風見幽香との戦いで全滅に近い被害を受けた俺たちは再び地道な「布教活動」を行うこととした。
その辺の野良鬼がいれば集団で暴行、拉致して洗脳する。
ついでに被害にあっていた村に立ち寄ってこれまた布教する。
そんなことを繰り返してようやく30名ばかり妖怪を集めることができた。
ほとんどが後方要員となったが……まあ、なんとか軍としては成り立つ程度だ。
あの戦いで俺たちは足りないものを痛感することとなった。
全体的に火力が乏しいのだ。
いや、一点突破なら文句無い威力があるのだが、面での攻撃や、大規模な攻撃がしずらいのだ。
加えて物理攻撃に偏っていて魔術的な効果が乏しい。
そこで先達に教えを請うこととした。
俺たちは今大和の国の中心部に来ている。
一応無線でアポイントをとり、現場でも挨拶はすませた。
俺がコピーして増やした無線はいまや大和の神々の重要な通信手段となっている。
「やあ、久しぶりだねえ狭見江竜神。こないだはさんざんだったんだって?
あんたらでも苦手な相手がいたんだねえ」
高殿で俺を出迎えるのは八坂神奈子だ。
「ああ、自分自身の力不足を痛感した。そこであんたに教えを請いたい」
「ふむ、教えねえ。どんなのを知りたいんだい」
「符術というかな。物に術式を刻んで特殊な効果のある武器にしたい」
「もうちょっと具体的に言ってくれないかい。あんたの頭の中にゃあるんだろう
やりたい術のあんなこんなが」
「わかった。この銃弾や刃物に呪いをこめて敵により効果のある武器にしたい。できるか?」
神奈子はしばらく考えた後に言った。
「できないことはないね。他にもいろいろ神具の作り方はあるがまあそのやり方でできないこともないよ」
「そのほかのやり方も含め、俺にそういう特殊な武器の作り方を教えてくれ。あと符術も」
神奈子はあぐらと立てひざをあわせたような楽な姿勢で大きくうなずく。
「で、それであんたはなにを代償にして教えを請うんだい?」
タダではなくて逆に安心した。
「そうだな……こういうのはどうだ?」
俺はかばんから懐中電灯を取り出す。
手回し式で電池のいらないもの、それから小さめのペンライトだ。
「新しい銃弾かい?」
「いや、これはこう使う。安心しろ、害は無い」
俺はそのへんを照らしてみせる。
「ほう、光るのかい」
「ああ、光るだけの道具だ。だが、こいつがあれば夜道でも安全に通行できるし、夜でも物が見れる。
それだけじゃない。こいつをもっと増やして各家庭にひとつあると考えてみろ。
夜が明るくなる。見た目にも華々しいぞ。俺はよくわからんが、だいたいの仕組みや作り方なら教えよう」
神奈子はうーむと残念そうな顔になる。
「他にはないのかい?あのらいたーとか……あんたが使う妙な幻術とかそのセンノウ?だったか妙な信仰獲得の術とかね」
「ライターならいくらでもやるよ。とりあえず20個でいいか。
作り方は俺にはわからん。あんたらでなんとかしてくれ。
幻術のほうだが……一朝一夕で身につくものじゃないぞ。
おまけにこれは俺の体あってのものだしな。とりあえず教えられるところまでは教えるがね」
俺はジッポーライターを取り出し、早速コピーを始める。
「では、お前に私の巫女の一人をつけよう。そいつから符術は教えてもらえ。
神具のほうは石凝姥命や玉祖命のあたりと話をつけておく」
「ありがたい」
ここで、神奈子は柔和な顔で心配そうに聞いてきた。
「ところで、神力のほうはちゃんと使えてるんだろうね?」
「自己再生と弾や刀にして放出すること、あとは飛ぶことくらいはできる」
ふーむと唸る神奈子。
「そいつはあたしが教えよう。時間が空いたときにお前を呼び出す」
「大丈夫なのか仕事のほうは」
「最近暇が増えてねえ。まあ、次の戦争までだろうが、稽古をつけてやる」
「重ね重ねすまない」
これにより、俺は弾丸に符を刻んでさまざまな効果のある弾丸を作り出した。
いろとりどりの照明弾に炸裂弾、焼夷弾。
さらには鬼たちの弓矢も火矢や呪詛のついた矢、追尾機能のついた矢なんかも作ったりした。
神力のほうはさらなる回復術と自己再生、身体強化に神力弾のバリエーションを身に着けた。
とある平和な日。うららかな午後、木造家屋の社殿で俺と神奈子と巫女がいた。
「さて、それじゃあ教えてもらうよ。あんたの信仰の秘訣ってやつを」
「ぜひ教わりたいです!」
巫女と神奈子はてぐすね引いていたといわんばかりの満面の笑みでたずねる。
「まず、監禁状態にする。できれば人里離れた場所がいい。
他のやつと会わない状態を作り出せ」
「うん」
ふむふむとうなずく二人。巫女はメモをとっている。
「最初は自己否定からだ。そいつの悪いところを自分で言わせる。
罪を言えとでも言ってな。そのときはとにかく責めろ。
あるいはそいつがやらかしたことを1から10まで集団で否定する。
その状態では水と食料を制限し、眠らせるな。絶対にだ。
とにかく難解な話を不眠不休で聞かせ続け、感想を言わせてそれを否定する」
「うん?」
二人の笑顔がひきつる。
「そしてちょっと手がかりを言ってこっちが誘導したい方向の答えを言わせる。
こちらの意にかなうような答えだったらとことんほめて食料や水を与えろ。
ちょっとでも間違っていたら暴力を使ってでも否定しろ」
「……」
二人は死んだ魚のような目をして引きつった顔で俺を見ていた。
「もっと具体的に言えばなぜその答えがただしいのか、なぜ今までの自分は間違っていたのか自分で考えさせろ。
こちらに都合のいい答えを言うまでほめるな。何度でも言わせろ。
ちょくちょく手がかりを出してもいい。
あたったらこっちも涙を流して感激して抱きしめるくらいやってもいい
大切なのは認めてやることだ」
「あ、あんた鬼にそれをしたのかい?」
「したよ、今でも捕まえたやつにはしてるよ」
二人は戸惑ったように顔を見合わせ口を開いた。
「お前は鬼か!」
俺は笑って返す。
「神だが?まあ邪神かもしれないがな」
神奈子はしばらく悩んだ後威厳もへったくれもない顔でたずねる。
「えーっと幻術とかそういうのでぱーっとできないのかい?」
「いえ神奈子様、これはこれで参考になるところが……」
「しっかりしろ!そっちにいくなあ!」
巫女が暗い笑いをして、神奈子に揺さぶられている。
「まあ、荒っぽい手段だがな。一応幻術めいたものもある。
そっちはちとややこしいぞ。しっかり書き留めておけ」
それから俺は説明した。催眠について、心理学について、大脳神経学について。
「ぬおお……すまん、私はしばらく休ませてもらう。あんた普段からそんなややこしいことを考えて生きてたのかい!?」
「無意識……そんなものがあったなんて、目から鱗です」
神奈子は話についていけず部屋から退出してしまった。
巫女は興味深げに俺の話を聞いている。
話は夜更けまで続いた。