「あなた、未来人か異世界人でしょう」
俺が用意したアジトに落ち着いた八意から出たのは意外な言葉だった。
「なぜそう思う?」
「これを聞いて」
八意の用意した細長い板のようなものから音声が流れてきた。
『こちらはボールダー・フリーゾーン公共放送。いよう、みんな元気かい?
牛は追ってるか?銃の手入れは?ならずものはいないか?
大丈夫な奴も、そうじゃない奴もひと時、手を止めて聞いてくれ。
「what a wonderful wold」』
これはネイティブアメリカンの言葉
<魔都ロンドンよりこんばんわ。いい夜だ!合成血液なんか開けるには最高だな。
あの今夜はヴラド公からの新作がリリースされた。
「imagine」まったく、世界が安らげるのはいつの夜だろうな?>
これはトランシルヴァニア語
《元気でやってるか野郎共!大ハーン帝国から今夜も最高の楽曲を提供するぜ》
これはモンゴル語
「ラジオ。あなたたちは皆そう呼んでいるわね。
これは月面から観測されたあなたたちの放送。
どうやらお互いの存在を知らないようだけど、いずれ気づくわ。
同じところから来た何かだって。わかる?海を隔てた大陸でも同じような文明が作られているの」
「……」
ぞっとする話だった。俺と同じような連中が複数いてそれぞれ別の文化圏で同じような文明を作り出している。
「あなたたちは妖怪の存在を恐れない。それどころか積極的に利用している……
端的に聞くわ。あなたたち、何?」
その表情は現実の底にある狂気と深遠を見るようなものだった。
おそろしいものを見る表情。
多分俺も同じような顔をしているだろう。
「あんたの考えていることでだいたいあってるだろう。
俺たちは多分未来人か、この世界と似たような世界で未来の時間軸から来た異世界人だ。
正直なところ俺にもわからん。俺はまったくの偶然でこの世界に来たと思っていたが、どうやらそうじゃないようだな」
「そう、あなたたちにもわかっていないみたいね。でも、これは事実。
あなたたちは何かの理由で集められた。そしてこの文明を作ることを約束されていた」
「そうだろうな。誰かが何かの理由で俺のような奴らを選んでこの世界に送り込んだ。
だが真実俺は何も知らん」
「それで、あなたはどうするの?」
ひどく遠いところにいる者に言うかのように八意はたずねた。
「どうもしないさ。これまでのようにやっていく。
だが、俺のような奴らが同じような事をしている。そしてこの地上ではおそらく俺とあんただけが知っている。
これはこれで利用すべき有利だと思うがね」
「そうね、あなたたちはそういう考え方をするでしょうね」
「だが、これが誰かのお膳立てだというならその手のひらから抜け出す一つの方法がある。
それはあんただ。月人の文明を取り入れれば、俺たちの世界のようにはならないだろう
手を貸してくれるか?」
「ええ、私も座して死を待つ気はないわ。不死だけど。
この「企て」は何か不気味だもの。なんとかコントロールできるならそれにこしたことはないわ」
「じゃあ、あんたは月人の技術を売り渡してくれ。技術だけじゃない。
なんでもいい。文化、文明、アイデアだけでもかわまん。
とりあえず最初の三年は月に10個は出してもらう。
それ以降は好きなときに好きなだけ出してくれ。
それだけで俺たちは恒久的にあんたらに年金を支払おう」
「それでかまわないわ。ただし一つだけ。私の存在を秘匿して。
表舞台に出るのはあなたがやりなさい。私たちは静かな生活が望みなの。
政争も戦争もごめんだわ」
「いいだろう、契約成立だな。あとで契約書を用意しよう」
こうして、一つの衝撃的な事実と共に、俺の元に世界を握る鍵がもたらされた。
■
それからの事は語るまでもあるまい。
「俺たち」は相互に連絡をとりあい、互いの存在を認識した。
最初はお互いを探りながらの交流から、やがては技術交流。
そして国交の樹立。
世界はあっというま、わずか数世紀で21世紀仕様に更新された。
コンビニが立ち並び、ハンバーガーを食べ、コーラが飲める世界。
テレビやインターネットが街を電子の網で覆い、
天空には人工衛星が飛び、飛行機が飛ぶ。
ただ一つ違うのが魔法と妖怪の存在。
今ではどちらも当たり前にあるようになった。
人類で妖怪の血を引いていないものはほぼいないし、魔法も学校で普通に教える。
新しい世界に俺たちはついに到達した。
だがある日、平穏は破られる。
月人を率いた八雲紫が大量の軍勢を送り込んで来たのだ。
辛くも最初の軍勢は防ぐことができた。
だが八雲紫の言動が不気味だった。
「あなたたちは、とうとうここにたどり着いてしまった。
歴史の道しるべのそそのかすままに、文明の終着点へ」
「この成功が誰かの手のひらの上だってのは解っていたさ。
おそらくこの世界の条件は文明が21世紀相当になっても妖怪や魔法が存在し、神秘と科学が発展していること、だろう?」
「そう、それが「あの存在」が望む舞台。あなたたちはその舞台を作り上げるための舞台装置にすぎないわ。
わたしは劇の開演を永遠に遅らせる存在。できるならばこの世界が舞台として成立しないようにしたかったけど……
もう遅いようね。すべてが手遅れ」
「そうとも限らんさ。人類は俺たちがいなくてもやっていける。
仮に何度滅ぼうと立ち上がっていける。
そうだとしても滅ぼさせないがね」
「では始めましょうか。私はあなたたちが無くした幻想そのもの。
あなたたちが忘れてしまった未知の恐怖と謎への畏怖を抱いて死ぬがいい!」
「人はどこまでも開拓していけるはずだ。その未知と忘却を踏破してやるよ」
かくして、月人との星間戦争が幕を開け、そしてそれはこちらの勝利に終わった。
そうして、俺たちを送り込んだ存在が姿を現した。
■
その「存在」は俺たちの夢の中に同時に現れた。
「ご苦労様、すべての破滅因子は滅びた。これでこの世界線も安全だ」
その人物はごく平凡な容姿にごく平凡な装いをしていたが、同時にどこまでも異様で、どこまでも異物だった。
無機物的とすらいえるかもしれない。まるで彫像を相手に話しているかのようだった。
「どういうことだ?あんたが俺たちをここに送り込んだのか?」
「彼」は優雅な仕草で肯定した。
「そのとおり。君たちはよくやってくれた」
「あんたはこの世界を「舞台」として何かをやらかす気じゃなかったのか」
「それもそのとおりだが、だからといって「劇」が終わった後世界を滅ぼす気なんてないよ。
「劇」は終わった。君たちは自由だ。好きにすればいい」
「そうか……楽しい劇だったか?」
「とても。それと一つ誤解があるようだけど、私が君たちを送ったのはこの世界を安定させるためであって、
決して滅ぼそうという意思があったわけじゃないよ」
「じゃあ俺のいた世界は滅んだのか?」
「そのとおり。まあどこでもいずれは滅びるんだろうけど、あの世界は遠からず滅んでいたよ。
見るかね?」
「ああ」
俺は俺のいた世界をのぞいた。
秘匿された魔法の力はその貴重性から奪い合いと独占を加速させ、その欲望の果てにすき放題に力を暴走させて滅んだ。
幻想境のような場所はその奪い合いの果てに踏み入られて略奪されるならばまだよかった。
弱肉強食と閉じられた世界の閉鎖性は妖怪たちや妖怪じみた人間が好き勝手に暴れ周り人間や力の弱い妖怪たちをさんざん虐げ弄んで、あげくその先鋭化した力をお互いに向け合って滅んだ。
あるいは踏みにじられ続けた弱者がついに折れて社会が根底から崩れていくか、レジスタンスによるテロと暴力の応酬によって滅んだ。
「隠れて活動する超越者はヒーローなんかではなかった。
ただの私刑人であり通り魔を殺す通り魔でしかなかった。
報酬も無く善意のみで振りかざされる力は社会的な認知なしではやがては腐っていくしかない」
「つまり俺の世界の俺たちみたいな魔法使いか」
「そうだね、結局はそういう犯罪者予備軍になるしかなかった。
だからこそ、君たちならば妖怪や魔法を隠さないはずだと思った
隠した結果が悲惨だったのは君たちが一番よく知っているだろう?」
「『病める貝にこそ真珠は宿る』か。たしかにな。
それで……あんたはどうするんだ?」
「別に、何も。君たちにもこの世界にも手出しはしないし好きにするといい。
少なくとも、当分は滅びを回避できただろうから」
「そうか……あんたには、礼を言っておくべきなんだろうな」
「別に、私自身必要だからやっただけだしね。じゃあ、これからもよい旅を」
「ああ。またな」
そうして、目が覚めて、俺は真に自由になったことを知った。
これからの物語は誰もその先を知らない。
俺が歴史をつむぐ必要も無い。これから先、この世界に生きる妖怪や人間たちが歴史を作っていくのだろう。
すいません。打ち切りっぽいですがこれで完結となります。
「人と妖怪は手を取り合って幸せに暮らしました。めでたしめでたし」で終わりです。
正直、ここから先の展開があんまり思いつかなかったというか、
申し訳ありません。
ここまで読んでくださってありがとうござました。