Fate/Grand Order 白銀の刃   作:藤渚

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【肆】《其の一》「銀さんと行くよ」

 

「えっ何、マジで俺とにすんの……?ギャッハハハァ!ざ~んねんだったなぁヅラに高杉クン?あら嫌ねぇ~んな露骨に悔しそうな顔されてもさぁ、結果として藤丸が選んだことに変わりないんだしぃ?そっかそっかぁ~藤丸はそんなに銀さんのこと…………え?一番気心が知れてるから、変に緊張しなくてよくて楽そう……?ふ、ふ~ん。別にいいんじゃない?そんな理由でも。という訳で悪いねお二人さん、松陽と藤丸は今日一日俺と────あ痛っ⁉ちょっ(すね)、脛は蹴らないでマジでっ痛い痛い痛いィィィっ‼」

 

 

 

 

   *   *   *   *   *

 

 

 

 

「ん~………やっぱり思ってたより集まらないなぁ。」

 

 メモ帳の一ページにも満たない記録を何度も眺め、藤丸は溜め息を吐く。

 こちら銀時をリーダーとした、藤丸と松陽そして段蔵とフォウのメンバーを伴ったグループは、繁華街にて調査の定番である聞き込みを行っていた。

 通り行く人に声を掛けては、江戸の事を尋ねていくだけの地道な作業。時には無視をされ、時には侮蔑(ぶべつ)的な態度を取られつつも(因みに松陽がこの扱いを受けた時、その相手を殺さんとばかりに嚇怒(かくど)した銀時を必死に皆で押さえつけた)、それでも中には熱心に話を聞き、分かり易く懇切丁寧に答えてくれる者達もいた。

 そんな作業が数時間に渡り続いたため、当然疲労も溜まる。ならばここで一時休息を取ろうと、藤丸達は騒がしい繁華街を離れ、街中のとあるこの公園を訪れていた。

 

「ていうか、この公園やたらと広くない?もう疲れた、歩きたくないわ……。」

 

「俺より若ぇ奴が弱音なんか吐いてんじゃねえよ、それに都心の公園(パーク)なんてどこもこういうモンだろ。T〇LとかU〇Jみてえに地図無しだと歩けねえパークに比べりゃ可愛いもんだぜ?」

 

「知らない知らないっ!俺の中での公園は何にもない真っ新な平地に土管が三つ重なって置いてある殺風景なところだもん!そんで近所には怒ると怖い雷おじさんが住んでるんだもんっ!」

 

「それ公園じゃなくて別次元の空き地ィ!もうっそんな駄々ばっかこねってと、さっき買ったこのチューパットはあげませんよ⁉」

 

 掲げた袋の中でキンッキンに冷えているであろうチューペット、もといチューパットを人質に取られ、藤丸はしぶしぶ歩を進める。重い足を持ち上げて動かすのも(だる)くなってきた藤丸を、フォウを腕に抱いた松陽が横から激励する。

 

「藤丸君、もう少しだけ頑張ってみましょう?きっとどこかにお休み出来るところがある筈………ですよね?段蔵さん。」

 

「ええ松陽殿、実にいいタイミングです。皆様ご覧ください、あそこに全員が腰掛けられる場所を確認いたしました。どうかあと数十歩のご辛抱を。」

 

「フォウ、フォウッ。」

 

「よかったぁ!さあ二人とも、もう目の前ですから頑張りましょう!」

 

 右手で銀時を、左で藤丸の手をそれぞれ掴み、松陽は段蔵が示した先……街灯の下の空いたベンチへと早足で進む。引っ張る力は思いの(ほか)強く、あれよあれよという間に三人はベンチに辿り着いた。

 

「ああ~疲れたぁっ……もう足パンパンだよ。」

 

 漸く腰を下ろし、脹脛(ふくらはぎ)(さす)る藤丸の隣に銀時が座り、その彼の隣に座った松陽の腕から出たフォウが、定位置である銀時の頭へと登っていった。

 

「皆様、お疲れ様でした。段蔵が見張りをしております故、どうぞごゆるりと休まれてください。」

 

「んな固いコト言わねえでよ、お前も一息つこうぜ?ほらっ。」

 

 銀時は袋から出したものを、段蔵へ向けて投げる。咄嗟に両手で受け止め確認すると、それはペットボトル程の大きさのオイル缶であった。

 

「あれ?銀さんたらいつの間に……?」

 

「なぁに、お前らが駄菓子屋で悩んでる間に、隣の店でちょろっとな。『俺が知ってた頃』のたまにもよく買っていったヤツと同じモンだから、多分口に合うと思うぜ。」

 

「何と、私達が知らない間に………銀時さんはお優しいのですね!」

 

 松陽の朗らかな笑顔と称賛に、銀時は染めた頬を掻いてはにかむ。やはり情愛を抱いた者に褒められるというのは、幾つ歳を重ねても嬉しいものである。

 

「銀時殿………このような段蔵にも気を使っていただき、本当にありがとうございます。」

 

「そんな言い方すんなって。俺達ゃもう仲間だろ、なっ?」

 

 そう言って皆に同意を求めれは、全員首を縦に振る。感奮する心を抑え、段蔵はオイル缶の蓋を開ける。密閉された容器から漂う独特の香りを堪能し、早速口をつけて液体を含む。暫し間を置いてからゴクリ、と喉の奥にオイルを流し込んだ段蔵の表情(かお)には、喜悦の色が浮かんでいた。

 

「にしても銀さん、よくお金なんて持ってたね。」

 

「あ?ああ、ポケット漁ってたらまさかの千円が一枚出てきたんだよ。多分パチンコに使おうと思って突っ込んでて、そのまま忘れてたんだろうな。」

 

「パチンコもいいけど、いや良くないけど。ちゃんと新八君と神楽ちゃんにお給料払わなきゃ駄目だよ。あと家賃ね、生まれてこの方あんなにドン引きしたの初めてだったわ。」

 

「わーってるよ。ったく、てめえも小言の多い奴だな。二代目新八でも目指してんのか?それならまず人間やめて、眼鏡として生まれ変わるとこから始めねえと。」

 

 ぶつぶつと零しながら、銀時は袋の中を漁る。彼がそこから取り出したのは、先程もその存在をお伝えした冷凍チューパット。それも二本ある。

 

「やべっ、ちょっと溶けてきてんな。藤丸、松陽、お前らどっち食う?」

 

「ん~グレープ味とソーダ味かぁ、どっちにしようかな……松陽さん、お先にどうぞ。」

 

「そんな、藤丸君からお決めになってください。私は頂ければどちらでも構いませんから。」

 

「いや、ここは年功序列ということで先にどうぞっ。」

 

「いえ、お若い方からお先に。まだ伸び盛りでしょうから、美味しいものをたくさん摂ってしっかり成長なさらないと。」

 

「いやいや、松陽さんこそお先に。」

 

「いえいえ、藤丸君こそ。」

 

「いやいやいや。」

 

「いえいえいえ。」

 

「ちょっとぉ!いつまで譲り合いのラリー続けてやがんだっ⁉ほら見てどんどん溶けてきちゃってる‼つーかどっちでもいいから早く決めてくんないかなぁ⁉(ちな)みに俺グレープね!」

 

 ぼたぼたと水滴の零れるチューパットの棒のとこを(つま)んだまま、焦燥(しょうそう)した銀時が叫ぶ。

 

「あ、ゴメンごめん。それじゃあえっと、俺もグレープにしようかな。」

 

「では私は綺麗な青色の……ソーダ、というのでしたっけ?そちらを頂きますね。」

 

「フォウーゥ、フォウーゥ!(グレープ、グレープ!)」

 

「よし、お前もソーダだな。これできっちり分かれたぜ。」

 

「キュッ⁉フォウウゥゥゥッ‼(バリバリバリッ)」

 

「痛ででででででっ⁉何だよ(むし)るなって‼やめてェェェ禿()げちゃうゥゥゥゥゥッ‼」

 

「あっこら、駄目ですよフォウさん!」

 

 突如暴れて銀時の天パを毟り出すフォウを、松陽が慌てて引き剥がす。揉みくちゃに撫でまくって何とか(なだ)めると、フォウは(ふつく)みながらも漸く落ち着いた様子で、松陽の膝の上に大人しく納まった。

 

「あ~、ひっでぇ目にあった………にしても、こんな溶けてんじゃ割るのは危険だな。段蔵、悪ぃけど苦無(くない)貸してくんない?」

 

 そう言って銀時が振り向いた先には、何と地べたに座り林檎のように赤い頬でオイル缶を煽る段蔵の姿。彼らのよく知る静穏な彼女はどこにもいない。

 

「だ………段蔵?」

 

「んあ~………ひっく、ふぁい何れしょう?金時ろの~?」

 

 ふにゃりと緩みきった笑顔を浮かべ、段蔵が答える。舌も(ろく)に回っておらず、彼女が酔っ払っているのは明らかだった。

 

「金じゃねえよ銀っ!おいおいどうしたよ?めちゃくちゃ悪酔いしてんじゃねえか。」

 

「何を言うのれふか金時ろの!段蔵(だんろー)は絡繰れふよ!酔っぱらうなんれあるわけないひゃないれふか~。ひょれより苦無(くにゃい)れふね、どこだっけなぁ~?」

 

 がさごそと粗雑な手つきで、段蔵は懐にしまっているものを漁る。あーでもないこーでもないと次々に取り出されては地面に転がる暗器の数々を、銀時達は呆然と眺めていた。

 

「段蔵、どうしたんだろう……?昨日たまさんから貰ったオイルを飲んでた時は、割と平然としてたのに……。」

 

「藤丸、こりゃひょっとするとオイルの種類が昨日と違うからじゃねえのか?ほら、安い酒ってよく悪酔するっていうし。」

 

「……こんな姿、カルデアにいる小太郎や千代女には絶対に見せらんないや。」

 

 藤丸が本日二度目となる溜め息を吐いたのと、「あった~!」と段蔵が歓喜の声を上げたのは、ほぼ同時のタイミング。

 

「は~い金時ろの、どうぞ~。」

 

 こちらに向けられた刃先に触れないよう、銀時は慎重に(つか)の部分を掴む。あ、決して洒落ではないよ。彼が受け取ったのを見届けると、段蔵はにこにこと微笑みながら再びオイルの缶を煽った。

 

「と、ともかくこれでチューパットが食えるな。もう大分溶けてっけど、まあ大丈夫だろ。」

 

 銀時が向けた刃先は、まずはソーダのチューパット。真ん中の凹みを切った途端に溢れ出る青い甘露を零さないよう気をつけ、やっとの思いで二等分したそれらを松陽へと渡す。

 

「ほらよ、服に零さないよう気をつけろよ。」

 

「わあっ、ありがとうございます!」

 

 銀時から受け取ったチューパットを両の手に持ち、一つは自身の口元に、そしてもう一つは膝に乗るフォウの元へと近付けていく。

 

「ンキュッ、フォウフォウ。」

 

 フォウが小さな舌で中身を舐めとるのを見届けてから、松陽も半分ほど溶けたチューパットを吸う。初めて味わうソーダの爽やかな甘味に、自然と頬は綻んだ。

 

「どうだ松陽、美味いか?」

 

「はい!とっても美味しいです、ねえフォウさん?」

 

「キューゥ。」

 

「そっか、もっとしっかり凍ってたら良かったんだけどな……さて次はグレープを。」

 

 松陽の満足気な様子を見届けた後、銀時は自分達の分であるグレープ味のチューパットに刃を当てる。するとその時、藤丸がふと思い出したように口を開いた。

 

「あっ、そうだ銀さん。長いの付いてるほう頂戴?俺そっちがいいや。」

 

 

 ブッシュウウウウゥゥゥゥゥッ‼

 

 

 突として、凹み部分から溢れた紫の甘い液体。それは放物線を描きながら飛んでいき、その勢いを殺さぬまま藤丸の左眼球に直撃する。

 

「オギャアアァァァァッ‼目が、目がァァァァァァァッ‼」

 

 地面に倒れ、ゴロゴロと転がり悶える藤丸に、松陽と段蔵(へべれけ状態)が慌てて駆け寄る。何故か彼の着ている礼装、カルデア制服には奇跡的に染み一つ付着していない。

 

「藤丸君、大丈夫ですか⁉」

 

「待っれれくらひゃいまひゅた~!只今(たらいま) 段蔵(だんろー)が拭くもにょを!」

 

 そう言って只でさえ布地が薄い衣服を更に脱ごうとする段蔵を、藤丸は片目を押さえたまま必死で止める。松陽が差し出してくれたハンカチ(お登勢が持たせてくれた)で患部を拭くと、俯いたまま黙っている銀時へと向き直る。

 

「もうっ!何すんだよ銀さん!」

 

 頬を膨らせ、割と強めに怒る藤丸。しかし漸く(おもて)を上げた銀時の発した答えに、藤丸は更に驚愕することとなる。

 

「………すまねえな、藤丸。」

 

「むっ………まあ、そんな根に持つほど怒ってもないしぃ?次からは気をつけて───」

 

「お前にゃ悪いが、チューパットの長いほうは俺が頂くことになってんだよっ‼」

 

「って、ハアアァァァァァッ⁉」

 

 あまりに予想外の発言に、藤丸を始めとし銀時を除いた面々も、開いた口が塞がらない。そうしている間に二等分したチューパットの、ヘタと呼ばれる短い棒のついたほうを大きく開けた口元に持っていこうとする銀時の手を、我に返った藤丸がすかさず止めた。

 

「ちょちょっと待って!ズルいよ銀さんっ!俺だって棒ついてるほうがいい!」

 

「藤丸ぅ、俺もこればっかりは譲れねえよ。チューパットの長いほうを欲するのは、同じく長い(チューパット)を持つ雄として当然のこと。それは最早本能と言っても過言じゃねえ………どうせまだ毛も生えてねぇだろうお前にゃ、短いほうのがお似合いだぜ?」

 

「見たことも無いくせに何言ってんだアンタ⁉俺だって立派な(チューパット)くらい持ってるわぁっ‼」

 

「うるっせぇ!いいから長いほうを寄越しやがれ青二才っ‼」

 

「イ・ヤ・だ・ねっ!断固拒否だよこのアホ天パ~っ‼」

 

 片や長いほうを取り合い、片や短いほうを押し付け合う。数多の戦場を駆け抜け、白き夜叉と畏怖された男と、幾十(いくそ)もの世界を跳躍した、人類最後の希望と呼ばれた少年が織り成すそれは、(はた)からすればあまりにも不毛で、世界一どうでもいい戦いであった。

 

「長いのやら短いのやら………あのお二人は、一体何の話をされているのでしょう?」

 

 首を傾げる松陽と、残り少ないチューパットを傾けてこくこくと喉を鳴らすフォウ。

 すっかり溶けたチューパットの中身が組み合った手に零れようと構わず、両者一歩も譲らずに取っ組み合いを続けていた時であった。

 

「おっ?」

 

「あ、あれ?」

 

 不意に、掌の中にあった冷たい感覚が取り払われる。揃って顔を上げれば、そこには二人が取り合っていた筈のグレープチューパットを二つとも掲げる段蔵の姿。

 

「もうっお二人(ふひゃり)ろも!喧嘩はこの段蔵(だんろー)が許ひまひぇんよぅ!喧嘩の(もろ)になっひぇるチューパットなんかぁ………こうれふっ!」

 

 次の瞬間、ブチュッ!と音を立て、二つのチューパットが段蔵の手によって爆ぜる。

 

「「~~~~~~~~~っ‼」」

 

 ほぼ液体となって零れていき、新たな染みとなって地面へと吸い込まれていくチューパットの姿に、銀時も藤丸も声にならない悲鳴を上げる。

 幽暗の中の、静まり返った公園の一角で起こった悲劇………何とも不憫な二人に構うことなく、チューパットを食べ終え満腹になったフォウはベンチに横になると、大きな欠伸を一つかいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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