Fate/Grand Order 白銀の刃   作:藤渚

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【弐】邂逅(Ⅳ)

 

 

「────え?」

 

 その声は、誰が発したものかは分からない。

 藤丸も、銀時も、新八も、神楽も、三騎のサーヴァント達も、そして敵意剥き出しの魔物達でさえ、あまりのことに空いた口が塞がらなかった。

 

「……何これ?」

 

 どーんっ、と圧倒的存在感を放ち、目の前に立ちはだかる白い巨体に、藤丸は率直な疑問を零す。すると声に反応したのか、『それ』はこちらに振り向いた。固く閉じた黄色い大きな(くちばし)の上に並ぶ、パッチリと開いた丸い大きな目に見つめられ、藤丸はすっかり畏縮する。

 

「おまっ………Q〇太郎じゃねえかっ⁉」

 

(マル)入れた意味ィィッ‼肝心なとこ全然隠せてねえだろっ‼それにアレはエリザベスですよ!」

 

「エリー!何でここにいるアルか⁉」

 

 銀時達の会話から察するに、どうやらこの白いペンギンの様な不思議生物はオ〇Q……じゃなかった、エリザベスというらしい。だが名前が分かったところで、この状況が呑み込めたわけではない。ただ唖然とする藤丸の前に、エリザベスは何やらごそごそと(まさぐ)り、あるものを彼に見せる。

 白い木の板に『もう大丈夫だ、ここは任せろ』と書かれたそれは、俗に言うプラカードと呼ばれるもの。示された言葉の意味が理解出来ずに困惑していたその時、魔物達が再び襲い掛かってくる。

 

「‼……危なっ───」

 

 藤丸が叫ぶよりも早く、エリザベスは魔物達へと果敢に突進していく。刀や牙を剝き出すそれらに微塵も臆することなく(というか表情が変わらないので感情が判りづらい)、エリザベスは持っていたプラカードを反転させると、『うおおおぉぉっ‼』と書かれた面で先頭の一体を殴り倒した。続いて二体、三体目と次々にプラカードで殴打し撃退するエリザベスの雄姿を呆然と眺めていた時、不意に藤丸の体が持ち上げられる。

 

「ぅおわっ⁉」

 

 突然のことに驚き、短い悲鳴が開きっ放しだった口から飛び出す。腹部に腕を回された状態で抱えあげられ、首だけを動かす形で見上げると、そこにいたのはもう一体のエリザベス。(ただ)しこちらは正面にいるものとは外見が少し異なり、黒いストレートヘアのかつらを装着していた。

 

「えっ───おうっ⁉おおおおおおォォォっ⁉」

 

 かつらエリザベスは左右の手に藤丸と松陽を抱えると、その場から大きく跳躍した。見た目からは想像も出来ない程軽やかな動きで、魔物達の間を通り抜けていくエリザベスを、藤丸は悲鳴を上げながら凝視する。

 だが同時に彼の目を奪ったのは、風圧でひらひらとはためく白い布……布なのかコレ?の下からチラチラと覗いている、ペンギンの足を模したような黄色い靴を履く、太く黒い(すね)毛に覆われた筋骨隆々の二本足。ファンシー……ともいかないが、マスコット的なキャラクターにはあるまじきソレを見てしまった藤丸が言葉を失っている間に、かつらエリザベスは定春達の元へと辿り着いていた。

 

「わんわんっ!」

 

「フォウッ、フォウッ!」

 

「マスター‼松陽さんっ‼」

 

 着地した藤丸を真っ先に迎えたのは、アストルフォの猛烈な抱擁であった。()い奴よの~などと思っているのも束の間、恐らく無意識のうちに腕に力が入っているようで、徐々に首回りを締められていく感覚に驚怖し、彼の背中を叩いて制止を促した。

 

「藤丸君!大丈夫っ⁉」

 

「仔犬っ!アンタ酷い血じゃない、美味しそ……じゃなかった、早く止血しないと!」

 

 神楽と協力して銀時を担いできた新八と、段蔵に続いてエリザベートもこちらに駆け寄ってくる。どさくさに紛れて何か聞こえたような気がしたが、まあ気にしない方向で。

 

「松陽……っ‼」

 

 自身の体がよろめくのも構わず、銀時は新八から離れ、未だ意識の戻らない松陽の元へと早足で向かっていく。かつらエリザベスから受け取った松陽の、あまりの軽さに驚きつつも、触れた背中に濡れた感覚がないこと、そして血色の良い顔と規則的な呼吸を繰り返していることに、一先(ひとま)ず安堵の息を吐いた。

 

「エリザベス、本当に助かったよ!ありがとう!」

 

「かっこよかったぞエリー!痺れたアル!」

 

 心からの感謝を述べる新八と神楽に、かつらエリザベスは先程のエリザベスと同様に言葉を発しはせず、返事の代わりにグッと親指(?)を立ててみせる。

 

「むむむ……あんた、アタシとエリザ被りじゃない?言っておくけど、アイドルの座は絶対に渡さないんだからねっ!」

 

 敵対心を剝き出すエリザベートに、『ご心配なくお嬢さん、私はゆるキャラ枠狙いなので』と書かれたプラカードを掲げるかつらエリザベス。そこへ間髪入れずに銀時が声を上げる。

 

「おいQ〇郎!てめえがいるってことは、まさか『あいつ』もここに………いや待てよ?そのうざってぇ黒い長髪………まさかお前か?お前なんだな?」

 

 距離を縮め詰め寄ってくる銀時に、かつらエリザベスはふるふると首を横に振る。その度に長い髪の毛先が何度も頬に当たり、目を逸らし(しら)を切るような態度と相俟(あいま)って銀時を苛立たせた。

 

「あああもうっ相変わらずうざいんだよこのロン毛ェェッ‼てかいつまでQ〇郎のフリしてんだオメーは⁉暑苦しいからさっさと脱げやこの馬鹿ヅ────」

 

 銀時の怒声は、突如背後に迫った殺気により遮られる。振り向いたそこには、刀やら棍棒を振り翳す数体の小鬼の姿。

 

「やべ……っ‼」

 

 撃退しようと木刀を握るも、やはり上手く力が入らない。「銀さん…っ‼」と藤丸が遠くで叫ぶ声が聞こえた。

 避けるには間に合わない……ならば止む無しと、松陽を抱える側と反対の腕を頭上に構えた時であった。

 

 

 

 

  ───ひらり、ひらり

 

 

 

 

 閉じかけた瞼の隙間から覗いたのは、幽暗に映える光の粉。

 見開かれた銀時の眼前を通過したそれらは、琥珀色に輝いた蝶だった。

 

 どこかで見た覚えのあるような気が……などと考えている間に、数匹の蝶は闇の中を優雅に舞い踊る。

 小さな躰が小鬼の鼻先まで到達したその時、空気を震わせる程の爆破音が轟いた。

 

「うおおおおぉっ⁉」

 

 突如その身を膨らせ、(ほむら)を纏って爆ぜた蝶。(すんで)のところまで迫った火を避けるべく、銀時は大きく仰け反る。前髪の先端が少しだけ焼け、鼻先に焦げ臭い匂いが漂った。

 

『ギイイイイイィィィィッ‼』

 

 炎に巻かれた小鬼達は翻筋斗(もんどり)打ち、耳に残る不快な悲鳴を上げる。その場に倒れ伏す個体もいる中で、数体の輩は堪らず河川敷を駆け下り、川へと飛び込む。しかし琥珀の焔は消えることなく、寧ろより激しく燃え盛り、その身が灰となるまで小鬼を焼き尽くした。

 

「な………何だぁ?」

 

 銀時の呟きに、答える者はいない。誰もが今の彼と同様に、開いた口が塞がらない状態だからである。

 

 すると立ち尽くす彼らの間を縫い、あの琥珀の蝶がひらひらと飛んでいく。その数を増やした蝶達が一箇所に集まり、一つの大きな塊を形作る。

 

 

 それが人型を模していると、誰しもが気がついた刹那───四散した光の蝶の中から、一人の男が現れた。

 

 

 

 

「くくっ……何だ銀時ィ?てめえともあろう奴が、こんな連中相手に苦戦してやがんのかい。」

 

 

 笑いを含んだ声は、彼が手にしている煙管(キセル)の煙と同じ匂いを燻らせている。

 周囲を飛び交う蝶の淡い光に照らされ、黒地に金の唐草模様をした羽織がぼんやりと暗夜に浮かぶ。彼の纏う紅桔梗の着物にも、よく似た蝶が描かれていた。

 

 

「お……お前、何でここに……っ⁉」

 

 驚愕した銀時の声に、男は紫煙を吐き出した後にゆっくりと振り向く。人形の様に艶やかな髪と整った容姿、それと左の眼を包帯で覆った彼の深碧(しんぺき)の色をした右目が放つ妖しい光に、銀時を除いた一同が見惚れると同時に恐懼(きょうく)した。

 

「……ほう。どうやら一人、サーヴァント(おれたち)とは違う奴が混じってるみてえだな。」

 

 不敵に嗤い、男がこちらへと歩いてくる。草履の裏で砂利を踏む音が近付き、藤丸は恐る恐る顔を上げた。

 

「おい。」

 

「ひっ、ひゃい⁉」

 

 男の右目が放つ鋭い眼光に(おのの)き、思わず声が裏返ってしまう。彼の頭部の傷に布を当てていた段蔵も、利き手に仕込んだ刃を構え男を睨みつけている。

 

「手の甲に刻まれたソレ………成程、てめえが『マスター』ってやつか。」

 

「は、はい………えっと、藤丸立香トイイマス。カルデアノますたーデス……。」

 

 あまりの緊張に、自己紹介の後半が片言になってしまった藤丸。あまりに素っ頓狂な様子の彼に、男は暫しきょとんとした後、低く笑う。

 

「これはこれはどーも。そちらさんがわざわざ名乗ってくれたんだ、『俺達』もそれに応えてやらねえと…………なあ、『ヅラ』?」

 

 男が呟いた最後の言葉と同時に、彼へと襲い掛かってくる魔物達。危ない、と藤丸が叫ぶよりも早く、更にその背後より現れた介入者の猛攻撃によって、奇襲をかけようとした魔物は皆塵と消えた。

 

「え、エリザベス……?」

 

 引きつった声で名を呼ぶ新八の視線の先で、華麗な着地を決め降り立つ血染めのプラカードを持ったあのエリザベス。だが、何やら様子かおかしい。折れかけたプラカードを投げ捨て、こちらも返り血で汚れた裾(?)に手を掛けたかと思いきや、エリザベスは皆の視線など気にすることなく、突如それを捲り上げたのだ。

 

 

 

「─────『ヅラ』じゃない、桂だ。」

 

 

 喧騒の中でも聞き取れる、低く凛とした声。取り払われたエリザベスの被り物の下から現れた長髪が、さらりと揺れた。

 

 

「おまっ………ヅラ、ヅラじゃねえか!」

 

「ヅラじゃなああいっ!桂だと今申したばかりであろうがこのうつけめっ‼」

 

 彼の姿を見るなり、叫ぶ銀時。そんな彼に桂と名乗った男が間髪入れずに放ったドロップキック。

 華麗に跳んだ桂の足は見事クリーンヒットし、「アヅチモモヤマっ‼」と叫んで大きく吹き飛んだ銀時の手から離れた松陽を、包帯の男がすかさず受け止める。

 

「………………。」

 

 包帯の男は何も言うことなく、抱きかかえた松陽の眠る顔を眺め続けている。暫くすると踵を返して歩き出し、着いたのは定春とフォウの元。

 

「わうぅ……?」

 

 困惑する定春の胴体に、包帯の男は松陽の身体を凭れさせる。自身の羽織を脱ぎ、松陽に掛けてやる手つきは、まるで壊れ物を扱うかのよう。外見からは予想もつかない穏やかな眼差しに、二匹は目を丸くした。

 

「……事が済むまで、この人を頼むぞ。」

 

 その言葉や態度に、威圧のようなものは微塵も感じられない。真っ直ぐな瞳に秘められた想いを感じ取り、「わんっ!」「フォウッ!」と二匹は了解の返事をした。

 

「あれっ?ちょっと待ってください……そっちに桂さんがいて、じゃあこっちのエリザベスは───」

 

 新八が振り向いたと同時に、かつらエリザベスはポンッと音を立て消滅した。跡形も残らないその場所を呆然と眺める彼に、横から現れた桂が説明を加える。

 

「ああ、それは俺がエリザベスをモデルに造った、いわば式神というやつだな。ほんの勢いで試してみたのだが、中々可愛らしい仕上がりであったろう?」

 

「え?式神?アンタ今式神って言いませんでした?一体どういう───」

 

 すると困惑する新八の声を遮るように、やや離れた所から銀時の怒声が聞こえてくる。

 

「ってえなコノヤロー‼こちとら負傷して鉛みてえに重い体酷使してんのに、何この仕打ち⁉」

 

「何が負傷だこの馬鹿者め!単に魔力切れを起こしているだけではないか!」

 

「へ?何、魔力……切れ?」

 

 聞き慣れない単語に首を傾げていると、桂は何やら懐を漁りながらこちらへと近寄ってくる。

 

「仕方ない……銀時、これを食え。一時凌ぎではあるが(カラ)よりはマシであろう、多少は回復するぞ。」

 

 ずい、と鼻先に差し出されたのは、包みを開いた黄色い菓子。漂うまろやかな香りに、それが何であるかを察した銀時は顔を顰める。

 

「ヅラく~ん……俺、『んまい棒』ならチョコ味とかシュガーラスク味とかさ、甘いやつがいいんだけど────」

 

「ええいっ!俺の持ち合わせはこの昆捕駄呪(コーンポタージュ)のみだ!いいから文句を言わずにとっとと喰らえっ‼」

 

 強引に捻じ込まれたうま……もとい、んまい棒は案の定喉の息子に直撃し、銀時は激しく咳き込む。そんな彼の苦悶などいざ知らず、ちゃっかり自分もんまい棒を貰っていたアストルフォは「美味しーねコレ!」と笑顔で駄菓子を()んでいた。

 

「さて、と……確か藤丸君、と言ったな?」

 

 不意に声を掛けられ、藤丸は思わず硬直する。先程の雰囲気からは想像も出来ない、落ち着きの払った声色で桂は続けた。

 

「本来ならば、君にこの世界について色々と話をしたいところなのだが…………どうやら、こちらの片付けから済ませるのが先決らしい。」

 

 桂の見据える先には、未だ数を保ったままの魔物の群れ。溜め息を零す彼の隣に、煙管を咥えた包帯の男が並ぶ。

 

「あの……貴方がたは一体………?さっきの様子からだと、もしかすると銀さんの知り合い、なんですか……?」

 

 動揺を保ったまま、藤丸が疑問をぶつける。すると二人は同時に振り向き、弧を描く口許を動かした。

 

 

 

「申し遅れた、異界のマスター殿よ…………俺の名は桂小太郎。魔術師(キャスター)クラスのサーヴァントだ。」

 

 

「………サーヴァント、復讐者(アヴェンジャー)……高杉晋助。そこの銀時(バカ)とは、昔からの付き合いでね。」

 

 

 

「え……え?サーヴァント?お前らも?えっ………ええええええええぇぇっ⁉」

 

 愕然とした銀時の絶叫が、一帯に響き渡る。食べかけのんまい棒を何度も落としそうになりながらも、銀時の口はマシンガンの如く止まらない。

 

「ちょちょちょちょ待って待って!銀さん理解が追いつかないんだけど⁉えっ何で?何でお前らまでサーヴァントになっちゃってるの⁉大体ヅラのキャスターって何?テレビにでも出るつもりなの?朝の顔にでもなるつもりなの⁉」

 

「銀さん、ニュースキャスターじゃないでしょ。ちゃんと魔術師の字に振り入れてますし。」

 

「あと高杉ぃっ‼復讐者って何⁉アヴェンジャーって何⁉元々厨二全開だった奴がサーヴァントになったらクラスまで厨二なの⁉でも悔しいけど復讐者(アヴェンジャー)って響き、超カッコいいわ……よかったら銀さんと取っ替えっこしない?ヤクルコあげるから。」

 

「あ~銀ちゃんズルいネ、私の時はたったの300円だってのに。」

 

「相変わらず阿呆だな、てめえは。折角得たクラスをヤクルコ一つで易々手放せるかってんだ………業務用サイズで考えといてやる。」

 

「安っ‼それでいいのアンタ⁉ていうかそんなに乳酸菌飲料飲んだら確実にお腹壊すわよ⁉」

 

「僕もヤ〇ルトだーい好き!何本だって飲んじゃうよ!」

 

「アストルフォ殿、ヤ〇ルトは摂取する本数に詳しい限度は定めてはおられませぬが、理想は一日一本を継続的に飲むことだそうで。それと抗生物質を服用されてる御方は、物質がヤ〇ルト菌を殺してしまわないよう、30分ほどお時間を置いて摂取されると良いと、段蔵は学習いたしておりまする。」

 

 前半に漂っていたシリアスはどこへやら、いつものぐだぐたとした空気が場に流れ始めるのを苦笑しながら感じていた時、肌で分かるほどの凄まじい殺気と怒気に、藤丸の肩が跳ねた。

 

「あ、ヤベ。すっかり忘れてたわ。」

 

 銀時がそう呟いたのが引き金になったのか、散々焦らされ放置された魔物達は気色の悪い雄叫びを上げながら、湧き上がる殺意のままにこちらへと突進してくる。

 

「さて、と……本来ならば、君にこの世界について色々と話をしたいところなのだが…………どうやら、こちらの片付けから済ませるのが先決らしい。」

 

「ヅラ、その台詞さっきも言ってたアル。使い回すんじゃねーヨ。」

 

「銀時、それに藤丸……つったな。てめえらにも後で聞きてえことが山ほどある。カルデアとやらのこと、サーヴァントについて、それに…………。」

 

 煙管を口から離し、彼……高杉は銀時達の後方に目をやる。意識の戻る様子のない松陽を、定春は言いつけ通りにしっかりと囲い守っていた。

 

「銀時、もう動けるな?ならば我々を手伝ってもらおう。」

 

 桂、続いて高杉が一歩、二歩と進んでいく度、砂が立てる僅かな音も(かまびす)しい声に掻き消される。

 高杉が、煙管を持った手を軽く振る。すると握っていた鉄の菅が、ほんの一瞬でその姿を二寸ほどの長さの刀へと変えた。

 続いて桂は両の掌を強く合わせる。パンッ、と乾いた音を響かせ、離したそこから現れたのは、若葉色の和紙に包まれた一本の巻物。紐を解き、開いた紙面に記された内容を指でなぞると、墨で書かれた黒い文字や絵が淡く光を放ち、浮き上がって宙に浮いた。

 

「た、高杉……ヅラ……?」

 

 眼前で繰り広げられる光景に理解が追いつかず、皆が動揺を隠せない。銀時が名を呟くその声に、桂はお決まりの台詞を返した。

 

「ヅラじゃない、桂だっ!」

 

 勢いのままに振るった手から、弾となった光が前方目掛け飛んでいく。すると光弾は飛行しながら形を変えていき、やがて複数のエリザベスの姿となって具現化したそれらは、魔物達の前に立ちはだかった。突然現れた白いUMA的な生き物にたじろぐ敵に向かい、ロングヘアやらオネエ系やらゴ〇ゴ風などといった個性豊かなエリザベス達が、各々プラカードやガトリング砲を用いて応戦する姿に、皆が呆気にとられる。

 

「うわ~可愛いっ!エリザベスがいっぱいだぁ!」

 

 目を輝かせるアストルフォに、桂は振り向きざまに微笑み親指を立てる。続いて二、三本と巻物を展開していく彼の傍らで、高杉がこちらに接近してくる魔物を一太刀のもとに次々と切り伏せていった。

 『シャアアアァッ‼』と奇声を上げ、般若が高杉目掛け襲い掛かる。だか彼の刃がそれを斬るよりも早く、横からの一撃が般若を吹き飛ばした。

 

「おっとぉ、悪いね高杉君。獲物横取りしちゃったかなぁ?」

 

「はっ、さっきまで魔力切れでへばってた奴とは思えねえ働きだな。」

 

 木刀を肩に担ぎ、挑発的な笑みを浮かべる銀時に、高杉は苛立った様子も見せず嗤笑する。

 

「……で、俺らは何をすればいい?」

 

「察しがよくて助かるぜ、『白夜叉』殿…………奴らを一匹残らず河川敷の方へ追いやれ、そこで一気にカタを付ける。」

 

「りょーかい、っと………だそうだぜ、お前ら!」

 

 銀時が叫ぶや否や、彼の背後から飛び出してくる一行。構えた得物を振るい、魔物達へと突っ込んでいった。

 

「だ、段蔵ちゃん………これちょっと恥ずかしいんだけど。」

 

「マスター、どうかご辛抱を。貴方にもしものことがあれば、カルデアの皆様に申し訳が立ちませぬ。」

 

 怪我人である藤丸は万全でない為、段蔵の背におぶさる形で皆と共に進軍している。サーヴァントといえど女子におんぶされるのは流石に気恥ずかしく、赤面する藤丸を他所に、段蔵は両手が塞がった状態にも関わらず、足技と絡繰を駆使して敵を一掃する姿は何とも清々しい光景であった。

 

「ほあちゃああァァっ!」

 

「えーいっ!吹き飛びなさいっ!」

 

 皆の奮戦により、魔物達の数は徐々に減少していく。だが高杉の言った通りに河川敷へと追いやった頭数もかなりのもの。一体どのようにして片付けるというのだろうと疑問に思う藤丸の横で、アストルフォが最後の一体を吹き飛ばした。

 

「……よし、これで全部だな。」

 

 集められた魔物達の遥か前方に立つのは、広げた青の巻物を宙に浮かせ不敵に笑う桂。全ての殺気が彼へと向けられた時、足元から光が放たれた。

 

『ガ、ガアアアアアアァァッ⁉』

 

 光は筋を描き、やがて巨大な八角形が地面へと展開された時、それは結界となって魔物達を陣の中へと拘束する。苦しみ悶える化物達、そんな彼らの上空を舞う、無数の蝶。

 

「高杉、今だ!」

 

 叫ぶと同時に展開したのは、赤の巻物。桂の指が紙面をなぞると、魔物達の上にデジタルのタイマーがカウントを刻んだ球型の爆弾が幾つも現れた。

 

 

「─────爆ぜろ。」

 

 

 パキン、と高杉が奏でた指鳴りと共に、全ての爆弾のタイマーが0を示す。

 

 凄まじい爆発音が轟き、地面を揺らし、結界内で爆発した蝶と爆弾によって生まれた煉獄の炎が、醜く慟哭を叫ぶ魔物達を焼き尽くしていく。

 

「す……凄い……。」

 

 天へと高く伸びる巨大な火柱に、藤丸はただ圧倒される。ポカンと口を開けたままの一同の元に、一仕事を終えた桂と高杉が戻ってくる。

 

「ふーぅ……やはり加減をせずに魔力を使用するのもいいものだ、スカッとした気分になる。」

 

「お前さん、穏健派名乗るの止めたらどうだい………さてと。」

 

 高杉の刀が霞となり、代わりに手が握っているのは愛用の煙管。ひらひらと一羽の蝶が火皿に止まると、細い煙が立ち昇り始めた。

 燃え盛る炎に照らされ、紫煙を吐きながら高杉は妖艶に微笑む。

 

「それじゃあ、お互い情報交換といこうじゃねえか。なあ銀時………それに、カルデアのマスターさんよぉ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《続く》

 

 

 

 


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