星明かりの灯らない江戸の
夜空に浮かんだ巨大な眼が見下ろす地上………恒道館の園庭に、凛とした声が響き渡る。
「────告げる。
「聖杯の寄る
熱を
「─────我に従え!ならばその命運、汝が『剣』に預けよう!」
高らかに叫んだ直後、噴き上げんばかりの強い風がその場に巻き起こる。
流水紋にも似た、雲の模様が描かれた白地の着流しがはためく中、銀時は閉ざしていた
「………
渦巻くようにして吹き荒れる風音の中で、力強い銀時の声がしっかりと、藤丸の耳にも届く。やがて輝きを増し双方の光は
「……………ふう。」
静まり返った広い庭に、藤丸の溜め息だけが響き渡る。余程の緊張からか、その額には一筋の汗が伝っていた。
双方共に言葉を発さず、暫しの
「ぶっはははは!あ~もう駄目だ腹痛ェ!我とか汝とかリアル厨二ワード言う奴初めて見たぞ……いっけね、思い出したらまた笑けてきたッブフゥ!」
「ちょっとそんな笑わないでよ、銀さんだってあんなクソ真面目な顔で同じこと言ってたじゃんか~。眉なんかキリっと逆八の字になっちゃってさ、『
箸が転んでも
『こらこら君達、いつまでそうしてるつもりだい?』
青と白のディスプレイに映し出される、ダヴィンチちゃんの呆れ顔。スピーカーから流れてきた彼女の声に応えるように、二人の
『先輩、銀時さん、これで仮契約は成立です。お疲れ様でした。』
「あ~もう、お腹
「ふーん。別にどこがどう変わったのかイマイチよく分かんねえけど、
『ふふ、そうだろう?今君の
「おっ、そりゃありがてえ話だ。ほんじゃ改めて………これからもよろしくな、『マスター』。」
「うん、こちらこそよろしくね。『セイバー』!」
再び向き合い、互いに朗笑する藤丸と銀時。画面越しにその光景を眺めていたダヴィンチちゃんとマシュであったが、暫くすると彼らの笑み顔が徐々に崩れつつあることに二人とも気が付いた。
「………何だろう、やっぱ慣れねえわコレ。」
「今まで散々名前で呼び合ってたからね、今更銀さんにマスター呼びされても、こそばゆいというか気持ち悪いというか………。」
「おい、今サラッと失礼なワードが出なかったか?それとも銀さんの聞き間違いかな?え?」
『まあ、サーヴァントがどんな呼称でマスターを呼ばなきゃいけないかなんて、特に定められてはいないからね。その辺は二人で相談して好きに決めたまえ。』
「ん~………じゃあ、今まで通りでいっか?銀さん。」
「そうだな藤丸、やっぱ馴染みがあんのが一番だよ……………ところでさっきから気になってたんだが、アストルフォはそんなトコで何やってんだ?」
「僕かい?僕はこのカルデアから支給されたスマートフォンのカメラで、銀ちゃんとマスターの輝かしい勇姿を一秒たりとも逃さず録画していたのさ!いや~実によく撮れてる、マシュにもマスターのカッコい~い姿を納めたこの動画、後でちゃんと送るね?」
『は、はい!ありがとうございます!頂いた際には即データの保護とバックアップも行った上で、DVDなどの媒体等にも永久保存いたします!』
「えっ、いつの間に撮ってたの⁉やだなぁ恥ずかしい………でも、俺のかっこよかったところをマシュにまた見てもらえるなら、それも嬉しいかな。」
『先輩……。』
「あ~ハイハイ、乳のクリクリ合いは余所でやってくんない?お二人さん…………それよりさっきから気になってしゃーねえんだけど、何で冒頭から喋ってんのが俺らだけなの?他の外野連中は何して…………はは~ん分かった。さてはこの俺の作品史に刻まれるほどにカッチョイ~イ契約シーンに、どいつもこいつも見惚れてやがんなぁ?」
勝手な憶測と共に、ニンマリと腹の立つ独り笑いを浮かべる銀時。その時ダヴィンチちゃんの目がある方向を
「ったく、ホント素直じゃねえ奴らばっかで呆れちまうぜ。そりゃ主人公だしぃ?カッコイイのは元より承知の助だしぃ?そんな銀さんのてんこ盛り要素にサーヴァント属性まで追加されたってなりゃ、もう鬼に金棒ならぬミョルニルってか!ガッハッハッハァッ!ほらお前ら、いつまでだんまり決め込んでるつもりだ?そろそろなんか喋ったら─────」
「へぇ~、『世にも』のテーマって、手拍子しながら聴くと怖さが半減するの。こんな
「でもエリちゃん、こういうことって自分じゃ中々気付けないから、それがまた面白いと思わない?そうだ、今度放送した時に僕も試してみようかな。」
「ヅラぁ~、そこのル〇ンドとってヨ。袋から開けて中身だけ寄越すアル。」
「リーダー、ヅラではなく桂だ。それと寝転がりながら菓子を食うのはあまり関心しないな、今だって膝枕にされている高杉の借り物の寝巻の上に、ぽろぽろと食べカスを零しているではないか。」
「ヅラよぉ、注意なら口頭でなく行動で何とかしてくれや。おい段蔵、コイツを退かせ。」
「はっ、承知しました。」
和やかな雰囲気の中でテレビを鑑賞しているエリザベートと新八の横で、茶を
「ちょちょちょオイイイイィィィィィッ‼何だよこの空気⁉つーかテメェら見てなかったの⁉恐らく二度目は無いだろう俺の最っ高に
「うっせーな、今は銀ちゃん
「流石にリテイクが5回目を越えたあたりで、もうすっかり愛想を尽かしましたよ。それより美味しいお茶が入りましたので、三人ともこっちに来て一息
「わーい、お菓子まだ残ってる?」
「あっ!僕も僕も~!」
縁側に一目散に駆け出し、いそいそと雑に靴を脱ぎ捨てる藤丸とアストルフォの姿に、銀時は溜め息を一つ零してから、自身もまたそこへと
彼らが居間の畳へと足を踏み入れたのとほぼ同時に、
「まさかダヴィンチちゃん殿も、俺と同じことを考えていたとはな。確かに銀時の強さは英霊になる以前よりのもの、しかし肝心の魔力の使い方があのように
深々と
「ごっふぅ!あいだだだ………どうしたの神楽ちゃん?」
鈍い音と共に猛烈なタックルをかまされ、それでも何とか体勢をキープし痛む背中を
「藤丸、次は私とも契約してヨ!その次は新八と定春ともしてほしいアル!そしたら皆、もっともっと強くなれるネ!」
「わう………?くあぁ~。」
「こら神楽ちゃん、藤丸君を困らせちゃ駄目だよ………大丈夫?凄い音したけど。」
「平気平気。あばら何本かイったような音はしたけど、別にそんなことは無かったよ。」
額に汗を伝わせながらも、新八に対し心配をかけまいと笑顔を向ける藤丸。そんな彼の後方から、銀時がひょっこりと顔を覗かせて言う。
「でもよ、神楽の案も中々イカすと思わねえか?俺の他にもコイツ等を始めに、ヅラや高杉とも契約すりゃあ、どんな連中が向かってきても敵無しじゃね?なあ藤丸?」
「そうだヨ!魔法少女になる勢いで私達と契約するアル!」
秒の間隔で顔を接近させてくる銀時と神楽を手で制しながら、藤丸は身体を仰け反らせていく。こちらが何をしなくても勝手にヒートアップする二人を前に、困り顔に浮かんだ微笑み。その中に感じた僅かな困惑を、ちゃぶ台を挟んだ向かい側でハッ〇ーターンを
マスター、彼の口からその呼び声が出ようとした数秒の差で、それは第三者の苛立ちを含んだ溜め息により掻き消された。
「そこまでにしておけ、馬鹿共。」
喧騒を裂くように、凛と響いた声。それを皮切りに静粛した一同が視線を向けたのは、一人縁側に腰を下ろし煙管を吹かす声の主。
「……おいおい、何だよ高杉クン。俺らが強くなんのがそんなに気に入らないワケ?嫉妬ですかコノヤロー。」
水を差され機嫌を損ねた銀時が、
昇る細い煙が蝶の薄明かりに照らされ、やがて空気に交わり消えていく様を見届けてから、高杉は漸く言葉を発した。
「物事ってのはな、何であれ相応の代償が発生するもんだ。いくらカルデアからの支援があるたァいえ、従えるサーヴァントの数にも限りがあるに決まってんだろ。」
「えっ?そ、そうなの……?」
思いがけない事実に目を丸くし、新八は藤丸へと顔の向きを変える。先程と同様の困ったような笑みのまま頬を掻く藤丸の代わりに、口を開いたのはダヴィンチちゃんだった。
『高杉君に先を越されてしまったけど、大体は彼が今言った通りさ。先程も述べさせてもらったけど、藤丸君と契約を結んでパスを繋ぐことにより、カルデアからの魔力供給を始めとした様々な恩恵を受けることが出来る………だがそれも、無限にというわけにはいかない。今しがた仮契約を結んだ銀時君においては、魔力の使い方が人一倍に不得手な彼を安定させるためといった止む無い事情の上での契約だ。カルデアのサーヴァント三騎に加え、
「え、いや別に俺は、そんなこと────」
『先輩、ダヴィンチちゃんに誤魔化しは通用しませんよ。無論私にもです。』
マシュの厳しい一言がクリティカルにヒットし、仰け反りから戻った藤丸は徐々に顔を俯かせ、「しゅみましぇん……」と小さく謝る。
「キツい、というのは………やはり肉体的にもかなり負担がかかるという解釈でよいのか?」
「そだね~、ヅラ君の言う通りだよ。サーヴァントって扱いとしては使い魔の部類に入るみたいだけど、前にもマスターがカンペで説明したように扱いがとっても難しいんだって。」
「それに
「以前段蔵が
まるで子を心配する親のように……否、段蔵はそれに等しい想いで藤丸へと眼差しを送っているのだろう。彼女を含めた三騎の英霊からの視線がこちらに集まっているのに遅れて気付いた藤丸は、驚きのあまり手に取っていたバー〇ロールを落としてしまい、それは床に落ちる寸でのところで、スライディングしてきた神楽の開いた口によって受け止められた。
「そっかぁ……藤丸に負担がかかっちまうってんなら、しょうがねえな。」
「ううう………未熟なマスターでごめんね、皆……。」
「そんなっ、謝らないでよ!君は何も悪くないんだから……それどころか無茶を承知で、銀さんと契約までしてくれるなんて………本当にありがとう、藤丸君。僕達も君に無理はさせないよう、一生懸命頑張るから。」
ありがとう、そう礼を言おうと口を開いたその時、つけっぱなしだったテレビのスピーカーから、軽快な
「あら、何かしら?」
エリザベートを始め、皆の視線が集中する画面には、
「ねえっ、これって明日じゃない?いいな~僕も行きたぁいっ!」
「私も!私もお祭り行きたいアル!ねえっいいでしょ銀ちゃん、新八⁉」
「ちょちょちょ、待てって!あのなぁ、書いてる奴の大スランプが原因で前回の投稿から大分間が空いちまってるから、お前らのピーマンみたいなスカスカの頭ン中にゃもう話した内容なんて耳クソ一欠片分も残ってねえだろうよ。だから
「銀さんの言う通りだよ。まあ楽しみたい気持ちは分からなくもないけど、ここで優先すべきはやっぱり────」
するとその時、テレビから流れる祭囃子がポップな音楽へと切り替わる。それに素早く反応を示した新八は、台詞を言い
そこに映っていたのは、オールバックの髪形にやたらと目立つ黒のサングラスをかけた某司会者風の男と、その隣でこちらに手を振るサイドテールの可愛らしい女性。丈の短い
『皆さんこんばんは~!こんな時間に失礼し
『久しぶりだね~お通ちゃん、髪切った?』
『切ってません。え~最近夏が段々と近付いて、徐々に気温も暑くなってきまし
『おお~これは凄い、明日は大いに盛り上がりそうだね。ところで髪切った?』
『切ってません。因みに私がイベントステージに登壇するのは、午後7時から行われるカラオケ大会からですので、どうか皆さんお忘れ
『えー以上、お通ちゃんから明日のイベントに関してのお知らせでした。ところで髪切っ───』
某司会者風の男性が質問を終えるのを待たずして、テレビには蚊取り線香のCMが映し出される。皆が呆然と画面を見つめ続けている中、不意に新八がゆっくりと立ち上がった。
「……すみません、少しだけ席を外させてください。」
そう短く残し、新八は静かに居間から出ていってしまう。彼のトレードマークもとい本体である眼鏡が、終始妖しく光っていたことに疑問を抱き始めていた藤丸の耳に、高杉と銀時の声が聞こえてきた。
「………あれが
「そしてその彼女に夢中になってんのが、ウチの新ちゃんってワケ。俺の勘だと、ありゃあ今やってた明日の
「あ~言われてみれば確かに、今パチ君が向かってったのって電話のある方角だもん
『あの……銀時さんもアストルフォさんも、先程のアイドルの方の口前がうつっていません
『ありゃ、マシュも伝染しちゃったようだね~。それにしても何でかりんとう………ああそうか、藤丸君がレイシフトする前に一緒に食べてたっけね。それで無意識に口を
『ハッ!え、ええとその、あの………。』
にやけた顔と口元を微塵も隠す様子のないダヴィンチちゃんに、恥ずかしさから顔を紅潮させるマシュ。耳まで林檎色に染まっていく彼女に、画面の向こうの藤丸と段蔵は朗らかな微笑と眼差しを向けていた。
「にしても何だヨあいつ、優先すべきはナントカ~なんて偉そうに言ってたくせにムカつくアル!エリちゃんも聞いてたでしょ?」
プンスコと腹を立てながら、神楽はエリザベートのいる方へと顔を向ける。だがその彼女はというと、未だテレビを凝視したままブツブツと何かを呟いていた。
「カラオケ大会……それに寺門通…………いいじゃない、フフ、いいじゃない!このアタシの江戸での初デビューを飾るには、申し分ない舞台だわ。覚悟なさいよ寺門通、このアタシが直々に、アイドルとしての格の違いってヤツを見せてやるんだから!ウフフ、フフフフ………ア~ッハッハッハッハッ!」
高らかに響くエリザベートの
「ねえ銀さん……今俺の耳に、何個か物騒な
「言うな、そしてそれらは空耳ということにしておけ。またあのジャ〇アンリサイタルに巻き込まれでもしたら、今度こそ座に還っちまいそうな気がしてなら
珍妙な会話を交わした後、互いに顔を合わせた藤丸と銀時は頷き合い、大分
するとここで、桂が
「………ダヴィンチちゃん殿、先程の話の中で一つ気になった点があるのだが、伺ってもよいか?」
『ん?どうしたんだい色男君、この天才に何なりと言ってごらん。』
「ああ…………新八君のことなのだが。」
ダヴィンチちゃんの茶化しを気に留める素振りも見せずに、桂はこの場にいない新八の名を口にする。それに反応した一同は、一斉に彼へと視線を注いだ。
「今、俺達がいるこの世界……
中々本題を切り出さない桂に、小指で耳を掻きながら銀時は内心やきもきしていた。そんな彼の内憤を察してか、桂はこちらを一瞥した後、大きく吸い込んだ息を言葉へと変えて発する。
「これらは紛れもなく、こちらの世界に『志村新八』という人物が存在していた証………ならば、
上手く説明が出来ないことに苛立っているのか、桂は自身の頭を乱暴に掻く。立てた指の間から、絹のような黒髪がさらりと流れた。
『ん~、それなんだよ。どうして彼が突然姿を消したのか、私も君達の話を聞いて不思議でならなかった。まあ本当に門下生を勧誘しに行ったのかもしれないけれど、今そちらでは人々を襲う得体の知れない魔物があちこちにいるんだろう?幾ら家が道場を経営しているからって、お姉さん思いの新八君が彼女を一人置いていったりなんかするものかねぇ。』
顎に手を当て、ダヴィンチちゃんは難しい顔を傾ける。確かに言われてみればそうだ、お妙の口から聞いた『こちら』の新八の行動は、あまりに不可解な点が多い。ふと藤丸が隣の銀時を見遣れば、彼もまた鼻穴に小指を突っ込んだままではあるものの、細めた目には鋭さが宿っているようにも見えた。
「なあダヴィンチ、さっき言ってたその『特異点』ってのは一体何なんだ?こっちの江戸がその特異点化しちまったのと、眼鏡小僧がどこかへ消えたこと……ひょっとしたら関係があったりするンじゃねえのかい?」
口に咥えていた煙管を消失させ、高杉が率直に疑問をぶつけてきた。開いたままの縁側から降り注ぐ月の明かりを受け、一層に妖しさを増す深碧の右眼に、マシュは背筋に寒気を覚える。
『そうだね、まずはそこから話そうか…………特異点というものは
「んん……?土台が崩れたら、どうなっちゃうアルか?」
「バッカお前、要は家の土台と同じだろ。支えてる根っこが壊れちまえば、上のほうも一緒にお
「大変アル!家が崩れる前に逃げないと、ほら定春ったら起きてヨ!」
銀時の例えを思いっきり勘違いしたまま、神楽は慌てて定春を叩き起こそうとする。頭を何度も叩かれ、心地良い眠りから強制的に覚醒させられた定春は、剝き出した歯の奥から不機嫌に唸り声を洩らした。
「それじゃあ、この世界の元になってる時間軸って………。」
『はい先輩、やはり銀時さん達が本来存在していた、『江戸』で間違いはないようです。それと一つ、非常に厄介なことが新たに判明しまして………。』
「厄介なことって?勿体ぶらないで早く教えなさいな。」
定春と同時に起きてきたフォウを腕に抱き、エリザベートが尋ねる。深刻な顔でタブレットに目を落とすマシュの代わりに、答えたのはダヴィンチちゃんであった。
『
「……密接?」
「し過ぎている、とは?」
「つまりこーんな感じ?ぎゅ~っ!」
目を丸くしてダヴィンチちゃんの言葉を
咄嗟に離れようと力を込めるも、今アストルフォの腕には保有スキルの一つである『怪力(Lv.10)』が宿っているため、抗うのも容易ではない。美男子二人に(非合意だが)挟まれてご満悦の男の娘に苦笑しながら、ダヴィンチちゃんは続ける。
『鏡面世界、と言う表現が妥当かな?鏡というのは映したものと全く同じ姿、同じ動き、同じ
「………そんな、まさか………⁉」
ダヴィンチちゃんの問い掛けに真っ先に反応を示したのは、やはり桂であった。目を見開き肩を僅かに
「えーと………つまりどゆこと───ってうおうおうおぅっ!」
「ちょっと銀さん!鏡だよ鏡!鏡の役割は何でしょうハイ思い出してっ‼」
興奮した藤丸に乱暴に肩を掴まれ、激しく前後に揺さぶられながら銀時はその質問の内容を揺れる頭の中で巡らせる。そして答えが生まれた刹那、銀時の顔と思考は瞬時に強張った。
「えっ………ちょっと待て、それってまさか───」
事の重大さに漸く気が付いた銀時は藤丸の手を剥がすと、狼狽に染まった
『漸く気付いたようだね………あまりに密接した双子の世界。しかも運の悪い事に、どうやら鏡像側は
「じゃあ………じゃあ私達がいた江戸は、かぶき町は……皆はどうなっちゃったんだヨ⁉」
あまりの驚愕に冷静さなど何処かへと放り投げた状態で、神楽は声を上げる。そんな彼女に対し、藤丸は掛けてやる言葉が見つからなかった。
『残念だけど、君達のいた世界がどうなっているのかを、こちらで確認することは出来ない。今こうして通信が行えたのだって、さっき張ってくれた魔術結界のお陰だからね。』
「………そん、な………。」
全身から力が抜け、神楽はその場にへたり込んでしまう。見開いた
「フォーウ……。」
「わふっ、くぅーん……。」
そんな神楽を心配してか、エリザベートの腕から降りたフォウが膝上に、定春が顔の側に鼻先を
「神楽殿、こちら側にはお登勢殿方やお妙殿も存在しております。となれば、特異点からの影響は、まだそれほど及んでいないかと………。」
『その通り………と、本来ならそういった言葉をかけてあげたいんだけど、あまりのんびりはしてられないかもなんだよねぇ。カルデアが獲得・解析出来た情報の量は、現時点ではあまりにも少なく
居間に流れる、重苦しい空気と沈黙。そんな陰鬱な雰囲気の中で、ふと襖の方を見つめていたアストルフォがぽつりと零した。
「………ねえ、パチ君遅くない?」
その呟きにいち早く反応し、床から弾かれるようにして銀時が立ち上がる。
ややリズムの早い心臓の鼓動が、自身の耳にも聞こえてきそうだった。
『
『こちらで起きた異変や出来事は、少なからず向こうにも影響が及ぶことだろう。』
先程聞いた言葉の数々が、凄まじい暴風となって頭の中を巡っていく。
そんな、まさか、まさか─────
考えるより先に、足は襖の方へと駆け出していく。
「銀さんっ!!」
後方で名を叫ぶ藤丸の声も耳に届かず、全身を動かす原動力となっている焦燥と、僅かな期待を胸に抱きながら、銀時は引手に手を伸ばした。
「────新八ぃっ‼」
《続く》