そうして日が暮れて。
宴の席に俺はいた。素朴な太鼓の音が響き、巫女が舞っている。
めらめら、ぱちぱちとたいまつの燃える音が聞こえる。
何杯めかの杯を干した所で諏訪子が訪ねてきた。
「で、この国でやりたいことって何なのさ」
俺たちはやぐらの上から人々の様子を見守っている。
いい気分だ。
「俺がやりたいことはそんなにややこしいことじゃない。単純だ。
妖怪に人食いをやめさせる」
うーむ、としらけた空気が神奈子と諏訪子に漂う。
「言って従う奴には寛容に庇護を与え、言っても聞かん奴には剣を持って打ち倒す」
その声色は暗く、暗く。
「あーうー私には無理だと思うなあ……だって妖怪は人を襲わなきゃ生きていけないんだよ?
あんたの力で妖力を増すって行ってもせいぜいい100人や200人が限界じゃないかい?」
「ああ、そうだろうな。俺の力で維持できるのはそのくらいだろう。
そこで小細工を使わせてもらう」
「ほう、妖怪を人食いをさせずに生かす小細工だと?面白い、聞かせてもらおうじゃないか」
神奈子が杯を干した。
「妖怪が人を襲わなきゃならん理由は俺たちが信仰で力を得ているのと同じ理由だ。
人からの畏怖が必要なんだろうな。食うためだけじゃない。
だいたい、妖怪が人しか食えなかったらとっくに人間は食われていなくなっている。
だからやつらは必ずしも人を食わなくってもいい。必要なのは畏怖だ」
星空が明るくきらめく。美しい。
「なるほど、人から畏怖をもらえればいいと……でもどうやって」
「そこで戦争だ。戦争は人がいる限りなくならない。
戦場で俺たちは暴れまくり人から畏怖を集める。
敵国の人間ならなんなら食べてしまってもいい。
平時には相撲でもとらせてその力を魅せればいい。
これでおそらくは消滅は防げるはずだ」
神奈子はしばらく考えると愉快そうに笑う。
俺と同じく暗い笑いだった。戦争を欲する軍神の笑い。
「なるほど、それで雇われに来た、と……
ふむ面白い。だがそれは少し困るな。
大和の国の印象がめちゃくちゃになってしまうぞ」
「あんたらは適当なところで俺たちを切り捨てる命令でも出せばいい。
それこそ死地におくるとかな。
まあそうなったら俺たちはしばらくは身を隠すさ。
それでまた必要になったら呼べばいい」
神奈子は干し肉に手を出すとかじる。
「信用ならないね。なんであんたはそこまでしてくれるんだ」
「あー、ぶっちゃけようか。
正直なところな、人食い妖怪を撲滅したいんだよ俺は。
奴らが人を食わなくなればそれでよし、滅んでもそれでもいい。
なんにしろ、この国に妖怪は必要ない」
「うん?」
諏訪子が眼が点になった様子で疑問符を発した。
「いいか、このままあんたらが妖怪に対し今までのようにちまちまと対抗して言ったしよう。
奴らは絶対にいなくならない。人が増えてかなわないようになればたちまち身を隠して陰でこっそりと人を食うようになるだろう。
完全に人食い妖怪をこの世から消し去るにはそれに対する力が必要なんだ。
絶対的でしぶとく、根絶不可能な力が」
力が抜けた様子で諏訪子は納得する。
「あーそれであんたらの所はあのいかれた戒律を作ってるわけね。
信仰はなくならない。少なくともあんたのところのは、妖怪がいる限りそれを滅ぼし続けて信仰を得るから」
俺が狂っているのは否定しないが、あんたらのところだって生贄やってただろう諏訪子。
「いやちょっと違うな。狂信者は狂信者を作る。宗教はなくならない。
火種として永遠に残り続ける。狂信者ってのは手ごわく執念深いぞ。弾圧すればするほど意固地になる生き物だ。
俺の信仰は残り続ける」
ドン引きした雰囲気の諏訪子はぽりぽりと頭をかいた後に言葉をつなげた。
「つまり、えーっと。この世から人食いがいなくなる日まであんたらは執念深く戦い続けると」
「ああ」
「そのために大和の戦争で戦い続けて信仰を得ようって?」
「虫が良すぎるか?」
「うーん、どっちにも不利な条件があるしねえ。
どうしよう神奈子?」
諏訪子は神奈子を見る。
加奈子はしばらく眼を閉じて考えていたが、やがて重々しく口を開いた。
「ふむ……狭見江竜神よ。お前が口出しするのは妖怪の処遇についてのみで、国のありようには口を出さないのだな?」
「ああ。あんたらの所ならばそんなにでかい間違いはしそうにないしな」
皮肉げに神奈子は笑う。
「……わかった。お前の提案を受け入れよう。ただしあまり人間には布教しすぎるなよ?
そのときは抑えるように言う。それからこちらの命令には基本的に従ってもらうぞ」
「もちろんだ。あんたらは雇い主だからな」
「ならばお前が裏切らない限り、お前とお前の軍勢を歓迎しよう」
そうして俺たちは握手を交わした。