Fate/Grand Order 白銀の刃   作:藤渚

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【肆】《其の三》「高杉さん、よろしくお願いします…!」

 

「……ククッ、全くお前さんも酔狂な野郎だ。()えて得意でない俺を選んで何になる………あ?んなもんとっくに気付いてたさ。お前さんが意識してなくとも、顔や態度に出てたからな………そう思ってるからこそ、もっと交流して俺をよく知っておきたい。ねぇ………そりゃあ健気なこった。そういやあ、他の奴らの班分けも終わった頃じゃねえのか?お前と松陽と、他には………………あ?」

 

 

 

   *   *   *   *   *

 

 

 

 

「ふ~んふ~ん、ふふふふんっ♪」

 

 神楽は上機嫌に鼻唄を混じえながら、隣に座る松陽の腕に抱きついている。二人を乗せた定春は、のっしのっしと歩を進めていた。

 

「よかったね神楽ちゃん、松陽さんと同じグループになれて!」

 

 その隣を歩くアストルフォが声を掛けると、神楽は「うん!」と大きく頷く。

 

「だって、今まで銀ちゃん達大人げない大人のせいで松陽の傍にいられなかったんだもん。でも今日は私だけの松陽アルよ!やっと独り占め出来たアル!」

 

 神楽は松陽に抱き着くと、顔を埋めて頬擦りをする。そんな彼女に松陽は慈愛の眼差しを向け、優しい手つきで頭を撫でた。

 

「ふふっ、私も神楽ちゃんとご一緒出来て嬉しいです。今日はよろしくお願いしますね。」

 

「今日と言わず、いつだってお前のこと守ってやるヨ!そう約束したアル!」

 

「僕だって同じさ、どーんっと任せてよ!」

 

「わんっ!わんわんっ!」

 

 三人と一匹の間に漂う、和やかな空気。そんな彼らのアットホームなやり取りを、前方を並んで歩く二人は背中で聞いていた。

 

「……大人げない大人って言われちゃってますけど、高杉さん。」

 

 藤丸は恐る恐る、隣を歩く高杉に話しかける。咥えた煙管から紫煙を(くゆ)らせる彼の表情は、不機嫌そのもの。眉間に皺を寄せ、こちらには目も合わせてくれない高杉に、負けてたまるかと藤丸は声を掛け続ける。

 

「い、いやぁまさか、神楽ちゃん達と同じグループになるなんて。運命って分からないものですよね~。」

 

「……………。」

 

「それにしても、俺らのとこだけやたらと人数が多いような気がしますけど、別に他のクループメンバーのお零れってわけじゃないみたいですよ?ちゃんと頭捻って考えた末の結果だって、書いてる奴は言ってましたし。」

 

「……………。」

 

「えっと………そうだ。桂さんから貰ったヤクルt……じゃなかった、ヤクルコ飲みません?」

 

「ああ、飲む。」

 

 思いがけないタイミングで口を開いた高杉に驚き、「うぉわっ⁉」と間抜けな声を上げる藤丸の手から、高杉はヤクルt……じゃねーやヤクルコを抜き取る。煙管を消失させ、銀紙の蓋を剥がして一気に呷ると、高杉は息を零した。

 

「なあ、藤丸。」

 

「ひゃいっ⁉もももしかして、(ぬる)いの駄目でしたか⁉」

 

「別に構やしねぇよ、まあ出来たら冷えてたほうがよかったが………そんなことより、さっきから変に俺に気を回すんじゃねえ。確かに機嫌は悪いが、別にお前さんに対して怒っちゃいねえよ。」

 

「ほ、本当ですか……?」

 

(むし)ろ感謝してるくらいだ。お前がいなきゃあのじゃじゃ馬姫とポンコツ野郎、それにデカ犬のお守を俺一人で(にな)わなきゃならなくなるところだったからな………それに。」

 

 ゆっくりと、高杉は(おもむろ)に振り向く。右の瞳に映るのは、神楽やアストルフォと談笑する松陽の姿。楽し気に笑う彼を無言で見つめる高杉の、出会ってから今日(こんにち)までに見たことが無い彼の温顔(おんがん)に、藤丸は釘付けになっていた。

 

()(かく)なぁ、別にこっちが何もしちゃいねえのに、そう一々(いちいち)びくつかれても目障りだ。それに契約こそ交わしちゃいねえが、俺とお前はサーヴァントとマスターだろ。お前が話しかけりゃあ俺はそれに答えるし、指示されりゃあまたそれに応える。それでいいだろ?」

 

「えっ、う……うーん。」

 

「何だよ……まだ不満があるってのかい?」

 

 煮え切らない態度の藤丸に、高杉は少し苛立ちを見せる。そこから二、三度(うな)った後、藤丸は高杉の顔を見て口を開いた。

 

「そういうドライな関係じゃなくてさ、もっとこう………仲良くなりたいんです、高杉さんと。」

 

「………は?」

 

 ()頓狂(とんきょう)な彼の言葉に、思わずヤクルコの殻を取り落としそうになる。

 

「確かに、サーヴァントとマスターの関係ってそんなのもあるかもしれません、けどそんな上部(うわべ)だけの業務的なモノなんて、只つまらないじゃないですか!俺はマスターとして………いや、その前に藤丸立香として、皆の事をもっとよく理解したい。そして理解した上で、皆と共に走っていきたいと考えてるんです………高杉さんには、余計なお節介だと思われるかもしれませんけど。」

 

「ああ、その通りだな。」

 

 間髪入れずに返ってきた答えに、()え無く轟沈する藤丸。落胆し項垂(うなだ)れる彼の頭に、不意に置かれた温かな手。

 

「だがなぁ、別にお前さんの事を嫌ってるってわけじゃねえよ。俺ぁこの通り()れ合いは好かねえ性分だから、勘違いされても仕方はねえが………この異変の起きた世界で、銀時達と共に松陽(あのひと)を救ってくれたお前だ。一応信頼は置いてるんだぜ、カルデアのマスターさんよ?」

 

「うむむ………まだ他人行儀感が抜けてない気がする。」

 

「贅沢言うな、俺からの信頼をこれ以上に買いたいってんなら、もっと精進しろ。あとさっきから聞いてりゃその(へりくだ)った口の利き方、うっとおしいからそれも直せ。いいな?」

 

「あうっ………はい、じゃなかった。うん、分かったよ。」

 

 額を軽く小突かれ、藤丸は頬を膨らせながらも、こちらを向いたその(かお)には、はにかんだ笑みが浮かんでいた。

 

「あ~っ!マスターってば、スギっち独り占めしてズルいズルい!」

 

 まるで身体の大きな獣がタックルしてきたような勢いで、アストルフォが彼らの背後から追突してくる。造作もなく避ける高杉の横で、反応が遅れ(もろ)に体当たりを食らった藤丸は「たわばっ‼」と奇怪な悲鳴を上げて前方へと吹き飛んだ。

 

「ねえねえねえっ、マスターと何話してたの?僕にも教えてよ~!」

 

 肩を掴まれ、激しく前後へと揺さぶられる。ぐわんぐわんと揺れる視界の中でも、「お前にゃ言わねえ」と答える高杉の声色は平静としていた。

 

「なあアストルフォ、もうそろそろこの辺りでよくないアルか?私達以外誰もいないネ。」

 

「へ?ああっうん、そうだね~。」

 

 定春に乗って遅れて到着した神楽の声に反応し、アストルフォは高杉から手を放す。一方アストルフォに吹っ飛ばされた藤丸は漸く顔を起こすと、自分達が目的地である人気(ひとけ)のない河原に到着していたことに気付く。

 

「アストルフォ、街を調べるったって、こんな誰もいないところで何をするの?」

 

「んっふっふ~、聞いて驚かないでよぉ?」

 

「勿体ぶってんじゃねえよ、いいからさっさとしろ。」

 

「もうっ、スギっちったら~せっかちさんなんだから………え~それでは、これから僕が考えた作戦を発表しま~す!三つあるグループのうち、銀ちゃん達は聞き込み、ヅラ君達は図書館、となれば僕らが調査すべきは………ズバリ!この江戸(くに)の今の全容でしょう!」

 

「全容ねえ………確かに、この国が今どんな姿になっているのか、把握した方がよさそうだね。でもどうやってそれを調べるの?江戸を一望出来る展望台でも探す?」

 

「ちっちっち、ノンノンマスター!そんなとこに行くよりも、こうしたほうが早いよ。」

 

 するとアストルフォはくるりと向きを変え、藤丸達に背を向けて数歩前に出る。

 ピーッ!と彼が鳴らした指笛が響き渡ったその時、遥か空の向こうから何かがこちらに向かって飛来してくるのが見えた。

 

「おっ、来た来た。お~いこっちこっち~!」

 

 始めは小さな豆粒程だったそれが、こちらに接近してくるにつれ定春並の大きさの怪鳥であることが分かり、アストルフォと藤丸を除いた面々は騒然とする。

 大きな翼をはためかせ、彼らの前に降り立ったその生き物は、大鷲の頭と獅子の前半身、そして後半身は馬という、何とも奇怪な姿をしていたのだ。

 

「よ~しよしよし!よく来てくれたね~偉いぞぅ!」

 

 わしゃわしゃとアストルフォに撫でられると、怪鳥は何とも気持ちが良さそうに目を細める。目の前の不思議生命体と(たわむ)れる彼の姿に、皆開いた口が塞がらない。

 

「わあ………大きな鳥さんですね。」

 

「すっげ~!アストルフォ、それ何アルか⁉」

 

 目を輝かせ、今すぐにでも駆け寄ろうとする神楽の前に、定春が立ちはだかる。怪鳥を睨み低く唸っているのは、飼い主を守らんとする忠義心からであろうか。うーんよく出来たワンちゃんだ。

 

「大丈夫だよ定春君!この子は何にも悪い事なんてしないから、ねっ?」

 

 アストルフォが顎を撫でながら尋ねると、怪鳥は返事代わりにキューと小さく鳴く。

 

「それで、そいつぁ一体なんなんだ?」

 

「紹介するね。この子は僕の相棒、『この世ならざる幻馬(ヒポグリフ)』だよ。とっても頭が良くてね、僕を乗せて色んな所まで連れていってくれるんだ!そうだねえ……生前は月まで行ったこともあるかな!うん!」

 

「月、か………例え(ばなし)にしちゃあ面白いな。」

 

 低く笑い呟く高杉の隣で、いやー例えじゃなくて本当(ガチ)で月行ったんだよなーこの子、と心の中で呟く藤丸であった。

 

「お月様まで行けるのですか………私も行ってみたいですね。」

 

「松陽が行きたいなら私も行きたいアル!アストルフォ、早速その子に乗って行こうヨ!」

 

「まぁまぁ神楽ちゃん、今ヒポグリフを()びだしたのは、空からこの国の姿を一望しようって目的なんだ。月面旅行はまた今度ね。」

 

「ちぇ~………でも、それなら今乗れるってことアルか?私も乗せてほしいネ!」

 

「うんっ、いいよ!それじゃああともう一人は………松陽さん、一緒に乗らない?」

 

「えっ………いいのですか?」

 

「勿論!月までは無理だけど、この辺りをびゅーんって飛ぶくらいなら問題ないもんね。マスター、スギっち、いいかな?」

 

 許可を求めるアストルフォに、藤丸は手で(マル)を、高杉は何とも渋い顔をしつつも、やがて大きく息を吐いた。

 

「………あまり高度を上げるなよ、そこら中に宇宙船が飛んでるからな。」

 

「はーいっ!よかったね松陽さん!」

 

「はい………わあ、何だかわくわくしますねっ。」

 

 気持ちが高揚するままに、松陽は先に乗ったアストルフォに手を引かれてヒポグリフの上に乗る。彼の後ろに飛び乗った神楽は、松陽の腰にギュッと手を回した。

 

「松陽はこうして私が押さえてるヨ、これなら落ちる心配は無いネ。」

 

「ああ、何かあったらまず俺が容赦しねぇ。」

 

「高杉さん、蝶々めっちゃ飛んでるよ。危ない危ない。」

 

「それじゃあ、出発おしんこ~!胡瓜(きゅうり)(ぬか)漬け~!」

 

 どこかの嵐を呼ぶ五歳児のような掛け声を合図に、ヒポグリフは動き出す。見守る藤丸達に手を振っていると、自分達の乗っているヒポグリフの進む速度が、徐々にあがっていくのに松陽は気が付いた。

 

「二人とも、しっかり掴まっててね!そぉれェェェっ!」

 

 強くなっていく正面からの風圧に耐え切れず、松陽は目を(つむ)ってしまう。やがて体が浮き上がる感覚の後、不意に冷たくなった風の温度に、松陽は恐る恐る(まぶた)を持ち上げる。

 

「わぁ………っ!」

 

 

 

 眼下に広がる景色に、松陽が上げたのは感嘆の声。

 

 

 地上から空までを、暗闇に覆い尽くされたこの国。しかし絶えず輝き続ける街の灯りが、常夜を明るく照らしている。大きなものから小さなもの、そしてカラフルなネオンなどによって(いろど)られた江戸は、星月夜(ほしづくよ)のような美しさを放っていた。

 

 

 

「キャッホオォォォォッ!楽しいアル~!」

 

「それはよかった~、松陽さんはどう?」

 

「ええと………上手く言えませんが、とても凄いです!」

 

 地上の光に負けんばかりに目を輝かせる神楽と松陽に、アストルフォは満足げに頷く。

 よくやったとヒポグリフの頭を撫でてやれば、三人を乗せた幻獣は甲高い声で(とどろ)いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひゃ~高い高い、あんなとこまで飛んでいけるんだもんなぁ。」

 

 一方、こちらは先程の河原の様子。

 地上からアストルフォ達を見上げていた藤丸達であったが、不意に高杉が体を反転させ、そこから歩き出そうとしている。

 

「わうぅ?」

 

「あれ?高杉さん、どちらへ?」

 

「ちょっと野暮用があるんでな、悪いが一、二時間抜けさせてもらう。」

 

「野暮用って………俺も手伝うよ。高杉さんを一人にさせるなって、ヅラさ……桂さんにも言われてるし。」

 

「ヅラの野郎、お前にんなコト言ったのか……心配すんな、ちょいとばかり席を外すだけだ。なぁにすぐ戻るさ、あいつらが戻ってきたら、適当に街ン中でもぶらついてろ。」

 

「ええぇ……でも────」

 

 開きかけた藤丸の口許、そこから出ようとしていた言葉を(さえぎ)ったのは、()てがわれた高杉の指。

 

「……悪ぃな、こっから先は大人の行く(ところ)だ。俺が戻るまでの間、しっかりとアイツ等を守ってるんだな。信頼してるぜ、お子ちゃまマスター?」

 

 妖しさを秘め(あで)やかさを(にじ)ませた、間近で向けられる高杉の嬌笑(きょうしょう)に魅了され、まるで催眠術にでもかかったかのように、藤丸は硬直し動けなくなる。

 

「それじゃあ頼んだぜ、藤丸。ああ、お前さんにも何か美味いモンでも買ってきてやるよ。」

 

「わふっ、わぉん!」

 

 定春を数回撫でてから、(きびす)を返した高杉は霊体化してその姿を消失させる。後に残った数匹の蝶が漂う様を、藤丸は呆けたまま眺めている。

 

「………大人ってさ、こういう時(ずる)いよなぁ。君もそう思わない?」

 

 ぼふっ、と定春のもふもふボディに(もた)れかかる藤丸に、定春は「わぅ?」と首を傾げるばかり。

 

 遥か上空では、こちらの事情を知らないアストルフォ達が、調査という名の夜空の観光を優雅に楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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