Fate/crescent 蒼月の少女【完結】   作:モモのすけ

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三十二話 魔王さまはR18が苦手 【9月8日】

「ん……ぐ……?」

 

 遅くまで起きていたので寝不足気味の脳をなんとか働かせて、俺は寝惚け眼で辺りを見回した。我が家の少し広めのリビングは何の変哲もなくいつもの風景を保っている。

 微かに聞こえる、聞き慣れた調理の音──楓が今日も朝食を作ってくれているんだろう。ゆっくりとベット代わりのソファから起き上がると、俺は忌々しげに自室へと向かう扉を睨んだ。

 

(……なんで俺がセイバーに寝床を奪われなくちゃなんねえんだよ)

 

 昨晩の言い争いで、「そもそも私がベットに寝れないとか論外なんですが」とかなんとか喚く例の魔王様に嫌々追い出される形で、我が寝床はリビングのソファへと移ってしまっている。

 昨日は疲れで眠かった事もあり、いつまでも引き下がろうとしないセイバーはかなーり面倒臭いので、渋々部屋を譲ったのだが──、

 

「いや、やっぱりおかしいよな? 俺は部屋主、あいつは居候」

 

 ……今こそ、かの邪智暴虐の魔王を除かなければなるまい。

 楓が待つダイニングへと続く扉を無視して廊下へと歩み出る。ずかずかずかずか、と不満気に足音を打ち鳴らしながら、階段を上って魔王の居城と化した自室へ向かう。

 楓の部屋の更に奥、二回廊下の突き当たりが俺の部屋だ。俺は部屋の前で一度立ち止まって、限界まで肺に息を吸い込んでから──、

 

「セイバー‼︎ いつまで寝てんだとっとと起きろ、ってかそもそもいい加減にベット返」

 

 怒声と共に勢い良く扉を開ける。

 俺の脳内では、惰眠を貪っていたセイバーは俺の声で仰天し、飛び起きたあげく転がり落ちて笑える姿を晒してくれればいいなぁ……という、具体的なようで曖昧なイメージがふわふわと浮かんでいた。

 だがそのイメージは、ものの最初から完膚なきまでに覆される事となる。

 

「んむぅ………………?」

 

 セイバーは口元をもごもごさせて、寝てた。

 それくらいは一目で分かる。俺が愛用する毛布に暖かそうにくるまって、魔王とは思えぬ微かな寝息を立てている。

 セイバーの小動物を連想させるような寝顔は大変可愛らしく、少し黙って見つめていたいような欲望に襲われたが、俺の視線は凄まじい吸引力によって彼女の肢体へと引き寄せられた。

 

 ──その、一糸纏わぬ華奢な身体に。

 

「ケントぉ、もう朝ですかあ…………?」

 

(あのお気に入りのジャージは? 違う、確か楓の寝間着を貸してもらって……んじゃあ寝巻きはいったい何処に消えたんだ⁉︎)

 

 厚い掛け布団は全てベットの下にずり落ちてしまっているので、彼女の肢体を覆うのは薄めの毛布のみ。

 故に、彼女の身体の起伏が毛布越しに丸分かり──というかそもそもその毛布すらも半分くらいがずり落ちているので、肝心な所を隠せているのが奇跡のようにも思える。

 しかし、この状況は非常にマズイ。

 楓に見られてもアウトだし、そもそも寝惚けてむにゃむにゃと口を動かしているセイバーが完全に起きればどうなる事か。

 だがそうと分かっていても、俺の足はぴくりとも動かず、見開かれた両眼は抗えぬ欲望によって彼女の身体に吸い寄せらてしまう。

 俺とて一応は男だ。色々と気になってる女の子のこんな姿を見て、「もっと見たい」と思わない方がどうかしてるって話──というか、そんな姿で俺の名前を呼ばないでくれ。

 などと百文字を優に超える言い訳をつらつら脳内で誰かに述べながら、俺は脳内記憶媒体に現在の光景を余す事なく記憶した。

 ふわふわした蒼い髪が、柔らかいシーツの上に波打って広がっている。白い毛布の下端からはまるでモデルみたいな脚がはみ出ており、太ももの美しい肌色が目に沁みる。少し視線を上げれば、毛布の上端は童顔の割に立派な胸の膨らみの途中で途切れてしまっていて、あと少しでもズレたらアウトというようなギリギリさで留まっている。

 

「………………お、ぉぅ」

 

 空いた口から意味のない呟きが漏れた所で、セイバーは目を両手で擦りながら、目の前でゆっくりと身体を起こしはじめた。

 ──そろそろマズイ。俺の命の危機という点でも、毛布の位置が決定的な一線を越えてしまうという点においても。

 なんせセイバーが起き上がってしまうと、胸元の毛布が完全にずり落ちてしまう。流石にそこまで待つほどの度胸は持ち合わせていなかった俺は、慌てて身体を百八十度方向転換させた。

 今ならまだ何食わぬ顔で立ち去れば、寝惚けたセイバーは俺がいた事に気付かないかもしれない。いや忘れる。絶対忘れる。

 俺は無言で鋭く足を滑らせ、開いた扉から転がり出るように脱出。扉をそっと閉め、何事も無かったかのように廊下を歩き始める。

 

「ん……? え? あ、あああああ────⁉︎」

 

 だがそう甘くはなかったらしい。素っ頓狂な悲鳴が俺の部屋から聞こえてきた直後、俺は数秒先の死を悟った。

 吹っ飛ばさんばかりの勢いで扉が開き、中から毛布を両手で無理矢理体に巻き付けたセイバーが飛び出す。その双眸は異様にぎらめき、殺意にも似た雰囲気が身体を覆っていた。

 その無言の剣幕に思わず尻餅を突きつつ後退するも、セイバーは逃すまいと距離を詰めてくる。

 

「お、おはよう、セイバー。ところで服は?」

 

「……楓のパジャマは胸の辺りが全然サイズ合ってなかったので遠慮させてもらいました。他人の服を改造する訳にもいきませんし。それに、どうせ最悪鎧を着ればいいんですから」

 

「あっハイ、さいですか」

 

 今の言葉は楓に聞かせない方が賢明だろう。

 嫌な冷や汗が一筋頰を伝う感覚を感じながら、俺はセイバーの無言の圧力に押し潰されるように彼女を見上げた。

 

「それよりケント、何か言うことありません? 昨日といい今日といい、そろそろ私ケントに失望しそうなんですけどね」

 

「違う、不可抗力っ、これはどう考えても不可抗力だ。昨日のは確かに俺が悪いかもしれないけど、今回ばかりは俺ばっかり責められたもんじゃないと思う。だってそもそもお前が俺からベッドを強奪してなけりゃ話は」

 

 セイバーの眩しい素足が視界を埋め尽くしたかと思うと、痛烈な蹴りによって俺は階段までノーバウンドで吹き飛ばされ、轟音と共に一階まで転げ落ちた。

 

 

 

 

「志原くん……そのほっぺどうしたの?」

 

「ちょっと階段から転がり落ちたんだよ。そう、そんだけ」

 

「その割に、なにかに殴られたみたいな跡だけどなー?」

 

「俺は何も見てない! 転がり落ちたんだっての‼︎」

 

「「……?」」

 

 あれから数時間が経過していた。

 前田は机の上に突っ伏すように、無事復帰した三浦は対照的に綺麗な姿勢を保ちながら俺の頰をじっと見つめている。

 湿布の貼られた右頬は左より腫れ、ちょっぴりアンバランスに膨らんでしまっていた。この傷を付けた例の魔王サマに内心ちょっと舌打ちをしながら、なんでもないと両手を振る。

 

「まあ、君がそう言うならいいんだが……健斗、いい加減にあの子との関係を吐いてくれないか? というか吐けよオラオラ」

 

 前田の執拗な追求を聞き流しながら、俺は家で留守番しているセイバーの姿を思い浮かべていた。

 彼女の宝具は、俺の身体が死した今もその治癒能力を残している。実際、肩や腰の骨に亀裂が入り、肋骨が二本折れるという重症を俺は昨晩負った。だが今はその痛みを全く感じないどころか、折れた肋骨さえも完璧にくっついている。

 けれど距離があるだけに、この頬の傷がなかなか消えてくれない。とはいえ、この痛みは鼻の下伸ばして欲張った自分への罰でもあるんだから甘んじて受けるべきなのか。

 と、いつも変わらないチャイムの音を聞き、前田が見るからに嫌そうな表情を浮かべる。

 

「ハァ、もう休み時間終わりかぁ……っあ! 今日レポート提出だったか⁉︎ すっかり忘れてたよ‼︎」

 

「嘘っ、まじで?」

 

「そうだよ。またやって来てないの、二人とも?」

 

「三浦さん、僕と健斗が期限に間に合わせた課題なんて存在すると思うかい? いや存在しないね。これ、えーっと……何だっけ?」

 

「確か反語じゃなかったか。あと断じて言わせてもらうけど、俺とお前を一緒にしないで欲しい。そりゃあたまに忘れるけれどもだね、俺はお前みたいに毎回遅れるほどヒドくないし……今日は忘れたけどさ」

 

 魔術師とかサーヴァントとか、挙げ句の果てに養子宣言だったり妹が魔術師だったりと凄まじい事件の連続で、正直課題の存在なんて記憶の隅に吹っ飛んでんだよ‼︎ なんて声高に言いたい気持ちをぐっと抑え、俺は無意味に分厚い文法書を気だるげに机の引き出しから引っ張り出した。

 

「えー、課題は授業終わりに集めるから、今日は前回の続きから。それでは教科書の──」

 

 教科書を眺めつつも、俺の思考はふらふらと落ち着かない。

 今頃、セイバーは何してるんだろうか。

 窓の外に広がる見慣れた景色に視線を向けながら、あれから不貞腐れて部屋に閉じこもってしまったセイバーの姿を思い浮かべる。

 

(……帰りにドーナツでも買って帰ろう)

 

 彼女の姿はあのキック以来見ていない。帰ったら早急にご機嫌を立てる策を用意する必要がある、と今後の行動方針を固めてから、俺は昨晩から俺の頭を悩ませている、もう一人の人物の顔を脳裏に浮かび上がらせた。

 彼の名はキャスター、またの名を「安倍清明」。

 安倍清明とは、平安時代にその名を轟かせた陰陽師である。その名は千年の時を経た今でさえ日本の人々に語り継がれており、今なお高い人気を誇っている。かくいう俺も、陰陽師と聞くとテンションが上がるのを抑えられない男子高校生の一人だ。

 とはいえ実物と話した俺の中では、「せんべい好きな残念イケメン」という新たなイメージが植え付けられてしまっているので、今更陰陽師という響きに興奮したりはしない。

 だが──、

 

「彼は信用なりません。あとウザいです」

 

「ウザいのは確かだけどさ……信用できないってのはどうしてだよ? あいつが裏切るかもしれない、って言うのか? キャスターは楓を守るって約束してくれたぞ」

 

「いえその、直接裏切るような真似をすることは無いと思うのですが。奴、非常時ともなれば容易く私たちを切り捨てるような気がするんですよね。……まあ端的に言えば、彼も心情や目標を最優先するれっきとした魔術師だということです」

 

 昨晩、キャスターと別れた後のセイバーが語った言葉だ。

 心情や目標と言っても──キャスターに言わせれば、聖杯戦争は一種の「暇つぶし」。召喚に応じたのも気まぐれみたいなもので、やる気があるのかどうかも俺からすればよく分からない。

 ちなみに、セイバー曰く強さは申し分ないとの事。

 後で聞いた話だと、キャスターは偽物の世界でセイバーに挑み、このあたりの住宅街が更地になる程の激闘を彼女と繰り広げたらしい。特にこの学校の辺りは凍らされ燃やされ、挙げ句の果てにセイバーがまとめて吹き飛ばしてしまったんだとか。そんな破壊を引き起こすには爆撃機が数機は必要だろうに、全くもって英霊という奴らはイかれた強さだな、と思う。

 

「キャスター、ね………………」

 

 楓は全幅の信頼を彼に置いている。昔から安倍晴明が登場する映画を何十回も見ていたし、その心情も推し量れるというものだ。

 ただ、俺たちがキャスターを完全に信頼していいものなのか。

 念の為に、完全に信頼して足元を掬われるような事は避けよう、と決意しておこう。

 

「…………ん?」

 

 その時ふと俺は嫌な予感を感じ取り、視線を九十度横に向けた。その先には校舎の中庭があり、そしてその先にはオーソドックスな形の校門が見える。

 そんな中、校門の辺りにちらつくあの蒼髪の人影は──。

 

「……せ、セぃ……ッ⁉︎」

 

 思わず叫び声として口から飛び出しかけた言葉をぐっと飲み込んでから、俺はその人影を凝視した。

 彼女は不思議そうに校門の隙間から校内を覗き込んでいたが、やがてその身体をするりと滑り込ませ、そろそろと校舎の方へと歩き始めた。

 

(じょ、冗談じゃないっ、何であいつがこんな所に⁉︎)

 

 顔を真っ青にして狼狽える俺を物ともせず、彼女はじろじろと純白の校舎を眺め回した。上から下へ、下から上へと目線を動かし、そしてその動きがぴたりと止まる。

 

「アッ、やばい」

 

 俺を発見したらしきセイバーはぐっと身体を低くすると、一歩、二歩と助走をつけた後、地面を蹴り砕いて大きく跳んだ。

 

「うっ、うおおおおおおおおお来るな来るな来るな────‼︎」

 

 彼女が一飛びで三階の教室に肉薄し、二階と三階の間に設けられた出っ張りに足を掛けるのと、俺が思わず悲鳴を上げたのは同時だった。

 俺の席は教室の最後尾列、そして一番窓際。突如奇声を上げた変人にクラスメイトの視線が一斉に向けられ、俺は慌てて両手を振り、寝ぼけていたという苦しい言い訳を並べた。

 

「アハハハハハハハハハハハ‼︎ 寝惚けるのもいい加減にしておけよ健斗ぉ」

 

「くそっ、理不尽だ」

 

 大雅がやれやれ、とキザっぽく首を振るのを見ながら、俺は心ここに在らずといった風に謝罪した。

 だがそれも仕方のない事なのだ。こうしている今も、ギリギリ隠しきれていないセイバーの頭頂部が窓の端からちょこんとはみ出しているのだから。

 

「なっ、何しに来たんだよ、セイバー!」

 

「……………………」

 

 セイバーに小声で尋ねてみるが、彼女は沈黙を保ったまま。彼女の意図が分からず、俺はどうするべきかと視線を彷徨わせたが──、

 

「……………………なんでですか」

 

「へ?」

 

「なぁぁあんでまだ私に謝罪の言葉が無いんですか‼︎ ケントは‼︎ 謝りに来るのかと思ったら私を無視してそのままガッコウとやらに行くし‼︎ その不敬さもここまで酷いと最早呆れてきますね‼︎」

 

 口調とは裏腹に小さな声でそう言うと、セイバーは少し身体を上にずらし、目元だけを覗かせて窓越しにこちらを睨み付けた。

 それはセイバーが部屋に篭って出て来なかった事に原因があると思われる。

 先生がこちらに背中を向け、電子黒板のスクリーンに投影された文章をあれこれ説明しているのを確認してから、窓際ギリギリまで椅子ごと身体を移動させる。

 

「だから俺は別にお前を尊敬してる訳じゃないから不敬とか言われてもなあって感じなんだけど……まあ、ごめん、あれは確かに俺が悪かった。……七割くらい」

 

「いいえ十割ですっ。それにちょっと待ってください、まだ私には言いたい事が残ってますよ」

 

 セイバーは俺の謝罪を冷徹な声で遮ると、すっと右手を掲げた。

 彼女の右手に握られているモノ。

 一目見ただけで戦慄に凍り付く俺をよそに、魔王サマはそのブツを直視しないよう視線を逸らしながら、ありったけの怒りを込めた声で言う。

 

「なんですか、これは」

 

「………………し、私物だけど?」

 

「聖杯の知識で学びましたが……こ、これは、本来ケントが持つべきものじゃないんではないですかね。未成年は駄目なヤツじゃないですかね」

 

 丁度DVDが入る大きさのパッケージには、モザイク加工されたお姉さん達の、そりゃあR18な肢体の写真が貼り付けられている。

 そして右上には読むことすらちょっと躊躇う感じのエロチックなタイトル名が妖しいピンク色のフォントで刻まれているのだ。

 

「おっ……お、おとな、の、みりょく……えろ……お、おお、お……」

 

「バカ、読まなくていい‼︎ もう読まなくていいから‼︎ やめろ‼︎ 頼むからやめて‼︎」

 

 思わず声を荒げそうになりつつも俺はかつてないほどの冷静さを発揮し、顔を林檎の如く赤くして声をプルプル震わせるセイバーの朗読を小声で止めた。

 とっとと片付けとけばよかった、と後悔しても後の祭りだ。

 女の子がエッチなビデオのパッケージ片手に壁に張り付いている、という怪奇極まりない状況の中、気を取り直して口を開く。

 

「……けどな、それがどうしたんだよ。え? 俺の部屋に何があろうと俺の勝手だろ?」

 

 何故か最大の秘密を見られた事で却ってヤケクソになった俺は、開き直ってそう囁いた。

 そもそもあそこは俺の部屋なのだ。裸を見てしまった事はとりあえず俺が悪いとはいえ、そこに何が置いてあろうと俺の勝手じゃないのか。自室というのはその人のプライベートな空間であって、決して他人の為に作られた場所ではないんだから。

 

「何言ってるんですか。あの部屋はもう私の所有物になったんですよ? あの部屋、ベッドは硬いですし、部屋は狭いですし、色んなものが散らかってますし……私が使うんですから、もっと綺麗にしておいてください」

 

「は?」

 

 思わず俺の口から激怒寸前の言葉が漏れる。

 ──要するに、こういう事か。

 俺の部屋はもうセイバーのものになってしまったので、俺はあの部屋に自由に物を置くことすら許されず、セイバーの為にきちんと整理整頓を行き届かせなければならないと。

 

「こンの、バカかお前‼︎ 俺の部屋は俺の部屋だ、お前がどうしてほしかろうとそもそもあそこは俺の部屋だからな‼︎‼︎」

 

 んなもん許されるか……と、出しうる限りの小声で叫んだ俺は、軽く鼻を鳴らしてセイバーから目を逸らした。

 彼女はといえば、顔を真っ赤にしてこちらをしばらく見つめた後、俯いてワナワナと全身を震わせ──、

 

「そうですか、そうですか、そうですか……」

 

「な、なんだよ──」

 

「せいっ」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛──ッ⁉︎」

 

 ズビャアッ、という音と共にDVDのパッケージが力技で破壊され、中の円盤が幾つかの破片となって散っていった。

 目の前の大雅から貰った唯一無二の宝物を失って思わず悲鳴を上げる俺に、再度クラス中の目が殺到。横を見れば、セイバーのヤツはちゃっかり窓の奥に身体を潜ませている。

 

「先生すいません‼︎ ちょっと体調悪いんで保健室に行ってきま──‼︎」

 

 す、を言う暇も惜しんで椅子を蹴り飛ばし、ダッシュで教室後ろの扉を開ける。憤怒に身を任せながら人のいない廊下を駆け抜け、昇降口を上履きのまますり抜けてから、俺は校門前でふんぞりかえるセイバーと対面した。

 

「てめえああああああああああああああああ‼︎」

 

 走る勢いを全く緩めず、俺は怒りに任せてセイバーに飛びかかった。ちょっと痛い目に合わせてこの我儘魔王を反省させ

 

「んぎあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」

 

 綺麗に決まったストレートが俺の顔面に突き刺さり、俺はあえなく吹き飛ばされた。凄まじい拳打に意識を朦朧とさせている俺の襟首ががっしりと掴まれ──、

 

「ねえ今、なにしようとしました? 不敬ゲージ溜まってますよ私」

 

「う、うるさい……宝物の仇だ……そもそもお前がワガママ言うから悪いと思」

 

 ひゅおっ、と風が吹き抜け。俺の顔の数センチ横のアスファルトが、セイバーの剣を用いた早業によって粉砕された。

 

「なんです?」

 

「……いやあの、なんでもないです、ハイ」

 

 顔面をまさに死者の如く真っ青にしながら、俺は死んだ声で答える。その答えにセイバーはにっこりと笑って──、

 

「ま、自室云々は置いておくにしても……これから一緒にわたしと来てください。ケントがここに行ってる間、私は暇なのです。とっても」

 

「お前、だから俺には学生の義務ってのがあって……いやなんでもないですだからその拳を降ろして、ほら‼︎」

 

(ちくしょう、この暴力魔王め……‼︎)

 

 眼前のサーヴァントに対する不満を内心で三十個ほどぶち撒けつつ、半ば脅迫に近い形で俺は学校から泣く泣く退散する事になった。

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