『風呂は、命の洗濯だ』
かの有名なSFロボット作品において、こんな名言が存在する。
入浴というのは、人間が生きる上で欠かせない習慣の一つである。毎日動きまわっていたり、また何もしていない時でも、身体は排出される老廃物によって毎日汚れていくもの。そんな不快感を疲れと共に洗い流せてしまう場所が、ズバリお風呂である。
さてさて、今から始まりますのはそんなお風呂での光景。前々回にてアストルフォが松陽の手を引いて浴室まで来た辺りから始まるのである。
「ふんふんふ~ん、ふふんふ~ん♪」
上機嫌に鼻歌を奏でながら、指を掛けたサイハイソックスをするすると下げていく。髪を結い上げ、服を殆ど脱ぎ終え、露出の低い普段の衣装ではお目にかかれない白い肌が剥き出しになる。そして最後の砦が畳まれた服の上に置かれ、新たに
「よしっ、と。さ~てっ今日の汗を流すとしますか!」
勢いよく開けられた扉の向こうには、
腰に手を当て、仁王立ちの構えで浴室を見渡すアストルフォだが、本来は腰に巻いていなければならない筈のタオルが、彼の頭に鎮座しているではないか。ちょ、コレ文章じゃなかったらマズい
「は~い、それじゃあ松陽さんも────あれ?」
うきうきと昂揚する気持ちのままに振り返ったアストルフォだったが、ここで彼の目は点になってしまう。
「松陽さん、どうしたの?」
「あ、えっとですね………アストルフォさん、いえアストルフォ君のお誘いは嬉しいのですが、その…………やはり人前で服を脱ぐというのは、まだ
袖の端を掴んだまま何度も
「そっかー、昨日は松陽さん眠ってたし、こうやってちゃんとお風呂に入るのは初めてだよね~………ぃよっし、それなら僕が
「え、えええぇぇっ⁉あの、そこまでしていただかなくとも……‼」
「ほ~らほら、早くしないと僕の
両手をわきわきと不気味に動かしながら、アストルフォが徐々にその距離を詰めていくと、松陽は血相を変え悲鳴にも似た声を上げた。
「はわわ、まっ待ってくださぁい‼じ、自分で脱げますのでっ‼」
ぴしゃっ、と音を立てて閉められた扉。松陽の慌てぶりを思い出し忍び笑いをしていたアストルフォの脳裏に、ふと昨日のことが浮かぶ。
『松陽先生の着物を着替えさせた際に気付いたのだが、あの人の背中に赤い刺青のような、この模様があったのだ。』
重々しく言った桂が、こちらに掲げたその図に
だがアストルフォ達がその存在を知らされたのは、松陽の介抱を行っていた桂と高杉の二人のみであり、証言と絵図だけではどうにも信憑性に乏しい。
丁度いい機会だし、だったら自分の目で確かめたほうが早いよね~。思い立ったらすぐ行動なアストルフォの手が、
「それ~ぃっ!」
ガラッと横にスライドした扉。その向こうの脱衣場では、既に肩から二の腕の辺りまでが
「………ありゃ?」
無い。どこにも無い。
ヅラ、じゃなくて桂達の言っていた鬼の刻印が、松陽の背中のどこにも存在していないのだ。
彼らが嘘など
「あれれ~………おかしいなあ?」
アストルフォが首を
「あ………ああああアストルフォさん………っ⁉」
肩は
「わっ!あのあの、勝手に開けてゴメンね!えっとぉ………そうだ!あのさ、そのままじゃお風呂に浸かる時、髪の毛がお湯に入っちゃうよ?だから松陽さんのもこうして僕みたいに纏めてあげようと思ってさ、ねっ⁉」
しどろもどろになりながら、苦し紛れに思いついた言い訳を述べるアストルフォ。すると暴発寸前だった松陽の
「おや、そうだったのですか………すみませんアストルフォさん、貴方のご厚意をどうやらおかしく捉えてしまったようで……。」
「いいよいいよ、元はと言えば僕が悪いんだもん。さっ松陽さん、僕が結ったげるから前向いてて~。」
思惑がバレなかったことに心底から安堵しつつ、アストルフォは再び正面を向いた松陽の背中へと近寄っていく。
彼の髪を
「ねえ松陽さん、背中のさ───」
そこまで言い
こちらを不思議そうに見る彼の瞳には、一点の濁りも無い。どこまでも透き通った琥珀色は、正に無垢の表象………そしてアストルフォは常時蒸発する(やや)いい加減な理性の中で直感する。ああ多分、この人は本当に何も知らないんだろうな。と。
只でさえ記憶を失っているというのに、ここで下手に事実を告げても彼が余計に混乱するだけだろう。ならばいっそ話さなくていいやー、聞かれたら答える感じでいいよねー。と動き出した楽天的思考が活動を再開する。はいシリアスモード終わりー。
未だこちらに振り向いたまま、怪訝そうにしている松陽。そんな彼の背中をつつ~と指でなぞってやると、『ひゃわぁっ⁉』と不意打ちを食らい悲鳴を上げた松陽の体が大きく跳ねた。
* * * * *
「てなことが、ついさっきお風呂場でありましたとさ。あっパチ君~
アストルフォが差し出したコップに新八は我に返り、受け取ったそれに追加の狩比酢を注いでいく。一方他の面子はというと、皆開いた口が塞がらない状態で彼と松陽を交互に見
「いや背中の云々もそうなんだけど、回想の最後の『ひゃわぁっ⁉』ってのは何?ガチで松陽がそんな声出したの?」
銀時が向ける好奇の視線の先では、羞恥のあまり居た
「いいな~アストルフォ、私も松陽とお風呂入りたかったアル。」
「すっごく楽しかったよ~。背中流しっこしたり、お湯の中で一緒に百まで数えたりしてさ。最後におまけの汽車ポッポもちゃんとやったんだ~。そうだ、今度は皆で入ろっか?きっと面白いよぉ!」
「キャッフォォォ!入りたいアル~!」
「こらこら!アンタ達には恥じらいってものがないの⁉混浴乱交プレイだなんてふしだらな展開になってみなさいな!いよいよこの連載継続出来なくなるわよ⁉ほら~仔犬からも何とか言ってちょうだい!」
「いやエリちゃん、乱交プレイは誰も言ってないと思うよ。しかし多少のドスケベハプニングがあったほうが、閲覧数も評価も稼げて
「あっマスター、それは原液のボトルにござりまする。」
段蔵の注意も虚しく、濃縮100%の狩比酢原液を半瓶程飲んでしまった藤丸は案の定激しく咳き込み、せめて口内だけでも相殺すべくボトルの隣にあった冷水をぐびりぐびりと豪快に
「それにしても、刻印が無くなっていただなんて………てっきり桂さん達が見間違えた、なんてことも考えはしましたけど、僕らもあの時に『アレ』を目撃していますからね。」
「?……新八君、『アレ』とは一体何のことだ?」
「ほら、僕らが沢山の魔物に襲われて、桂さん達が助けに来てくれる前ですよ。あの時藤丸君を
自身の言葉に確証を得るかのように、新八は何度も頷く。どういうことだ、と桂が切り出してくる前に、会話を聞いていた銀時が
「俺も多少は
ふと銀時は、向けられる視線の変化に気が付き朋友の名を呼ぶ。
ヅラじゃない桂だ、といち早く
「銀時………貴様、何を言っているのだ?」
「何を、って……何のこと?」
「とぼける真似も
憤然として銀時に迫る桂。後退するのがあと少し遅ければ鼻の頭がぶつかってしまう程の勢いに、銀時と隣の新八も目を丸くする。
「おいおい待てって。んなおっかない顔されてもよ、本当に心当たりが無ェんだってばよ。」
「銀さん、本当に覚え無いんですか?桂さんがこんな風に怒るなんて、普通じゃないですよ?頭の中ひっくり返してよ~く思い出してみてくださいよ。」
「そうは言っても…………あ、もしかしてこないだのアレまだ怒ってる?お前がウチに逃げてきた時、
「ね?じゃないだろ貴様ァァァッ‼俺の知らぬ間にそんなことを……………いや、今はよい。知らぬというのであれば、俺がお前に─────」
そこまで言い
「俺がお前に…………何だよ?ヅラ。」
「……ヅラじゃない桂だ、あと金返せ馬鹿者。」
「や、金は後で返すって言ったじゃん。ローン何回分になるか分かんねえけど。それより今、何か言い掛けて────」
「ええい貴様っローン組むとか何年掛けて返済する気だ⁉とにかく、この話はここで一旦終わりだ!いつまでも留まっていては物語が進行しないからな、はい次!」
パァンッ!と鼻先で鳴らされた手に、一驚した銀時は仰け反る。新八を巻き込んで床に倒れた彼の中に小さな
「さてと……それではこれより、
親指を立て
「お前達が既にカルデアで耳にした内容もあるかとは思うが、ここはまず聞いていてほしい………宝具というのは、我々サーヴァントにおいて重要な切り札となるもの。ざっくり言ってしまうと、必殺技のようなものだ。」
「そこまでは、ダヴィンチちゃんさんが説明してくれたままですね………そういえば、銀さんも神楽ちゃんもあの時、出されたお菓子に夢中になってて全然聞いてなかったと思うんですけど。」
「や~だってさぁ、俺
「それってエミヤ君の作ったお菓子でしょ⁉いいな~僕も食べたかったよぅ!」
「エミヤってあの赤いガングロコックのことネ?私アイツからクッキーも貰ったけど、それも凄く美味しかったアル。また食べたいな~。」
神楽の口端から伝う
「もんぶらん、とは何ですか……?銀時さんや神楽ちゃんのお話を聞いた限りでは、とても美味しいもののようですが。」
「あら、松陽ったらモンブラン知らないの?モンブランっていうのは栗を使ったケーキのことでね、スポンジケーキの上にクリームや絞った栗をふんだんに乗せて、お山の形に似せてあるの。甘~いマロンペーストとふわっふわのスポンジを、滑らかな生クリームと一緒に口に入れた時の幸せときたら………あぁ~ん想像しただけで涎が零れちゃうぅぅ!」
うっとりと
「………そんなに気になるんなら、俺が明日調達してきてやるよ。」
「ほ、本当ですか……っ⁉でも晋助さん、そこまでしていただかなくとも………。」
「なぁに、他でもねぇ
「晋助さん…………ありがとうございます、とても嬉しいです!」
仄かに頬を染め、心底から喜気とし顔を綻ばせる松陽を
「あ~っ!スギっちったらまた別行動する気だね⁉」
「そういうこった。ま、お
「キャッフォォォ!流石スギっち一生ついてくネ!」
神楽からのハグを受ける高杉に「も~しょうがないなぁ」と呆れつつも、遅れて彼女と同じようにアストルフォはその細い腕にしがみつく。
ほのぼのとした室内の空気ではあるが、それを引き締めたのはやはり桂の咳払いであった。
「………皆、話を戻してよいかな?」
「は、はい………でも必殺技って言ったって、銀魂は少年漫画の魅力の一つである必殺技が無いことでも知られてますし、そんな僕らに宝具なんて本当にあるのかな……?」
「新八君、何も宝具は一撃必殺のド派手な技ばかりじゃないんだよ。人間の幻想を骨子として作られたそれらには色んなものがあって、剣や槍なんかの武器は勿論のこと、指輪なんかの普段から身に着けてるものから該当することだってあるんだから。」
藤丸の補足を皆が頷きながら聞いている中、「おお、そういえば……」と何かを思い出したように掌を拳で叩いた桂は、何やら奥のほうでガサゴソと漁る動きを見せる。全員の視線が彼へと注がれる中、桂は引っ張り出したあるものをこちらに広げてみせた。
「ふふん、どうだ?可愛かろう。」
「別に。つーかソレ、お前がこの作品初登場の回で着てたQ〇郎の着ぐるみじゃねーか。何今更自慢してきてんの?別に羨ましかねーんだよ。」
「Q〇郎じゃないエリザベスだ。この流れで俺がただこのエリザベスの着ぐるみの自慢をすると思っているのか?それは違うぞ銀時、俺が貴様らに言いたいのは、コレこそが俺の宝具の一つだということだ。その名もズバリ、『
宝具だと自称したその雪白……うんたらという名を冠したその着ぐるみをはためかせ、自慢げに見せつけてくる桂を見る皆の反応はというと、笑顔で拍手をする松陽とアストルフォ以外は誰もが口を開けて唖然としていた。
「イザベ………えと、何?もっかい言ってヅラ。つーかやたらと厨二臭さを感じるその名前は、もしかしなくても自分で考えたの?」
「ヅラじゃない桂だ。いいかよく聞け、『
「あはは………それで桂さん、その宝具は一体どんなものなの?」
「おっ、知りたいか藤丸君。ならば実際に体験してみたほうが早いだろう。」
「え?体験って───」
困惑する間も与えられず、藤丸の頭上を黒い影が覆う。それが桂の仕業であることに気付いた時には既に遅く、次の瞬間には全身を着ぐるみですっぽりと包まれてしまった。
「ぎゃ~っ‼ちょっとツバメ、仔犬に何てコトすんのよっ⁉」
「いいなぁマスター、次僕ね~!」
白い化けモ……もといエリザベスとなってしまった藤丸の傍に寄るサーヴァント達。人理を救った
着ぐるみの中で暫くジタバタしていた藤丸だったが、ふと動きが一時停止したかと思うと、利き手に持った何かを掲げた。
「『大丈夫だいじょぶ、中結構快適だから(*^^*)』………それならば一安心ですね、マスター。」
「ていうか、アンタそのプラカードでどうやって台詞の掲示が出来てんのよ?一々書いてるわけでもなさそうだし、どんな仕組みなのかしら……?」
怪訝な顔のエリザベートにエリザベス……もといエリザベスの中の藤丸が再び掲げたプラカードには、『いや~俺にもよく分かんない(´・ω・)?』とまたも顔文字が添えられて書かれていた。
「この宝具の効果は常時発動しているものであってな、暑さや寒さなどの気温の変化への対応は勿論、外敵からの攻撃や
「あ、桂さんたら認めちゃいましたよ。やっぱり自分でも動きにくいとか思ってたんですね。」
「マスター、その中ってそんなに快適なの?それじゃ僕もお邪魔しま~すっ!」
アストルフォは可否の返事も待たずして、
「それにしても、宝具ってゲームや漫画に出てくるような凄く派手で強烈な必殺技みたいなのを想像してたんですが、こういうタイプのものもあるんですね。」
「そうだな新八君。一口に宝具と言えど、そのタイプは様々なものが存在する。第一宝具というのは、
桂に振られると、高杉は気怠げに髪を掻く動作をした後に右眼をこちらへと動かし、ゆっくりと唇を動かす。
「それに、サーヴァント一騎に対し宝具は一つだけ、なんて
「ヅラじゃない桂だ。それは貴様とて同じだろう、あれだけの魔力を有する宝具を顔色一つ変えることなく放つとは、つくづく貴様は恐ろしい男だ。それとも、
「ハッ、
「図に乗るな馬鹿者め。多少魔術に優れていようと、俺など所詮、一介のサーヴァントの中の一騎に過ぎん。それに一度、貴様の前で披露したことがあるから分かるだろう………正直『アレ』はとても疲れるから、あまり使用はしたくない。出来れば本当に奥の手としてしまっておきたいものだ。」
不機嫌に呟いた桂はこめかみを押さえ、深く溜息を吐く。そんな二人を交互に何度も見
「えっ?ちょっと待て、まさかお前ら……もう自分の宝具持ってたりするわけ?」
口角を引き
「持っているも何も、サーヴァントには備わっているものだと先程説明したばかりであろう。」
「だって俺、出し方知らねーもん!どうすりゃいいの?体内の潜在エネルギーを手の中で凝縮させて一気に放出させればいいのか⁉あっでも確か打てるようになるまで50年は修行しなきゃいけねぇって亀仙人が───」
「誰がか〇はめ波打てっつったよ。それ本当にやったら多方面から叱声の嵐だからな………いいか銀時、それにお前らも聞いておけ。宝具の
高杉が投げ掛けると、万事屋の三人と一匹は互いに顔を合わせ、やがて揃って首を縦に動かした時、神楽がぽつりぽつりと零し始めた。
「ねえヅラ、スギっち……宝具って、その真名が分かんないと使えないアルか?私達せっかくサーヴァントになれたのに、今よりもっと強くなれるかもしれないのに……………こんなんじゃ、おかしくなったこの
真っ直ぐにこちらを見ていた神楽の
「神楽ちゃん……。」
「くぅーん……。」
「……なあお前ら、どうにか出来ねぇモンか?神楽の言う通り、イカれちまったこの国じゃあ何が起きてもおかしくは無ェんだ。なのに俺らがこんなザマじゃ、松陽どころか藤丸も守れやしねえぞ。」
「分かっている。しかしそうは言っても、宝具の真名を一番理解しているのは他でもない本人自身だからな………まあ、宝具の中には真名の解放を行わずとも使用できるものもあるらしい。だがそれは
桂の厳しい指摘に、意気消沈してしまった銀時達は一人として言葉を発さない。俯く彼らの姿を捲った裾(?)から藤丸がアストルフォと共に垣間見ていたその時、
「全く、何くよくよしてんのよアンタ達。らしくないじゃない。」
「……うるせえな、トカゲ娘。こちとら真剣に考えてんだよ。」
「そんなの見れば分かるわ。でもね、アンタ達がそんなんじゃアタシの調子が狂っちゃうの。だからいい?よ~くお聞きなさい………宝具の真名なんてねえ、分からなかったら自分でつけちゃえばいいのよ。」
「はいはい、んなこたぁ分かって─────は?」
突拍子もない一言に、銀時は空いた口が塞がらない。彼だけでなく隣の新八も、
「……えっと、エリちゃん。今なんて?」
「うわっ、アンタにエリちゃん呼びされると違和感ありありで何だか気色が悪いわ。」
「んだとテメェゴラァァァッ‼人のコト毛玉呼びしてるくせに何なの⁉じゃあもういいわ最終回までずっとトカゲ娘固定にしてやるっ‼」
「銀さんたら、少し落ち着いてください………それよりエリちゃん、今言ったことって一体どういう意味なんだい?自分で名前をつけるだなんて、そんなことしても平気なの?」
「ええ、問題無いと思うわよ。だってカルデアには、自分の宝具の名前もたまに忘れるおっちょこちょいだってほんの
エリザベートが視線を移した先には、捲った着ぐるみから全身を覗かせた藤丸とアストルフォが、朗笑して頷いている。
「そ~そ~、僕なんてとある宝具の真名をしょっちゅう忘れちゃってさ、肝心な時に使えなくて何度も困ったことあるからね~。」
「まあ、自分で名前をつけるといっても、あくまで真名が分かる間の仮初のようなものなんだけどね……………俺が初めてレイシフト、人理を守るための時間跳躍を行った時、着いたその街で味方になってくれた
「……強い覚悟と、想い………。」
藤丸の言葉を
「(俺がまた、こいつを守ろうと強く心に誓えば………
銀時は目線を落とし、開いた自身の掌を無言で見つめ続ける。
サーヴァントとして藤丸に召喚されてから、既に二日経過している。変質した自身の変化に未だ自覚が持てないのは、恐らく自分だけではない。
しかし、起きてしまった
『今度こそ』、絶対にその手を離さない為にも───。
「……それじゃつまり、私達は名前が分からないっていうだけで、その宝具が使えない、ってわけじゃないアルな?」
「ええ。今はまだ本当の宝具が使えずとも、いずれ必ず芽吹く時が来まする。故に神楽殿が落胆する必要は、もうございませぬ。」
浮かべた微笑と共に段蔵が言い果つと同時に、先程までの落ち込み具合が嘘であったかのように、神楽の顔がパァッと明るくなる。銀時が隣に目をやれば、自信に溢れた表情をした新八が、気付いたこちらに快活な笑顔を向けた。
「やっといつもの調子に戻ったようね、全く手間のかかる連中だこと。」
「うん、ありがとうエリちゃん!」
活力を取り戻すきっかけとなった彼女に礼を言った時、ふと新八は頭に浮かんだ疑問を投げ掛けてみることにする。
「そうだ。そういえば気になってたんだけど、エリちゃんの宝具ってどんなの?」
「………え?」
上機嫌にくるくる回っていたエリザベートが、その一言に硬直する。
きょとんとした様子の彼女であったが、その表情が驚きから歓喜に変わるまでの時間は一秒もかからなかった。
「ほ、本当……⁉眼鏡ワンコ、アタシの
「わわっ⁉近い近い近いっ!えっと、ステージ……っていうのはよく分からないけど、その………サーヴァントの先輩としてさ、エリちゃんはどんな宝具を展開するのかな~って気になったから……。」
鼻先がくっついてしまいそうな距離まで顔を近付けられ、童て……いかんいかん、純真な少年である新八は赤面し、どもりながら理由を述べる。しかしそんな新八の言葉一句一句に頷きを返し、全て聞き終えた後のエリザベートのご機嫌は、最早有頂天そのものであった。
「いいわ!
フリルのスカートを揺らし、踊るような動きで彼女は窓際へと移動していく。これから何が始まるんだと、銀時達の注目はエリザベートへと集まっていった。
「ん~、記念すべき第一回目の
利き手に展開した愛用の竜骨槍を握り、両の手に構えたそれの先端を木の床にブッ刺し……はせず、軽~くトン、と当てれば、そこに小さな魔法陣が浮き上がる。
「おおっ!エリちゃん凄いネ!」
「おいおい、大丈夫かよコレ?部屋壊したりしたら後でババアに怒られんぞ?」
「大丈夫よ。これは召喚式なんだし、部屋には傷一つ付かない筈……だわ!」
最後の方ちょっと怪しくなかった?と新八が突っ込みを入れる前に、微々たる揺れ……といっても人が歩いたぐらいの振動を伴って、魔法陣から何かがせり上がってくる。
やがてエリザベートの膝下辺りで振動と動きを止め、室内の幅いっぱいに広がったそれらは、西洋の城のような形をした
「さあっ、準備は整ったわ!仔羊達~準備はいい⁉」
マイクの搭載された槍で呼びかければ、彼女の美声がアンプから轟く。
イエ~イ!と意気揚々に拳を上げる新八と神楽、そしてどこからか出したサイリウムを振る桂に呆れ
不審に思い辺りを見渡すと、エリザベートのいる窓際から大分離れた部屋の隅に彼らはいた…………しかし、どうも様子がおかしい。
集まる皆の背中を一点に見つめたまま正座をしている段蔵は、いくら呼びかけても反応が無い。それに彼女の隣にいる桂の宝具・イザ、イザベ、えーと………もとい、エリザベスの着ぐるみの裾(?)からは四本の足、そしてもふもふの尻尾が度々見え隠れし、やたらともぞもぞ動いている。
「おい藤丸、聞こえてんだろ……?一体どうしたんだよ?」
普通でない空気を察し、銀時が
「お前ら、何してんだ?」
「おう高杉、実はさっきからこいつらの様子が───」
そこまで言い止した時、エリザベスの着ぐるみがプラカードを掲げる。白い木板を持つその手は、ほんの僅かに震えているようだった。
「ああ?何だコレ………『只今より、此処にてジャ〇アンのリサイタルが開催されます!地獄を見たくなければ、急ぎ耳を塞ぐべし( ; ・`д・´)』…………ジャ〇アン、ジャ〇アンって、本名は剛〇武君で間違いない?」
書いてある内容がいまいち理解出来ず、キーワードとなっている単語を繰り返す。数秒の後、やっと藤丸が伝えてきた危機の意味を理解した銀時の顔は、瞬時に青ざめた。
「……おいおいおいおいおい!ってことはあのトカゲ娘、ジャ〇アン並の音痴を宝具にして流すつもりってことじゃねえか‼やべぇぞ高杉、ってアレェェェもういないっ⁉」
慌てて周囲を見渡す銀時だが、高杉の姿はあっさり見つけることが出来た。彼は既に松陽の背後へと移動しており、自身の両手で彼の耳をぴったりと覆っているのである。その行動が示す意味をまだ理解していない松陽は、目を
師を守る為に自らを犠牲にしようとする彼に心中で敬意を送った後、銀時があたふたと狼狽している間に、エリザベートの召喚したアンプ・ミニチェイテ城からイントロらしき音楽が流れだした。
「やっべ、始まりやがった!段蔵、お~い段蔵ちゃん⁉アレお宅んとこのサーヴァントだろ何とかしてくれよ⁉」
「ピー、段蔵は只今聴覚を遮断しております。ご用件のある方はやたらとうるさいくしゃみの後にメッセージをどうぞブルゥゥゥアッックショイッッッ‼」
「ギャアアァッ‼唾液(?)がやたらとオイル臭い‼ちっ、もうこうなったら仕方ねえ。おいお前らっ俺も中入れろ!(ガバッ)」
「キュッ⁉フォウフォウッ!」
「キャアァァァッ!銀ちゃんのエッチ~!」
「ちょっ銀さん!ここはもう定員オーバーだよ‼他のエリザベスをご利用くださいっ!」
「おいコラてめぇらっ閉め出そうとしてんじゃねえぞ‼銀さんがここでくたばったらどうするつもり?主人公不在でクロスオーバー続けていけんのか?え?これ書いてる奴はそんな器用な真似出来ないこと知ってるよな~何せ現時点で予定文字数だいぶ超過しちまってるもんなぁ?」
「双方の主人公がお陀仏になったらそれこそ作品続けていけなくなると思うけどぉ⁉大丈夫、もし銀さんがいなくなったとしても、人理修復経験豊富な俺が見事この世界を救ってみせるから!」
「さっすが僕らのマスター!いよっ頼もしいねぇ!」
「こんガキゃァァァッ‼藤丸っ主人公の座はてめぇ一人のモンにさせやしねえぞ………あれっ、もしかしてそろそろイントロ終わっちゃう感じ?ヤバいよヤバいよもういいからさっさと中に入れさせ痛でででっおいフォウ噛むなって‼頼むよ藤丸君アストルフォっ‼お願い300円、いや500円あげるからァァァァァッ‼」
「皆~!今日はエリザの大江戸・初ライブに来てくれてありがとう~!」
「「イエェェェェェェイッ‼」」
「華々しい未来を期待されたアイドルのライブにしては会場も狭いし、観客の動員数は明らかに少ないけれど、これからどんどん目覚ましい活躍を遂げてやるんだから!これからも是非応援してね!」
「「イエェェェェェェイッ‼」」
「それじゃ豚共、行くわよっ───『
開幕の挨拶を終え、少数の観客の歓声を受けたエリザベートは、高鳴る鼓動に身を弾ませ、そして大きく息を吸い込んだ。
────刹那、宵のかぶき町に響き渡った………否、これは最早轟いた、と言ったほうが相応しい。
繁華街を震わす程の爆音と重なるように奏でられる、狂乱したリズムと劣悪な音程、そして聞いているだけで胸がむかついてきそうなくらいに甘ったるい、スイーツなメロディーとハチャメチャな歌詞。それらが合わさって生まれた音達は
こうして、唐突に行われたエリザベートの初リサイタルは、夜が明けぬ人々の心を恐怖と混乱の渦へと陥れ、不可解な怪異として翌日の朝刊の一面を飾ることとなるのであった。
《続く》