異世界はシーカーストーンとともに。 作:愚の骨頂だよねぇ?
「本当に助かりました。何とお礼を申し上げたらよいか……」
「気にしないでくれ。当然のことをしたまでだ。一応血も元に戻っているはずだが、万が一もある。あまり無理はしないでほしい」
九死に一生を得た老人はリンクに深く頭を下げ、その後、少女の横に戻った。少女は両腰に腕を当てて胸を張りながらリンクに笑った。
「感謝するぞ! お主は爺の、いや爺だけではない、わらわの命の恩人じゃ!」
「あ、ああ……当然のことをしただけだ」
さっきまで悪魔だの厄災だの言ってたのにこの態度の変容ぶりはすごいものだがリンクは何も表情に出さず、そっと笑った。この辺りは幼い故なのだろう。いや、それだけでもないような気がするが。
「申し遅れました。私、オルトリンデ公爵家家令を勤めております、レイムと申します。そしてこちらのお方が公爵家令嬢、スゥシィ・エルネア・オルトリンデ様でございます」
「スゥシィ・エルネア・オルトリンデだ! よろしく頼む!」
公爵だと? たしかに執事の服装が妙に規律正しかったり、少女がやけに尊大な態度をとるのには違和感があったが、こんな森にいるとは思わなかった。それに先程、ぶっきらぼうに返事をしてしまった。無礼極まりない行為だ。
「公爵家の令嬢とは知らず、無礼な口の利き方をいたしました。御赦しください」
リンクは左ひざを付き、謝罪の言葉を放つ。急にリンクが畏まるものだから、エルゼやリンゼ、八重たちも慌てて跪く。
「そ、そこまで畏まらなくてよい。公の場でもあるまいし、敬語も使わんでよい。さっきも言ったとおり、そなたたちはわらわの命の恩人じゃ、頭をあげてくれぬか?」
そうは言うもののリンクは抵抗があった。リンクは100年前、王家に仕え続けていた。目上の者を立て、よけいな私情は挟まない。目上の者の言うことに対して一切異議を申し立てず、ただその者を護り続ける。それが自分の仕事だった。
故に、目上の者と対等な立場に立つという行為にはリンクには理解しがたく、同時に為しがたいことでもあった。
が、突如リンクの肩が持ち上がるような感覚がした。
「――え?」
「ほら、公爵陛下のお嬢様が言うんだから、頭上げなさいよ?」
リンクを持ち上げているのは、エルゼだった。にっと笑いながらリンクを無理矢理立たせている。
「し、しかし……」
「こういうのは素直に聞いた方がいいわよ。それに相手は子供、変に畏まられる方が困るわよ?」
そういうものなのだろうか。リンクにはいまいちよくわからなかった。
「ねぇ、貴方の事スゥって呼んでいいかしら?」
「お、おい……!」
馴れ馴れしすぎるだろいくらなんでも! とリンクが怒鳴ろうとしたが、エルゼに口をふさがれてしまった。何とか彼女の手をはがそうとするも、無駄に鍛えてあるせいか外せない。
――いいから黙って見てなさい。
そう耳元でささやかれ、リンクは動きを止める。
スゥはというと、満面の笑みを浮かべてコクコクと頷いた。
「よい! そなたたちは遠慮などいらんぞ」
「――だそうよ、リンク。もう畏まらなくてもいいわよ」
そういうと、エルゼはリンクを離し、その後軽くリンクの背中を押す。彼女との距離が近くなり、どうしたらよいかわからず目をそらしてぼそぼそという。
「――スゥ様……」
「スゥでよいといっておるだろうが。おぬしの名はなんじゃ?」
「リンクともうし――」
「敬語もいらん!」
ばっと大声で遮られ、リンクは気圧される。もはや観念するしかあるまい。
「リンク。俺の名はリンクだ。よろしくな、スゥ」
半ばやけくそとなったリンクはそれだけ言い切って一気に息を吐き出した。スゥはというと、にこやかによろしくと言った。リンクがこうまでして、ため口を拒んだ理由など、知る由もないだろう。
リンクが逃げるように下がった後、リンゼやエルゼ、八重も自己紹介を行った。その後、リンゼがこれからどうするか尋ねた。
「そのことなのでございますが……」
家令であるレイムがちらりと戦場跡を見つめる。
「我々はこの戦いで護衛を半数近く失っております。先ほどと同じ襲撃があった場合、対応ができるとは言い切れません。それで、お願いがあるのです。どうか私たちを王都まで護衛してくださりませんでしょうか。それ相応の報酬は保証いたします」
なるほど、護衛か。まあそうなるだろうとは予想していたのでリンクは特に驚きもしなかった。皆がどうするかと思い、3人の仲間を見る。
「いいんじゃない? 目的地は同じだし」
「このまま放っておくわけにもいかないですものね」
「拙者はのせて頂いている身でござるので、任せるでござるよ」
リンクはうなずいて彼女たちの意志を確認した後、ちらっと気に縛り付けられている魔術師を見た。もうすっかり意識をなくし、脱力している。
「分かりました。護衛の任、引き受けさせていただきます。ただし一つ条件を」
「条件、ですか?」
「ええ。そこに縛り付けている男の尋問を、俺にやらせてください」
「尋問を……? それはなぜ?」
「聞きたいことがあるからです」
なぜ尋問の権利を条件にするのか、レイムは疑問の表情を隠せなかった。しかし、リンクにとっては、何が何でも手に入れたい権利である。
あの黒いローブの男は、ボコブリンを召喚していた。ボコブリンはハイラルの地に生息する生き物であり、本来異世界であるこの場所には現れないはずである。それを召喚し、出現させた。ということは、この男は異世界同士をつなぐ《方法》を知っているかもしれない。
「尋問を……わ、わかりました。では申し訳ありませんが護衛、よろしくお願いいたします」
新たにスゥたちや、黒いローブの男を馬車に乗せた一行は王都までの道を進む。その道中で、エルゼ達はリンクにとある疑問をぶつけた。
「そういえばリンク、あれは何?」
「あれって?」
「雷ですよ! リンクさん、雷を落としてあの怪物を一気に倒したじゃないですか!」
ああ、あの時に放った《ウルボザの怒り》か。あれは、なんと説明すべきなんだろうか。魔法でも、リンクの持つ技でもない。
「あれは魔法なのでござるか?」
「――いや、魔法じゃない。あれは……俺の同胞が使っていた技だよ」
「あんな広範囲で強力な雷を使える同胞がいるなんて……あんた本当に一体何者よ?」
「あれほどの攻撃力を持った落雷を放てる魔法術師はそうそういません」
それはそうだろう。あんな芸当ができるのはゲルドの戦士、ウルボザだけだ。
「――それにリンク殿。レイム殿を治したあの術もまたリンク殿の同胞の使うものでござるか?」
恐らく《ミファーの祈り》の事だろう。リンクはああと頷いた。
「あんな回復魔法があったら、無敵じゃない。死んでもすぐ復活できるなんて……」
「そうとも限らない。この魔法……いや技は一度使ったらすぐには再発動できないんだ。その間に死んでしまったら、もう復活はできない。雷の奴も、3回までしか使えないんだ」
「3回も使えれば十分だと思いますけど……」
エルゼが困惑した表情で呟き、ほかの二人もうんうんと頷く。
三人の視線から逃れるようにリンクは遠方を眺めようとする。すると、後方で走る馬車からスゥの叫ぶ声が聞こえた。
「おお! 見えてきたぞ! 王都じゃ!」
それにつられて4人もスゥの向く方向を見る。すると、白いお城と高い城壁が見えた。どうやらあれが王都のようだ。
馬車はそのまま王都まで進むと、警備兵から止まるように指示される。王都に入るための検問のようだ。レイムが馬車から降り、何かのあかしを見せるや、すぐに警備兵がびしっと敬礼をし、馬車二台を通した。その後商店街を抜け、王都の中央部にある橋を渡っていく。
「この先が、貴族たちの居住区じゃ」
スゥが嬉しそうに叫び、馬車はゆっくりと貴族エリアを通っていく。しばらくすると馬車は止まり、スゥの馬車の扉が開いた。どうやら、スゥの家についたようである。
馬車の荷台から、スゥの家を眺める。とにかくデカい。ハイラルのハテノ村にあるリンクの家の10倍はデカい。まあ貴族の家などそんなものではあるが、滅びかけているハイラルの地の記憶の方が強い分、どうしてもインパクトが強い。
スゥが駆けだすように家の扉を開け、リンク達はレイムに促されて家の中へと入る。
すると、ずらっと玄関に20人入るであろう女給が並んでいた。そして一斉にスゥたちにお帰りなさいませと言う。そしてその奥には、高貴そうな服をまとった、貫禄のありそうな男性がいた。恐らくあの方が公爵であろう。
「父上!」
「スゥ!」
スゥは公爵に向かってばっと駆けだし、公爵は抱き留め、掲げた。涙ながらに甘えるスゥにチチはうれしそうな表情を浮かべた。
「よかった……スゥが生きていてよかった……」
「早馬にわらわは大丈夫であると告げたではないですか」
「手紙が着いたときは生きた心地がしなかったよ……何はともあれよかった」
公爵は割とガタイがよく、戦えそうだが、その反面顔は柔和で、一人の父親としての側面も際立っている。
公爵はスゥを下ろし、こちらを振り向いた。
「そなたたちがスゥを助けてくれた冒険者たちか。本当にありがとう。礼を言わねばならないな」
そういうと公爵はこちらに頭を下げてきた。リンクはその行為に酷く驚愕し膝をつきながら口をまくしたてた。
「公爵陛下、頭をお上げください。本来なら頭を下げるのは我々でございます」
「そうか……君は礼儀正しいのだな」
どうもこの世界の偉いお方は上下関係もそこまで重視しないようだ。リンクは少しやりづらく感じてきた。
「すでにスゥやレイムから聞いているだろうが、自己紹介をさせて頂こう。私がアルフレッド・エルネス・オルトリンデだ」
「リンクと申します。右からリンゼ、エルゼ、八重でございます」
「そうか……少し話を聞きたい。バルコニーに案内するので来てはもらえないか。そこでもてなしたい」
「公爵陛下。その前に一つよろしいでしょうか?」
リンクは目を細め、真剣なまなざしをする。
「なんだ。スゥの命の恩人だ、可能な限り聞こう」
「もてなしていただけることには感謝いたします。ですがその前に、どうか私めに、貴殿の御令嬢を襲撃した輩の尋問をさせていただいてはくれませんでしょうか?」
「尋問? 連れてきているのか? それなら我々が――」
「いえ、俺にやらせてください」
リンクは僅かに語気を強め、敵意を与えないギリギリの目線を送る。公爵は困ったような顔をするが、コクリと頭を縦に降った。
「……わかった。ただ尋問は王都の牢で行ってくれ。レイム、案内を頼む」
「畏まりました」
「聞き入れて頂き、感謝いたします」
リンクは頭を下げ、レイムとともに屋敷の外に出た。ドアが閉まるや、八重が首をかしげた。
「リンク殿はどうして自分が尋問することにこだわるのでござるか?」
「アイツきっとそういう趣味なのかもよ? 無駄に道具持っているし」
「り、リンクさんに限ってそんなことないですよ!」
「そういう趣味ってどういう趣味なのじゃ……?」
スゥがいけない質問をしたところで公爵は強引に彼女たちをバルコニーへと移動させた。
庶民たちが暮らす街の片隅に建つ牢屋にたどり着いたリンクは、看守に事情を伝え、尋問室へと男を連れていく。尋問室は魔法を封じる術式がかけられており、男は召喚魔法を使うことが不可能だ。リンクは尋問室についた後、男を縛り付け、ビンタして起こし目覚めさせる。んあっと間抜けな声を出しながら目覚めた術師はリンクを見た途端、逃げようとするが、鎖につながれでいるため身動きは取れなかった。
「私を尋問しようというのか……?」
「ああ、お前に聞きたいことがあるからな」
「……言っておくが、私は口を割らんぞ。何があってもな?」
「――そうか。なら……」
リンクは表情を変えず、シーカーストーンを操作して、右手に《オオワシの弓》を呼び出した。そして背に出現させた矢筒から《バクダン矢》を一本取りだした。矢をつがえ、矢の先端がチリチリと音を立て始めと、そのままぐっと弓を引いて、離した。
瞬間、矢の軌道が三方向に別れ、男へと迫った。男は逃げようとあがくが、鎖で縛られており逃げようがない。バクダン矢はそのまま尋問室の壁へと突き刺さるや、すさまじい爆音を立てて破裂した。
「ひっ!」
命中はしなかった。いや、リンクがさせなかった。直撃させてしまえば死んでしまう恐れがあり、外せば命に支障はないからだ。それに……こういう尋問の場合は、殺意よりも、恐怖を与えることの方が大事なのをリンクは知っていた。
爆発によって生じた煙で男は覆いつくされ、咳き込むが、リンクは弓を構えるのを止めない。煙が薄れ、視界がある程度回復した後、男は再び恐怖を見た。男が目を見開き、上擦った悲鳴をあげると同時に、再びリンクは矢を放ち、爆発させた。
直接当たらないが、チリチリと彼の体は熱に晒され、思わず耳を塞ぎたくなるような爆音を至近距離から浴びせられる。それが与える効果を男は理解し、体が自然に怯え始める。
それでもリンクは射撃を止めなかった。オオワシの弓はかつて空を飛ぶことのできる翼を持つリト族の英傑が愛用していたものであり、速射性能が高い。故にこうして連続で放てる。バクダン矢を間髪入れずに打ち込むことも可能であり、もし直撃させていたら男はとっくにあの世行きだろう。
ドゴーン、ドゴーンドゴーン!
絶え間なく轟音が尋問室に響き渡り、火薬の臭いで満たされ始める。そろそろ違う矢に切り替えてみようか。そう思いリンクは電気の矢を取り出そうとしたそのとき、男から降参の声が叫ばれた。
「わ、わかった! なんでも話す! だからもうやめてくれぇっ!」
「……そうか。言っておくが、嘘をついて免れようとしたら、どうなるかわかっているだろうな?」
リンクは男の顔面にぐっと弓を引いて脅すと男はこくこくと勢いよく頭を降った。
「じゃあまず一つ目だ。誰に頼まれた?」
「わ、わからない……」
リンクは背にあるマスターソードを男の腕に突き立てようとする。
「ほ、ほんとうなんだ! よくわからない男が、標的を指定してきて金だけ渡して帰っていったんだよ! 依頼主の名前なんて聞いてないし教えてくれなかったんだ!」
男は唾を飛ばし必死に訴える。リンクはじっと男の目を見つめる。あれは偽りをいうような目じゃない。どうやらこういった尋問を想定して、依頼主の名前は言わなかったようだ。
ーーまあいい。本当に知りたかったことはそれではない。
「……これで終わりか? できれば解放してもらえるとーー」
「質問は終わってない。お前、たしか召喚魔法を使っていたよな?」
「え……? あ、ああ使っていたよ。それが何か?」
「あの魔物を、どうやって召喚したんだ?」
「……どうやって? ただ普通に召喚魔法を唱えたまでだ」
なんだと? 異世界から呼び出したわけでもないのか? それとも召喚魔法というのは異世界から魔物を呼び出すものなのか?
「……召喚魔法は専門外だから聞くが、異界のモノや伝説上の生き物などを召喚ができる、ということなのか?」
「そうではない。召喚魔法は異界のものを召喚はできない。この世界に蔓延る魔物をこちらに呼び寄せているだけにすぎない。もっとも術師の魔力や、魔物の要求する条件によるがな」
……つまりあのボコブリンは異界から召喚したわけではない、ということか。ということは、もうすでに奴等はこの世界にいる、ということか。だとしたらどうやって奴等はこの世界に来ることができた? この世界とハイラルを結ぶ手段はあったのかーー
「ーーーー!!」
あった。一つだけ存在した。ゲートだ。リンクがハイラルに帰るべく2回ほど発動した、異空間転移魔法で、ハイラルとこの世界を結んでしまった。
だがしかし、ゲートを発動してすぐに閉じてしまった。故に入り込む隙などなかったはずだ。一体何がどうなっているのか、さっぱりわからなくなりリンクは尋問室で頭を抱える。
「……質問はもういいかな? そろそろ私を解放してはもらえないだろうか?」
「……ああ、解放する。看守さん」
リンクは外で待つ看守に声をかけた。看守が扉を開け、男へと歩み寄り、そして手首をつかんだ。
「公爵陛下からの言伝てだ。お前は牢で拘束させてもらうぞ」
「……なんだと!? 解放するとーー」
「解放はする。この場所からはな。第一公爵陛下の娘を襲った時点で重罪だ。死刑にならないだけでもありがたく思った方がいい」
リンクはそう言い放ち、オオワシの弓をしまうと尋問室を後にした。そして外で待つレイムと共に屋敷へと戻った。
やっぱり厄災になってしまうな……