Fate/crescent 蒼月の少女【完結】   作:モモのすけ

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七十四話 異形咆哮

 時計の針は既に0時を回っている。

 誰もいなくなった仙天第二浄水場に、姿を現した女があった。

 長い金髪が闇夜に溶けるようにたなびく。この島の主である女魔術師、アレイスター・クロウリーは、無言のまま歩を進めた。

 コツ、コツ、と響く足音は二つ。

 一つはクロウリーのもの。そしてもう一つは、新たなる(あるじ)である彼女に追従する、セイバーの姿だった。

 

「………………………………」

 

 セイバーの瞳に、既に光はない。

 運命は変わらない──自分は大切な人を、一緒にいたいと言ってくれた人を斬り殺した。その事実は彼女の精神をとうに壊している。耐え難い絶望に思考を放棄した彼女は、もう死人も同然だった。

 

「ようやくだ」

 

 そう言って、クロウリーが嗤う。

 浄水場の地下。そこには、冬木の龍洞を簡易的に模して構築された、彼女しか立ち入ることのできない地下空間が広がっていた。

 その中心で、不気味に発光を続ける巨大な陣がある。

 ──……大聖杯。

 10年の時をかけて解体されたはずの、直径数十メートルに及ぶ超弩級魔術炉心。クロウリーは躊躇する事なく、その岸へと歩いていく。

 

「令呪をもって命ず。大聖杯と接続し、受肉をもって再誕せよ」

 

 命令とともに、令呪が行使される。

 彼女の命を受けたセイバーは虚ろな顔のまま、ふらふらと歩き始めた。クロウリーの横を通り抜けて、輝く大聖杯の中心へと向かう。

 

「ランサー、アサシン、バーサーカー……聖杯に吸収された英霊は三騎のみ。元から小聖杯などというモノも存在しないこの戦いに於いては、「願望機」としての機能はのぞむべくもない──が」

 

 元より狂った願望機に用はない、と吐き捨てて、クロウリーは聖杯に身を浸すセイバーの背中を見届ける。

 

「その中のモノで誰かを狂わせる程度のことならば、可能だろう?」

 

 やがて、異変があった。

 凄まじい烈風が巻き起こる。その中心。風に揉まれて揺れる蒼色の髪が、次第にドス黒く染まっていく。

 

「はは……ははははッ‼︎ いいぞ魔王‼︎ そのまま最後まで、聖杯の呪いを汲み上げろ──‼︎」

 

 大聖杯に潜む、この世全ての悪(アンリマユ)

 それはセイバーという粗雑な(いりぐち)を与えられたことで、それを介して現実へ誕生せんと、一斉に蠢いてセイバーの身体へと殺到していた。

 多少の抵抗はできただろうが、セイバーにその意思はない。

 結局──自分は在るだけで災いを振りまく存在であると認めてしまったが故に、聖杯の中身を拒絶するどころか、彼女はアンリマユと同化する方向へと転がっていく。

 

「あ────が…………」

 

 元から下地はあったのだ。

 羅刹王ラーヴァナ。僅かな例外を除き、ほぼ全ての人類から疎まれ恐怖された彼女は、そもそもの性質がアンリマユと似通っていた。

 そこに同系統の力を流し込まれれば、結末は見えている。

 悪は悪を得て更に肥大化し、究極の悪性として誕生するのみだ。

 

「い、あ、あ゛ッ……う゛あああああああああ──────‼︎」

 

 元よりクロウリーに聖杯を願望機として用いる気はなかった。

 

 ──神代に君臨した「羅刹王ラーヴァナ」に、アンリマユという極大の呪詛と無限の魔力を取り込ませ、最悪の魔王として再臨させる。

 

 それこそが、彼女の念願の目的だったのだから。

 セイバーは壊れた理性のまま、身体を掻き毟って抵抗する。鎧を自ら脱ぎ捨てて、服すら破り捨てて白い肌に爪をたてる。ガリガリと爪痕を残すくらいに強く引っ掻いても、身体のナカで蠢く不快な何かは消えてくれない。脳髄にまで侵食する何かの不快感は壊れた理性を更に焼き焦がし、セイバーという存在を侵していく。

 

「──────、けん、と」

 

 やがて、彼女の背中をぶちぶちと裂いて、醜い肉塊が飛び出した。

 それは止まるどころかますます量を増して膨張を繰り返し、瞬く間に広がっていく。

 

「ほう……サーヴァントを器に設定すると、こうしたバグが発生し得るのか。(わたし)としては、アンリマユと魔王の融合が済めばそれで良かったんだがね」

 

 目の前で膨張を繰り返す巨塊を眺め、クロウリーは冷笑する。

 骨肉が捻れる音。潰れてくぐもった、誰かだった者の悲鳴。それを聞きながら、彼女は「魔王」がこの世界にもう一度産み落とされる様を、心ゆくまで眺め続けていた。

 

 

 

 

 離脱した彼らが、バーサーカーのマスターであったマリウス・ディミトリアス……彼が連れていたホムンクルスを偶然にも保護し、それからいくばくも経たない頃。

 

「────…………あ、」

 

 時おり揺れる車の後部座席で、倫太郎はその感覚を感じ取った。

 ……今まで繋がっていた経路(パス)が、途切れた。

 反射的に立ち上がりそうになる。こちらから問いかけてみようとするが、そもそも念話で話しかけることもできない。

 完全に、あの少女との繋がりは絶たれたのだ。

 それが意味するところは、つまり──、

 

「……っ」

 

 魔眼のハサンは、もういない。

 最後の最後まで戦い抜いて、彼女はその生を終えたのだ。

 

 その事実に、倫太郎の顔が険しく歪む。その感情を敏感に察知したのか、楓の膝の上で丸くなっていたシロは身体を起こすと、そのつぶらな瞳で彼の瞳を覗き込んできた。

 楓も心配そうに見守る中、キャスターが口を開く。

 

「アサシンが倒れたんか?」

 

「………………ああ」

 

 倫太郎はなんと言っていいかも分からないまま、硬く歯を食い縛る。

 あの時別れた時から、覚悟はしていたのだ。

 いや──そもそも、サーヴァントとマスターの離別は避けられないものであると、契約を結ぶ前から倫太郎は理解していた。敗北しようが勝者になろうが、それは変わらない結末だ。

 

 ただ一つだけ、予想もできなかったことは──。

 その避けられぬ離別が、こんなにも苦しいものになるということ。

 

「彼女が、僕のサーヴァントで良かった」

 

 窓の外に流れていく景色を眺めながら、倫太郎はそう呟く。

 

「貴方の英霊も……優しい英霊だったの?」

 

「ああ。優しくて強くて頼もしい、そんな英霊だったよ」

 

 膝の上に座る小さな少女がそう尋ねたので、倫太郎は自分の思うがままを口にした。倫太郎が契約する英霊として、彼女は最も適していた英霊だと言えただろう。

 経験者としてその哀しみを解しているのか、前方座席に座る士郎と凛は口を開かない。その沈黙が、今はありがたかった。

 

 ──……戦いは、まだ終わっていない。

 

 たとえサーヴァントを失っても、この戦争は続いている。

 ならば、ここで挫けてなんていられない。彼女ならきっとそう言って、倫太郎を立ち上がらせるのだろう。

 

(いや……もう、大丈夫だよ)

 

 倫太郎は口を閉じて、遠ざかっていく大塚の街を睨んだ。

 別れの時、彼女は確かに言ったのだ。

 「もう……私がいなくても、大丈夫」と。

 思い返すと、そんな言葉を言われてしまうくらいに頼りないマスターだったんだな、と苦笑しそうになる。

 

(わかってる……君が言った通り。僕はもう、君がいなくたって戦える)

 

 この戦いが終わる時まで、戦う。

 もう繭村倫太郎は、何事にも怯えていたかつての彼ではない。

 その覚悟は硬く、心の奥底で燃え盛っている。

 

(……それでも、ね。悲しいものは悲しいんだ)

 

 車は猛スピードで人通りのなくなった道路を駆け抜けて、東へ。

 道中で拾い上げた少女が逃げてきたという森林公園をやや避けて進み、やがて山の方角へと伸びる山道へと突入する。

 ここを20分も進んで山を越えれば隣町に着く。

 隣町の端、山のちょうど反対側の斜面に沿うようにして士郎たちが滞在するホテルは建てられているため、ここまで来ればあと少しだ。

 そう、誰もが安堵しかけていた時だった。

 

「……ブレーキや、止まれェッ‼︎」

 

 キャスターの切迫した声が響き渡る。

 その叫びの意味を理解できたものは、彼以外に存在しなかった。

 

 ────瞬間。

 

 遥か天空から落ちてきた「何か」が、士郎たちが乗る自動車の前方に着弾した。

 急ブレーキをかけたタイヤが絶叫じみた音を響かせる。

 士郎の咄嗟の機転で自動車はなんとか速度を緩め、バランスを崩すことなく停止した。窓ガラスに勢いよく頭をぶつけて、膝の上の少女が吹っ飛ばないよう庇った倫太郎は顔を顰める。

 

「くッ、ライダー達にもう追いつかれ……て……?」

 

 切羽詰まった声は、徐々に疑問の声色へと変わっていった。

 飛び散る土片。アスファルトを踏み砕き、その存在がゆっくりと身体を起こす。

 

 それはサーヴァントなどではない。

 言葉で表すならば──「異形」としか形容できない何か。

 あたりを包む夜闇が明るく見えてしまうほどの、深淵じみた漆黒の鎧で全身を覆い尽くした、人でも英霊でもないモノ。

 

 ぶわっ、と全身に鳥肌が立つおぞましい感覚を覚えながら、倫太郎の膝の上に座った少女(ディミトリアス)は震える口で言葉を紡ぐ。

 

「倫太郎。あれが何か、分かる……?」

 

「わから、ない……ただ──」

 

 続きを言うまでもない。

 見ただけで、この場にいる誰もが本能で悟った。

 まず間違いなく、アレは真っ当な存在ではない、と。

 

「………………っ‼︎」

 

 全身が底冷えするような悪寒に閉ざされる。

 息を呑んだ楓は、手足の末端が恐怖に震えるのを抑えられなかった。

 

(なに。何なの……この、悪寒は)

 

 いや、この場所にいる人間は皆例外なく、誰もがその震えを味わっていた。それはかの雷帝が敵対者に与える、生物的な恐怖とはまた別種のもの。例えるなら幽霊に人々が抱くような、認めがたいモノに対する嫌悪的恐怖だ。

 だが、この場の中で唯一。

 志原楓のみが、別種の違和感を感じ取っていた。

 

(違う。怖い、じゃない。それよりも……もっと恐ろしいこの感覚は……これ、は……)

 

 首を振って、見えた幻視を否定する。

 ……ありえない。

 こんな感覚を最近味わったと思い返しながら、必死で浮かび上がってくる記憶を否定する。

 楓が必死に自分自身の錯覚と戦っている間、凛は微動だにせず、車のヘッドライトに映し出されたそのシルエットを凝視していた。

 

「私達は……アレを知ってる。ランサーが一度撃退した経験があるわ。でも、前の遭遇時とは色んな意味で桁が違う」

 

 凛は無意識のうちに唾を飲み込む。

 この十年間、彼女は様々な物を見てきたという自覚があった。

 だが、あんなものは見たことすらない。

 

「あれは──…………」

 

 似ている、という言葉を士郎は呑み込んだ。

 その脳裏に浮かび上がった光景がある。かつての冬木を焼いた大火災、その原因たる怨嗟の泥。聖杯に巣食う極大の呪い。目の前の存在が放つおぞましい気配は、アレに類似しているものがあった。

 いや──確かに似ているが、聖杯に潜むあの泥とは微妙に異なるか。

 

 あの泥が「形をとった呪詛」であるならば。

 奴はまさしく、「形をとった悪意」だ。

 

 人間の悪意そのものが生物として結実してしまったような絶対の悪、生まれ落ちるべきではなかった忌むべき存在。

 縛り付けられたように動けない倫太郎たちを見て、その存在はぎちり、と身体を蠢かせた。

 その全身から刺すような殺意が立ち上ると同時、莫大な魔力がうねりを上げ──、

 

「────……死ね」

 

 眼前の悪鬼が何かを呟いた刹那。

 全員の視界が、白銀に染め上げられた。

 

 ──極大の閃光が駆け抜ける。

 

 それは触れたものを例外なく消し飛ばす致死の嵐。大塚市東端の森にて放たれたその一撃は数キロメートルに渡って木々を根こそぎ吹き飛ばし、蒸発させ、森林に巨大な轍を刻み込んだ。

 方角が街とズレていたことはただの偶然。

 もしこれが真西に向けて放たれていれば、この破壊は住宅街まで及んだだろう。

 

「違う……バー……を……ろさ……きゃ……」

 

 その異形は、業火に包まれる眼前の光景を虚ろな目で眺めたあと、弾かれたように目線を変えた。

 方角は西。

 その目は遠くに向いている。まるでその先に待っている何かを求めるような、そんな目線が西へと向けられていた。

 ──だが。

 

式神跋祇(はっし)

 

 上からの声。

 宙天から落ちた無数の雷撃が、異形を包む黒鎧に突き刺さった。

 顔すら覆う鎧の奥、くぐもって響く苦しげな声。

 直撃だ。即死ではなかろうと瀕死級の手傷は与えた。

 ソレは肉が焼け焦げる嫌な臭いを振り撒きながら、殺意に満ち溢れた目線を上に向けるも──、

 

「──────、ガ」

 

 ズドドドドドドッッ‼︎‼︎ という凄まじい轟音と共に、轟然と殺到した数十の(しきがみ)が、その異形を貫いた。

 鎧の隙間を縫って放たれた神業。

 瞬きの間に無残な針山と化した異形が、ぐらりと揺れて沈黙する。

 

「あ……キャスター……」

 

「なァに惚けとるんや、楓ちゃん」

 

 ふわり、と宙から降りてきたキャスターは、共に浮遊する倫太郎たちを地面に下ろし、その敵対者を睨みつける。

 常人ならば即死であろう。

 数十の槍に身体中を貫かれては、まず生きていられる道理がない。

 だが。燃え盛る炎に照らされたソレの周囲で、蒼色の火花が何度か瞬くと──、

 

「やってくれたな、陰陽師」

 

 凄まじい轟雷が、身体を貫いた槍のことごとくを塵と変えた。

 全身から血を噴き出しながら、それでも目の前の異形はまだ動く。

 その双眸が、今度こそキャスターを捉えた。

 

「お陰で、はっきりと目が覚めてくれた」

 

 膨大な敵意と共に、ソレの体内で莫大な魔力が練り上げられる。無限の炉心でも有しているのかと錯覚するほどの力の渦は、すぐさま実態を伴って現実に出力され──、

 

「……今度は、外さんぞ」

 

 奴がその腕を振るった瞬間。

 第二波が、轟音を伴って放たれた。

 ただ掌を向けただけ。まともな剣すら持ち合わせていないというのに、対軍宝具にすら匹敵する一撃が襲い掛かる。魔力消費を度外視した極大の魔力放出の連射とは、一体いかなる手品によるものか。

 更に、今度は運悪く街の方角を捉えている。避けるという選択肢が封じられた以上、キャスターに出来ることはただ一つだった。

 

「──青龍‼︎」

 

 空間を破って頭のみを出した巨大な龍が、その口蓋から極大の一撃を解き放つ。

 そこまで僅か一秒足らず。

 神速の迎撃態勢をとって放たれた極寒の竜の息吹(ドラゴン・ブレス)が、迫り来る閃光と激突する──‼︎

 

「うわ……ッ⁉︎」

「う……‼︎」

 

 二者激突。荒れ狂う膨大な力は互いに互いを喰い合って、凄まじい暴風を巻き起こす。

 戦いは既に、人間の領域を超えていた。

 姿勢を低くして、今なお吹き荒れる衝撃波に耐えることしかできない魔術師たち。その中でなお颯爽と立つキャスターは、忌々しげに舌打ちした。

 

「成る程、そうなってまうか」

 

 爆炎と閃光が晴れる。

 鬱蒼と茂っていた森林は根こそぎ刈り取られ、吹き散らされた互いの一撃は周囲を完膚なきまでに破壊し尽くした。

 キャスターの両側には炭化した木々の残骸が転がっている。対し、正面左右に広がる森林と道路は魔すら凍て付く氷に閉ざされていた。見渡す限りで無事なまま残っている場所は、彼と敵の背後のみだ。

 

「しかし……まさか、そこまで育ってまうとはなァ」

 

 キャスターは顎を撫でて、深刻な表情を崩さず嘯く。

 そこまで──育って──しまう?

 楓はその言葉を聞いて、弾かれたように顔を上げた。ただ、頭で思っている言葉と正反対の言葉が、口から勝手に漏れ出してしまう。

 

「ねえ……キャスター、アンタさっきから何言って……」

 

「楓ちゃん」

 

 目の前の敵から目を離さず、キャスターは平坦な声で彼女に問う。

 

「──もう分かっとるんやろ?(・・・・・・・・・・・)

 

 ごくり、と。

 唾を飲み込む音が、木々が燃え盛る音の中でやけに大きく聞こえた。

 攻撃の余波か。硬い音を立てて、異形の兜が割れ落ちる。それはいくつかの破片となって地面に落ち、硬質な音を響かせた。頭を覆うモノが無くなったおかげで、奴の声がより鮮明に聞こえてくる。

 

「ああ、青龍、今のは青龍だろう。思い出した。一回どこかで戦ってる、うざってえ竜種だ」

 

「ハッ、十二天将を「うざったい」だけとは随分高く出るやんけ」

 

 それを聞いただけで、楓は背筋が凍り付くような悪寒を感じ取った。

 ──その奥にある貌を見てはならない。

 見たら最期。今ならまだ、キャスターに命じて、「正体不明の敵」としてあの異形を葬り去る事だって出来る。

 見なくとも分かりきっている。目の前の敵は極大の邪悪だ。ライダーやバーサーカーと比べたって、アレの邪悪さは突き抜けている。きっと、在るだけで殺戮と悲劇を撒き散らす最悪の敵なのだ。

 ──だから、ここで処理する。

 それが正しい。悪寒に反して脳は思考の堂々巡りで加熱していく。

 ──だって、ありえないんだから。

 絶対に見てはならないと感じながら、しかし。

 人間としての理性に負けて、楓は視線を向けてしまった。

 

「────────」

 

 それを見た瞬間の衝撃は、キャスターを除く全員の身体を縛り付けるには十分過ぎた。

 声にならない悲鳴が、楓の喉を震わせる。

 「ありえない」は、ここに裏切られた。

 キャスターはその事実に打ちひしがれた楓に代わって、その異形と相対した。ぴしり、と扇子を突きつけて、彼は眼光鋭くソレを睨む。

 

「そこまで歪んでしまえば、君はもう手遅れや。どう足掻いても君はもう引き返せん。なればこそ、ここで処理させて貰うで」

 

 冷徹な目線の先に在る敵、それは。

 

「──異論は無いよな、健斗クン(・・・・)

 

 その問いに、答えはなかった。

 ただ、その声に応えるように──。

 「志原健斗」だったモノは、凄惨な笑みを浮かべて大地を蹴った。




【セイバー】
「ラーヴァナ」と「アンリマユ」。本人の性質がどうあれ、周囲の人々によって性質を歪められたこの二者は非常に似通った性質を有していたため、「反転」などの結果を引き起こすのではなく、互いに互いを吸収して一つの存在として融合、再臨した。
志原健斗を殺害してしまった事で、セイバーの自己認識はますます悪化しているため、よりアンリマユとの親和性が高くなっている。
融合しきれなかった聖杯の中身はセイバーという器から中途半端に溢れ、彼女の身体を突き破って肉塊という形で体外へと溢れ出している。
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