Fate/crescent 蒼月の少女【完結】   作:モモのすけ

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二十六話 戦闘準備──強襲

 カッターシャツを乱雑に脱ぎ捨て、着慣れた紺のシャツに腕を通す。教科書が散乱した勉強机の上に置かれたデジタル時計の針は、ちょうど午後二時を指し示していた。

 早々に着替えを終え、手にしたスマートフォンから響く騒がしい声に耳を傾ける。声の主は我が妹、志原楓だ。

 

「──もしもし、お兄ちゃん? 前田さんから聞いたんだけど、ついに彼女できたってほんと? ちょっと私にも教えてよぉ」

 

「お前には関係ない。どうせアレだよ、いつもの大雅の勘違いだ。そんなんじゃない」

 

 俺とセイバーは彼氏彼女などではなく、もっと深刻かつ重大かつ俺が一方的に迷惑を被る関係だ。そんな華やかなものでは断じてない。

 

「怪しい。怪しすぎる。なんか隠してる感じするし」

 

「隠して…………ないって。別に」

 

「ほら今言葉に詰まったじゃない‼︎ お兄ちゃん嘘つくのド下手よね昔から」

 

「う、うるせえなあ‼︎ お前はどうなんだよ、家に帰ったけどどこにもいないし‼︎ お前今どこで何してんだ⁉︎」

 

「私はバイトだけど、何か問題あるわけ?」

 

「じゃあバイト中にわざわざかけてくんな、もう切るからな‼︎ とにかく夜は危ないから家に帰って寝てくれ、じゃあまた‼︎」

 

「あっ、ちょっ────」

 

 野次馬根性丸出しで兄のプライベートを探ろうとする楓を一蹴し、俺は容赦無しに通話を切った。

 途端に沈黙する端末の電源を切り、改めて視線を上げる。目の前には勝手にベッドに寝そべる魔王さまの姿がある。

 

「セイバー。楓が居ない今がチャンスだ、俺の用意が終わったらすぐに家は出るからな。それまでにそれ読み終わっとけよ。読み終わってないってだだこねても知らねーぞ」

 

「いやいや、まだ十ページも読んでないんですけど、どうしろって言うんですか。むしろ私は深夜までここに留まり、下手に動くべきではないと思います」

 

「今更何言ってんだ、俺を至る所に散々連れ回しやがった癖に。漫画読みたいだけだろお前。それに俺だってできれば夜まで家に居たいけどさ、帰ってきた楓にどう説明するんだよ?」

 

「言ったじゃないですか。恋人と」

 

「だ、か、ら無理言うなァ‼︎ あいつの事だ、絶対根掘り葉掘り聞いてくるに決まってる‼︎ そうなりゃ嘘なんてすぐバレるぞ、絶対‼︎」

 

 家に一日ぶりに帰宅してから既に十分が経過している。幸いにも妹の姿は無く、俺は安心してセイバーを家に入れる事ができた。

 家に上げた友人のようなノリで漫画を読み耽るどころか勝手に冷蔵庫からジュースを引っ張り出したセイバーに釘を刺し、自室のロッカーをがらりと引き開ける。

 久方ぶりに開けたからか、埃っぽい匂いが微かに鼻をついた。

 

「そういえば、準備って何するんです?」

 

「そりゃあ、戦う準備に決まってるだろ」

 

「何言ってるんですか。基礎魔術すら使えないケントが戦うなんて。強力な回復能力があるとはいえ、死なない訳ではありません。あまり調子に乗っていては死にますよ」

 

 その声は静かで、そもそも漫画から視線を離さないまま放たれた言葉だったが、そこに秘められた真剣さと威圧感は本物だった。彼女は本気で言っているのだ。

 まるで背筋を鷲掴みにされたような感覚をたった一言で味わいつつ、目線を逸らして頭を掻く。

 

「分かってるよ。でもな」

 

 思い返すのは昨晩のこと、サーヴァントに遭遇すらせずに死に掛けた夜のことだ。

 

「昨日みたいにお前に頼れない時だって絶対に来る。昨日だって、数秒の差で助かったようなもんだ。……お前みたいにガンガン戦おうとしてる訳じゃないよ。ただ緊急時に少しでも生存率を上げれるよう、なんとか努力してるだけだ」

 

 実は俺も戦う手段は持っている。あまりに非合法すぎて使うのは気がひけるどころじゃないのだが、昨晩またもや死に掛けていい加減敵の脅威度を認識した。

 全く気は進まないが、殺される前に殺すくらいの覚悟で臨まなければ──俺はこの先、確実に死ぬ。

 

「……ならいいですけど、どうする気ですか? いくらケントが腕っぷしに自信があろうと、魔術師には到底対抗できませんよ」

 

 先程の鋭い口調は何処へ行ったのか、セイバーはけろりと口調を変えて面白がるように呟く。

 

「うるせえな、それくらい分かってるよ……子供の喧嘩じゃないんだから」

 

 ロッカーの中から厳重に封をした段ボール箱を持ち出し、ベッドの横に置く。

 セイバーの目はくりくりと忙しなく動き、突然現れた謎の箱の表面に視線を滑らせた。

 

「何です? ソレ」

 

 それには答えず、俺は少し焦った手付きで封を開いていく。積もった埃が舞い上がるのを片手で払いながら、箱の内部に積み上げられた様々な物の内の一つを拾い上げた。

 

「これが催涙ゴム手榴弾、こっちは……えーっと、確かM84スタングレネード。こっちはスモークだろ……こっちがサバイバルナイフで、なんと本物のハンドガンまであるんだ。絶対人には見せないようにいつもはロッカーの奥深くに隠してるけど」

 

「うぉわ……こりゃまた、物騒というか……何故ケントがこんな武装を? 一般人が入手できるような物では無いと思いますが」

 

「それが、俺の父さんがやたら変人でさ。海外で何をしてるんだか知らないけど、母さんに内緒でくれるんだよ、こういうの。土産物代わりに。ぶっちゃけ迷惑なんだけどまさか役に立つ日が来るとは」

 

「私が言うのもなんですが、胡散臭くありませんかソレ。一度しっかり話し合った方がいいと思いますよ、家族で。なんか重大な秘密とか隠されてません?」

 

「けどなあ。両親とも年に一、二回しか帰ってこないし」

 

 そんな事を言いながら、クローゼットの奥に掛けてある少しボロっちい黒のジャケットを勢いよく羽織る。少し暑いが頑丈さは相当なもので、きっと活躍してくれる筈だ。

 と、それを見たセイバーはぎょっとした顔で──、

 

「……ケント。それは、どこで?」

 

「ん、このジャケット? 父さんが昔の仕事仲間に作ってもらったらしい、俺の誕生祝いに」

 

「何故、魔獣の皮で魔術的に編まれたものをケントが……これは魔術師が……いや……ということは……」

 

「?」

 

 セイバーは怪訝な顔で何事か呟いていたが、まあいいやと放っておく。大きめのサバイバルナイフを握り直しながら、壁に掛けられた家族写真を見やる。

 よく日に焼けた父親に、楓によく似た笑顔の母親。今より数歳若い俺と楓は仲良く手を繋いで、カメラに向けてピースをとっている。確か有名レジャーランドに行った時の写真だった筈だが、最近我が家は不景気なのでとんとそういうイベントがない。

 ……今後、俺が生きて家族団欒に参加できるかも怪しいのだが、最悪の可能性はなるべく考えないようにしておく。

 

「そういえば、セイバーにも家族はいたのか?」

 

 口から出たのは、ふと湧いた、単純な疑問だった。

 失敗点を挙げるならば、その時の俺はどこかぼーっとしていて深く考慮する事を忘れていたということ。

 問いかけた直後、セイバーの手の中から単行本が滑り落ちる。

 

「………………………………私の、か、ぞく?」

 

 自然な流れで生前のセイバーの話に興味が向いたと思っていたのだがが、セイバーは答えないまま、信じられない程に顔を蒼白に歪め──、

 

「ぅ、あ──ぐぇ、げぇっ‼︎」

 

「せ、セイバーっ⁉︎」

 

 両目を見開いて嘔吐(えず)くセイバーに転がるように寄り添い、俺は無我夢中でセイバーの背中を撫でてやった。蒼色の髪が至近距離に迫り、ふわりとした心地いい香りが鼻腔を刺激する。

 だが、こんな時でもそんな事に気をとられる考える自分に腹が立ち、俺は自分を殴りつけたい衝動に駆られた。

 肩を震わせ、暫し身体を固くしていたセイバーだったが、数分経ってからようやく顔を上げる。

 

「だ、大丈夫、です。……見苦しいところを見せました」

 

「いや。俺のせいだ。……ごめん」

 

 わかっていた筈だ。彼女が極度に過去の話をする事を嫌うということは。

 うなだれる俺を見て、セイバーは力無く笑う。

 

「じゃあ、そうですね、お菓子の一つでも持ってきてもらいましょうか。今ので私は機嫌が悪くなりました」

 

 ──嘘だ、とはっきり分かった。

 セイバーは我儘でよく物をねだるが、今のは声に力が無い。きっと、無理を誤魔化そうとして振舞っているに決まっている。セイバーの頰にはじっとりと汗が浮かんでいて、俺は思わず歯を食い縛る。

 だが、どうしようもなかった。

 大人しく俺が自室のストックからチョコレートを引っ張り出すと、セイバーはそれを美味しそうに頬張って──、

 

「もぐもぐ、ん……で、家族でしたか」

 

「いや、その……無理なら、いいぞ。お前は自分の事を話すのを嫌がるのに、不意に聞いた俺に非がある。ほら、汗も拭けよ」

 

「……すいません」

 

 タオルを手渡した際に漏れた弱々しい声に、後悔の念が胸中で吹き荒れる。

 よもやここまで彼女が自らの事情を語る事に拒絶反応を示すとは思っていなかった。とはいえ、元を正せば自分の不注意が引き起こした結果だ。

 

「反省した、今後は気をつける。……なんだから話を変えるか。今日の方針をどうするか、なんだけど──」

 

「方針は変えないでいいでしょう。バーサーカーにさえ……そう、アイツにさえ気を付ければ多少大胆に動いても構いません。私ならば大体のサーヴァントに優位が取れますから、自分達を囮にするくらいの心意気でいきましょう」

 

「すっげえ自信だな、相変わらず……しかし、バーサーカーか」

 

 携帯型ポーチに色々な武装を詰め込みながら、嫌な汗が首筋に浮くのを自覚する。

 ……なんせ、一度殺された相手だ。

 根付いた苦手意識は、どう足掻いても消えそうに無い。あの憤怒に駆られた悪鬼羅刹と見間違えんばかりの貌、膨張する筋肉、禍々しく唸る漆黒の剣──。

 

「奴の強さは度が外れています。あのサーヴァントを単独で倒せる英霊となると、ほんの一握りと言っていいでしょう」

 

「昨日の化け蛇をいとも簡単に倒してたお前ですら、あの男は手に余るのか」

 

「ええ……更に悪い事に、どうも奴の剣は私も相性が悪いんです。これは運の悪い偶然という他ありませんね。バーサーカーに関しては正面から戦えばまず勝てませんし、前マスターも奴に殺されました」

 

「……了解。けど狂戦士のクラスは消費魔力が尋常じゃ無いとか言ってなかったっけ。なら、付け入る隙はあるんじゃないのか」

 

「ええ。あれ程の英霊に狂化を付与し使役すれば、必ずその代償が現れるでしょう。叩くとしたら、その崩れたタイミングですかね」

 

 成る程ね、と呟いて、俺は所持品の最終確認を終えた。膨れたポーチを叩き、最後に主武装となるコンバットナイフをいつでも取り出せる場所に詰め込んでおく。

 ハンドガンはあくまで切り札だ。弾倉に込められた弾が15発、予備マガジンは一つ。魔術師とやらがどんな連中がいまだに不明瞭な以上、最初からぶっ放して下手に対策されれば勝ち目は薄くなる。

 まあそもそもこのセイバーが馬鹿じみて強いので、戦闘はほとんど丸投げした方が確実かつ両者にとって安全だろう。つまるところ俺が戦うという状況は、とんでもないピンチであるという事に他ならない──それをあらかじめ理解した上で、俺は軽く頬を叩いた。

 

「これで準備完了。よし、今日も死なないように気合い入れていくぞ‼︎」

 

「ちょっと待ってください、あと半分読んでません」

 

「……………………」

 

 空気を読むということを、この英霊は知らないらしい。

 折角威勢良く出陣しようと試みたというのに出鼻をへし折られた気分に陥り、渋面の俺は無言でセイバーから単行本を取り上げた。

 

 

 

 

「もぐもぐ……」

 

 数時間が経過し、時間帯は深夜の十二時を微かに超える頃合いに突入していた。

 俺はコンビニで購入した夜食代わりの某有名チキンを頬張りつつ、隣のセイバーにちらりと視線を寄越す。

 

「……何ですか、ケント」

 

 サーヴァントは食事を摂る必要が無い。故に、彼女が食べるのはもっぱら好みの甘味類だ。今も大事そうに抱えたグミの袋から一つ一つ蛍光色の粒を取り出しては、美味しそうに咀嚼している。

 食事中の俺が言うのもなんだが、その姿からは緊張感という物が全く感じられない。

 

「……いや、何でも。しかし、目標も無くうろつき回るのもなかなかにきついな。それに、俺は自分自身を餌にサーヴァントを釣ろうとしてる訳だし」

 

「そうですか? 私は楽しいですよ。こう、ふらふらと二人で歩いているだけでも」

 

「そりゃどうも」

 

 ガードレールに腰かけたまま、空を仰ぐ。

 二十二時に行動を開始し、かれこれ二時間以上東部の住宅街を巡回してみたが、これといった成果は得られていない。

 

「……あ、ぐみが無くなりました」

 

「今のお前、どう見てもサーヴァントには見えないぞ。明らかにコンビニ帰りに我慢できなくなってお菓子をつまんでるダメな人だ。敵が出ないのもそのせいじゃないのか」

 

「む、失礼ですね。ぶっとばしますよ」

 

 セイバーが片手を置いていたガードレールがめきり、と歪むのを見て、若干顔を青くしながら沈黙する。

 しかし次の瞬間、セイバーが勢いよく西の方角を振り向いた。ほとんど間髪入れずに俺の手がむんずと掴まれ、セイバーが電柱の陰に俺を引きずっていく。

 

「……な、何だよ⁉︎ 結局また俺は殴られるのか、そうなのか⁉︎」

 

「違いますっ。静かに……奴です」

 

 奴──と聞いて心当たりがあるのは、一人しかいない。

 この魔王たるセイバーが唯一警戒し、真正面からでも勝てないと言う狂気の英霊。俺の全身が異様な気配に総毛立つと同時に、何かが踏み砕かれる音が連続して聞こえてくる。

 

「あれは──────」

 

 夜闇の中。俺たちがいる住宅街の遥か遠くに駅前の光が瞬いていて、それを横切るように動く閃光が見えた。

 その人影は住宅街の屋根を踏み潰すくらいの勢いで宙を駆け、異様な速度でこちらに迫ってくる。定期的に聞こえてくる破砕音は、バーサーカーが足場とする住宅の屋根を踏み砕く音だったのだ。

 それは幸い俺たちに気付くことなく、数軒先の民家の上を駆け抜けていった。分かっていてもなお目で捉えられない程の速度に、つい嫌な記憶を思い出してしまう。

 

「…………行きましたね。最近になって大塚市中を巡回しているようですが、バーサーカーとして狂化していることが救いでした。こうして隠れるだけでも、奴に発見されるのだけは防げる」

 

「でも、バレたら確実に──」

 

「その通りです。せめて満月の夜まで待たなくては、あの英霊を倒せる気がしませんね」

 

 セイバーの表情は研ぎ澄まされた刃の如く真剣だ。再び合間見えて、あの英霊の恐ろしさを実感する。

 

「……そういや、「超強い剣」としか言ってなかったけど。満月になると倒せる可能性があるってどういう仕組みなんだ?」

 

「そうですね。確かに伝えておいてもいいかもしれません」

 

 俺の問いにセイバーは平然と片手に剣を出現させ、軽く掲げてみせた。最早いちいち動揺しないあたり、俺の成長が伺える気がする。

 

「うん……いつもの剣だな。それでどうなんだ」

 

「一応れっきとした神造兵器、この世に二つと無い逸品なんですけどね……まあいいや、よく聞いてください。これは降り注ぐ月光を集約し、極限まで鍛え上げた神剣です」

 

「やたらとかっこいいな……」

 

「なんですかその子供みたいな感想は。まあもとは聖剣とはいえ、私のせいで魔剣化しちゃってますけどね」

 

「別にいいじゃんか、魔剣は魔剣で闇パワー感あってかっこいいし。それに聖剣も魔剣も変わらんだろ」

 

「いや全然違うんですけど……まあともあれ、この剣が持つ性質は月光の「蓄積」と「放射」。空に浮かぶ月が輝くほど、この剣も力を増すのです」

 

「なるほど、だから満月か。そういや、ライダーの奴と戦ったときも言ってたっけか」

 

「そうですね、新月、もしくは月が雲で隠れている時の出力を1としましょうか。すると半月時には4、満月時には8……というように、この剣の出力限界(リミット)も解放されていきます」

 

 そう聞いて、俺は思わずライダー戦の光景を思い返していた。

 あれはあれで鮮烈極まる光景だったが、比べてみれば、今宵のセイバーの剣は確かに輝きを増しているように見える。

 「出力」とセイバーは言ったが、恐らく、その刀身の硬さや鋭さ、その他諸々までもが纏めて強化されるに違いない。そして剣士(セイバー)にとって、剣の強さはそのままサーヴァントとしての強さに直結する。

 

「今の月って、アレは……だいたい上弦の月か?」

 

「そうですね。恐らくあと一週間ほどで満月かと」

 

「成る程、今後は月の状態も考える必要があるか。曇りの日は派手な行動は避けるべきとか……今日以降も月はどんどん満ちていくんだし、しばらくは状況的に有利だな……」

 

「ちょっと、何ブツブツ言ってるんですか。似合いませんよ全然」

 

 一人で放置されたセイバーが唇を尖らせる。

 

「うるせえな。俺だってちょっとは考えて……」

 

 俺の考えが呟きとなって漏れていたのか。カチンとくる台詞を吐かれて、思わず言い返そうと俯き気味だった顔を上げる。

 瞬間。

 全身を襲う奇妙な違和感があった。

 辺りに満ちる空気ではない何かが震えるような感覚。そうだ、身体が憶えている。今までも感じたことがある、これは多分魔力とやらのうねりによるもの──。

 

「────来ます!」

 

「ンな……⁉︎」

 

 視界の端で光が膨れ上がった。

 セイバーが俺を庇って飛び出す。俺はほぼ無意識にその小さな背中に手を伸ばしていた。

 が、それを妨げるように、目を灼く閃光が炸裂する。暴風と光が一緒くたになって通り過ぎ、俺はガードレールから転げ落ちそうになりながら目を細め、光の奔流の奥を見ようと試みる。

 

「くそ……‼︎ セイバー、大丈夫か──⁉︎」

 

 あるはずの返事が無い。

 胸に一抹の不安を抱えながら、腕を掲げて光が収まるのを待ち続ける。やがて刹那的な輝きは途絶え、視界に光の残滓が焼き付いたままではあったが、俺は視力を取り戻した。

 だが、奪われたものが一つだけ。

 

「……おい、セイ、バー……?」

 

 セイバーが居ない。

 どこにもいない。

 跡形もなく、消失してしまった。

 

 その事実は俺の中心を貫き、雷撃の如き衝撃を脳髄に叩き込む。

 

「返事しろよ──おい‼︎ どこだ⁉︎」

 

 無情にも返事は無く。

 代わりに響いてきたのは、足音。

 突如として現れたその人影は、坂道の途中に立つ俺を見下ろすように、殺意を籠めた目線を俺に向けていた。




【健斗のハンドガン】
正式名称:ベレッタ92。
米軍に正式採用された事から始まり、映画などに度々登場し世界中で絶大な人気を誇ったベレッタ社製のハンドガン。15発入るダブルカラム・マガジンにブレにくい弾道、軽めの反動など扱いやすく親しみやすい一丁。
最近では拳銃の世代交代の波に飲まれつつあるものの、色褪せない魅力が詰まった名銃。

……と色々頑張って調べて書いてみたけど、筆者は知識のないミリタリー系にわかなので、間違ってる描写などがある可能性があります。
にわかを晒していても暖かい目で見て頂けると幸いです、スイマセン…。

【健斗のコンバットナイフ】
比較的大型のコンバットナイフ。海外製。昔は父親が使っていた。

【健斗の両親】
海外で働いているが、何をしているのかはさっぱり不明。
不要になったり余ったりした武器を検閲にも引っかからず日本に持ち込めんでいるのを見るに、相当怪しい仕事をしているのは確か。
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