かぐや姫
町はもう木造建築というだけでもはや現代と変わらん。
いまだにラジオばっかりでテレビがないがね。
鉄道には蒸気機関が走っているし。河童の連中もよくやるよ。
イメージとしては明治時代風か?
「ですからなにとぞザミエル様のお力を拝借いたしたく……」
で、目の前にいる男だ。
「蓬莱の玉の枝、だったか?あるわけないだろうそんなもの。
あと首にタマもない。ああ、火鼠の皮衣なら普通に売ってるだろう?
つまりそういうことだ。あんたはフラれたんだよ」
藤原不比等だったか。いい年こいて若い女に言い寄るなよ。
年を考えろ年を。
「おおう……かぐや姫はあの右大臣めを慕っているということなのですか……
そんな、私はどうすれば」
「あんた娘もいる年だろう、それにそもそもが帝まで出てきているんだ。
無理な話だったんだよ最初っから」
ふむ、かぐや姫だったか。あれは最初から誰にも嫁ぐ気はなかったらしいな。
そうだとすれば、今頃あせっている頃合だろう。
まてよ、大事な何かがあったはずだ。
あの話の落ちは……そうだ、不死の薬だ。
それはとても欲しい。
「だがまあ……偽者なら作ってやれんこともない。
どの程度のものかによるけどな。根が銀、茎が金、実が真珠の木の枝だったか?
それだけなら別にいくらでも作れる。
だが、新しい種の生命を作れとなるとこの期間では不可能だな。
どうする?」
「そ、それでもかまいませぬ。ぜひ作ってくだされ」
「それで、お前は代償に何をくれるんだ?」
「わずかばかりですが、私の財産を……」
「カネか。あいにくと懐は潤ってるからな。
そうだな、そんな難題を出す女に興味がわいた。
俺も会わせてくれ」
「そ、それは……」
「ああ、心配するな、妻は一人で十分だ。かぐや姫をどうこうする気はない」
「まことでございますか」
「俺の名に誓って本当だ。ザミエルの名を出して誓ったことを破ればどうなるか知ってるな?
それでお前は俺の名に誓って代償を出せるのか」
俺の戒律の中には俺の名を出して誓ったことは破ってはならない、破った場合死の制裁が加えられるというのがある。
イスラームにならったわかりやすい権威付けと倫理向上手段だ。
「か、必ずや」
「いいだろう、用意するよ」
ありがたやありがたやと藤原不比等はつぶやきながら帰った。
俺はその日のうちに金塊と銀塊を増やして河童のところに持っていった。
マヨネーズの作り方とマヨネーズから真珠を作る方法も教えておいた。
いい商売の種になると河童はよろこんでいたので、マヨネーズの製法を報酬として相殺させた。
その日の夜。
俺が一人でぶらりと歩いていると複数の刀や銃を持った男たちが俺を取り囲んだ。
「狭見江竜神とお見受けする」
「そうだが?それでどうする。俺を殺れると思っているのか若造」
「その首の弾頂戴いたす!かかれ!」
男たちが銃を構える前に俺は音速で移動しその衝撃波で男たちを昏倒させた。
「それで?これで終わりか、根性見せろよ、人間。
神も悪魔も打ち倒せるのはお前たちだけなんだからな」
「う、ぐう……あきらめませぬ、あきらめませぬぞ……」
その中の一人が俺の脚にしがみついて首に下げている弾丸に手を伸ばそうとする。
そのとき俺にひとつのアイデアが思い浮かんだ。
「やるじゃないか人間。それでこそだ人間。
なるほど、お前は大納言大伴御行か。いいだろう、その根性に答えてくれてやるよ」
俺は首に下げた弾丸についている紐を千切り、大納言大伴御行に弾丸をくれてやった。
ついでに怪我をさせた供の者を直しておいた。
「た、たえがたき感謝……」
それから俺は数日のうちに「(そのへんに行き倒れてたホトケの)御石の鉢」と「(フリークス種の)子安貝」を手に入れて石作皇子と中納言石上麻呂に与えてやった。
もちろん、藤原不比等にもちゃんと蓬莱の玉の枝を与えた。
そうして、5人に言い含めて同じ日に求婚するように言った。
そしてその日。俺は適当に上空に隠れてその様子を見ていた。
最初に言い寄ったのは石作皇子。
「ホトケの御石の鉢をこれに、狭見江竜神からさずかったものでございます」
「仏は仏でもそのへんで死んでたホトケの鉢じゃない!
こんなのなし、なしだわ」
右大臣阿倍御主人は火鼠の皮衣。
「まちがいなく姫のおっしゃっていたものをもってきましたぞ!」
防火布は火にあぶってもまったくといっていいほど燃えなかった。
「でもこれは火鼠のものではないのでしょう?偽者だわ」
大納言大伴御行。
「狭見江竜神と戦って手に入れたかの神の首の弾にございます」
「珠は珠でも弾じゃない!なんか思ってたのと違う」
中納言石上麻呂。
「ツバメの子安貝にございます」
「これも狭見江竜神からさずかったものなのでしょう?
ちょっと模様がめずらしい子安貝じゃない。ツバメが産んだものじゃないわ」
そして、藤原不比等。
「蓬莱の珠の枝を手に入れてきました」
「ふうん…よくできているけど、偽者ね」
「そも、私がこんなものを手に入れて欲しいと言ったそのわけをよくよく考えればわかっていただけるはず。
私は皆様が恥をかかぬように難題を申して断ったのです。
私は誰にも嫁ぐ気はありません」
そのとき男たちに不穏な空気が走った。
「ならば、いっそ手に入らぬならばここで思いを遂げてしまおうか」
「そうだ、そうだ、それがいい。われらに恥をかかせた報いだ」
5人の男たちがかぐや姫を取り囲んだ。
おっとこいつはいけない。
俺は適当に外れそうな場所に弾丸を撃ち込んだ。
轟音がこだまし、おお、と人々は恐れ天を仰ぎ見る。
「一人前の男ならばそうはしないな。男たるもの余裕を持って事に当たるべきだ」
俺は5人の真ん中に忽然と姿を現し優雅に酒を干した。
優雅に見えるがその実、高速移動と瞬時の体裁きによるものだ。
「あなたが狭見江竜神……」
かぐや姫がつぶやいた。
「我ここに在り、よかろう地獄の門にかけて。明日は彼か、お前かだ。ってな。
お呼びに預かったザミエルだ。よくもまあ、俺の用意した宝にいろいろとケチをつけてくれたな?」
俺はにやりと笑い、かぐや姫と対峙した。