Fate/crescent 蒼月の少女【完結】   作:モモのすけ

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三十七話 夢幻の戦争/Other side

 楓が目を覚ますと、見慣れぬ景色が広がっていた。

 どこまでも食い潰すような闇が広がり、目線を上げれば不気味に赤く輝く月が浮かんでいる。

 生暖かい風が頬を撫で、思わず楓は鳥肌を立てながら一歩下がった。

 硬い音が響き、剥がれた瓦の破片が転がって下へと落ちていく。そこでようやく、楓は自分が地面からかなり高い場所に立っていることに気がついた。

 

「…………なに、ここ?」

 

 後ろを振り向くと、見える限りまで家々が立ち並んでいるのが見えた。とはいえ現代のものではない。煌々と燃える篝火の炎に照らされたその町並みは、一千年以上前の日本の風景とほぼ変わりないものだった。

 そしてもう一度足元を覗き込んで、自分が立っている場所が「巨大な門の上」である事を把握する。

 どうして自分はこんな場所に立っているのか、それを考え始めようとした楓だったが──、

 

「ふぅん、ぎょうさんおいでなすって」

 

「うひぁ⁉︎」

 

 聞き慣れた声にびっくりして飛び上がると、楓は変な声を上げて声の方を見た。

 そこにはキャスター……安倍晴明が変わらぬ姿で隣に立ち、闇の深い前方を険しい目線で眺めている。

 

「な、なに言ってんのアンタ? まずここどこ? ……ちょっと、なんで無視すんのよぉ‼︎」

 

 長い髪の毛を引っ張ろうとして手を伸ばしたが、楓の手は彼の姿をするりとすり抜けた。

 思わずぎょっとする楓をよそに、キャスターは彼女ではない誰かに語りかける。

 

「あの数──僕らだけで止められると思う? 綱クン」

 

「さあな。俺は俺の役割を果たすのみだ」

 

 新たな気配。その声は楓のすぐ後ろから発せられたが、その声を聞くまで、楓には「後ろに誰かが現れた」という事すら知覚できなかった。

 

(……これは……何? まさかキャスターの記憶?)

 

 キャスターに並び立ち、異様に妖しく輝く日本刀を抜き放つ男。その全身からは楓でも分かるほどの闘志が発散されており、彼女は一目で彼が絶対的な強者であると理解した。

 そしてその言葉を皮切りに、いくつかの影が門の上に飛び乗ってくる。

 

「晴明? 京の守護神たる私たちに弱気は許されませんよ。今度は、私がサボりなど断じて許しませんからね」

 

「わかっとる、わかっとるから怖い顔せんどいてくれ頼光サン。しゃーない、今度は僕もしっかり働こうやないか」

 

「その意気だぜ晴明の兄貴。……とまあ、俺っちもそこまでやる気が起こるわけじゃあねえんだが、京のガキどもが泣くってんじゃあしょうがねえわな」

 

 激しい音を立てて、二人の持つ日本刀と巨大な斧が雷光を纏う。更に新たな武者風の二人が門の上に飛び乗り、計五人は堂々たる様子で門の真正面を睨みつけた。

 楓はまず斧を担いだ金髪男の隆々たる筋肉をツンツンして(触れないが)、それから物凄く綺麗な女性の、これまたスゴイ胸を見て悲しくなってから、肩を落としてキャスターの隣に腰かけた。

 

(頼光……綱……って事は、彼らは本物の頼光四天王……‼︎ まさかこんな姿だったなんて感動……って、そもそも頼光って女性だっけ?)

 

 引っかかる疑問に首を傾げながら、楓は何故これほどの猛者たちが一箇所に集まっているのかを考える。

 ──が、その答えはすぐに理解できた。

 背筋に氷柱を差し込まれたような悪寒が全身を襲い、楓は反射的に立ち上がって真正面を見た。

 闇の中に炎が浮かび上がる。

 最初は篝火が松明によるものかと思ったが、違う。そもそも炎があんなに禍々しく、荒れ狂うように燃え盛るわけがない。それはみるみるうちに膨れ上がると、巨大な鬼の貌となって牙を剥いた。

 

「──ク、ク、クハハハハハハ‼︎ 見えるか酒呑⁉︎ 奴らめ、雁首並べて愚かにも待っておるぞ‼︎」

 

「あらぁ、ほんまやわぁ。しかも牛女までおるやないの。今日はまた一段と、熱い夜になりそうやなぁ」

 

「酒呑は自由に動き、戦い、喰らうがいい。吾は……」

 

 煌びやかな金色の髪を振りかざし、その少女の形をした何かは明確に門の上に立つ一人の男を睨みつけた。

 

「──あの男を殺す。殺して千切って喰らう」

 

「随分はりきって、まぁ。あンの男の前やと、茨木も少しは鬼らしくなるんやなぁ」

 

 ──なんだ、アレは。

 楓は声にならない悲鳴を上げて、その二つの存在を凝視する。

 人のカタチ、少女の姿をしているが、あれは断じて人間などではない。一目こちらを見られただけだというのに、ここが幻の世界だという事を知っていてなお、楓はその重圧に一歩たりとも動けなくなった。

 

「茨木童子に酒呑童子。懲りずにまた来たという訳か──」

 

 綱と呼ばれた男はヒュン、と日本刀を軽く振り払うと、ますます目線を険しくして歩いてくる鬼達を睨みつけた。

 相手は茨木童子に、酒呑童子──かつて大江山に君臨したという鬼種たちの頂点、伝説に名を残す大妖怪‼︎

 そして彼らの後ろには、みるのもおぞましいような赤鬼、青鬼、緑鬼……鬼種の大群が好き勝手に武器を振り上げ、咆哮を上げている。

 

「蟲どもがまた大勢湧いて出ましたね。皆、奴らは今日こそここで仕留めますよ」

 

「っても奴ら、生き汚いトコあるからなぁ……モチロンそのつもりでやらせて貰うけどよ。まずはどうする、綱の兄貴?」

 

「晴明が遠距離から仕掛けたのち、俺たちが一斉に飛びかかる。茨木童子は俺を狙うだろうから、こちらは抑え込もう。頼光さんは酒呑童子の相手を願う。貞光、季武(すえたけ)、金時はあの大軍を押しとどめて欲しい。その間晴明はここから援護だ」

 

「えぇ〜? 僕が最初の攻撃役? 嫌やなァ、あいつら阿呆やから絶対最初に仕掛けた僕を狙ってくるやん」

 

「混戦になれば奴らもそんな事に構ってられんだろう。今日の奴らは一際多い。厳しい戦いになるだろうが、俺たちの背後(うしろ)には護るべき民たちがいる事を忘れるな。それにお前が一番楽な役回りなのだから、少しは自重しろ」

 

「はあっ。綱クンの頼みとあらば仕方ないかね、全くもう……」

 

 こんな時にまでぶつくさ文句を言いながら、晴明は軽く目を閉じた。

 場を包む──静寂。

 開戦前の気配を敏感に感じ取ったか、沸き立っていた鬼達も自然と口を閉じた。

 数瞬後、放たれるであろう一撃が開戦の合図となる。それまでに膨れ上がる緊張感、殺気、闘志……ありとあらゆるものたちの嵐を引き裂いて、晴明の一声は響き渡った。

 

「式神跋祇──雷轟、三十連華‼︎」

 

 空が割れる。

 閃光が瞬いた瞬間、鬼たちの頭上から凄まじい雷撃の雨が降り注いだ。それは空気を灼き、地面を砕き、凄まじい暴威を巻き起こすが──ヒトを越えた鬼種を仕留めるには、それでも火力が足りていないらしい。

 雷撃に撃ち抜かれた鬼は体から黒煙を上げながら、なお、怒りに絶叫して突撃した。

 

「あら、陰陽師もおるん。こりゃ面倒やな──っと」

 

 だが酒呑童子は雷が降り注ぐ中、茨木童子と共に駆け出していた。

 その手にした水瓶を振りかざすと、その中に入るはずのない莫大な量の液体が楓たちが立つ門へと襲いかかった。まるで十メートルを超える津波のように、それは瞬く間に楓もろとも全てを飲み込んでいく。

 

「ぎゃ……⁉︎ わぷ、ちょっと、え、私これで死ん──」

 

 息ができない。胃まで酒が蹂躙して意識が遠ざかっていく。

 その夢における最期の瞬間、楓は鼻腔で強い酒の香りを嗅ぎ取っていた。

 

 

 

 

「──死んじゃあああああああああああああ⁉︎」

 

 意識が途切れた瞬間、楓は絶叫して飛び起きていた。

 目を瞬かせて周囲を確認する。

 夕焼けに染まりきった空、親しみ慣れた机、脇に掛けられた学生鞄。黒板にロッカーにクラスのスローガンを書いたポスターやら、見慣れた景色が広がっている。

 生徒はもう既に全員帰ってしまったらしく、教室には楓一人が残されていた。

 

(あれ。そういや、六時間目の途中で……)

 

 連日の疲れから眠りこけた楓は、そのまま放課後遅くまで爆睡していたらしい。

 誰も起こしてくれなかったことに少し悲しくなりつつ、楓は気を取り直して頬を叩いた。

 

「随分な目覚めやなあ、楓ちゃん」

 

「全部アンタのせいよ……」

 

 楽しげに声をかけてきたキャスターは、先程まで見ていた和装ではなく、現代に合わせた洋服を纏っている。少ないお小遣いをはたいて買った安物のカーディガンにジーパンだが、彼の美貌があればどんな服でもファッション誌並みのイケメンになるので関係ない。

 軽い頭痛にこめかみを抑えながら、楓は頭を振って立ち上がる。

 今のはおそらくキャスターの過去だ。何故かは知らないが、契約して魔術的にラインを繋げたことが関係しているらしい。夢の中で殺されたまま戻ってこれなくなる、なんて事にならずに済んでなによりだが、最悪の寝起きである事に変わりはない。

 まだ微かに残っているような気がする酒の香りを嫌うように、楓は椅子を引いて鞄を勢いよく掴んだ。

 

「キャスター。とりあえず今日の夜の事だけど、私は仙天島に作られた「神殿」を早急に調査すべきだと思うわ」

 

「ほう?」

 

 下校時間がぐんと早められたことで人のいなくなった廊下はオレンジ色に染め上げられ、独特の趣を醸し出している。

 あたりに満ちるのは静寂のみ。あれ程溢れていたはずの人の気配は、未だ夕暮れ時だというのに全く感じ取れない。

 

「……あの島は何かひっかかるの。キャスター、アンタは前の喫茶店でアーチャーのマスターを補足したって言ってたわよね」

 

 たまたま立ち寄った喫茶店で働いていた外国人が、なんとアーチャーのマスターであった事は記憶に新しい。

 昼まであり、民間人も近くにいた事から、交戦は膠着状態のまま見送られた。楓は一人だけその緊迫感にも気づかなかったので、正直思い返すのは恥ずかしいのだが。

 

「けど、今日の昼間の攻撃は間違いなく弓兵(アーチャー)によるものだった。ここから仙天島まで数十キロはあるのに、攻撃を届かせるなんて弓兵でもなきゃ無理よ」

 

 学校ごと楓たちを諸共に吹き飛ばそうとしたあの熾烈な攻撃は、キャスターが迅速に隠蔽に励んだお陰で大ごとにならずに済んだ。今日の部活動は中止、生徒は速やかに帰宅するようにという放送が流れたが、それも最近の殺人事件や行方不明者といった不穏な事件を考慮してのものだ。

 とはいえ昼間から、市民への被害を度外視して放たれた攻撃という時点で、相手が反英雄に分類されるサーヴァントであるか、敵マスターがそういう人間であるという可能性は高い。

 楓はポケットに手を突っ込むと、先の攻撃の際に拾い上げた破片を取り出した。鈍く光る、長細く円筒状の金属片だ。赤黒く、どこか捻れたような形状のそれは、まだ微かに魔力を帯びて残留している。

 

「──で、咄嗟にこれを拾ってきたんだけど。アーチャーが放った矢の残骸。島を視るのは無理でも、これならいけるんじゃない?」

 

「成る程。確かに断片的ではあるけど、僕の目は物体に染み付いた記憶であってもある程度まだは見通せる」

 

 キャスターが「楓ちゃん、お手柄やで」と褒めると、楓は不機嫌そうに顔を逸らしながら口元をニヤニヤさせるという、実に面倒くさい表情を浮かべた。

 そんな楓から破片を預かると、キャスターはそれを顔の前まで近づけ、虫眼鏡を持った探偵の如くまじまじと見つめる。

 

「ふむ……魔力、矢──違う? 黒……」

 

「どう? 何か分かった?」

 

「いや。あかんな」

 

 しばらく睨めっこしたあと、キャスターは溜息をついて矢の破片を楓に渡した。

 

「どうもこの矢は、酷く黒々とした魔力で編まれたモンらしい。その魔力で汚染されてるせいで、まともな記憶が黒く塗り潰されとる」

 

「……どういうこと?」

 

「さぁてね。僕もこんな次元まで淀んだ魔力は初めてや」

 

 とにかく、見通せないという事は確からしい。

 そんな淀んだ魔力で編まれた破片を持っていても災いを招くだけな気がしたが、一応捨てるのもなんなので鞄にしまってしまう楓。どうせ魔力の残滓みたいなものなので、あと数時間もあれば消滅しているだろう。

 

「……ちょっと話が逸れたけど、私が言いたい事、分かる?」

 

「ああ。アーチャーのマスターは喫茶店で店員に化けとる筈で、アーチャーはその喫茶店からあまり遠くには行けん筈や。まして神殿が構築された仙天島の中から弓兵による攻撃が飛んでくるのはオカシイ、っちゅう話やろ?」

 

 ここで、今日の昼間にキャスターが懸念していたことを思い出してみる。

 「神殿クラスの結界を構築するには、陣地作成の能力を持つキャスターが必要不可欠。つまり、キャスターがもう一騎紛れている可能性がある」……しかし、あそこから攻撃してきたのは、ほぼ間違いなく弓兵だった。

 一見矛盾しているようにも思えるが、ひとつの答えを当てはめれば簡単に謎は解ける。もっとも、その答えはできれば考えたくないものではあるが──。

 

「その通りよ。あの「神殿」を構築したのが二騎目の(・・・・)キャスターだとすると、更に二騎目のアーチャーがそれに協力してる……のかもしれない」

 

「こりゃあ、二騎目のクラスってのもあながち冗談じゃすまんくなってきたなぁ。とすると、何や、この聖杯戦争には十四騎のサーヴァントが召喚されとるっちゅうんか? 聖杯大戦でもあるまいに」

 

「それもあり得ないわけじゃない。そもそもここは冬木じゃない以上、オリジナルから外れた法則が当てはめられても不思議じゃないし。お兄ちゃんの命が危ない以上、私たちはセイバーの味方につくと決めたけど……だからって安心してるとマズイかもしれない」

 

 ごくり、と唾を飲み込んで、得体の知れない悪寒に背筋を震わせる楓。

 その謎のサーヴァントたちが、この街に充満する異様な気配や、頻発する行方不明者や殺人事件と関連しているのかもしれない。

 思わず歩くのを忘れていた自分に気づいて、楓は再びキャスターを連れてオレンジ色の廊下を歩き始めた。こつん、と反響する音に返答するものは何もなく、外から聞こえてくるはずの喧騒もない。

 

 そう──。

 例えばこの瞬間に戦闘を開始したとしても、邪魔するものは何もない。

 

「⁉︎」

 

 ふわふわと浮いているキャスターは除いて、己のものしか聞こえないはずの足音。

 それが重なって聞こえた瞬間、楓はスカートの奥に隠し持ったクナイを素早く引き抜いた。その戦闘態勢に応えるように、廊下の奥から一人の少年が姿を見せる。

 

「……へえ、そう。今度はそっちから来たってわけ」

 

 ──繭村倫太郎。

 傍に暗殺者を伴った彼は、楓の前に立ち塞がるように立っていた。

 楓の目に強烈な敵意と憎しみが滲み出る。まるで別人のような表情を浮かべて睨んでくる少女を前にして、倫太郎は眉を潜めて返答した。

 

「僕の方はまったく気が乗らないんだけどね……アサシン、向こうのサーヴァントは任せる。僕の方はなんとか時間を稼いでおくから」

 

 心底嫌そうな顔で、倫太郎は竹刀袋から木刀を引き抜いた。

 すらり、と振るわれるそれは、只の木刀であるはずなのに真剣じみた威圧感を放っている。単純な話、持ち手(りんたろう)の強さが武器を強く見せているのだ。

 だが強さや剣気じみたものは嫌という程発散しているくせに、肝心な敵意や殺意が倫太郎には全くない。それがますます楓を苛つかせ、彼女は軽く唇を噛んだ。

 

「──君が繭村倫太郎か。いや、こんなに近くで(・・・)見たんは初めてやなあ」

 

 眼を細めるキャスターの言葉に、倫太郎は返答しなかった。

 ただ木刀を構えて、彼は戦闘が始まる時を待っている。

 

「キャスター、アンタはアサシンをやりなさい。私はあいつの方を担当する」

 

「君たちの間に何があったかは理解したが、これは当人達の問題か。ま、ええやろう。今はサーヴァントとしての役割に徹するかね」

 

 睨み合う楓と倫太郎の姿から何を読み取ったのか、キャスターは意味ありげな事を呟いたあと──、

 

「アサシン。ここじゃあ戦えんやろ? 僕についてきぃ」

 

 不可視の霊体となって、宙に消えていった。

 言葉を掛けられたアサシンは倫太郎に向かって軽く頷くと、同様に霊体化して消えていく。恐らくは彼らが十二分に戦える場所へと向かい、そこで決着をつけるつもりなのだろう。

 ともあれ──この瞬間、二人の間に邪魔者はいなくなった。

 手首を鳴らしながら楓が一歩前に出る。倫太郎はあくまで構えを崩さないまま、向かってくる少女を見つめていた。

 

「倫太郎。言ったはずよね、次会ったら殺すって」

 

「ああ、言ったね」

 

「じゃあ、それを承知で私の前に現れたんなら……もう覚悟はできている、情けも容赦もいらないってことよね? 殺されても文句は言わせないわよ」

 

 その声はどこまでも平坦で、今にでも噴出しそうな悪意を押し殺して平静を保っているのが見て取れた。

 

「その通り。まあ、やすやす殺されるほど僕は甘くないさ」

 

 志原楓と繭村倫太郎。

 この二人はいつも、どこまでも対照的だった。

 

 ──片方は、相手に強烈な敵意を抱き。

 ──そしてもう片方は、相手に全く敵意を抱いていない。

 

 どうしてこうなってしまったのか。

 とある決別があった二年前からずっと、倫太郎はその事を考え続けている。

 どちらも互いを互いに大切に思っていて、譲れないものがあって、そして色々な感情が交錯した果てに──結局二人は元に戻るどころか、決定的な敵同士になってしまった。たまたま「マスター同士」という役割を与えられているからやりやすいだけで、彼らは二年前から既に敵対する立場にあったのだ。

 楓は強烈な敵意に突き動かされて、倫太郎は何が正しいのかも曖昧なまま、双方の魔術回路に火を入れた。

 

 黄昏の回廊の中心で、二人の魔術師は激突を開始する──。

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