあとりあえずギルドに行きましょうか」
ブレワイのリンクは本来なら魔力は持ちませんが、退魔の剣を扱いこなせるのはただの筋肉ではなく、選ばれた存在なので多少なりとも魔力はあるはずと独自解釈をしました。ただ無論量は微弱です。さすがに時の勇者ほどじゃないです。