Fate/crescent 蒼月の少女【完結】   作:モモのすけ

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五十八話 突入、魔術工房/Other side

「どりゃあーっ‼︎」

 

 長い首布をたなびかせて、楓が正面エントランスに向かって疾駆する。

 いちいちロックの解除を試す余裕はない。

 ここまでくれば強行突破、楓は勢いを殺さずに地面を蹴り、躊躇なくガラス製の自動ドアに向かって飛び蹴りを放った。飛び散る破片と共に楓がビル内部に転がり込み、やや遅れて倫太郎が続く。

 

「……適当過ぎる‼︎」

 

「なによ、じゃあわざわざロックを解除して入れって言うわけ⁉︎」

 

「そんな事は言ってない‼︎ 罠が仕掛けられたりしてる可能性くらい考えてから入れって僕は言ってるんだ‼︎」

 

 例のごとく言い合いながら、倫太郎は素早く照明の落ちたエントランスに視線を巡らせる。

 一見したところでは、いたって普通のオフイスビルといった様子だった。最上階から何階層ぶんかは魔術師の工房として利用されているとはいえ、下の方の階にはオフィスやテナントが入っており、昼間は普通に人々が勤務しているのだから当然か。

 そして、外から聞こえてくる、熾烈にサーヴァント達が戦う轟音が消失している事にも気づく。キャスターが宝具を用い、バーサーカーを世界の裏側に引きずり込んだのだろう。

 

「エレベーター……は、流石にリスクが高過ぎるか。あんな狭い箱の中じゃ抵抗も反撃もできない」

 

「じゃあ階段しかないけど。そっちをわざわざ登るのも、結構勇気がいる選択よね」

 

「魔術師の工房にわざわざ足を踏み入れるなんて、自分から死にに行くようなもんだし……正直なところ、僕だってできれば行きたくない」

 

 が、倫太郎は内心で怒りを感じていた。

 マリウスという男の言動にはカチンとくるものがあった。かつて同じような台詞を吐き捨てた自分がそれに憤るのは筋が通らないとは思うが、それでもだ。

 だから倫太郎は気後れしつつも、決して諦めようという気にはならなかった。

 

「はぁーあ……私が山ほど爆薬を持ってたら、ありったけここの根元に仕掛けてビルごと葬り去ってやるのに。この作戦、高いところに陣取ってドヤ顔かましてる奴に効くわよ。絶対」

 

「爆弾魔かテロリストか、君は……そんな馬鹿げた事をするのは僕が許さないぞ。管理者として、後処理がめんどくさい」

 

「結局自分が面倒なだけじゃないの。……まあ、それくらい自分を大事にした方がいいとは思うけど」

 

 ガイン、と硬い音が響き渡った。

 音源は楓の両腕に嵌められたモノ。艶やかな光沢と薄い板を何枚か重ねたようなフォルムが特徴的な、美しい白籠手だった。

 楓が喧嘩寸前の不良のごとく両手を打ち合わせたので、それらがぶつかり合って大きな音を立てたのだ。

 

「──気になってたけど。それ、何だ?」

 

「ふふ、キャスターが私にくれた私専用の礼装よ。これで私の攻撃力は五割増し。──しかも! 私が注ぎ込んだ魔力量に応じて、ほんの一瞬だけどサーヴァント相当の怪力が発揮できる優れものなんだから」

 

「なるほど、「道具作成」か……」

 

 確か、キャスターのクラスに該当する英霊が持つという能力の一種だ。

 現代では到底再現できない神秘、手の届かない精巧な礼装や式神。そういった物であろうと、英霊たるキャスターの手にかかれば一瞬だろう。

 それはつまり、もうこの時代では失われた筈の幻の超技術を、もう一度蘇らせるキッカケを作れるかもしれないという事だ。これは倫太郎だけに留まらず、魔術界全体の成長発展に繋がるかもしれない。

 

「何でよりにもよってその価値がさっぱり理解できない志原のトコにキャスターが召喚されるのか。……折角だし、良かったら後でウチにちょっと技術協力とか……」

 

「いーやー‼︎ キャスターは私のサーヴァントなの。それに、アイツは基本的に女の子じゃないとやる気出さないもん」

 

「…………豚に真珠っていういい例を見た」

 

「うるさいバカ‼︎」

 

 ぎゃいぎゃいと騒ぐ二人の頭上から、呆れ混じりの声が飛んできた。

 

『何を遊んでいる、繭村の。貴殿にはあまり時間が無いのではなかったかな』

 

「──へえ、よく分かってるじゃない。今からそこに行ってやるから、覚悟して待ってなさいよ引きこもり‼︎」

 

 倫太郎が何か言う前に楓が怒りの矛先を変えるように大声で返すと、姿は見えないながらも、この場所の主たる男が怒りに震える雰囲気が伝わってきた。

 

『ぬかせ、貴様(・・)には言っていないと分からないか低脳が。元から貴様に用はない』

 

 倫太郎に向かって告げられる言葉に比べれば、それはどこまでも冷え切った口調だった。

 

『魔術師の風上にも置けぬもどき風情が我が工房に足を踏み入れるなど、我が人生において最大級の屈辱だ。貴様には敬意も敵意すらも払わぬ、ゴミ同然に処理してくれる』

 

「…………っ」

 

 きゅっ、と楓は唇を噛んだ。魔術師から侮蔑や屈辱的な言葉を吐かれる事には慣れているが、この男のものは特に激しい。

 血筋や地位に拘る、いわゆる"魔術師らしい魔術師"ほど志原のような一族を嫌悪する傾向があるが、この男もまたそういう類の魔術師なのだろう。勝ち気な楓でも、これほど純粋な悪意を包み隠さず叩きつけられると、思わず黙り込むことしかできなかった。

 

「マリウス・ディミトリアス」

 

 と、それまでの沈黙を破り、倫太郎は平坦な口調で敵の名前を呼んだ。

 弱気な倫太郎にしては珍しく、毅然とした態度で見えない敵対者の姿を睨み付ける。

 

「──お前はもう黙ってろ。元より敵同士だ、余計な言葉は不要だろう」

 

 そう言うと、倫太郎は一人で会話を切り上げて歩き出した。向かう先は無論、マリウスの工房に直結している階段である。

 少し遅れて、呆気にとられていた楓も倫太郎の後を追う。

 

「ちょ、ちょっと……」

 

「行こう。時間が無いんだ」

 

 ズカズカと進んでいく倫太郎の背中を追い、歩きながら追い越して、楓はまじまじと彼の顔を見つめた。いつもの気弱な感じの垂れ目がやや吊り上がっていて、どこか不機嫌そうだ。

 階段を並んで登りながら、楓は思った疑問を口にする。

 

「────もしかして、怒ってくれてるの?」

 

「別に怒ってない。そもそも、僕がアイツに憤る権利はない」

 

「それは……倫太郎が、私に同じようなことをしたから? 私との関係を断とうとした時点で、アンタはマリウスって奴と同じだから……そういうこと?」

 

「そういうことだよ。よく分かってるじゃないか」

 

「……ぷふふっ。アンタ、怒ってるのバレバレだし。そんな拗ねたお子様みたいな様子でなにが怒ってないー、よ。お子様ね」

 

「なっ、なんだよ。君だってすぐ怒ったり走り回ったりするとこはお子様じゃないか‼︎」

 

「うぐっ……ゴホン、まあいいわ。今は別に口ゲンカしたい気分じゃないし」

 

 楓はぐぬぬと飛び出しかけた憎まれ口とテンションを抑えてから、ぽつりと呟くように返す。

 

「私は……まだ聞いてない。なんで倫太郎が、あんな事をしたのか」

 

「言ったじゃないか。僕が当主の座を受け継ぐ事が決まって……君と関わることはもう出来なくなったって。元から志原に魔術を教えるなんて事が許されるわけがないことくらい、君だって理解してるだろ」

 

「けど、よく考えてみればそれはおかしいわ。だって私が志原の魔術師と知っていても、後継者っていう大事な身分でありながら、アンタは「別にどうでもいい」って言った。それをわざわざ……当主になるからって急に気にしだすなんて、どう考えても筋が通らない」

 

「それは──……っ」

 

 倫太郎が口にしようとした答えを、楓は右手を口を押し当てるようにして止めた。

 

「その答えは……後で聞かせて」

 

 楓が立ち止まり、倫太郎も遅れて反応する。

 まずおかしな点として──階段が、途切れていた。

 本来ならば最上階まで続いている筈の階段が、不自然に壁に呑み込まれて途中から消失している。ここから先は登れない、という意思表示すら思わせる露骨ぶりだ。

 

「空間の歪曲……随分と手が込んでるな。簡単には登らせてくれないみたいだ。このフロアのどこかにあるだろうから、それを探さないと」

 

「けど、なんだか待ち構えてるみたいよ?」

 

 楓の視線の先には、本来は何らかのテナントが入っているのであろう広大な空間の先で跪くようにして待機する、いくつかの影があった。

 人型をしているが、それらのシルエットはあまりに歪。まともな人体には存在しない凹凸や無機質な瞳、なんらかの岩石や金属で形作られた躰。胸部には動力源と思しき簡易魔力炉が組み込まれている。

 

「あれは……ゴーレムの一種か。鉱石科の連中がいかにも好きそうな手だ」

 

 敵影を感知したのか、楓の接近を合図としてゴーレム達が起動した。

 その身長はいずれも約2メートル程か。待機状態では膝をついていただけに、立ち上がった時の威圧感は相当のものがあった。

 

「それと──結界を感知した。5メートル前」

 

 やはり、と言うべきか。当然ながら魔術師の工房とあって、侵入者を拒む結界の類は見えるだけでも複数個張り巡らされている。

 視覚的には見えにくいが、優秀な魔術師であれば感じ取るのは造作もないだろう。空間を区切るように構築された個人領域。マリウスが認めぬ者を徹底的に拒む、強固な魔力壁の存在を。

 

「け、結界かあ……私じゃ正直、どうしようもない分野なんだけど」

 

「まあ、君は正直脳筋だしね」

 

 ギロリと鬼の形相で睨まれ、思わず今の失言を無かったことにできないかと考えてしまう倫太郎だったが、状況は緊迫している。

 近づいてくるゴーレム数体は明確にこちらを敵対者として認識しているらしい。外部からの侵入を拒む結界も、内部から外へ向かうゴーレムに対しては無意味だろう。

 

「──い、今の失言についてはあとで謝る。とにかく僕が結界破りを担当するから、それまで時間を稼いで欲しい」

 

「それなら簡単ね。要は私があの石人形どもを粉々にしてやればいいって話でしょう?」

 

 自分の活躍の場を見出せたことが嬉しいのか、楓は腕を準備運動とばかりに回しながら笑みを浮かべる。

 そういう可愛らしい見た目に反して物理一択なところが脳筋たる所以なのだと倫太郎は思わないこともないのだが、今は魔術回路に意識を集中させる。迷っている暇も立ち止まっている暇も、彼らには残されていないのだ。

 

「──駆動開始(セット)‼︎」

 

 薄茶色のツインテールを揺らして、楓が弾丸のように飛び出していった。

 その速度はまさしく疾風。黒装束が長く引き伸ばされて見えるほどの加速をもって、楓は瞬く間にゴーレムとの距離をゼロにする。

 

「せぁっ‼︎」

 

 何の捻りもない問答無用の右ストレートが、ゴーレムの胴体に突き刺さった。

 ズゴン、と凄まじい音を立てて石人形の躰に風穴が開くが、それはその程度で動作を止めるほどヤワではない。逆に楓の身体を片手で抱いて捕えようと手を伸ばし──、

 

「志原‼︎ 駄目だ、それは核として機能してる宝石か動力源を破壊しないと、簡単には……‼︎」

 

「分かってるって、の────‼︎」

 

 分かってる。そう、楓は理解していた。

 だってあんなに「核です」と言わんばかりの宝石があれば、そりゃあ狙いたくなるのが人情だ。魔術師として未熟でも、あんな分かりやすい弱点を狙わない選択肢はない。

 しかしそれを堪えて、楓は敢えていびつな胴体を拳で貫いた。

 それは、何故か──、

 

式神跋祇(はっし)‼︎」

 

 それは本来、彼女が使う筈のない詠唱(ことば)

 彼女が使役するサーヴァント──安倍晴明が最も得意とする、彼固有の詠唱である。

 故に、その言葉が働きかけるのは彼女ではない。彼女の両手を華と彩る白籠手が、正確には"籠手の形をとった式神"が、跋祇の言葉に応じて起動する。

 

強化三連(エンチャント・サード)──‼︎」

 

 その式神にして魔術礼装たる白籠手が有する機能はたった一つ。

 楓が唯一行使できる「徒手魔術」の作用。それをほんの一刹那だけ後押しし、数十倍にまで引き上げる──というもの。

 稀代の天才陰陽師たる彼の手によって作られた白籠手は、少女に人の頂点すら飛び越えさせる。

 

「せ、ああああああああああ──っ‼︎」

 

 足腰に力を入れ、思い切りゴーレムを貫いたままの右腕を振り抜く。

 2メートルの身長を有するゴーレムの質量は実に300キロはあろうが、この一瞬のみサーヴァントにすら匹敵する膂力を手にした楓は、問題なくそれを武器として転用した。

 その様はまるで竜巻だ。コマのように回転しながら、迫り来るゴーレム達をゴーレムでもって粉砕していく。

 

「……はは。なんだアレ」

 

 その光景に笑うことしかできなかった倫太郎は、慌てて自身の魔術回路と魔術理論の構築に戻る。

 

(昔に比べると随分安定して……いや、志原の努力を称賛してる暇はない。こっちも為すべきことを為そう。……もう時間が無いことだし、結界にいちいち干渉して対消滅させてるような暇はない。なら──)

 

 真正面からぶち破り、堂々と押し通るのみ。

 当然ながら、一般の魔術師には選択できない選択肢だ。マリウスのような優秀な魔術師が構築した結界は、生半可な魔術では通らない。

 しかし──倫太郎は、厳しく評価される魔術界においても「神童」と評される天才である。

 

(僕の……繭村家の起源は「切断」。そしてそれを、何かを切るということを極限まで突き詰めた結晶こそが──僕の武器)

 

 ……その名を、熾刀魔術。

 魔術は嫌いだし苦手なれど、それが唯一の戦う手段ならば、行使することに迷いはない。

 ただ──少し、苦しいだけだ。

 しかしそれも、志原を守るためであれば吞み込める。そうして自分の事を忘れてしまえば、何故かその苦しみは和らぐ気がした。

 

「剣鬼抜刀。──刀身接続(コネクト)完了」

 

 自らの胸の中心に杭を穿つイメージ。

 張り巡らされた魔力は淡く光る筋となって、腕から木刀の刀身へと伸びていった。

 回路の速度は加速度的に増していく。

 もっと速く、もっと硬く、もっと鋭く。

 魔術刻印から存分に魔力を引き出し、魔術の結実というゴールにひた走る──!

 

「────ふッ‼︎」

 

 次の刹那、渾身の一閃が放たれた。

 繭村の秘奥、熾刀魔術。

 それはただ剣を振るい、モノを斬る剣術にあらず。

 魔術として形態化されたそれが目指すのは、「形のないもの」すら切り落とさんとする境地だ。──それがたとえ魔術の結界であろうと、彼の刃は切り捨ててみせる。

 焔を微かに纏った木刀が振り抜かれた途端、5メートル先に目の前に構築されていた幾重もの結界に、まとめて切れ目が刻まれた。そこを起点として亀裂が走り、行く手を阻む結界が崩壊していく。

 

「……相変わらず何でもかんでも斬ることしか頭にないのね。まったく、どっちが脳筋なんだか」

 

「繭村の武器はどんな代でも「切断」だ。今回のケースだと、得意分野でゴリ押すのが一番効率的だし速かったってだけだよ」

 

 楓は既に戦闘を終え、ゴーレム達の残骸をつま先でつついていた。

 倫太郎の結界破りにかかった時間はだいたい10分といったところだが、これから何階層に渡って結界が構築されているかは未知数。何度かこの作業を繰り返す必要があるだろうし、足を止めている暇はない。

 

「って、そこでかがんで何してんの?」

 

「あ、いや、なんでもない」

 

 こほん、と誤魔化すように咳き込んでから、楓は立ち上がる。

 

「……まあいいか。僕たちでさっさとマリウスのいる最上階にたどり着いて、あのバーサーカーを脱落させよう」

 

「そうね。あんな事言ってくれちゃって、追いつめられてから謝っても許さないんだから」

 

(お金のためにゴーレムの宝石集めてたことは……うん、怒られそうだし黙っとこう)

 

 ゴーレムの核として機能していた宝石をひそかに回収してこっそり懐に入れてから、先に進む倫太郎の背中を追っていった。

 

 

 

 

 キチキチ、と。虫が啼くような音がする。

 サーヴァントたちが姿を消した事で無人となった、オフィスビル前方の路上。

 大規模な人避けの魔術が行使された結果、深夜帯とはいえそこに立ち入るものは誰もいない。誰もいない──筈だった。

 

「──────」

 

 無言でオフィスビルを眺める人影。

 長いローブを翻し、宙に浮遊するその女は、紛れもなくサーヴァント。

 今より十年前、「コルキスの魔女」として召喚され、聖杯戦争においていっときはサーヴァント三騎を従えるまで至った神代の魔術師である。

 

「「「キキッ、キキ……」」」

 

 その下で蠢く無数の影。

 それらは人外の骨片を肉体として形成した、意思を持たぬ骨人形たちだ。

 原理でいえば、今現在楓と倫太郎が交戦している石人形も同じものと言えるが、これらは数があまりにも多い。ざっと数百体、路上を埋め尽くすほどの数が待機し、一様にオフィスビルに突入する時を待っている。

 

「──────」

 

 「泥」に思考を歪められたキャスターの行動は、至ってシンプルに設定されている。

 街に潜み、人々から魔力を吸い上げる。

 言ってみれば前回と同じだ。故にこそ、彼女は大規模な魔術の連続行使に釣られて、この場所に姿を現した。

 思考は歪み、語る言葉は失いつつも、彼女が本来持ち合わせる知略と冷静さは健在だった。だからこそ、あのビルの中で動く複数の大きな魔力反応──それらは魔力を求める彼女にとっては餌に等しい──を見つけ、キャスターはそれらを捕らえんと竜牙兵をけしかけようとしている。

 この数が相手では、如何にマリウスが構築した結界が強固であろうと、数で突破されてしまうだろう。サーヴァントがいない今、この女の存在は、交戦する彼らマスターたちにとって絶体絶命の危機といえた。

 が──彼女は未だ、突入に踏み切ってはいない。

 それは何故か。

 単純なこと。それを阻む強力な障害(・・)が、彼女の進路を塞いでいるのだ。

 

「………………」

 

 その存在は──あまりに、奇怪だった。

 全身を覆い隠す装甲鎧。顔すらもフルフェイスのヘルメットに似た何かに包まれ、その表情は判別できない。

 ただ、その隙間から漏れる狂戦士じみた吐息だけが、雨が路上を打つ音に紛れて聞こえていた。

 

「「──ギィィィィッ‼︎‼︎」」

 

 様子見か牽制か、骨人形が数体飛び出し、その人とも英霊とも判別できない何かに飛びかかる。

 

「ガアッ────‼︎」

 

 それを例外なく迎え撃ったのは、指先に至るまで刺々しい武装で包まれた、その人影の両拳だった。

 一瞬。ほんの一息の動作で、数体の骨人形は粉砕されて活動を停止した。

 

「────フフッ」

 

 魔女は笑った。

 こちらの駒は無限に等しい。

 勇ましいその攻勢が、果たしていつまで続くものかと。

 

「────ハハッ」

 

 その敵対者も笑いを返す。

 敵方の兵が無限だと言うのなら、無限の体力をもって薙ぎ払うまで。

 それにこの数、己が身を焼くものをブチまけるには丁度いい。

 

 雨が降りしきる路上のど真ん中で、数百と一、多数と独りの激突が始まった。




【キャスターの白籠手】
「道具作成」の能力によって作られた、楓専用の魔術礼装。
瞬間的に「強化」の効力を爆発的に高めることで、サーヴァントにすら匹敵する膂力を得る。ただし一度使用すると長時間の冷却を必要とし、また効力を高め過ぎると楓の腕が耐えきれずに破壊される代物。
楓はこの籠手の名前を決めているが、恥ずかしいので誰にも伝えていない。実は健斗と戦った時にも使っている。

【マリウスの結界】
物理的・魔術的な干渉を防ぐスタンダードな魔術結界。若干ケイネス先生の例の工房をイメージしているけれど、彼のものに比べれば複雑さも強固さも遥かに劣る。
平均的な魔術師であれば、一つ解除するのにおよそ一時間は必要になる。単純な超火力か、倫太郎のように概念的な切断や結合崩壊を誘発させることで、押し通ることは可能。それでも多少時間はかかる。
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