Fate/crescent 蒼月の少女【完結】   作:モモのすけ

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四十八話 彼女は、悪なのか

(──セイバーは決して、魔王なんかじゃない)

 

 本当にそうなのか? 都合のいいところだけを見て、都合の悪いことには蓋をしているだけじゃないのか。お前も見たはずだ。あの殺戮と死体の山、その天辺に座すまごうことなき「魔王」の姿を。あの光景を見て、まだそんな妄言を言い切れると?

 

(──……ああ)

 

 あの魔王の役割は明確だった。人にあだなす災厄。言語で示すことすら不可能なほどの凄惨、残忍、非道を極めた試練という名の虐待を乗り越えて、彼女は神々ですら到達し得ない程の力を手に入れた。そうして彼女は再誕し、己の痛みを示すように蹂躙を始めたのだ。

 

(──その力はきっと、セイバーが求めたものなんかじゃない)

 

 そうかもしれない。彼女は力など求めなかったのかもしれない。だが結果は真逆だった。過程がどうあれ、彼女自身の意思がどうあれ、結果的に世界に災厄を振り撒いたことに変わりはない。その事実が既に、彼女を魔王たらしめているのだ。そしてそれは、彼女自身が認めている事でもある。

 

(──事実は事実だ。失われたものは戻らない)

 

(──それは決して否定することはできない。それでも俺は……)

 

 過去の事実から目は背けない、魔王に殺された者たちの悲しみも恨みも憎しみも全て認める、その上でそれらを背負った彼女が「悪」ではないと?

 

(──俺が知っているセイバーは、それでも悪なんかじゃない)

 

 ほう、どうも諦めが悪いようだ。であれば見せてやる。

 「絶対の悪」である魔王による殺戮を、視点を変えてもう一度。

 

 

 

 

「……うッ⁉︎」

 

 飛んでいた意識が、何かに引っ張られるように覚醒する。

 視界がクリアに戻る、続いて聴覚も。途端に聞こえてきたのは戦場における怒号と悲鳴、地面を揺るがすような何かの音。

 そうだ、こんな時に俺は何をしているのか。

 俺は兵士だ。平穏だった我が国、そこに跋扈し始めた魔族らの主を討伐するため、そして大切な両親と妹を守る為に志願した。意識を向ければ、穏やかな平原に乳牛がのんびり歩く姿も、酔っ払った父さんをなだめる母さんも、嫁入り前の妹の嬉しそうな笑顔だって思い出せる。

 俺の故郷は、運の悪いことに魔族の占領地にかなり近かった。

 これ以上奴らが勢いづけば、まず間違いなくいの一番に俺たちの村が蹂躙される。それだけは必ず避けなければならない。ここでかの魔族らの軍を残らず討伐して、絶対に大切なものを守るのだ──。

 

「クソっ、気合い入れろ……行くぞ‼︎」

 

 ぱん、と頰を叩く。腰の鉄剣を引き抜いて、怒涛の勢いで前進する兵士たちの背中に続いて大地を蹴る。

 総勢数万に及ぶ軍勢だ。あまりに兵士の数が多すぎて、前方の状況は視認できない。とにかく流れに逆らわず、突撃していく兵士たちに続いて俺も前進していくが──、

 

 次の瞬間、音が消えていた。

 

 半開きの口から「あ?」なんて腑抜けた声が漏れる。

 視界を埋め尽くしたのは突風じみた勢いで飛んでくる土埃の壁と、それに巻き込まれた兵士たちが撒き散らす血の雨だった。ベシャッ、という粘ついた音は俺にそれが降りかかった音だったのか。

 数メートル、ともすればもっと吹き飛ばされる。高く高く、戦場を俯瞰できるほど高くまで。俺が揺れる視界の中に見たのは、死体の海の中で剣を振るい続ける、一人の少女の姿だった。

 

(ンな馬鹿な、この数にたった一人で⁉︎)

 

 驚愕とともに、身体を包んでいた浮遊感が消える。

 待ち構えているのは当然ながら落下だった。胃の中がひっくり返るような、墜落特有の不気味な感覚。まともに着地できるかもわからぬまま、とにかく身体をグルンと回して足から着地を試みる。

 

(いや、これは好都合だ。このままいけば、アイツの側まで落ちていける……‼︎)

 

 俺の落下コースは、偶然にもあの少女の方向へと向かっていた。

 剣を掴み直し、まずはヤツのすぐ側に着地。そこから二歩も進めばもう剣の間合いだ。兵士になる直前にざっと叩き込まれだけの不慣れな剣術だが、流石に軍隊を相手取る怪物とはいえ、頭上からの一撃は想定外のは想定外のはず──‼︎

 

「…………ぶはッ⁉︎」

 

 だが。まともに着地すらできずに、俺は地面に叩きつけられた。

 

(ちくしょうっ、着地失敗とか締まらない……いや、まだヤツは軍のほうに意識を向けてる‼︎ 今すぐに立ち上がってぶった斬ってや──れ?)

 

 奇妙な、微かな戦慄を含む違和感があった。

 立て、立て、と命令を繰り返す脳に反して、俺は立ち上がれない。どうしても身体が立ち上がってくれない。俺の下半身はまるで消えてしまったかのように反応を返してくれないのだ。

 じれったさに耐えきれずに視線を足へ向ける。そこには──、

 

「……は?」

 

 無かった。

 見慣れたはずのものが、綺麗さっぱり消えていた。

 視界の先にあるのは、落下の際に衝撃を受け止めてくれたのであろう名も知らぬ兵士たちの亡骸の山のみ。

 俺の太ももから先はずっぱりと切断され、残っているのはひらひらと風に舞うちぎれかけの腰布だけ。吐き気を催すような赤色と骨の白だけを露出させて、俺の両脚は完全に断たれていた。

 

「な……あ──あ、ぁ、あああ……嘘だ、あ……俺の、あしが」

 

 認められない。目の前の光景をどうしても認められない。

 もたもたしている間に、一時的に麻痺していた痛覚が蘇ってくる。

 

「うぁ──あし、ぎィっ、ぎゃぁぁぁぁぁぁあ⁉︎ あづぃッ、傷が焼け゛るッ……嫌だ、うそだうそだこんな何もできずに……ッ‼︎⁉︎」

 

 ──とぶ。せいじょうなしこうがきょうふといたみでとぶ。

 ごろごろところがる、ちがでる、とまらない、たすからない、もうかぞくのかおもなにもみれない、おれはここでおわりそんなばかな

 

「あああああああああああああ‼︎ が、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎ あし、あ、しぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ‼︎‼︎」

 

 ドスッ、という鈍い音が響いた。

 気がつけば、転がり回って絶叫していた俺は動きを止めていた。

 しん、と静まり返った荒野。散々活気付いていた兵士たちはみな殺されたのか、俺の背中に剣を突き立てた魔王以外、動くものは見当たらなかった。

 

「ぎ……ァ、ふ、が……ぎゃッ」

 

 魔王が突き立てた剣を捻る。ゴキュっ、という嫌な音を、消えていく聴覚の残滓は聞き取っていた。

 最期の時に感じていたのは困惑と恐怖と、その原因たる魔王への強烈な憎しみだけ。だがそれも、命が消えれば霧散していく。

 

 ──そうして、俺は死んだ。

 

 

 

 

「……うッ⁉︎」

 

 飛んでいた意識が、何かに引っ張られるように覚醒する。

 目の前に飛び込んできたのは赤だった。次いで肌を焦がすような熱気を全身で感じ取り、俺はふらふらと立ち上がる。

 俺は燃え盛る炎の中に立っていた。酸欠で意識が飛びかけたのか、少しの間立ちすくんでいたらしい。慌てて首を振って自分が誰かを思い出すと、瓦礫が散乱する道を勢いよく駆け出す。

 

「はぁっ、はあっ……ちくしょう、軍の遠征はどうなったんだ⁉︎ なんで街に奴が攻め込んできてる……⁉︎」

 

 ありとあらゆるものが破壊され、炎に包まれて跡形もなく消えていく。

 瓦礫に埋もれるもの、炎に巻かれるもの、煙の中で窒息するもの。ここは死ばかりだ。今まで当たり前のように過ごしていた日常が崩壊していくのを、兵士になる事もできなかった臆病者の俺は目をそらす事しかできない。

 

(……くそ、くそくそくそっ‼︎ 通りの婆ちゃんも死んでる、あの店はあいつの……もう生きてる奴はいないのか⁉︎)

 

 瓦礫から飛び出した焼け焦げた手。それが友人のものだという事実を無理やり否定して、目指す場所へと全速力で走る。

 幼い頃からの知り合いで、一番仲の良かった女の子がいた。

 物凄くワガママで、俺はいつもいつも困らされたけど──それでも、一番大切だと思える子だった。

 角を曲がって石畳の上を駆け上がる。坂を越えたら彼女の家がきっといつものように建っていて、あいつもきっと無事でいてくれるに違いない。

 そう、信じる事しかできなかった。

 

「────‼︎」

 

 冷汗を流しながら坂を駆け上る途中、坂の上に人影が見えた。

 ずっと見てきたのだから分かる。あいつはまだ生きていた。思わず頰を綻ばせて、手を振る彼女の元へと今すぐに──、

 

 すとん、と目の前に降り立った人影があった。

 

 それはあまりに鮮やかに、自然体で行われていた。

 それに驚くよりもなお早く、俺の胸に奇妙な違和感。鈍い音とともに俺の中心に突き立てられているのは蒼色の刀剣だった。口から噴き出した鮮血が呼吸を阻害すると同時に、俺は掠れた声を上げて地面に倒れ込む。

 

「■■■──、■■■──……‼︎」

 

 あの子が俺の名前を呼ぶのが聞こえる。泣いているのか、叫んでいるのか、あの子はこちらに手を伸ばしていた。

 でも今は涙を流しているような状況じゃない。たった一人で殺戮を繰り返しているこの女から、一刻も早く逃げ出さないと。

 

(駄目だ……俺は、もう、いいから……早く逃げてくれ……‼︎)

 

 まともな声なんて出るはずもない。動く目線だけで、せめて逃げろとあの子に伝えたかった。

 が──俺を串刺しにした無造作に魔王は剣を引き抜くと、

 

「────……ぁ」

 

 それを投げ放ち、あの子の首を一息で寸断した。

 どちゃっ、と地面に落ちる頭。倒れていく骸。

 その光景を見て、頭の中が真っ白に漂白された。あまりの怒りで思考が狂い、絶叫して掴みかかりたいのに体も喉もまともに機能してくれない。

 俺は霞んでいく視界で魔王の背中を捉えたまま、身をよじるような憎悪と敵意にその身を焦がす。アイツが憎い憎い憎いあの女を今すぐ殺したいのに俺ももう死ぬ、ふざけるな死ね今すぐ死ね我らを殺した罪は一生貴様という悪を許しはしな

 

 ──そうして、俺は死んだ。

 

 

 ──そうして、俺は死んだ。

 

 ──そうして、俺は死んだ。

 

 ──そうして、俺は死んだ。

 

 ──そうして、俺は死んだ。

 

 ──そうして、俺は死んだ。

 

 ──死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。

 

 リセットとロードを繰り返して、数多の死を体感する。

 あまりに多くの命が、あの魔王によって奪われていった。

 兵士も民間人も区別なし、ただ"人間"であれば容赦なく殺戮する。

 戦場に降り立ち、兵士達の骸を積み上げるあの存在が、どうして悪ではないなどと言えるだろう。

 炎の中に立ち、幼子の首を握りつぶしていたあの存在が、どうして悪ではないなどと言えるだろう。

 嫌という程、思い知った。

 アレの所業、悪魔の行いを、被害者の目線から思い知らされた。

 

(…………………………)

 

 理解したか。彼女が魔王であり、悪であるに足る罪過の多さを。

 人は他人の不幸に共感できる、慈しむこともできるだろう。だが、 被害者が感じた憎しみや怒りをそのまま感じ取ることは難しい。あれが悪だと言われても実感が薄い。

 だからこそ、実際に味わってみれば分かったはずだ。

 自分の命が失われることへの怒り、親族友人財産全てを殲滅される事への憎しみ、様々な負の感情を背負う彼女はまさに悪の象徴。先程まで彼女に殺されたうちの一人だった俺の中にも、既に彼女を悪として憎む感情が残っている。

 

(…………違う)

 

 ここまでの実体験を経て、まだその台詞を吐けるのか?

 

(ああ吐けるさ。何度だって否定してやるよ‼︎ アイツは絶対に魔王なんかじゃない、俺はそう信じてる──‼︎)

 

 まさしく妄言だ。あれほどの殺戮を見せつけられて、まだそんな虚実に頼ろうとするとは哀れだな。

 

(俺が信じるのは、今の(・・)セイバーだ。アイツが過去に何をして、どう考えて、今に至るのかは分からない。けど俺が(・・)、過去の人間でもなんでもない今を生きてる俺が接してきたセイバーは、俺のために涙を流してくれるような奴なんだ‼︎ 笑って、怒って、それでも俺と一緒に戦ってくれる奴なんだよ‼︎)

 

 俺が、彼女が悪であることを否定する理由は十分にある。

 それは、あの夜以来、ここまでに積み重ねてきた全てだ。

 あいつは顔も知らないはずの俺の死に涙を流してくれた。俺の命を救ってくれた。俺と一緒に戦ってくれた。いつもいつも、あいつは俺のそばに居てくれたんだ。

 あいつが俺にくれた輝きは──俺が味わった彼女への憎悪も怒りも、まとめて漂白して消し去るには十分過ぎる。

 

(失せろ。「お前」の言葉こそ、俺にとっては妄言だ──‼︎‼︎)

 

 振り払って信念を捉えなおし、その言葉を突破する。

 直後。視界を閉じていた闇は振り切れ、俺は勢いよく飛び起きた。

 

 

 

 

「ぶはァッ⁉︎」

 

 慌てて視線を前に向けると、先生が教科書やらをまとめて教室から出ていく姿が見えた。

 ……どうやらあの無限地獄から戻ってこれたのか。

 生きている心地がしないとはまさに今の事だが、どうも俺はもともと死んでいるらしいし。

 

「はッ……はッ……⁉︎」

 

 荒い呼吸を繰り返して動悸を落ち着かせる。

 あの幻覚と幻聴は一体なんだったのだろう。考えても答えの出るはずのない問いを無意味に繰り返していると──、

 

「お、起きたか。もう昼休みだぞう、健斗?」

 

「……あ、ああ、おはよう大雅。俺そんなに寝てたのか」

 

「二限の開始五分あたりかな、好調な滑り出しだったよ。頬杖モードでうつらうつらしだしたかと思うと、数分経ってとうとう突っ伏して爆睡モードに突入。あとはつついても起きやしない」

 

「本当だよ。志原くん全然起きないんだもん、ペアワークのとき困っちゃったよ」

 

「そ、そりゃ申し訳ない……」

 

 ガンガンする頭を抑えていると、顔色が悪いことに気がついた大雅が俺の顔を覗き込んできた。

 

「ひどい汗だな。こんな時期に風邪か? 生涯一度たりとも風邪をひいたことのない僕からすれば甘い甘い、軟弱者もいいところだなアッハッハッハッ‼︎」

 

 「馬鹿は風邪をひかない」という言葉の体現者だと前から密かに思っている前田大雅の言葉を聞いていると、あの地獄を引きずっていた心が元の日常に戻っていく気がした。こやつのおかげで、多少なりとも気を取り直せた事には感謝しなければならない。

 

「けど最近、どうもみんな元気ないみたいだから……仕方ないよ。今日もお昼で授業終わりになるかもしれないし、みんな不安なんだと思う」

 

「例の爆発事件か。……厄介なことさ、一体何が起きてるんだ」

 

 笑顔だった前田が、途端に何かを考え込むような表情に変わる。いつもバカみたいに笑っているコイツがこんな表情を浮かべるのは極めて稀だ。

 その変化は、日常を侵食せんとする非日常の表れのようにも思えて、俺はテーブルの下で拳を握りしめた。

 

「行方不明になってる人も増えてるみたいだよ。なんでか、ニュースとかじゃそんなに話題にされてないみたいだけど……」

 

「ふぅむ、本格的に用心する頃合いかもな。三浦さんは僕が守るからいいとしても……健斗、君は特に危なっかしいんだから気をつけろよ? 変な好奇心を起こすと取り返しのつかない事になるぞ」

 

 残念だが大雅、俺はもう既に「取り返しのつかないこと」に陥っている。なんせもう既に、サーヴァントの一騎によって殺されているんだから。

 

「──よし、ちょっと購買に行ってくる。君たちは?」

 

「あ、私も今日はお弁当じゃないから行くね」

 

「俺も今日弁当無いんだけど、なんとなく食欲ないからパス。ほれ、混む前に行ってこいよ」

 

 あんな夢を見たら食べ物を食う気も失せる。大雅と三浦が教室を出て行くのを見守ってから、気分を変えるために窓の奥に視線を移した。

 澄み渡るような蒼穹には、ぽつぽつと千切れた雲が飛んでいる。やや暑さを残した九月の初め、その光景には未だ夏の残滓がこびりついているように思えた。鷹穂高(たかほだか)の校舎は山の上に建っているので、ここからは見える景色は絶景なのだ。

 ……と、青空に混じってひょこひょこ揺れる蒼色の毛を発見。

 

「おい、まさか」

 

「そのまさかですよ、ケント」

 

 予想通りの声に、若干げんなりした声で返答する。

 

「……いつからいたんだ……」

 

「ちょっと前からです」

 

 窓のへりから顔を出す形で、例のワガママ大王が現れた。昨日と同じ、壁のでっぱりに足を引っ掛けて校舎に張り付いているらしい。こいつはあれだけ言い聞かせたというのに、結局俺を探して学校まで来てしまったのか。

 とはいえ今度は二度目だし、流石に俺も取り乱すほど馬鹿じゃない。騒ぎ立てることもなく、くりんとした大きな目でこちらを覗き込むセイバーを見つめる。

 

「む……なんですか。じっと見て。私にまた文句ですか」

 

「いや……ははっ。やっぱりお前って、お前だなあってさ」

 

 無性に嬉しいので逆らわずに笑うと、セイバーが若干引いたような目でこちらを眺めてきた。なんでこいつにそんな反応を取られなければならないのか、と途端に憮然とした表情へ移行。

 

「はあ、まあ別にどうでもいいんですけど……とにかく、また昼からどこか連れて行ってください。私暇なので」

 

「もうちょっとさあ、敵の位置を探るとか、俺を殺して楓たちを追い込んだバーサーカーについて調べるとかさあ……色々あるだろ色々。アーチャーもランサーもまだ捕捉できてないし。とっとと他のサーヴァントを倒して、取り返しのつかない事になる前に聖杯戦争を終わらせないと──」

 

「何を焦っているんですか、ケント」

 

 窓の端から目より上だけを覗かせたまま、セイバーは俺の言葉を途中で遮った。

 

「やっぱり色々と被害が出てるみたいだ。行方不明者ってのも、大方俺みたいに戦いに巻き込まれた人たちがそう言われてるだけじゃないのか? だとしたら、俺としては一刻も早くこの戦いを終わらせたい」

 

「それは理解できますが、焦ったところでどうにもなりませんよ。それこそ無駄骨になっていたずらに体力と集中力を削られるだけです」

 

「…………」

 

「それに、私の力なら並大抵のサーヴァントには遅れをとりません。もっとも警戒すべきはバーサーカーですが、キャスターの助力があれば勝ちの目も見えるはずです。大船に乗ったつもりで、向かってくるサーヴァントどもを蹴散らしていこうじゃありませんか」

 

 どうもセイバーの自信満々の表情を眺めていると、こちらの緊張感というものが抜けそうになる。

 

「ったく、どこからその自信が来るのか知らないけど……油断すんなよ。なんとなくだけど、こういう時に慢心してる奴はだいたい死ぬ気がするんだから──」

 

 どうもいまいち信頼できないセイバーの言葉だったが、とりあえず釘は刺しておくことにして──果たしてこの街はどうなってしまうのか、俺は今はまだ美しさを保ったままの街並みを見下ろしながら考えるのだった。

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