「……ククッ、全くお前さんも酔狂な野郎だ。
* * * * *
「ふ~んふ~ん、ふふふふんっ♪」
神楽は上機嫌に鼻唄を混じえながら、隣に座る松陽の腕に抱きついている。二人を乗せた定春は、のっしのっしと歩を進めていた。
「よかったね神楽ちゃん、松陽さんと同じグループになれて!」
その隣を歩くアストルフォが声を掛けると、神楽は「うん!」と大きく頷く。
「だって、今まで銀ちゃん達大人げない大人のせいで松陽の傍にいられなかったんだもん。でも今日は私だけの松陽アルよ!やっと独り占め出来たアル!」
神楽は松陽に抱き着くと、顔を埋めて頬擦りをする。そんな彼女に松陽は慈愛の眼差しを向け、優しい手つきで頭を撫でた。
「ふふっ、私も神楽ちゃんとご一緒出来て嬉しいです。今日はよろしくお願いしますね。」
「今日と言わず、いつだってお前のこと守ってやるヨ!そう約束したアル!」
「僕だって同じさ、どーんっと任せてよ!」
「わんっ!わんわんっ!」
三人と一匹の間に漂う、和やかな空気。そんな彼らのアットホームなやり取りを、前方を並んで歩く二人は背中で聞いていた。
「……大人げない大人って言われちゃってますけど、高杉さん。」
藤丸は恐る恐る、隣を歩く高杉に話しかける。咥えた煙管から紫煙を
「い、いやぁまさか、神楽ちゃん達と同じグループになるなんて。運命って分からないものですよね~。」
「……………。」
「それにしても、俺らのとこだけやたらと人数が多いような気がしますけど、別に他のクループメンバーのお零れってわけじゃないみたいですよ?ちゃんと頭捻って考えた末の結果だって、書いてる奴は言ってましたし。」
「……………。」
「えっと………そうだ。桂さんから貰ったヤクルt……じゃなかった、ヤクルコ飲みません?」
「ああ、飲む。」
思いがけないタイミングで口を開いた高杉に驚き、「うぉわっ⁉」と間抜けな声を上げる藤丸の手から、高杉はヤクルt……じゃねーやヤクルコを抜き取る。煙管を消失させ、銀紙の蓋を剥がして一気に呷ると、高杉は息を零した。
「なあ、藤丸。」
「ひゃいっ⁉もももしかして、
「別に構やしねぇよ、まあ出来たら冷えてたほうがよかったが………そんなことより、さっきから変に俺に気を回すんじゃねえ。確かに機嫌は悪いが、別にお前さんに対して怒っちゃいねえよ。」
「ほ、本当ですか……?」
「
ゆっくりと、高杉は
「
「えっ、う……うーん。」
「何だよ……まだ不満があるってのかい?」
煮え切らない態度の藤丸に、高杉は少し苛立ちを見せる。そこから二、三度
「そういうドライな関係じゃなくてさ、もっとこう………仲良くなりたいんです、高杉さんと。」
「………は?」
「確かに、サーヴァントとマスターの関係ってそんなのもあるかもしれません、けどそんな
「ああ、その通りだな。」
間髪入れずに返ってきた答えに、
「だがなぁ、別にお前さんの事を嫌ってるってわけじゃねえよ。俺ぁこの通り
「うむむ………まだ他人行儀感が抜けてない気がする。」
「贅沢言うな、俺からの信頼をこれ以上に買いたいってんなら、もっと精進しろ。あとさっきから聞いてりゃその
「あうっ………はい、じゃなかった。うん、分かったよ。」
額を軽く小突かれ、藤丸は頬を膨らせながらも、こちらを向いたその
「あ~っ!マスターってば、スギっち独り占めしてズルいズルい!」
まるで身体の大きな獣がタックルしてきたような勢いで、アストルフォが彼らの背後から追突してくる。造作もなく避ける高杉の横で、反応が遅れ
「ねえねえねえっ、マスターと何話してたの?僕にも教えてよ~!」
肩を掴まれ、激しく前後へと揺さぶられる。ぐわんぐわんと揺れる視界の中でも、「お前にゃ言わねえ」と答える高杉の声色は平静としていた。
「なあアストルフォ、もうそろそろこの辺りでよくないアルか?私達以外誰もいないネ。」
「へ?ああっうん、そうだね~。」
定春に乗って遅れて到着した神楽の声に反応し、アストルフォは高杉から手を放す。一方アストルフォに吹っ飛ばされた藤丸は漸く顔を起こすと、自分達が目的地である
「アストルフォ、街を調べるったって、こんな誰もいないところで何をするの?」
「んっふっふ~、聞いて驚かないでよぉ?」
「勿体ぶってんじゃねえよ、いいからさっさとしろ。」
「もうっ、スギっちったら~せっかちさんなんだから………え~それでは、これから僕が考えた作戦を発表しま~す!三つあるグループのうち、銀ちゃん達は聞き込み、ヅラ君達は図書館、となれば僕らが調査すべきは………ズバリ!この
「全容ねえ………確かに、この国が今どんな姿になっているのか、把握した方がよさそうだね。でもどうやってそれを調べるの?江戸を一望出来る展望台でも探す?」
「ちっちっち、ノンノンマスター!そんなとこに行くよりも、こうしたほうが早いよ。」
するとアストルフォはくるりと向きを変え、藤丸達に背を向けて数歩前に出る。
ピーッ!と彼が鳴らした指笛が響き渡ったその時、遥か空の向こうから何かがこちらに向かって飛来してくるのが見えた。
「おっ、来た来た。お~いこっちこっち~!」
始めは小さな豆粒程だったそれが、こちらに接近してくるにつれ定春並の大きさの怪鳥であることが分かり、アストルフォと藤丸を除いた面々は騒然とする。
大きな翼をはためかせ、彼らの前に降り立ったその生き物は、大鷲の頭と獅子の前半身、そして後半身は馬という、何とも奇怪な姿をしていたのだ。
「よ~しよしよし!よく来てくれたね~偉いぞぅ!」
わしゃわしゃとアストルフォに撫でられると、怪鳥は何とも気持ちが良さそうに目を細める。目の前の不思議生命体と
「わあ………大きな鳥さんですね。」
「すっげ~!アストルフォ、それ何アルか⁉」
目を輝かせ、今すぐにでも駆け寄ろうとする神楽の前に、定春が立ちはだかる。怪鳥を睨み低く唸っているのは、飼い主を守らんとする忠義心からであろうか。うーんよく出来たワンちゃんだ。
「大丈夫だよ定春君!この子は何にも悪い事なんてしないから、ねっ?」
アストルフォが顎を撫でながら尋ねると、怪鳥は返事代わりにキューと小さく鳴く。
「それで、そいつぁ一体なんなんだ?」
「紹介するね。この子は僕の相棒、『
「月、か………例え
低く笑い呟く高杉の隣で、いやー例えじゃなくて
「お月様まで行けるのですか………私も行ってみたいですね。」
「松陽が行きたいなら私も行きたいアル!アストルフォ、早速その子に乗って行こうヨ!」
「まぁまぁ神楽ちゃん、今ヒポグリフを
「ちぇ~………でも、それなら今乗れるってことアルか?私も乗せてほしいネ!」
「うんっ、いいよ!それじゃああともう一人は………松陽さん、一緒に乗らない?」
「えっ………いいのですか?」
「勿論!月までは無理だけど、この辺りをびゅーんって飛ぶくらいなら問題ないもんね。マスター、スギっち、いいかな?」
許可を求めるアストルフォに、藤丸は手で
「………あまり高度を上げるなよ、そこら中に宇宙船が飛んでるからな。」
「はーいっ!よかったね松陽さん!」
「はい………わあ、何だかわくわくしますねっ。」
気持ちが高揚するままに、松陽は先に乗ったアストルフォに手を引かれてヒポグリフの上に乗る。彼の後ろに飛び乗った神楽は、松陽の腰にギュッと手を回した。
「松陽はこうして私が押さえてるヨ、これなら落ちる心配は無いネ。」
「ああ、何かあったらまず俺が容赦しねぇ。」
「高杉さん、蝶々めっちゃ飛んでるよ。危ない危ない。」
「それじゃあ、出発おしんこ~!
どこかの嵐を呼ぶ五歳児のような掛け声を合図に、ヒポグリフは動き出す。見守る藤丸達に手を振っていると、自分達の乗っているヒポグリフの進む速度が、徐々にあがっていくのに松陽は気が付いた。
「二人とも、しっかり掴まっててね!そぉれェェェっ!」
強くなっていく正面からの風圧に耐え切れず、松陽は目を
「わぁ………っ!」
眼下に広がる景色に、松陽が上げたのは感嘆の声。
地上から空までを、暗闇に覆い尽くされたこの国。しかし絶えず輝き続ける街の灯りが、常夜を明るく照らしている。大きなものから小さなもの、そしてカラフルなネオンなどによって
「キャッホオォォォォッ!楽しいアル~!」
「それはよかった~、松陽さんはどう?」
「ええと………上手く言えませんが、とても凄いです!」
地上の光に負けんばかりに目を輝かせる神楽と松陽に、アストルフォは満足げに頷く。
よくやったとヒポグリフの頭を撫でてやれば、三人を乗せた幻獣は甲高い声で
「ひゃ~高い高い、あんなとこまで飛んでいけるんだもんなぁ。」
一方、こちらは先程の河原の様子。
地上からアストルフォ達を見上げていた藤丸達であったが、不意に高杉が体を反転させ、そこから歩き出そうとしている。
「わうぅ?」
「あれ?高杉さん、どちらへ?」
「ちょっと野暮用があるんでな、悪いが一、二時間抜けさせてもらう。」
「野暮用って………俺も手伝うよ。高杉さんを一人にさせるなって、ヅラさ……桂さんにも言われてるし。」
「ヅラの野郎、お前にんなコト言ったのか……心配すんな、ちょいとばかり席を外すだけだ。なぁにすぐ戻るさ、あいつらが戻ってきたら、適当に街ン中でもぶらついてろ。」
「ええぇ……でも────」
開きかけた藤丸の口許、そこから出ようとしていた言葉を
「……悪ぃな、こっから先は大人の行く
妖しさを秘め
「それじゃあ頼んだぜ、藤丸。ああ、お前さんにも何か美味いモンでも買ってきてやるよ。」
「わふっ、わぉん!」
定春を数回撫でてから、
「………大人ってさ、こういう時
ぼふっ、と定春のもふもふボディに
遥か上空では、こちらの事情を知らないアストルフォ達が、調査という名の夜空の観光を優雅に楽しんでいた。