Fate/Grand Order 白銀の刃   作:藤渚

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【伍】 曖昧模糊(Ⅳ)

 

 

 『風呂は、命の洗濯だ』

 

 

 

 かの有名なSFロボット作品において、こんな名言が存在する。

 

 入浴というのは、人間が生きる上で欠かせない習慣の一つである。毎日動きまわっていたり、また何もしていない時でも、身体は排出される老廃物によって毎日汚れていくもの。そんな不快感を疲れと共に洗い流せてしまう場所が、ズバリお風呂である。

 (かぐわ)しい香りのシャンプーで隅々まで洗い、適度な温度の湯舟に浸かれば、その日の疲れなど瞬時に和らいでしまう。お風呂って入るまでが面倒だと感じても、いざ済ませてしまえば心身共にサッパリ爽快。余程のことが無ければ、やっぱ入らなきゃよかったなぁ……などと後悔する人もいないだろう。

 

 

 さてさて、今から始まりますのはそんなお風呂での光景。前々回にてアストルフォが松陽の手を引いて浴室まで来た辺りから始まるのである。

 

「ふんふんふ~ん、ふふんふ~ん♪」

 

 上機嫌に鼻歌を奏でながら、指を掛けたサイハイソックスをするすると下げていく。髪を結い上げ、服を殆ど脱ぎ終え、露出の低い普段の衣装ではお目にかかれない白い肌が剥き出しになる。そして最後の砦が畳まれた服の上に置かれ、新たに(さら)け出された彼のスラリとした脚線美は正に…………あの~すいませんお客様、撮影は困りますんでカメラ止めてくださいカメラ。

 

「よしっ、と。さ~てっ今日の汗を流すとしますか!」

 

 勢いよく開けられた扉の向こうには、朦々(もうもう)と湯気の立ち込める浴槽と適度な広さの洗い場。二人で使うには多少狭さを感じるであろうが、まあそれもまた楽しいもの。

 腰に手を当て、仁王立ちの構えで浴室を見渡すアストルフォだが、本来は腰に巻いていなければならない筈のタオルが、彼の頭に鎮座しているではないか。ちょ、コレ文章じゃなかったらマズい絵面(えヅラ)じゃね?とお思いの方もいらっしゃるだろう。だがその辺の心配はご無用、室内を満たすほどの白い煙がアストルフォのアストルフォを上手いこと隠してくれている。しかしこれも湯気が消えてしまえば完全にアウト。さあアストルフォよ、そんなワケだから早いこと湯舟に浸かってしまうのだ。

 

「は~い、それじゃあ松陽さんも────あれ?」

 

 うきうきと昂揚する気持ちのままに振り返ったアストルフォだったが、ここで彼の目は点になってしまう。胡麻(ごま)のような瞳の先にいた松陽は、まだ一枚も衣服を脱がないまま、俯いて何やらもじもじとしていたのだった。

 

「松陽さん、どうしたの?」

 

「あ、えっとですね………アストルフォさん、いえアストルフォ君のお誘いは嬉しいのですが、その…………やはり人前で服を脱ぐというのは、まだ(いささ)か抵抗があるといいますか……。」

 

 袖の端を掴んだまま何度も(ども)る松陽は、耳まで顔が赤くなっている。

 

「そっかー、昨日は松陽さん眠ってたし、こうやってちゃんとお風呂に入るのは初めてだよね~………ぃよっし、それなら僕が素裸(すっぱ)に剥き剥きしてあげる!」

 

「え、えええぇぇっ⁉あの、そこまでしていただかなくとも……‼」

 

「ほ~らほら、早くしないと僕の悪戯(いたずら)なお手々がどんどん近付いてっちゃうよ~ぉ?」

 

 両手をわきわきと不気味に動かしながら、アストルフォが徐々にその距離を詰めていくと、松陽は血相を変え悲鳴にも似た声を上げた。

 

「はわわ、まっ待ってくださぁい‼じ、自分で脱げますのでっ‼」

 

 ぴしゃっ、と音を立てて閉められた扉。松陽の慌てぶりを思い出し忍び笑いをしていたアストルフォの脳裏に、ふと昨日のことが浮かぶ。

 

 

『松陽先生の着物を着替えさせた際に気付いたのだが、あの人の背中に赤い刺青のような、この模様があったのだ。』

 

 

 重々しく言った桂が、こちらに掲げたその図に(えが)かれていたのは、誰もが体の芯から震えあがってしまう程に、鬼を(かたど)ったかのような(おぞ)ましい紋様。

 だがアストルフォ達がその存在を知らされたのは、松陽の介抱を行っていた桂と高杉の二人のみであり、証言と絵図だけではどうにも信憑性に乏しい。

 丁度いい機会だし、だったら自分の目で確かめたほうが早いよね~。思い立ったらすぐ行動なアストルフォの手が、微塵(みじん)躊躇(ためら)いもなく取っ手に掛けられる。おいおい理性が蒸発している設定(プロフィール)をいいことに、それ以上はちと容認しかね───

 

「それ~ぃっ!」

 

 ガラッと横にスライドした扉。その向こうの脱衣場では、既に肩から二の腕の辺りまでが肌蹴(はだ)けた松陽が、きょとんとした様子でこちらに振り向いている。好都合とばかりに彼の背中を食い入るように見つめていたアストルフォであったが、ここで不可思議な点に気が付く。

 

「………ありゃ?」

 

 

 無い。どこにも無い。

 

 ヅラ、じゃなくて桂達の言っていた鬼の刻印が、松陽の背中のどこにも存在していないのだ。

 

 彼らが嘘など()く人間……今はサーヴァントだが。とにかく、そんな男達でないことはアストルフォも充分に承知している。だが今自身の眼が認識しているものは、傷痕一つ無い色素の薄い背中。

 

「あれれ~………おかしいなあ?」

 

 アストルフォが首を(ひね)っている一方、不意を食らい暫し呆けていた松陽だったが、やがて頬から始まった紅潮は顔全体へと広がっていく。

 

「あ………ああああアストルフォさん………っ⁉」

 

 肩は戦慄(わなな)き、瞳は潤み、羞恥と狼狽が50(フィフティー)50(フィフティー)となっている松陽に、アストルフォは慌てて釈明する。

 

「わっ!あのあの、勝手に開けてゴメンね!えっとぉ………そうだ!あのさ、そのままじゃお風呂に浸かる時、髪の毛がお湯に入っちゃうよ?だから松陽さんのもこうして僕みたいに纏めてあげようと思ってさ、ねっ⁉」

 

 しどろもどろになりながら、苦し紛れに思いついた言い訳を述べるアストルフォ。すると暴発寸前だった松陽の(おもて)に、少しずつ平静さが戻りつつある。

 

「おや、そうだったのですか………すみませんアストルフォさん、貴方のご厚意をどうやらおかしく捉えてしまったようで……。」

 

「いいよいいよ、元はと言えば僕が悪いんだもん。さっ松陽さん、僕が結ったげるから前向いてて~。」

 

 思惑がバレなかったことに心底から安堵しつつ、アストルフォは再び正面を向いた松陽の背中へと近寄っていく。

 彼の髪を(すく)い上げれば、絹のようなきめ細かい手触りが指の間を通っていく。その心地良さを堪能しつつ、アストルフォは(あら)わになった背中にもう一度目をやる。先程より一層近場で見ることの出来た松陽の背だが、やはりそこに異変は何も確認出来ない。

 

「ねえ松陽さん、背中のさ───」

 

 そこまで言い()したアストルフォだったが、一顧(いっこ)した松陽の表情を見た時、思わず言葉が詰まる。

 こちらを不思議そうに見る彼の瞳には、一点の濁りも無い。どこまでも透き通った琥珀色は、正に無垢の表象………そしてアストルフォは常時蒸発する(やや)いい加減な理性の中で直感する。ああ多分、この人は本当に何も知らないんだろうな。と。

 只でさえ記憶を失っているというのに、ここで下手に事実を告げても彼が余計に混乱するだけだろう。ならばいっそ話さなくていいやー、聞かれたら答える感じでいいよねー。と動き出した楽天的思考が活動を再開する。はいシリアスモード終わりー。

 未だこちらに振り向いたまま、怪訝そうにしている松陽。そんな彼の背中をつつ~と指でなぞってやると、『ひゃわぁっ⁉』と不意打ちを食らい悲鳴を上げた松陽の体が大きく跳ねた。

 

 

 

 

   *   *   *   *   *

 

 

 

「てなことが、ついさっきお風呂場でありましたとさ。あっパチ君~狩比酢(カルピス)もう一杯。」

 

 アストルフォが差し出したコップに新八は我に返り、受け取ったそれに追加の狩比酢を注いでいく。一方他の面子はというと、皆開いた口が塞がらない状態で彼と松陽を交互に見()っている。

 

「いや背中の云々もそうなんだけど、回想の最後の『ひゃわぁっ⁉』ってのは何?ガチで松陽がそんな声出したの?」

 

 銀時が向ける好奇の視線の先では、羞恥のあまり居た(たま)れないでいる松陽が、抱き上げたフォウで(ほて)る顔を隠していた。

 

「いいな~アストルフォ、私も松陽とお風呂入りたかったアル。」

 

「すっごく楽しかったよ~。背中流しっこしたり、お湯の中で一緒に百まで数えたりしてさ。最後におまけの汽車ポッポもちゃんとやったんだ~。そうだ、今度は皆で入ろっか?きっと面白いよぉ!」

 

「キャッフォォォ!入りたいアル~!」

 

「こらこら!アンタ達には恥じらいってものがないの⁉混浴乱交プレイだなんてふしだらな展開になってみなさいな!いよいよこの連載継続出来なくなるわよ⁉ほら~仔犬からも何とか言ってちょうだい!」

 

「いやエリちゃん、乱交プレイは誰も言ってないと思うよ。しかし多少のドスケベハプニングがあったほうが、閲覧数も評価も稼げて(むし)ろ美味しいのでは………ハッ、いけないいけない。主人公の一人たるもの魔が差してしまうだなんて、狩比酢飲んで頭冷やそう(ゴクッ)」

 

「あっマスター、それは原液のボトルにござりまする。」

 

 段蔵の注意も虚しく、濃縮100%の狩比酢原液を半瓶程飲んでしまった藤丸は案の定激しく咳き込み、せめて口内だけでも相殺すべくボトルの隣にあった冷水をぐびりぐびりと豪快に(あお)った。

 

「それにしても、刻印が無くなっていただなんて………てっきり桂さん達が見間違えた、なんてことも考えはしましたけど、僕らもあの時に『アレ』を目撃していますからね。」

 

「?……新八君、『アレ』とは一体何のことだ?」

 

「ほら、僕らが沢山の魔物に襲われて、桂さん達が助けに来てくれる前ですよ。あの時藤丸君を(かば)って負傷した松陽さんの裂けた着物の間から、(ほの)かですけど光のようなものが見えたんです………いや、暗闇であんなにはっきりと見えたんだもの。あれはきっと光に違いない。」

 

 自身の言葉に確証を得るかのように、新八は何度も頷く。どういうことだ、と桂が切り出してくる前に、会話を聞いていた銀時が(くちばし)()れた。

 

「俺も多少は朦朧(もうろう)としてたが、そん時のことはよく覚えてる。確かに化けモンの爪にやられた松陽の背中は、淡く光を放ってた。それも暫くしたら消えちまったが、その後松陽を抱えてから更に驚いたぜ。何せ背中(そこ)にある筈の裂かれた傷が、どこにも無いんだからな。ありゃ一瞬にして癒えたのか、それとも最初(ハナ)から斬られてなかったのか………ああくそ、考えても分かんねえわ。やっぱりコレもお前らの言ってた刻印とやらに関係が─────ヅラ?」

 

 ふと銀時は、向けられる視線の変化に気が付き朋友の名を呼ぶ。

 ヅラじゃない桂だ、といち早く渾名(あだな)に反応を見せる筈の桂は、酷く愕然とした様子でこちらを瞠視している………いや、彼だけではない。松陽の頭上に登ろうとするフォウを抱き上げていた高杉もまた、桂と同じ眼差しを銀時へと向けていたのだ。

 

「銀時………貴様、何を言っているのだ?」

 

「何を、って……何のこと?」

 

「とぼける真似も大概(たいがい)にせんかっ‼貴様が、よりにもよって貴様が知らぬ筈はなかろう⁉」

 

 憤然として銀時に迫る桂。後退するのがあと少し遅ければ鼻の頭がぶつかってしまう程の勢いに、銀時と隣の新八も目を丸くする。

 

「おいおい待てって。んなおっかない顔されてもよ、本当に心当たりが無ェんだってばよ。」

 

「銀さん、本当に覚え無いんですか?桂さんがこんな風に怒るなんて、普通じゃないですよ?頭の中ひっくり返してよ~く思い出してみてくださいよ。」

 

「そうは言っても…………あ、もしかしてこないだのアレまだ怒ってる?お前がウチに逃げてきた時、(トイレ)行ってる間に財布からパチンコでスった分拝借したの。ごめんね~あん時さぁ、ババアの家賃催促がいつも以上にしつこくって。借りた分は後でちゃんと返すから、ね?」

 

「ね?じゃないだろ貴様ァァァッ‼俺の知らぬ間にそんなことを……………いや、今はよい。知らぬというのであれば、俺がお前に─────」

 

 そこまで言い()した桂であったが、突如背中に走った悪寒に震驚し、続く言葉は強制的に遮断されてしまう。

 回顧(かいこ)した桂が辿った先には、何も言わずにこちらを睨みつけてくる高杉の姿。まるで射殺さんとばかりに鋭い視線を向けられたことに驚きつつも、その行動が示す彼の旨意(しい)を何となくではあるが察した桂は、それ以上の口を(つぐ)むことにした。

 

「俺がお前に…………何だよ?ヅラ。」

 

「……ヅラじゃない桂だ、あと金返せ馬鹿者。」

 

「や、金は後で返すって言ったじゃん。ローン何回分になるか分かんねえけど。それより今、何か言い掛けて────」

 

「ええい貴様っローン組むとか何年掛けて返済する気だ⁉とにかく、この話はここで一旦終わりだ!いつまでも留まっていては物語が進行しないからな、はい次!」

 

 パァンッ!と鼻先で鳴らされた手に、一驚した銀時は仰け反る。新八を巻き込んで床に倒れた彼の中に小さな(わだかま)りを残したまま、桂は題目を強引に次へと移した。

 

「さてと……それではこれより、英霊(サーヴァント)となった我々に新たに備わった力、『宝具』について復習を行っていきたいと思う。では藤丸君、それに高杉もよろしく頼むぞ?」

 

 親指を立て解顔(スマイル)する藤丸とは裏腹に、高杉は(しか)めっ面で(わずら)わしさを露骨に出している。だがその両腕を神楽とアストルフォにがっしりと掴まれ、おまけと言わんばりに定春が鼻で背中を押してくるため、定位置の窓際への逃避は不可能と観ずると同時に、彼女らと共に床へと腰を下ろした。

 (ちな)みに、彼の手から離れたフォウは小さな歩幅で一生懸命に床を駆け、またいつもの定位置である銀時の頭上への登頂を無事果たしていたのであった。

 

「お前達が既にカルデアで耳にした内容もあるかとは思うが、ここはまず聞いていてほしい………宝具というのは、我々サーヴァントにおいて重要な切り札となるもの。ざっくり言ってしまうと、必殺技のようなものだ。」

 

「そこまでは、ダヴィンチちゃんさんが説明してくれたままですね………そういえば、銀さんも神楽ちゃんもあの時、出されたお菓子に夢中になってて全然聞いてなかったと思うんですけど。」

 

「や~だってさぁ、俺今日(こんにち)まで生きててあんな美味いモンブラン食ったの初めてだったもん。あん時はあまりの感動に、味覚と嗅覚そして視覚以外の全機能が一時停止して、俺の全ての神経があのモンブランへと注がれてたな。うん。」

 

「それってエミヤ君の作ったお菓子でしょ⁉いいな~僕も食べたかったよぅ!」

 

「エミヤってあの赤いガングロコックのことネ?私アイツからクッキーも貰ったけど、それも凄く美味しかったアル。また食べたいな~。」

 

 神楽の口端から伝う(よだれ)を段蔵がハンカチで拭ってやっている光景を椅子から眺めていた松陽は、聞き慣れない単語に小首を傾げる。

 

「もんぶらん、とは何ですか……?銀時さんや神楽ちゃんのお話を聞いた限りでは、とても美味しいもののようですが。」

 

「あら、松陽ったらモンブラン知らないの?モンブランっていうのは栗を使ったケーキのことでね、スポンジケーキの上にクリームや絞った栗をふんだんに乗せて、お山の形に似せてあるの。甘~いマロンペーストとふわっふわのスポンジを、滑らかな生クリームと一緒に口に入れた時の幸せときたら………あぁ~ん想像しただけで涎が零れちゃうぅぅ!」

 

 うっとりと恍惚(こうこつ)の笑みを浮かべるエリザベートのモンブラン解説に、松陽の好奇は益々(ますます)そそられる。そんな彼の姿を見ていた高杉が、不意にぼそりと呟いた。

 

「………そんなに気になるんなら、俺が明日調達してきてやるよ。」

 

「ほ、本当ですか……っ⁉でも晋助さん、そこまでしていただかなくとも………。」

 

「なぁに、他でもねぇ貴方(アンタ)のためなら、このくらい造作も無ェこった。」

 

「晋助さん…………ありがとうございます、とても嬉しいです!」

 

 仄かに頬を染め、心底から喜気とし顔を綻ばせる松陽を(うつく)しみ、高杉は細めた右眼にその姿を焼き付けるように映した。

 

「あ~っ!スギっちったらまた別行動する気だね⁉」

 

「そういうこった。ま、お(ひい)さんらの食い分も用意してやるから、それで勘弁してくれるかい?」

 

「キャッフォォォ!流石スギっち一生ついてくネ!」

 

 神楽からのハグを受ける高杉に「も~しょうがないなぁ」と呆れつつも、遅れて彼女と同じようにアストルフォはその細い腕にしがみつく。

 ほのぼのとした室内の空気ではあるが、それを引き締めたのはやはり桂の咳払いであった。

 

「………皆、話を戻してよいかな?」

 

「は、はい………でも必殺技って言ったって、銀魂は少年漫画の魅力の一つである必殺技が無いことでも知られてますし、そんな僕らに宝具なんて本当にあるのかな……?」

 

「新八君、何も宝具は一撃必殺のド派手な技ばかりじゃないんだよ。人間の幻想を骨子として作られたそれらには色んなものがあって、剣や槍なんかの武器は勿論のこと、指輪なんかの普段から身に着けてるものから該当することだってあるんだから。」

 

 藤丸の補足を皆が頷きながら聞いている中、「おお、そういえば……」と何かを思い出したように掌を拳で叩いた桂は、何やら奥のほうでガサゴソと漁る動きを見せる。全員の視線が彼へと注がれる中、桂は引っ張り出したあるものをこちらに広げてみせた。

 

「ふふん、どうだ?可愛かろう。」

 

「別に。つーかソレ、お前がこの作品初登場の回で着てたQ〇郎の着ぐるみじゃねーか。何今更自慢してきてんの?別に羨ましかねーんだよ。」

 

「Q〇郎じゃないエリザベスだ。この流れで俺がただこのエリザベスの着ぐるみの自慢をすると思っているのか?それは違うぞ銀時、俺が貴様らに言いたいのは、コレこそが俺の宝具の一つだということだ。その名もズバリ、『雪白片吟(イザベラ)絶対障壁(ブークリエ)』!どうだカッコいいだろう⁉」

 

 宝具だと自称したその雪白……うんたらという名を冠したその着ぐるみをはためかせ、自慢げに見せつけてくる桂を見る皆の反応はというと、笑顔で拍手をする松陽とアストルフォ以外は誰もが口を開けて唖然としていた。

 

「イザベ………えと、何?もっかい言ってヅラ。つーかやたらと厨二臭さを感じるその名前は、もしかしなくても自分で考えたの?」

 

「ヅラじゃない桂だ。いいかよく聞け、『雪白片吟(イザベラ)絶対障壁(ブークリエ)』だ。只でさえネーミングセンスが壊滅的な書いてる奴が辞書やらグー〇ル先生に(すが)りつくやらして小一時間かけてつけた名前らしい。まあ正直俺もどうかとは思っているのだが、エリザベスを崩した異国のこの呼び名は割と気に入っているのだぞ。」

 

「あはは………それで桂さん、その宝具は一体どんなものなの?」

 

「おっ、知りたいか藤丸君。ならば実際に体験してみたほうが早いだろう。」

 

「え?体験って───」

 

 困惑する間も与えられず、藤丸の頭上を黒い影が覆う。それが桂の仕業であることに気付いた時には既に遅く、次の瞬間には全身を着ぐるみですっぽりと包まれてしまった。

 

「ぎゃ~っ‼ちょっとツバメ、仔犬に何てコトすんのよっ⁉」

 

「いいなぁマスター、次僕ね~!」

 

 白い化けモ……もといエリザベスとなってしまった藤丸の傍に寄るサーヴァント達。人理を救った星見(カルデア)の希望である彼のこんな姿を見れば、未だ連絡の取れない向こうのマシュはどんな顔をするだろうか。ああでもダヴィンチちゃんは腹を抱えて笑うと思う。確実に。

 着ぐるみの中で暫くジタバタしていた藤丸だったが、ふと動きが一時停止したかと思うと、利き手に持った何かを掲げた。

 

「『大丈夫だいじょぶ、中結構快適だから(*^^*)』………それならば一安心ですね、マスター。」

 

「ていうか、アンタそのプラカードでどうやって台詞の掲示が出来てんのよ?一々書いてるわけでもなさそうだし、どんな仕組みなのかしら……?」

 

 怪訝な顔のエリザベートにエリザベス……もといエリザベスの中の藤丸が再び掲げたプラカードには、『いや~俺にもよく分かんない(´・ω・)?』とまたも顔文字が添えられて書かれていた。

 

「この宝具の効果は常時発動しているものであってな、暑さや寒さなどの気温の変化への対応は勿論、外敵からの攻撃や呪詛(じゅそ)(たぐい)も弾き返すことの出来る優れものなのだぞ。()いて不便な点を挙げるとすれば、それらの効果は着ぐるみの繊維に編み込まれた俺の魔力によるものであるため、それが底を尽きればたちまち只の暑苦しくて動きにくい着ぐるみと化してしまうことだがな。」

 

「あ、桂さんたら認めちゃいましたよ。やっぱり自分でも動きにくいとか思ってたんですね。」

 

「マスター、その中ってそんなに快適なの?それじゃ僕もお邪魔しま~すっ!」

 

 アストルフォは可否の返事も待たずして、(めく)った裾(?)から強引に中へと侵入してくる。もぞもぞと(うごめ)く中で、藤丸がひっくり返したプラカードには『ぎょわええェェやめっ止めてェェェッ‼(゚Д゚;)』と顔文字のせいであまり危機感が感じられないが、とりあえず大変なんだろうといった具合の訴えが記されていた。

 

「それにしても、宝具ってゲームや漫画に出てくるような凄く派手で強烈な必殺技みたいなのを想像してたんですが、こういうタイプのものもあるんですね。」

 

「そうだな新八君。一口に宝具と言えど、そのタイプは様々なものが存在する。第一宝具というのは、英霊(かれら)が生前に築いた逸話や伝説、そして武器などを基盤として生まれた例が多い。(ある)いは没後に語り継がれ、自身の最期に大きく関わった、つまりは死因となったものなど、後天的に得たという事例もあるのだという………つまりまとめて言えば、宝具はその英霊の『奇跡が物質化』したものだと、俺達の霊基には刻まれている。お前もそうだろう?高杉。」

 

 桂に振られると、高杉は気怠げに髪を掻く動作をした後に右眼をこちらへと動かし、ゆっくりと唇を動かす。

 

「それに、サーヴァント一騎に対し宝具は一つだけ、なんて原則(ルール)は厳しく存在するわけじゃねえ。そこのヅラだって、ペンギンの被りモンの他にドでけぇ宝具(モン)を奥の手として隠してたりもするわけだからな。」

 

「ヅラじゃない桂だ。それは貴様とて同じだろう、あれだけの魔力を有する宝具を顔色一つ変えることなく放つとは、つくづく貴様は恐ろしい男だ。それとも、復讐者(アヴェンジャー)とやらの魔力も実は底なしであったりするのか?」

 

「ハッ、魔術師(キャスター)のテメェがそれを言うか。いざとなれば術者(マスター)の加勢も必要としなくてもいいクラスのくせによぉ。」

 

「図に乗るな馬鹿者め。多少魔術に優れていようと、俺など所詮、一介のサーヴァントの中の一騎に過ぎん。それに一度、貴様の前で披露したことがあるから分かるだろう………正直『アレ』はとても疲れるから、あまり使用はしたくない。出来れば本当に奥の手としてしまっておきたいものだ。」

 

 不機嫌に呟いた桂はこめかみを押さえ、深く溜息を吐く。そんな二人を交互に何度も見()りながら、銀時を始め新八そして神楽も目を白黒とさせていた。

 

「えっ?ちょっと待て、まさかお前ら……もう自分の宝具持ってたりするわけ?」

 

 口角を引き()らせながら(ただ)す銀時に、桂と高杉は一瞬だけ目を交わせた後に、同時に頷く。

 

「持っているも何も、サーヴァントには備わっているものだと先程説明したばかりであろう。」

 

「だって俺、出し方知らねーもん!どうすりゃいいの?体内の潜在エネルギーを手の中で凝縮させて一気に放出させればいいのか⁉あっでも確か打てるようになるまで50年は修行しなきゃいけねぇって亀仙人が───」

 

「誰がか〇はめ波打てっつったよ。それ本当にやったら多方面から叱声の嵐だからな………いいか銀時、それにお前らも聞いておけ。宝具の能力(ちから)を解放するにあたって必要なのは、『真名の解放』だ。これさえ判明すりゃあ強大な力も手足のように操ることが出来るようになる。だが今の銀時を見る限り、俺達と異なる形で召喚されたお前らには、この宝具の真名の知識は備わっていない……違うか?」

 

 高杉が投げ掛けると、万事屋の三人と一匹は互いに顔を合わせ、やがて揃って首を縦に動かした時、神楽がぽつりぽつりと零し始めた。

 

「ねえヅラ、スギっち……宝具って、その真名が分かんないと使えないアルか?私達せっかくサーヴァントになれたのに、今よりもっと強くなれるかもしれないのに……………こんなんじゃ、おかしくなったこの江戸(くに)を救えないアル。もしもこの間の怪物より、もっともっと強いヤツが出て来たりしたら……………私達、本当に松陽のこと守れるアルか……?」

 

 真っ直ぐにこちらを見ていた神楽の(おもて)は徐々に下がり、瞳には暗い影が差し始める。銀時の頭から降りたフォウが彼女の顔を覗き込むと、服の裾を握っていた手が小さな獣を優しく撫でた。

 

「神楽ちゃん……。」

 

「くぅーん……。」

 

「……なあお前ら、どうにか出来ねぇモンか?神楽の言う通り、イカれちまったこの国じゃあ何が起きてもおかしくは無ェんだ。なのに俺らがこんなザマじゃ、松陽どころか藤丸も守れやしねえぞ。」

 

「分かっている。しかしそうは言っても、宝具の真名を一番理解しているのは他でもない本人自身だからな………まあ、宝具の中には真名の解放を行わずとも使用できるものもあるらしい。だがそれは英霊(サーヴァント)自身の属性や特殊な能力が発動することで、初めて力を帯びるものだ。だがそれらに関する記憶が欠落している場合は、殆ど意味を()さないのと同じだぞ。」

 

 桂の厳しい指摘に、意気消沈してしまった銀時達は一人として言葉を発さない。俯く彼らの姿を捲った裾(?)から藤丸がアストルフォと共に垣間見ていたその時、一際(ひときわ)大きな溜め息が室内に響き渡った。

 

「全く、何くよくよしてんのよアンタ達。らしくないじゃない。」

 

「……うるせえな、トカゲ娘。こちとら真剣に考えてんだよ。」

 

「そんなの見れば分かるわ。でもね、アンタ達がそんなんじゃアタシの調子が狂っちゃうの。だからいい?よ~くお聞きなさい………宝具の真名なんてねえ、分からなかったら自分でつけちゃえばいいのよ。」

 

「はいはい、んなこたぁ分かって─────は?」

 

 突拍子もない一言に、銀時は空いた口が塞がらない。彼だけでなく隣の新八も、口蓋垂(のどちんこ)が丸見えになるほどにあんぐりと大口を開けている。因みに神楽と定春はというと、その手があったかと感心し何度も頷いていた。

 

「……えっと、エリちゃん。今なんて?」

 

「うわっ、アンタにエリちゃん呼びされると違和感ありありで何だか気色が悪いわ。」

 

「んだとテメェゴラァァァッ‼人のコト毛玉呼びしてるくせに何なの⁉じゃあもういいわ最終回までずっとトカゲ娘固定にしてやるっ‼」

 

「銀さんたら、少し落ち着いてください………それよりエリちゃん、今言ったことって一体どういう意味なんだい?自分で名前をつけるだなんて、そんなことしても平気なの?」

 

「ええ、問題無いと思うわよ。だってカルデアには、自分の宝具の名前もたまに忘れるおっちょこちょいだってほんの(まれ)にいるし、それにアンタ達があそこで出会った人物で、前にそうしてた子がいたんだもの。ねえ貴方達?」

 

 エリザベートが視線を移した先には、捲った着ぐるみから全身を覗かせた藤丸とアストルフォが、朗笑して頷いている。

 

「そ~そ~、僕なんてとある宝具の真名をしょっちゅう忘れちゃってさ、肝心な時に使えなくて何度も困ったことあるからね~。」

 

「まあ、自分で名前をつけるといっても、あくまで真名が分かる間の仮初のようなものなんだけどね……………俺が初めてレイシフト、人理を守るための時間跳躍を行った時、着いたその街で味方になってくれた英霊(サーヴァント)が言っていたよ。『宝具というのは英霊の本能、つまり自分そのものだ。それに従った強い覚悟、強い想いがあれば魂と呼応して、(おの)ずと目覚める』………ってさ。」

 

「……強い覚悟と、想い………。」

 

 藤丸の言葉を反芻(はんすう)し、同時に銀時の二つの紅がある方向へと動く…………長椅子に座ったままこちらを見ている松陽とそれが重なれば、彼は温恭なその(かお)にあどけない微笑みを浮かべた。

 

 

「(俺がまた、こいつを守ろうと強く心に誓えば………宝具(むこう)のほうからこっちに出てきてくれる、ってことなのか……?)」

 

 

 銀時は目線を落とし、開いた自身の掌を無言で見つめ続ける。

 

 サーヴァントとして藤丸に召喚されてから、既に二日経過している。変質した自身の変化に未だ自覚が持てないのは、恐らく自分だけではない。

 しかし、起きてしまった事態(こと)をとやかく考えていても仕方がない。この変貌した世界を救い、そして大切な(もの)を守り抜く…………その為に必要な更なる力を、今は身につけなければいけないのだ。

 

 

 

 『今度こそ』、絶対にその手を離さない為にも───。

 

 

 

「……それじゃつまり、私達は名前が分からないっていうだけで、その宝具が使えない、ってわけじゃないアルな?」

 

「ええ。今はまだ本当の宝具が使えずとも、いずれ必ず芽吹く時が来まする。故に神楽殿が落胆する必要は、もうございませぬ。」

 

 浮かべた微笑と共に段蔵が言い果つと同時に、先程までの落ち込み具合が嘘であったかのように、神楽の顔がパァッと明るくなる。銀時が隣に目をやれば、自信に溢れた表情をした新八が、気付いたこちらに快活な笑顔を向けた。

 

「やっといつもの調子に戻ったようね、全く手間のかかる連中だこと。」

 

「うん、ありがとうエリちゃん!」

 

 活力を取り戻すきっかけとなった彼女に礼を言った時、ふと新八は頭に浮かんだ疑問を投げ掛けてみることにする。

 

「そうだ。そういえば気になってたんだけど、エリちゃんの宝具ってどんなの?」

 

「………え?」

 

 上機嫌にくるくる回っていたエリザベートが、その一言に硬直する。

 きょとんとした様子の彼女であったが、その表情が驚きから歓喜に変わるまでの時間は一秒もかからなかった。

 

「ほ、本当……⁉眼鏡ワンコ、アタシの宝具(ステージ)がそんなに見たいの⁉」

 

「わわっ⁉近い近い近いっ!えっと、ステージ……っていうのはよく分からないけど、その………サーヴァントの先輩としてさ、エリちゃんはどんな宝具を展開するのかな~って気になったから……。」

 

 鼻先がくっついてしまいそうな距離まで顔を近付けられ、童て……いかんいかん、純真な少年である新八は赤面し、どもりながら理由を述べる。しかしそんな新八の言葉一句一句に頷きを返し、全て聞き終えた後のエリザベートのご機嫌は、最早有頂天そのものであった。

 

「いいわ!kedves(素敵よ)!アイドルたるもの、ファンの期待には応えてあげないと!それじゃあサーヴァント界の絶☆対☆的アイドル、エリザベート・バートリーが、今宵ここでスペシャルな宴を開いてあげる!」

 

 フリルのスカートを揺らし、踊るような動きで彼女は窓際へと移動していく。これから何が始まるんだと、銀時達の注目はエリザベートへと集まっていった。

 

「ん~、記念すべき第一回目の公演(ライブ)にしては、ちょっと会場が狭いのが不満ね。まあ仕方ないわ、だって今日は江戸(こっち)に来て初めてのライブだし、ファンとの身近な交流も大事なコトだわ………よっと。」

 

 利き手に展開した愛用の竜骨槍を握り、両の手に構えたそれの先端を木の床にブッ刺し……はせず、軽~くトン、と当てれば、そこに小さな魔法陣が浮き上がる。

 

「おおっ!エリちゃん凄いネ!」

 

「おいおい、大丈夫かよコレ?部屋壊したりしたら後でババアに怒られんぞ?」

 

「大丈夫よ。これは召喚式なんだし、部屋には傷一つ付かない筈……だわ!」

 

 最後の方ちょっと怪しくなかった?と新八が突っ込みを入れる前に、微々たる揺れ……といっても人が歩いたぐらいの振動を伴って、魔法陣から何かがせり上がってくる。

 やがてエリザベートの膝下辺りで振動と動きを止め、室内の幅いっぱいに広がったそれらは、西洋の城のような形をした増幅器(アンプ)であることが判明した。

 

「さあっ、準備は整ったわ!仔羊達~準備はいい⁉」

 

 マイクの搭載された槍で呼びかければ、彼女の美声がアンプから轟く。

 イエ~イ!と意気揚々に拳を上げる新八と神楽、そしてどこからか出したサイリウムを振る桂に呆れ(まなこ)を向けていた銀時は、ふと藤丸達がやけに静かであることに漸く気付く。

 不審に思い辺りを見渡すと、エリザベートのいる窓際から大分離れた部屋の隅に彼らはいた…………しかし、どうも様子がおかしい。

 集まる皆の背中を一点に見つめたまま正座をしている段蔵は、いくら呼びかけても反応が無い。それに彼女の隣にいる桂の宝具・イザ、イザベ、えーと………もとい、エリザベスの着ぐるみの裾(?)からは四本の足、そしてもふもふの尻尾が度々見え隠れし、やたらともぞもぞ動いている。

 

「おい藤丸、聞こえてんだろ……?一体どうしたんだよ?」

 

 普通でない空気を察し、銀時が(ひそ)めき声で質す。何やらこそこそとしている銀時の後ろ姿を目撃した高杉も、怪訝な顔でこちらに歩み寄ってきた。

 

「お前ら、何してんだ?」

 

「おう高杉、実はさっきからこいつらの様子が───」

 

 そこまで言い止した時、エリザベスの着ぐるみがプラカードを掲げる。白い木板を持つその手は、ほんの僅かに震えているようだった。

 

「ああ?何だコレ………『只今より、此処にてジャ〇アンのリサイタルが開催されます!地獄を見たくなければ、急ぎ耳を塞ぐべし( ; ・`д・´)』…………ジャ〇アン、ジャ〇アンって、本名は剛〇武君で間違いない?」

 

 書いてある内容がいまいち理解出来ず、キーワードとなっている単語を繰り返す。数秒の後、やっと藤丸が伝えてきた危機の意味を理解した銀時の顔は、瞬時に青ざめた。

 

「……おいおいおいおいおい!ってことはあのトカゲ娘、ジャ〇アン並の音痴を宝具にして流すつもりってことじゃねえか‼やべぇぞ高杉、ってアレェェェもういないっ⁉」

 

 慌てて周囲を見渡す銀時だが、高杉の姿はあっさり見つけることが出来た。彼は既に松陽の背後へと移動しており、自身の両手で彼の耳をぴったりと覆っているのである。その行動が示す意味をまだ理解していない松陽は、目を(つむ)り虚無となっている高杉を不思議そうに見上げていた。

 師を守る為に自らを犠牲にしようとする彼に心中で敬意を送った後、銀時があたふたと狼狽している間に、エリザベートの召喚したアンプ・ミニチェイテ城からイントロらしき音楽が流れだした。

 

「やっべ、始まりやがった!段蔵、お~い段蔵ちゃん⁉アレお宅んとこのサーヴァントだろ何とかしてくれよ⁉」

 

「ピー、段蔵は只今聴覚を遮断しております。ご用件のある方はやたらとうるさいくしゃみの後にメッセージをどうぞブルゥゥゥアッックショイッッッ‼」

 

「ギャアアァッ‼唾液(?)がやたらとオイル臭い‼ちっ、もうこうなったら仕方ねえ。おいお前らっ俺も中入れろ!(ガバッ)」

 

「キュッ⁉フォウフォウッ!」

 

「キャアァァァッ!銀ちゃんのエッチ~!」

 

「ちょっ銀さん!ここはもう定員オーバーだよ‼他のエリザベスをご利用くださいっ!」

 

「おいコラてめぇらっ閉め出そうとしてんじゃねえぞ‼銀さんがここでくたばったらどうするつもり?主人公不在でクロスオーバー続けていけんのか?え?これ書いてる奴はそんな器用な真似出来ないこと知ってるよな~何せ現時点で予定文字数だいぶ超過しちまってるもんなぁ?」

 

「双方の主人公がお陀仏になったらそれこそ作品続けていけなくなると思うけどぉ⁉大丈夫、もし銀さんがいなくなったとしても、人理修復経験豊富な俺が見事この世界を救ってみせるから!」

 

「さっすが僕らのマスター!いよっ頼もしいねぇ!」

 

「こんガキゃァァァッ‼藤丸っ主人公の座はてめぇ一人のモンにさせやしねえぞ………あれっ、もしかしてそろそろイントロ終わっちゃう感じ?ヤバいよヤバいよもういいからさっさと中に入れさせ痛でででっおいフォウ噛むなって‼頼むよ藤丸君アストルフォっ‼お願い300円、いや500円あげるからァァァァァッ‼」

 

 

 

 

 

 

「皆~!今日はエリザの大江戸・初ライブに来てくれてありがとう~!」

 

 

「「イエェェェェェェイッ‼」」

 

 

「華々しい未来を期待されたアイドルのライブにしては会場も狭いし、観客の動員数は明らかに少ないけれど、これからどんどん目覚ましい活躍を遂げてやるんだから!これからも是非応援してね!」

 

 

「「イエェェェェェェイッ‼」」

 

 

「それじゃ豚共、行くわよっ───『鮮血魔嬢(バートリ・エルジェーベト)』!」

 

 

 

 

 

 開幕の挨拶を終え、少数の観客の歓声を受けたエリザベートは、高鳴る鼓動に身を弾ませ、そして大きく息を吸い込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────刹那、宵のかぶき町に響き渡った………否、これは最早轟いた、と言ったほうが相応しい。

 

 

 繁華街を震わす程の爆音と重なるように奏でられる、狂乱したリズムと劣悪な音程、そして聞いているだけで胸がむかついてきそうなくらいに甘ったるい、スイーツなメロディーとハチャメチャな歌詞。それらが合わさって生まれた音達は不協和音(ハーモニー)となり、スナックお登勢の周囲にいた近隣の人々を騒然とさせた。

 

 

こうして、唐突に行われたエリザベートの初リサイタルは、夜が明けぬ人々の心を恐怖と混乱の渦へと陥れ、不可解な怪異として翌日の朝刊の一面を飾ることとなるのであった。

 

 

 

 

 

 

《続く》

 

 

 

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