しばらくして、傷がだいたい治った諏訪子は岩に腰掛けて俺と話すこととなった。
「それで洗濯屋。お前は本当に迷い込んだ旅人で大和の奴らとは関係ないんだね?」
「ああ、風のうわさに知ってた程度だ。あんたの国と戦争するんだろ?
協力するよ。まあ職業柄、荒事には慣れていてな」
「タダじゃないんだろ?」
「とりあえず宿と飯を食わせてくれればそれでいい。
あとはあんたには二つの選択肢がある。
俺を留めておいてがっつりとこの国のあり方に口出しされる道。
もうひとつは俺を放って置いて次の旅に出す道」
諏訪子は顎に指を当ててしばらく考えると言った。
「うーむー、2番目に言ったほうがいいかなあ?
一応ここは私の国なんだし。
事が終わったら出て行くなら私は止めないよ」
俺はただ頷く。正直生贄なんぞやってる国、長居はしたくない。
長居するなら俺が住みやすい国にがっつりと改造させてもらうつもりだったし。
「そうさせてもらう。とりあえずは客人という立場でいい」
「わかった、あんたは客人神(まれびと)だ。とりあえずは家の巫女のところで泊まっていってよ」
「神だって?俺が?」
「人が神を打ち倒したらまずいだろ……そういうことにしておいて」
未来じゃあ、まさに人が神を殺したようなもんだがね。
「まあ、そうだろうなこの時代じゃ。じゃあ遠慮なく休ませてもらう」
その後、俺は巫女に困惑と不審の目で見られながら藁葺きの木造家屋にとまることとなった。
飯は……うん、味がしなかった雑穀粥。
この時代じゃあ精一杯のもてなしだろう。
外じゃあ諏訪子が民衆に俺の紹介をしている。
「大和の神との戦を聞きつけて客人神が訪れた!
名前は……ええと、狭見江竜神だ!火を噴く筒で我らの敵を打ち倒してくれる!」
歓声。
一応俺の出ておくか。
「お呼びにあずかったサミエリュウジだ。一夜の宿を借りた恩義によってこの戦に助太刀する。
ことが終わったら俺は出て行く、心配するな。
それまでの短い間だがよろしく頼む」
民衆は不安そうに顔を見合わせていたが、一応歓声は上げてくれた。
この時代じゃ拍手(はくしゅ)なんて拍手(かしわで)くらいでこういう場の習慣としてはないらしい。
それから数日、俺は狩猟の腕前を見せたり、能力の検証を行ったりしてすごした。
最初は俺の実力を疑問視していた連中も2km先の猪を一撃で倒したところを見れば納得した。
能力の検証はこんな感じだった。
「諏訪子、戦の支度で忙しいだろうが、少しつきあってくれ。
あんたの神力を増やせるかもしれない」
「本当に忙しいんだけどね。誰かさんが胸に大穴あけてくれたせいで回復にも時間取らなきゃいけないし」
「その回復なんだが、力の多さだけならできるかもしれないぞ」
「まあ、やってみてよ。私は何をすればいい?」
「手に神力を集めてくれ。少しでいい、おそらく倍になるから」
床に臥せって回復していた諏訪子が手を億劫そうに上げると掌にまがまがしい闇が集まって玉の形をとる。
祟り神だから、その神力の性質もそういうものなのだろう。
俺は掌にある闇を右手でそっと包むとつぶやく。
「複製」
手を広げると闇の塊は二つに増えていた。
「たしかに倍になったね」
「さらに増やしてみる。大丈夫か?」
「このくらいならどうということはないよ」
俺は二つになった闇の塊を握り、さらに増やす。
「複製」
闇の塊は4つに増えた。
「もらうよ」
「そうしてくれ」
闇の塊が諏訪子の手の中に吸い込まれていく。
わずかだが諏訪子の力が回復したことになったはずだ。
「よし……この調子ならもうちょっと大きい力を注ぎ込んでも大丈夫そうだね」
「ああ、頼む」
こんな調子で諏訪子の力が元通りになり、さらには倍くらいになるのに子一時間ほど。
「はは…ははははは!すばらしい!すばらしいぞお前の力は!
もうすっかり元通り、いや前より私は強くなった。
こりゃいい拾い物をしたね。あんたにもお礼に少し力をわけてあげる」
「人間の俺がそんな力をもらって大丈夫なのか?」
「大丈夫、お前はすでに神だ。神として紹介され、その力を認められた。
ごくわずかではあるけど、お前にはもう神としての力があるはずさ」
「そういうものか、では頼む」
「はい受け取って」
俺の手を諏訪子が取ると、あの闇の塊が俺の中に入ってきた。
「うおおっ」
体の中で力が暴れる。
「だましたのか!?」
「落ち着きなよ。力がなじむまでちょっと暴れるだけだって。
一日あれば落ち着くんじゃないかなー」
「こりゃとんでもない祝福だな」
「めったに人間が受け取れるものじゃないよーありがたがって欲しいな」
「ありがたいことにはかわりないがな……こりゃきつい」
それから俺は一晩ほどいろいろあって納まった。
さすがミャグジの力だといっておこう。