異世界はシーカーストーンとともに。 作:愚の骨頂だよねぇ?
銀月を出た三人は、街の中央にあるギルドへと向かった。そこには人が多く群がっており、大体の人間が武装をしていた。
「ここがギルドか……ずいぶん大きいな」
「当然よ。ギルドはこの街で一番大きな職場だからね」
「職場か……ここで依頼を受けて、モンスターを倒しにいったりするのか」
「とりあえずいきましょう、リンクさん」
リンゼが促してギルドへと入る。中は飲食店になっており、がやがやとざわついている。ただ、騒がしい酒屋という感じではなく、むしろハイラル中にあった馬宿のような雰囲気で落ち着けそうだ。
ギルドで依頼を受けるにはまず、ギルドの登録を済ませなければならないとリンゼから伝えられ、まずは受付へと向かう。受付嬢が愛想よく出迎えると早速3人分会員登録を始めた。尚、名前の登録には自筆が必要だったようだが、異世界から来たリンクには字がかけない。仕方がないのでリンゼに代筆をたのみ、それでなんとか登録できた。受付嬢は手慣れた手つきで、台紙三枚を用意し、手のひらを翳して何らかの魔法をかけると三人に手渡した
「お待たせいたしました。こちらがギルドカードとなります。こちらは他人が触れると自動的に消える魔法が付与されておりますので、譲与ができない仕様となります」
「わかりました」
「ありがとうございます。それではギルドに関して説明させていただきます。ギルド会員にはそれぞれランクが設定されており、自身のランクを超える依頼は受けることができません。また、依頼達成に失敗した際は、ペナルティが発生するので、受諾する際にはご注意ください」
「わかったわ。依頼はあそこのボードから選べばいいのね?」
エルゼが受け付け横にある大きな木製の板を指差すと、受付嬢ははいと頷く。
「あちらにて受けたい依頼を選び、こちらに持っていただければ受諾できます」
「わかりました。色々ありがとうございます」
姉妹が礼をいうや、すぐに依頼を確認する。そして唸りながら手頃な依頼を探している。
「……なぁ。魔力が手に入りそうな魔物はいるか?」
文字が読めないリンクは彼女たちに尋ねる。すると彼女たちは左右に頭を振る。
「ないわね。というかあるけど、上級ランクのモンスターよ。私たちじゃ受けることができないわ」
「そうか……じゃあまずはランクをあげなくてはな。何でもいいから手頃なものを選んでくれ」
「そっ。じゃあこれにしようかしら」
そういって選んだ依頼はというと、荷物の宅配だ。報酬も銀貨10枚と、こちらの世界の価値としても悪くないそうだ。ただ、モノがとても壊れやすいのと、王都という場所にいかなければいけないそうだ。
正直リンクとしては面倒な依頼である。魔物を討伐する方が手っ取り早くて助かるからだ。しかし、リンクは満足に文字が読めず、依頼を選定することができない。故に、彼女たちと文字が読める間だけでも行動するしかない。たとえ面倒な依頼を受諾しても、ついていく以外に選択肢はないのだ。
「……まあとりあえず馬車で5日程度はかかるでしょうね。でも銅貨2枚程度で一泊できるしほとんど利益になるから結構いい案件ね」
「でも……壊したら不味いよお姉ちゃん。賠償金金貨一枚だって……」
「なるほど……それならいい案がある。こいつにしまえばいい」
そういうとリンクはシーカーストーンを取り出した。シーカーストーンが発光するや否や、リンクが背負う盾が一瞬にして、青い光の筋へと変化し、吸い込まれていった。
「うそっ!?」
「便利ですね! これなら依頼の品も壊さずに運べます!」
リンクの持つシーカーストーンの機能のひとつに収納がある。剣や弓、服、食べ物、薬、素材など、リンクの持つありとあらゆるものを粒子に変えて収納し、一切変わらない状態で保存ができるという優れものであり、望んだときに一瞬で収納物を取り出すことができる。しかもシーカーストーンはよほどのことがあってもなくても、絶対に壊れない。これ以上に最強のポケットアイテムは、存在しないだろう。
「ああ、これなら賠償金の心配はまずない。それはいいんだが……馬車で行くのか?」
「ええ、そのつもりだけど?」
「馬車だと時間がかかりすぎる。普通に馬を借りて乗って行ってもいいだろう?」
「確かにそれもありね。あんたが馬乗れないかと勝手に思ってたわ」
「馬の扱いにはなれているよ。じゃあ依頼を受けにいこう」
リンゼが依頼の用紙を引きちぎり、受付嬢に提出すると、礼の荷物がカウンターに出された。それをリンクがシーカーストーンで収納しーー受付嬢は度肝を抜いたような目で見てきたがーーギルドを後にした。
その後リンク達は馬宿へと訪れた。ここで馬を借りることができ、数々の冒険者たちが遠出のために馬を連れて行っている。取りあえず3頭借りようと思い、店主のおじさんに声をかけた。だが――
「……馬が二匹しかいないの?」
「ああ……さっき行った冒険者たちが5頭借りたんでな、それで足りなくなっちまったんだよ……悪いな、人数分用意できなくて。馬車なら用意できるんだが……」
申し訳なさそうに謝る店主の言葉に何も言えず姉妹は見つめ合う。
「取りあえず、馬車を使うしかないわよね」
「そうだね……リンクさん、馬車でも大丈夫ですか?」
リンゼは、リンクに対しそう提案する。
だがリンクはリンゼにではなく、店主の方を向き、口を開いた。
「その馬は、どれくらい速いんだ?」
「へ?」
リンク以外の三人が目を丸くする。頭数の話をしているのに、なぜ馬の速さを聞くのだろうか。だが、接客業たるもの、客の質問には答えなければならない。困惑をどうにか隠しつつ、店主は答える。
「え、ええとまあそこらの馬よりかは速いとは思う。さすがに一番じゃないけど……」
「そうか……まあ、こればっかりは試してみないとわからないか。店主さん、その二頭借りていいかな。馬車はいらない」
「えっ!?」
またもや三人は目を丸くした。
「ど、どういうこと!?」
「ば、馬車もいらないって! まさか二人乗りでもする気か!? 悪いけどウチの馬は二人乗りは厳しいぞ?」
「いや、ちゃんと俺にも移動手段はあるよ」
そういうとリンクは腰から再び、シーカーストーンを取り出した。エルゼとリンゼははっと息を呑み、またリンクが何かやるといったような視線を送る。リンクの指が動き、操作が終了した途端、突如リンクの目の前で、青い光が降り始めた。それは糸のように揺らめきながら、何かの形を作っていく。やがてそれは厚みを増していき、神々しく光ると同時に、青白い眉がはじけ飛んだ。
「こ、これは……!?」
リンゼが口を抑えながら見つめたものは、乗り物だった。しかし馬よりずっと小さく、小柄である。何とも形容しがたい、独特な模様をしていて、リンゼやエルゼにはこれが何なのか想像もつかなかった。大きな輪が前後に付着しており、前方には長い取っ手があり、左右に伸びている。中央は腰を掛けるためであろうか僅かにくぼんでいる。きっと馬のように跨ったりするものなのだろう。
「リンク……これはなに?」
「これは、《マスターバイク零式》。俺の国で古くから伝わる技術で作られた乗り物だ。エネルギーが必要になるし長い距離だから、あまり使いたくはなかったけどな」
「……なんだかよくわからねぇけど、兄ちゃんはそれに乗っていくんだな?」
「ああ。だから彼女たちの馬の分だけ頼む」
そういうと店主は解ったと応じ、二頭の馬を連れてきた。エルゼとリンゼはやや困惑しながらもお金を支払って、馬にまたがり、馬宿を出た。リンクもまたマスターバイクに跨り、エンジンを吹かしていく。地面を鈍く揺らすような轟音に二人は驚き、馬はひひーんと高く鳴いた。
「ちょ、すっごくうるさくて馬がびびりまくってるわよ!」
「それはわるかったな……だがこればっかりはどうにもできないんだ」
「……とりあえず行こう、お姉ちゃん、リンクさん」
リンゼは優しく鞭を叩きつけ、馬に前を向かせ地を思い切り蹴らせた。エルゼもそれに倣って駆け、リンクはアクセルを踏んだ。
馬と奇妙な乗り物が去り、馬宿は静かになった。店主はしばらく彼らの後姿を眺めた後、なにも見なかったかのように中へと戻り、タバコを吸い始めた。
一行が、最初の町を出て数時間が過ぎた。日はすっかり落ちていき、月が少しだけ覗かせている。馬と、マスターバイクは休むことなく動き続け、だんだんと暗くなる道を駆け続ける。
だが、エルゼの一言で歩みは止まった。
「ねぇ、今晩はもう遅いし、馬も疲れているから休憩しましょう?」
リンクはブレーキを踏んで停止させる。リンゼもそれに倣い馬を静止させる。
「賛成だ。今晩は野宿にしよう」
そういうとリンクはマスターバイクを光の粒子に変えて、シーカーストーンにしまった。二人も馬を近くの木にくくりつけ、休ませる。その間にもリンクはシーカーストーンから火打石と薪を出現させ、すぐに焚火を作った。
「本当に何でもありね、それ」
焚火の周りに腰かけたエルゼが若干呆れ気味に言う。
「リンクさんのその……シーカーストーンでしたっけ、本当にすごいですね」
「ああ、こいつはなかなかの優れモノだと思うよ。二人とも何か食べるか? 一応肉と魚はあるけど」
リンクはシーカーストーンから、ハイラルバスとトリ肉を取り出した。
「じゃあ私は肉にしようかしら」
「私は魚でお願いします」
「分かった」
リンクは焚火の中にハイラルバスとトリ肉、そしてケモノ肉を放り込む。
「あんた、野宿にはなれてるわね」
「ああ。それなりに冒険してきたからな」
リンクは一瞬、彼女たちから視線を離し、夜空に浮かぶ星を眺めた。異世界の空を見るのは、未だ慣れないというか、新鮮味がある。そしてその度に、ハイラルの大地が脳から離れてくれなくなる。
「ねぇ、リンク。あんたそのシーカーストーン、どこで手に入れたの?」
「どこと言われてもな……遠い遠い俺の国さ。しかもこれは世界で一つしかないらしい」
あながち間違いではない。シーカーストーンは古代シーカー族が作り出した英知のたまものであり、退魔の剣に選ばれた勇者が持つべきとされている。
「そっかー、アタシもそれほしかったなー」
「悪いな。ほら、そろそろ焼けたぞ」
そういうとリンクは焼け切ったハイラルバスとトリ肉、ケモノ肉を取り出した。そして二人に分け与えて、ただきますと合掌して頬張った。
「うん、美味しいわね! 野宿で食べるものにしてはいい感じよ!」
「美味しいです!」
「そっか、それはよかった」
そういいながらリンクも一気に焼きケモノ肉を口に頬張ってあっという間に胃に落とし込んでしまった。その間一分もない。二人は一瞬リンクの動きに手を止めたが、見なかったことにしようとしたのか、そのまま触れずにもぐもぐと食事を続けた。
二人の食事が終わると、またもやリンクの身の上話になった。リンクの素性に関してはあまり話さなかったが、好きなもの、戦い方などといった身近な話は大きく盛り上がった。特上ロース岩を食べた時の話をした時はさすがにドン引きされてしまったが。
段々と皆が眠くなり、そろそろ寝ることになった。エルゼとリンゼたちはすぐに地面に横になり、リンクも彼女たちから少し離れたところで座り、夜空を眺める。
(そういえば、異世界に来て初めての夜なのか)
そう考えると、こうして異世界の人間と行動し、この世界になじめるようになったことはある意味すごいかもしれない。
だが、そんな自分に焦燥感も覚えている。こうしている間にも、ゼルダは限界を迎えかけているかもしれない。そう思うだけで、じっとしていられなくなる。
「……ゼルダ姫。必ずお救いします。もう少しだけ、辛抱を」
美しい碧眼を揺らしながら小さく、しかし確かに呟いた。そしてそのまま瞳を閉じ、眠りについた。
よく考えたらマスターバイクってpvに出ていたしネタバレでもないか。