そんなことを続けているうちに俺はどこかの仏の化身だと思われるようになった。
俺は適当に阿修羅の化身、銃神ザミエルだとでもいっておいた。
そうして、俺の元にはそれなりに僧侶が集まったので一席ぶって日本への渡航を促した。
俺は僧侶たちを連れて帰還した。
その年、神無月。出雲では神在月。
出雲の神同士の会合で俺は賭けに出た。
「皆様方、聞いてほしい。これからの時代には仏教を取り入れることが必要不可欠だと思う」
「ふむ、確かに渡来民たちの間には流行っているね。だがそこまで気にかける存在かな?
違う宗教は排除すべきだと私は思う」
思慮深く柔和な声で答えるのはオオクニヌシ。
「残念ながら周囲の国では仏教が流行っていて、国の中枢にいるのは渡来民が多い。
周辺諸国との関係を考えればいずれは放って置いても仏教は来るだろう」
「ならば迎え撃てばいいまでのこと!戦神ともあろうものが何を臆したか!」
荒々しく断言するのはスサノオ。
「だが仏教はきわめて論理的で神道に足りない部分をことごとく説明している。
論理的整合性、つまりは理屈の言い合い、信者を獲得するための言葉ではあちらに軍配が上がる」
「だけど君は最初からたくさんの理屈を用いて信者を獲得したよね?
なら君が言葉を尽くして語れば理屈では勝てるんじゃないかな?」
オオクニヌシが穏やかに、だが鋭く切り返す。
「それをやると神道がまるで別物になるだろう。ザミエル教になってしまってもいいのか貴方達は」
「そこまで違うのかい?」
食いついてきた。俺は杯を干し語りだす。
「仏教とは……」
俺は語った、仏教とはどういうものか。
その世界観を、その理念を。
一時間ほどたっただろうか。オオクニヌシとスサノオはほうと息を吐いた。
「なるほど、興味深い考え方だね。それで、世界は実際にそうなっているのかい?」
オオクニヌシは理論を味わうかのように深く頷いた。
「まさか。象の上に世界があるなんてのはでたらめだ。だが、精神論の部分ではかなり深いところをついている」
スサノオは苦虫を噛み潰したような顔でうなる。
「なるほど、バカにしたものではないな。だが所詮弱者の理屈よ」
「だが信者のほとんどは弱者だ。あんたはこの世になぜ苦が満ちているか説明できたか?
世界はどのようになっているか、死んだらどうなるか。嘘でもいいから説明できたのか?」
うぐ、とスサノオが答えにつまり、つまみの干し肉を馬鹿食いする。
「否、と答えよう。だが所詮は理屈よ。世界はあるようにあるのだ。
なぜ、などと考えても詮無いことだ」
「だが、人間たちにとっては魅力的な理屈であるのはわかっただろう?」
「まあ、な」
スサノオはゴリゴリと干し肉を噛みながら頷いた。
俺のプレゼンテーションはそこそこにいい線を行ったらしい。
「ならば我らはただ仏教が栄えるのを見ているだけしかないというのか!
違うだろう。あちらが武を持って来るのであれば武を持って、理を持って来るのであれば理で。
戦いぬくべきだ!その結果、神道が元と違ってしまってもかまわん、やれ」
「そうだね、仏教に優れている部分があるのはわかった。
でもだからといって戦わない理由にはならない」
「だが周辺諸国は仏教を奉じている。しかしその国に本来あった神々もまた奉じられている。
どちらもいっしょに奉じられるものなんだよ。排斥するより取り込んだほうが利が大きい。
ただ仏教を守護する護法善神といえばいいだけだ。味方であるならば敵ではない。単純な理屈だ」
「どこの馬の骨とも知れん連中を守れるか!
やつらはわれらと違う。それだけで戦う理由になる」
「君らしくないんじゃないかな?戦う前から負けた後のことを考えるなんて」
「逆だ逆。あちらさんはどこまでも入ってくる。ならば勝ち馬に乗っておいたほうがいい。
これから先、神々も仏教を許すか、あくまで排斥するかで争うことになるだろう。
だがあちらさんのほうが理があって数も多い、利益と不利益で言えば許すほうが利益が大きい。
どちらが勝つかは明白だ」
「ぬうう……ならば表に出よ!その不抜けた心、たたきなおしてやろう!」
俺は切り札を切った。
「あいつらはこれを持っている。それでもか」
黒くて四角い拳銃型の武器。
「月の民の武器……なぜ、お前がそれを持っている!」
「重力子放射線射出装置。通称、インドラの矢。
月の民と古き神々が戦ったときには普通に使われていた武器だ。
劣化版の宝塔なんてのも配下の子鼠が持ってたよ。
あいつらは月の民と同等の力を持っている。あんたらじゃ勝てない」
「なるほど、今は一部の天津神しかもっていないそれを君が持っているとなると話が違ってくる。
そうか、彼らはまだ持ってたのか。神の火を」
「納得がいかぬ!!ならばわしを倒してみよ!その仏法の力とやらでな!」
「バイシャジャ・グル、アフラ・マズダ、アンラ・マンユ、ヴィシュヌ、インドラ。
あんたも知っている名じゃないのか?牛頭天王、ゴーマ・グリーヴァヤ・デーヴァラージャ」
「義理父上、それは?」
「なぜお前がその名を知っている、そうか、あいつらか。
あいつらがお前に教えたのか」
「ついでに言うと仏教はゴータマ・シッダールダの起こした宗教だ」
スサノオはふっと笑うとやがてふははははと大きく笑い出した。
「そうか、思い出した!思い出したぞ!そうか、わしは分霊であったな!
そうか……うむ、シッダールダ……いたな、そんな奴も。
なぜ忘れていたのか。そうか、聞き覚えがあると思えばあいつの教えか。
ふむ、仏教。そんな名になったか。まあいい、好きに流行らせろ。
あいつの考えなんだろう?」
「そうだ。300年経ってかなり違ってしまったが、間違いなくシッダールダの教えを受け継いでいる」
「義理父上殿!?あなたの過去の話なのですか?
狭見江竜神……いったいどんな如何様を使ったかわかりませんが、仕方ありません。
義理父上が認めたとなっては仕方ない。ただし、われわれはあくまで仏教を保護する神々であって、仏教に従う神々ではない」
「何、単純なことさ。はるかな昔、月の民と戦う前には仏教の起こった地、ガンジス川の16国に古い神々はいたということだ。
スサノオ様は旅をしていたからな。その時にあちら側に行っていてもおかしくない。
名が違うだけでこちらの神々もあちらにいたということさ」
「はるかな昔、ですか……なぜあなたがそれを知っているのです?」
「まあ、あいつらに教わったのと、あとは秘密だ。俺は過去と未来をある程度知っているからな」
「あなたにはそんな力もあったのですか。油断ができませんね」
かくしてあちらにいたことのあるスサノオ、アマテラス、ツクヨミ、秋姉妹が仏教を許容する詔を出した。
そのほかにも天狗連中は真っ先に賛成を示した。
なにしろあいつらもともと仏教者だし。