利根川の支流の片品川に河童の女親分が住んでいるらしい。
そいつが気に入らんことがあれば暴れる。
田畑は荒らすは、人を水に引き込むわ、大変らしい。
そういうことで鎮圧してほしいという依頼を聞いた。
俺がかつていた時代にもわずかながら河童はいた。
あいつらIフォンをバラして作り直してたぞ。光学迷彩ももってたしな。
こちらの時代でもあいつらの技術狂ぶりは健在らしい。
ありえないレベルの土木工事や面白おかしい工芸をしていると聞いた。
「というわけでぜひともあいつらは手勢に入れたい」
虎熊は困ったような笑顔で頬をかく。
「あー、困ったねえ。あたしら基本的に殺し専門だものねー
あんたの銃は手加減できないし」
「そこで策を使う。要はあいつらがここからいなくなればいい。
で、俺はあいつらがほしい。俺の国に連れて帰れば何も問題はない。
友好的にこちらの国に来てくれるように頼み込もう」
実は俺は小さいながらも領土をもらっているのだ。
当然大和の属国というか、一地方という扱いだが。
「あーでも素直に言って聞くようなやつらかねえ?
あたしらが乗り込んで倒したほうが早いんじゃない?」
「あいつら八千はいるらしいぞ。こちらは300。かなり苦戦するだろうな。
一度事を起こせば友好というのは難しいしな。
まずは交渉から入る」
「うそはつかないんだろ?どうやって」
「言う必要のないことを言わないだけだ」
「この悪党ー」
虎熊が笑顔で俺のの頬をつつく。
「ああ、そうだが?」
交渉はとりあえずそのへんの河童を捕まえて
「大和の神が河童の女大将、八千坊禰々子(はっせんぼうねねこ)に贈り物をしたい」
という体で会談の場を取り付けることに成功した。
出会う場所は森の川辺。
鬼たちはあわただしく設営を開始した。
あっというまに敷物がしかれ、酒やつまみが用意された。
「大和の神が何の用?宗教はお断りだよ」
禰々子は不機嫌そうに頬杖をつき胡坐をかいて座っている。
編み笠のような帽子に青いつなぎ、リュックのような背中にかけるかばんを背負っている。
「あんたに協力してほしいことがある。これは贈り物だ、まあ見てくれ」
俺が用意した贈り物は無線機3つに時計、懐中電灯、鉈にさまざまな食料だ。きゅうりももちろんある。
「見るだけだよ。まだもらうって言ってないからね」
俺は合図して鬼たちに贈り物を広げさせる。
さまざまな品の中で禰々子が最初に見たのは鉈だ。
「ふうん、あんたのところの鍛冶屋はまあまあいい仕事をするね」
「お褒めに預かり光栄だ」
「これは?」
「それは懐中電灯といってな、そこをまわしてそれからその出っ張ったところを押すと光る」
「こう?おお光った。どうなってんのこれ」
「それはなフレミングの左手の法則といってな、銅線と磁石があればできる……」
そんな感じで俺の贈り物に解説をするという形で会話は成り立っていった。
禰々子は贈り物に対して興味を示したようだ。
それなりに会話は盛り上がった。
「いやーすごいね!人間なんて技術の低い連中ばかりだと思ってたよ。
以外に考えてるんだなあ」
「そこが問題でな……俺の持っている道具をここまで理解できたのはあんたが最初だ」
俺は深刻そうに切り出した。あたかも親しい友に語るように。
「なんで?複製できるんでしょ?」
「いや、俺の能力が「複製する程度の能力」だからだ。
これではいつまでたっても国が発展しない」
「ああーそれはだめだね」
「想像してみてくれ。この電灯がひとつの部屋にひとつあって、夜を明るく照らす様を。
無線がひとつの家にひとつあっていつでも遠くの家と会話できる様を。
俺が作りたいのはそういう国だ。
だが今の有様では……八千坊禰々子、あんたらの力が必要だ。
今すぐとは言わん。数人でもいい。国に来てあんたの力を貸してほしい」
禰々子はうーむと悩み、答えた。
「いいよ。百人ばかりよさそうなのを送るよ。ちょうど人口が増えすぎてたしね。
あんたとは友人になれそうだ」
「しばらく俺たちはこのあたりにいる。仲良くしよう。
ただしひとつだけ条件がある」
「え、友人になるのに条件なんてあるの」
禰々子の顔が曇る。
「いやそういうわけじゃない。忠告といってもいい。
俺たちザミエル教徒は人間の味方だ。
田畑を荒らしたり、人を殺したりすればそれを止める義務がある。
争いごとになりそうだったら俺たちに言ってくれ。
出きり限り公平な立場で間を取り持つ」
「うーんまあ殺しはねえ……」
「これは忠告だ。友人としてのできる限りの忠告だ。
大和の神があんたらがあまりにも暴れていると狙っている。
それで派遣されたのが俺だ。
ここでしばらくおとなしくしているならなんとか間を取り持てるかもしれん」
「うーん、ならもういいよ。あたしらは片品川からでてくよ。
そんであんたの国に行くってのはどうかな。かくまわせてよ」
「それは大歓迎だ。ぜひとも来てほしい」
俺は悪い笑顔をしていただろう。
それから国に帰った俺たちは八千の河童と共にさまざまな実験をしつつ技術を発展させていった。
電球作りはそれほど難しいものではない。
あれはビンに入ったシャープペンの芯に電気を流しても発光するのだから。
さらにはエジソンが作った最初の電球は竹炭をフィラメントに使っていた。
電池にいたってはもっと簡単だ。
みかんやレモンといった電解質で酸性の強い果物に亜鉛と銅の金属片を突き刺せばいい。
みかん電池で竹炭電球が発光したときは皆で歓声をあげた。
やがて内部を真空にして半年はもつものを作り上げたとき歓喜は商売気に変わっていた。
財布に入っていた硬貨も非常に便利だった。
なにしろ純度の高いアルミと銅の合金が得られたのだから。
コードを作ったりモーターもどきや発電コイルもどきを作るのには適していた。
八千の河童たちが家庭内手工業で電球と電池を作り、人間たちに売り込む。
この手法で人間と河童の距離はぐっと縮まった。
町はたちまち明るくなった。
ついでにいえばこのときに禰々子たちに教えた簡単な科学がどんどんと発展していった。
俺はこの一連の流れの中で職業学校を作ることとなった。
「学校」という概念を教え、時間割を作り、学校という一連のしきたりを教えた。
文字を教え、科学を教え、四則演算を教えた。
俺の国の学力は飛躍的にあがりつつある。
導火線の作り方や爆弾の作り方にはかなり手間取った。
結局和紙に俺の持っていたマッチを粉末化させた奴を塗りこんでその上から麻紐でよじって作ることとした。
ライターはジッポーライターや100円ライターを使い、普及させている。
燃料はいまだに俺頼りだが、大和の国では刺激を受けて油作りが盛んになってきているらしい。
爆薬は手榴弾を模して陶器製の小型の壷に鉄片を入れることで威力の問題を解決した。
この作業を行った結果、数人の鬼や河童たちが爆弾マニアと化した。
「あの爆発こそ神の力、主のご威光、美の発現」
らしい。
なんとも頼もしい限りだ。
後日、俺は神奈子さらなる取引をした。
俺が持っていた鉈を溶かしてステンレス製の農具や武器を作っていった。
このときには火炎系の能力を持っている奴と鍛冶の技術を持っている奴が実に役に立った。
さらに電球式の行灯を1万個ほど技術者つきで大和に送った。
俺が生み出したものは包丁、スコップ、クワ、鎌、斧、熊手に千歯扱き。
さらには鉄条網や針金、槍や戟、バルディッシュやククリナイフなどさまざまに渡った。
他にも方位磁石のコピーと作り方も書き留めておいた。
そして俺よる大量生産。
2個が4個に、4個が8個に。
一本の名品があっというまに100はある量産品に変わっていく。
作り方を教え河童や鬼にもがんばってもらった。
鬼たちの装備はスコップと弓矢、鉄製の武器と統一した。
黒い獣皮の服だけではなく、フードつきの黒ローブも制式装備とした。
暗殺者風でかっこいいだろう?
俺も愛用している。ローブの中に弾薬を納められるしな。
「というわけで作った。収めてくれ」
神奈子は苦々しい顔でそれを見る。
「で、今度は何が望みだい」
「俺の妻を神としてほしい。それだけだ」
俺一人だけ老いないというのも困るしな。
「それはあたし一人じゃなんともいえないね。
まあ、上奏しておくさ」
それからしばらくして、上から降りてきた辞令は俺の妻を神とする代わりに再び戦場に戻ることだった。