Fate/crescent 蒼月の少女【完結】   作:モモのすけ

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八十九話 決着・とある魔術使いへの挽歌/Other side

 巻き起こった爆発に、倫太郎は地面を削りながら後退した。

 勢いよく右手を払うと、全身を駆け巡る回路に意識を向ける。

 出力は最初から全力だ。緩める余裕などない、倫太郎が有するすべての回路を以て、目の前の敵を打ち倒す。

 

「──────おおおおッ‼︎」

 

 ドン、と地面を踏み砕き、倫太郎は再び駆け出した。

 脚部の「強化」は済ませている。楓に匹敵する速度で疾駆する彼の周囲を、刀の群れが取り囲む。

 対し、クロウリーの動作はごくシンプルだった。

 目を見開き、放つ。

 背後で展開された陣から放たれる無数の閃光は、どれも凄まじい威力を秘めた致死の雨だ。対し、倫太郎は無言で掌を掲げ、

 

「ッ‼︎」

 

 真正面。動きを変えた刀の群れが、重なり合って閃光を受け止める。

 擬似神経と接続した繭村の霊刀は、いまや倫太郎にとって手足に等しい。この程度の動きは朝飯前だ。が、倫太郎の動きが止まったその瞬間を狙い澄ますように、足元の地面に亀裂が走る。

 

「──────、‼︎」

 

 倫太郎は咄嗟に地面を蹴った。直後、地面を割って噴出した無数の焔が、倫太郎の立っていた空間を喰らい尽くす。

 宙返りしながら剣を手繰り、その魔術を斬り払った。

 概念切断。これでクロウリーは今の魔術をもう使えない。しかし、倫太郎の着地を狙って、怒涛の攻撃が迫り来る。

 今度は土塊だ。地面がそのまま津波となって迫るようなデタラメに、倫太郎は歯軋りして剣を向かわせる。土壁にいくつもの剣が突き立ち、その魔術を無効化した。

 ──まだだ。

 そんな悪寒を感じた直後。その壁を自らブチ抜いて、レーザーじみた弾幕が飛んでくる。

 刹那、ほとんど何かを考える間も無く倫太郎は傍に滞空する剣をひっ掴み、一切の無駄なしに斬り払ってみせた。考えるより先に身体が動いたのは、嫌悪を押し殺して必死に続けてきた鍛錬の成果か。

 

「ふうッ……」

 

 再び剣から手を離し、鋭く息を吐く。

 倫太郎にできることは一つだ。ただただ前進して、クロウリーとの距離を詰め、この刃を届かせる。

 ……一撃でいい。

 一撃でもいいからこの刃をぶつければ、それで倫太郎は戦いを終わらせることができる確信がある。この刀が秘めた概念切断の力は、クロウリーにとって最悪の敵だ。

 それでも、長い。

 二人の間に開いた距離は僅か30メートルほどか。しかし、汗で襦袢が張り付くほどに激闘を繰り広げても、この距離は僅かしか縮まっていない。

 そして、十八本あった倫太郎の刀は、今や十五にまでその数を減らしていた。倫太郎による酷使と怒涛の攻撃に耐えきれず、神秘がもっとも薄い先代の刀から順に、限界を迎えて折れ砕けたのだ。

 

「………………」

 

 だが、クロウリーの方も徐々に追い込まれていた。

 既に100を超える多種多様な魔術で倫太郎を屠りにかかったが、大小様々な傷を刻めども、未だ勝負を決めるには至っていない。

 徐々に心底で湧き上がる焦燥感。

 あとどれくらいの魔術が動かせる?どうすればあの概念切断を超えられる?リスクを無視してでも、この四肢で奴を潰す方が確実なのではないか?奴が限界を迎えるのはいつだ?それよりも先に、己の魔眼が限界を迎えるのではないか──、

 

「フン……」

 

 それくらいの迷いは、鼻息ひとつで搔き消した。

 迷い、戸惑い、そんなものが何になるのか。

 この戦いは至って単純だ。しがらみも因縁も憎悪も悲しみもない。

 ただ、互いの全力を出し尽くし、持てるもの、信じるもの全てを賭けてぶつかって、最後に立っていたものが「正しい」。これほどすっきりとした戦いを、果たして経験したことがあっただろうか。

 

「おォ、ああああああああッ────‼︎」

 

「懲りず飽きずに一直線か。良かろう‼︎」

 

 両者の魔術回路が吼えたてる。

 倫太郎の意思に応じ、十五の剣は一斉に広がると、多角度からクロウリーに襲いかかった。

 それを、彼女は引っ張り出した「魔術」で迎撃してみせる。

 広範囲、彼女の周囲を包み込むように巻き起こる爆風。それに煽られ、さらに一本の剣に亀裂が走る。

 

「ぐううっ……‼︎」

 

「四本目、残るは十四か‼︎‼︎」

 

 剣が折れようと構わない。それを犠牲に、今までにないくらいの至近距離まで駆け抜けて、十四になった剣を殺到させる。

 それを受け止めたのは空間固定の魔術か。

 すぐに倫太郎の概念切断が作用し、無力化するものの──全ての刀が止まった僅かな刹那、倫太郎の身を守るものは消え失せる。続いて魔眼が輝きを放ち、倫太郎の胸、その中心に狙いを定めた。

 

「──────がふっ⁉︎」

 

 ごば、と、倫太郎の口から鮮血が溢れる。喀血は呼吸困難を引き起こし、倫太郎は必死にそれら全てを吐き出そうとした。

 これも、複製魔術──それも直接的な攻撃ではない。

 恐らくは呪詛の類だ。だが、ここで退けばさっきの二の舞を喰う。硬直し始める四肢を、せりあがる吐き気を無視して、倫太郎は更に一歩前に踏み出した。

 

「なにッ……‼︎⁉︎」

 

 その捨て身の行動はやや想定外だったのか。クロウリーは目を見開き、勢いよく地を蹴って後退してみせる。

 僅かに遅れて、倫太郎の剣が次々に地面を穿った。

 惜しい。あと僅かにクロウリーが遅れれば、それで決着はついていたというのに──、

 

「ごはっ、が、ア゛……あああああ‼︎‼︎」

 

 自らの回路に魔力を込め、「強化」の応用で自らの身体に概念切断を誘発させる。魔力の火花が全身から飛び散り、倫太郎の体を仄かに照らし出した。

 そうして身体を破壊し始めていた呪詛を断ち、倫太郎は口元の血を苦しげに拭う。

 

「……まだまだ、こんなもの……‼︎」

 

 爛々とした瞳で、魔眼の視線を受け止める。そこに恐怖や怯えといったものは一切存在しない。かつての彼を知るものならば、それだけで驚嘆に値しただろう。

 ──と、その時だった。

 彼らの遥か上空で、凄まじい「何か」が炸裂したのは。

 

「「────⁉︎」」

 

 本能的な危機感から、倫太郎とクロウリーは同時に天を見上げる。そこに見えたのは、黒々とした彼方まで広がる雲海……そして、その中心で瞬く黒の彗星。

 両者ともに見覚えがあった。

 あれはこの世界における最高の聖剣、惑星が鍛え上げた神造兵装。

 

「奴め、この島ごと……⁉︎」

 

 セイバーは彼女が有する中でも最大最強に位置する戦力だ。故にこそ自由に暴れさせていたが、まさか島ごと消し飛ばす勢いで宝具を使用するとは──、

 否。違う、それほどにセイバーは追い詰められているのだ。あの最強無敵の剣士を追い詰めることのできる手練れがまだ一騎、敵の陣営には存在している。

 

「く────」

 

 咄嗟にクロウリーは退避するべく動いた。

 当然である。正規のものではないとはいえ、自らのサーヴァントに殺されるなど笑えない。

 だが、その逡巡と、逃げを考えた思考が仇となった。

 

「──────ッ⁉︎」

 

 喉が干上がるような感覚を感じ、視線を前に向ける。

 そこに、いた。

 頭上から、仙天島ごと全てを消し飛ばす確実な「死」が迫っていようと、倫太郎は知っている。キャスターを信じている。だからこそ、最初からアレイスター・クロウリー以外の全ては見えていなかった。

 掴んだ剣が低く構えられる。放たれるのは居合術にも似た神速の一撃。クロウリーは咄嗟に魔眼を起動し、全身に強化の魔術を張り巡らせる。

 選択した魔術は「固有時制御(タイムアルター)」。

 かつて、下見として観察していた第四次の聖杯戦争において、とある男が使用していたモノだ。

 

「おお──ぉぁあああああッ‼︎」

 

 倫太郎の一撃は、埒外の速度で上体を逸らしたクロウリーによって回避された。

 しかしまだ終わらない。

 倫太郎の背後から、巨大なアギトのごとく襲い掛かる残り十三の刃が、一斉に殺到して貫きにかかる。

 

「ッッ‼︎‼︎」

 

 固有時制御(Time alter)三倍速(triple accel)──彼女が魔術の複製を操る贋作屋(フェイカー)でなければ、そう叫んだことだろう。

 心臓の鼓動、筋組織の脈動、神経組織の伝達速度。

 体内の「時間」が三倍速にまで加速され、クロウリーは糸を針に通すほどの神業をもって、迫り来る刃の雨を回避。そのまま一息のうちに距離を詰めると、

 

「ご、────⁉︎」

 

 凄まじい衝撃音とともに、倫太郎の胸、そのど真ん中に掌底を打ち込んだ。

 めきめき、という鈍い音と、骨を砕く手応えが伝わってくる。

 肺に凄まじい衝撃を受けた倫太郎は、叫び声も上げられずに吹き飛んで地面を転がった。段差で跳ね、背中から落ちて動きを止める。

 

「ごッ、……はあ、はあ、はあ……」

 

 クロウリーの息は荒かった。体内時間を加速させる「固有時制御」は、術が完全に作用したのち、世界からの干渉力によって術者そのものにダメージが及ぶ。

 いつもなら、他に様々な魔術を組み合わせることでそのダメージすらも無効化するのだが──繭村倫太郎という強敵を前にした今、そんな余裕は無かった。

 ゆえに彼女は傷を負う。つう、と口の端からこぼれる血はそのまま地面に吸い込まれていった。魔眼の機能で即座に体内の傷を塞ぎつつ、クロウリーは口内に溜まった血を吐き捨てる。

 

「………………」

 

 目の前で。ゆらりと、薙ぎ倒された倫太郎が起き上がる。

 その周囲にはすでに彼の剣が滞空しており、立ち上がると同時、十四の全てが群体じみた規則正しさで剣先を向けた。

 

「ぜえ、ぜえっ……………」

 

 それは倫太郎の覚悟、戦う意思の表れだ。

 あの剣が最後の一本まで残っている限り、決して彼の闘志をへし折ることは能わない。どれだけ傷を負ったとしても、どれだけ地面に倒れ伏しても、繭村倫太郎は何度でも立ち上がって挑んでくる。

 

 ──アレイスター・クロウリーは理解した。

 

 やはり、この男は強い。単純な強さだけに留まらない、精神の強靭さがその強さを補強している。

 

「──……繭村倫太郎」

 

 なんだ、と絞り出すように返そうとして、倫太郎は思わず口をつぐんだ。

 ばさり、と黄金の髪が宙にたなびく。

 その呼びかけをきっかけに何かが変わった。それまでが緩かったとか、そういう話ではないけれど……クロウリーの雰囲気、放たれるモノが確かに剣呑さを増した。

 

「認めるよ。貴様の剣、覚悟、不屈……その全てを」

 

 ギン────‼︎‼︎ と。

 クロウリーの魔眼が、かつてないほどの光量をもって輝いた。

 

「故に、(わたし)も全てを見せてやろう──‼︎」

 

 見たこともないほど膨大な量の魔法陣が、彼女の背後に展開されていく。

 紫のそれらを見た瞬間、倫太郎は息を呑んだ。

 

(……まさか)

 

 悪寒が背筋を駆け抜ける。

 頭に浮かんだ予想が正しくないことを祈るも、目の前の事実は残酷だった。

 

(まさかッ……⁉︎)

 

 滞空する魔法陣、その一つ一つがありえざる膨大な魔力を有している。

 一流の魔術師が干からびるまで魔力を注ごうとも、せいぜいあれらの魔法陣のうち、一つか二つを再現するのが精一杯だろう。

 しかし、目の前に展開された数はゆうに五十を超える。

 この意味を倫太郎は理解した。あんなデタラメを、たかたがこの百年程度で成し得た魔術師がいるとは思えない。クロウリーが記録できるとは考えられない。

 ならば、考えられる答えは一つしかなかった。

 

「あれはっ……神代の、術式……‼︎⁉︎」

 

 一体いつ、どこでそんな術式を魔眼に記憶させたのか。その疑問を考えている暇はない。

 こちらを見るクロウリーは、その言葉が正しい、とばかりに笑みを浮かべていた。その黄金に輝く両眼からは、つう、と鮮血が流れ落ちている。

 向こうも限界なのだ。

 神代の魔術は「複製の魔眼」の機能を大幅に超越している。どんな剣をも投影する魔術師にも限界があるのと同じ。あの魔術は、クロウリーの限界を超えている。

 それでも彼女がそれを使うのは、きっと。

 

「────神言(マキア)

 

 そうでもしなければ、倫太郎を倒し、自らの正しさを証明することなど不可能だと、そう考えたからなのだろうか。

 「生ける伝説」に、そうまで思わせた男──繭村倫太郎は全身の回路を爆発させる。

 アクセルを全開に踏み抜く感覚。稲妻が走り、倫太郎の剣、その全てが踊るように陣形を組む。

 

 ──こい、と倫太郎は小さな声で呟いた。

 

 空間が軋む音を立てながら、魔法陣に蓄えられた神代の閃光が、今。全てを灼かんと解き放たれる──‼︎

 

魔術式・灰の花嫁(ヘカティック・グライアー)‼︎‼︎」

 

 瞬間、倫太郎は全身全霊の力で、十四の剣を叩きつけた。

 

 ──衝突し、一瞬のうちに結果は訪れる。

 

 砕ける音が聞こえた。折れる音が聞こえた。

 倫太郎の剣は、ほとんど全てが一秒と保たずに塵と消えた。

 

「──ガ、っ──……」

 

 回路がショートしかけて火花を散らしているのが分かる。刀を操るコンソールである身体にかかる圧力は、彼の四肢を無理やり捩じ切らんばかりだ。

 残った剣は僅かに三本。これらが砕けた瞬間、倫太郎は死ぬ。

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ────‼︎‼︎」

 

 これでも押し留めているのが奇跡だ。

 これが贋作でなく本物だったなら、倫太郎はとっくに死んでいる。

 「贋作」ゆえの相性の良さ、概念切断という彼の特性が働いているおかげで、倫太郎はデッドエンドすれすれの拮抗を保っている。

 だがそれも、いつまでもつか。

 三代目の刀に亀裂が走り、砕け、吹き飛ばされた破片が倫太郎の頰を裂いた。鋭い痛みとどろりとした血の感触は、頰だけでなく、体のあちこちから伝わってくる。

 一度は心臓が止まっていたのだ。身体はとっくに限界で、崩れ落ちてもおかしくない。それでも、あいつを倒すまでは、自分の信念を果たすまでは──、

 

(負け、られ、ない)

 

 びしり、と二本目の剣に亀裂が走る。

 絶えることなき光の奔流は、軽々とそれを破壊した。

 残り一本。倫太郎の生命線はそれだけしか残されていない。目の前、掲げる両手の先で果敢に光を受け止め続けるそれが消えた時が、倫太郎の死ぬ時だ。

 

(負けられ、ないんだよ……‼︎)

 

 あたり全てを破壊の光に包まれ、もはや突破する以外に逃げ場などない、あの世と現世の境界線じみた地獄。

 倫太郎はそこに立っていて、それなのに。

 ……背後に、誰かが立っている感覚があった。

 振り返っている余裕はない。それでも分かった。理解できた。今自分の背後には、きっと──、

 

「──おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオッ‼︎」

 

 それを知って、倫太郎は腹の底から吼えた。

 あの剣が折れたら、背後の彼女も消え失せる。

 なら折れるな。まだ、あと一撃でいい、奴に届くまでは決して屈するな。

 無情にも、最後の刀身にヒビが走り始める。

 それでも諦めはしない。「概念切断」、どんなものでも、形の見えない繋がりですら断ってしまう諸刃の力。

 己の未熟さから使い方を誤って、かつては彼女との全てを断ってしまったけれどけど──今は違う。

 彼女を傷つけるのではなく、彼女を、志原楓を守るためだけに使い切ってみせる──‼︎

 

「断、ち、切れェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ────ッッ‼︎」

 

 ────ぱっ、と。

 光に塗りつぶされた視界が、一瞬のうちにクリアに開けた。

 一瞬のことに困惑しかけるも、伝わってくる手応えが全てを理解させる。

 断てた。概念切断によって、あの術式を魔眼から切り離し、跡形もなく霧散させた。──賭けに勝った。

 敵影を捉える。道は目の前に開けている。

 ほとんど何も考えずに、倫太郎は地面を蹴っていた。

 

「くっ……‼︎⁉︎」

 

 クロウリーの顔に焦りが浮かぶ。

 最大最強の魔術まで越えられたとあっては、もはや手段を選んでいる余地はない。

 彼女は自らの背後、影の中に意識を向けた。

 そこに眠るは「この世全ての悪」。ランサーと交戦した際のように、この泥はけしかけるだけでで凶悪無比な兵器として機能する。同じ魔術使いとしての矜持から使いはしなかったが──ここで出し惜しみすれば死を招く。なりふりは構っていられない。

 そう考え、クロウリーが「この世全ての悪」を放とうとした刹那、

 

「っ⁉︎」

 

 まさにその瞬間、奇跡と言わんばかりのタイミングだった。

 天にそびえ立つ天月の塔が、まばゆい純白の閃光に包まれたのだ。

 何者によるものなのか、それが何の意味を持っていたのか。それを理解することは能わず、しかし、なぜか地面を通って地下からたぐり寄せていたはずの「この世全ての悪」が消えていく。機能しない。

 

「な──、う、ぐァ────っ⁉︎」

 

 最後の切り札まで封じられ、クロウリーは歯噛みした。

 すぐそばで煌々と放たれる純白の光すら無視して、倫太郎は駆け抜ける。

 時折地面を手で弾いて、ぜえぜえと肩で息をしながら、肉食獣じみた姿勢で突貫する。

 反撃は最早なかった。クロウリーは血が溢れる目を抑えて苦悶に悶えている。きっと、あれだけの魔術を使った反動が彼女を襲っているのだ。

 勝機は今しかない。することは一つ、魔眼をもう一度使われる前に斬り伏せるのみ……‼︎

 

「こい────剣鬼、抜刀‼︎」

 

 宙に残った一振り。繭村家一代目の、もっとも神秘性、魔術的強度において優れた霊刀を握りしめる。

 彼の声に剣は応じた。

 灼熱を纏い、折れかけの刀身が咆哮する。

 

「終、わ、り……だあああああああ──────ッ‼︎‼︎」

 

 クロウリーの華奢な指の隙間から、魔眼がこちらを捉えていた。

 簡単には終わらない。終わらせない。

 残り僅か三メートル、剣の間合いに踏み込む寸前に、「複製の魔眼」が輝きを放つ。

 

「舐めるなよ、小僧ォォォォォォッ──‼︎‼︎」

 

 彼女がたぐり寄せた魔術は、倫太郎の予想とは異なっていた。

 クロウリーの右手。掲げたそれに、瞬く間のうちに見覚えのある「日本刀」が現れる。

 

(あれは……僕の刀っ、投影魔術……⁉︎)

 

 馬鹿な、と倫太郎は思った。

 投影魔術はあくまで物体のガワだけを作る魔術に過ぎない。この土壇場で使うには、あまりに頼りない切り札だ。

 まさか、それでこちらの剣を受け止めるつもりなのか──と考えて、倫太郎は一層強く踏み込んだ。

 

「ッ──────‼︎」

 

 ガワのみを作り出したところで、その強度は倫太郎のものに遠く及ばず、またクロウリー自身が倫太郎を上回る剣技を持つとも思えない。

 間合いに踏み込んだ倫太郎が、研ぎ澄まされた一撃を解き放つ。

 円弧を描く剣閃。それは寸分たがわず、クロウリーの体へと吸い込まれていき──、

 

「「おおおおおおおおおおおッッ‼︎‼︎」」

 

 ──……遠く、肉を断つ鋭い音が響き渡った。

 

 決着を示すように、鮮血が飛び散って空を汚す。

 くるくる、くるくる、と回る何かがあった。

 それは腕だ。断ち切られた右腕が、不気味なほど無音を保って地面へと落ちる。それが墜落すると同時に、握られていた日本刀が呆気なく転がり落ちた。

 ぐらり、と揺らいで身体が倒れていく。

 

 ──……倒れたのは、倫太郎のほうだった。

 

 鮮血の向こう、刀を振り抜いたのは倫太郎ではなくクロウリーであり、剣士はゆっくりと崩れ落ちていく。

 

「「本物」と、慢心したのが貴様の敗因だ」

 

 彼女の目の前で、倫太郎が力なく膝をつく。

 

「『偽物が本物に敵わないという道理はない』……たしかに正しい言葉だったな」

 

 「投影魔術」そのものは、たしかに効率の悪い、戦いの役にも立たぬ魔術かもしれない。

 しかし、追い込まれた彼女が「複製」したのは、通常の投影魔術ではなかった。

 とある魔術師しか用いることのできない、剣ごと使い手の戦闘経験・技術すらも投影する──埒外の投影魔術。それを彼女は使ったのだ。

 それを……他人の固有結界を使うことの意味と代償を知りながら、それでも。自分の正しさを証明するために、倫太郎を越えるためだけに。

 

「さらばだ、倫太郎」

 

 投影した繭村の霊刀が、高々と掲げられる。

 倫太郎の伏せられた顔は見えない。遺言といったものもなく、クロウリーは粛々とそれを振り下ろそうとし、

 

 ──そこで、ふと目の前を見た。

 

 目の前に飛び込んでくる、漆黒の影を確かに見た。

 

式神跋祇(はっし)

 

 振り下ろされた霊刀が、素早い足蹴りを受けて真横に吹き飛ばされる。倫太郎を庇うように目の前に現れた人影は、ぎりぎりと力を貯めるように右拳を後ろに引いていて、

 

強化・四連(エンチャント・フォース)──‼︎‼︎」

 

「貴様──⁉︎」

 

 風を裂く荒々しい音をたてて放たれた鉄拳は、しかし。

 すんでのところで間に合った魔術障壁によって、クロウリーを貫く前に止められていた。

 轟くような炸裂音。サーヴァントに匹敵する膂力で放たれた拳と、多層防護障壁が真正面からぶつかり合う音だ。楓の靴が地面にめり込み、装着された白籠手が放電しながら障壁にめり込んでいく。

 

「はあああああああああああああああああああああっ‼︎」

 

 クロウリーは戦慄した。この女は倫太郎の背後、彼女にとっての死角から飛び出してきたが、どこから彼の背後についていたのか。

 確実なのは、あの「神言魔術式・灰の花嫁(マキア・ヘカティック・グライアー)」を放った時にはすでに、倫太郎の背後にいたということ。

 ありえない、と思う。

 神代の閃光によって倫太郎ともども消滅する可能性の方がはるかに高かっただろうに。この不意打ちを成功させるためだけに、繭村倫太郎を信じ抜き、最後まで共にあったと言うのか。

 

「小娘、が…………あまり、図に乗るなァァァッ‼︎」

 

 キャスターの置き土産の効果は絶大だった。とても三流の魔術師には出せない出力が障壁に加えられている。しかし、まだ破壊されるには至らない。魔眼と魔術回路に流れる魔力全てを注ぎ込む必要はあるが、この拳打は抑え込める。

 

「ふ……」

 

 だが、楓はほくそ笑んでクロウリーを睨み返した。

 右の白籠手が機能を終え、排熱しながら変形していく。だが、それにも構わず、楓はぐるりと体を回転させた。

 

全供給魔力(セット)──集中(コンセントレート)完了(オールクリア)

 

 右の一撃、「四連」では砕くに至らなかった。

 それなら更にそれを上回る力で、真正面からぶち抜くしかない。どこまでも単純な理論だが、最初から楓にはそれしかないのだ。

 

式神跋祇(はっし)……強化(エンチャント)五連(リミテッド)‼︎‼︎」

 

 旋風を巻き起こし、楓の左腕にありえないはずの魔力が集中していく。キャスターの籠手による機能だけでなく、フィムからもらった潤沢な魔力、楓が他人から受け取った全てを次の一撃に注ぎ込む。

 今にも腕が潰れそうな凄まじい負荷が、彼女の左腕を痙攣させた。

 ふと、キャスターの言葉を思い出す。

 「強化・五連」は禁じ手だ。使ったなら、楓の身体に何が起きるかわからない。それでも──、

 

「知る、もん、かあああああああああああああああァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

 ここで全力を出せないのならば、自分が魔術師として生きてきた意味が、永遠に失われるような気がした。

 だから打った。全身全霊をこめた、超常の一撃を。

 今度こそ、空気すら弾き飛ばさんばかりの勢いをもって、障壁に楓の左拳が激突する。

 その威力は絶大だった。

 瞬く間に障壁がひび割れていく。──英霊の筋力ランクで表すならば、そのほんの刹那の膂力は、最高ランクすらも超越した「A +」にすら相当した。キャスターとフィムの力が後押しし、人間には成しえぬ力をたぐり寄せたのだ。

 

「貫けぇぇぇっ‼︎‼︎」

 

 亀裂が広がり、みしみしと嫌な音を立てて──崩れる。

 突破された最後の護り。

 黄金の魔眼、その再発動は間に合わない。

 血が溢れてなお酷使した反動か、頭蓋が割れんばかりの痛みがクロウリーを襲っている。

 

「がっ、ぐ………………‼︎‼︎」

 

 顔を歪ませ、目の前に迫る拳を見た。

 止めようがない。英霊ですら容易くは真似できぬ圧倒的な膂力の前には、いかにクロウリーといえど止めようがない。

 楓はさらに踏み込んで、致死の一撃を食らわせる。

 しかし、その寸前、今度は奇跡が向こうに傾いたと言わんばかりのタイミングで──、

 

「あ──────?」

 

 ばん、という、風船が割れるような音がした。

 

 何かが破裂したらしい。楓は呆然として、自分の左腕を見る。

 けれど、見えなかった。視界いっぱいに広がった血煙が、楓の視界を完全に遮っていた。

 腕の感覚が、消える。

 途端に平衡感覚を失って、地面に身体が吸い込まれていく。

 

「は、は……ははは‼︎ 当たり前だ、サーヴァントですら限られたものにしか与えられぬ筋力など……‼︎ 再現すれば、それこそ腕の方が粉砕されるッ‼︎‼︎」

 

 血煙の隙間から楓が見たのは、内側から破裂し、肉と骨が滅茶苦茶にねじ切れて枯れ枝のようになってしまった、自分の左腕だったモノ。

 倒れていく。

 もう立ち上がれない。瀕死の体は、もう動いてはくれないらしい。あと一歩のところ、あと一秒もってくれれば、きっとクロウリーを倒せたのに。

 そう考えて。それでも、楓はクロウリーを睨みつけた。

 

「……っ?」

 

 二人の目が合う。黄金の目を見て、楓は不敵に笑っていた。

 クロウリーにはその笑みの理由を理解できず、不愉快な感情のまま少女を素足で潰そうとして──、

 

「剣」

 

 ──……そして、その呟きを聞き取った。

 いかなる困難にも揺るがない、小さくて大きな呟きを。

 

「鬼」

 

 ゾッとして、咄嗟、弾かれたように顔を上げた。

 崩れ落ちていく少女の、向こう。

 血煙そのものを煙幕として、剣鬼は既に立ち上がっている。

 瞳を爛々と輝かせ、こちらをしかと見据えている。

 

「抜」

 

 その僅か四文字の詠唱は、極限状態の連続で引き伸ばされた時間の中では、ひどくゆっくりしたものに思えた。

 クロウリーは不可解に口元をひきつらせる。

 あり得ない。敗北は、もう遠ざかったはず。とうに奴の剣は全て砕いた。もう十八本の刃はない。さらには右腕すらも断ち切ったのだ。あの剣士に、もう戦う手段も意思もあるはずが──‼︎

 

「刀──ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッ‼︎」

 

 その甘い考えを消し飛ばすように、クロウリーの眼前で凄まじい炎熱が巻き起こった。

 倫太郎は、果たして何代目の繭村家当主だったのか。

 答えは一つ、「十九代目」だ。つまり彼自身の剣は、彼の分身たる剣はまだ残っている。宙を舞う十八の剣に気を取られて忘れていたが──最初からずっと、彼の腰には一振りの木刀が挿されていた。

 

「十九本、目……」

 

 絞り出したような声が喉から漏れた。

 崩れ落ちる楓と入れ替わるように飛び出し、倫太郎が残った左腕を大きく振りかざす。

 構えも何もない、ただ刃を届かせればいいと言わんばかりのがむしゃらな剣が、勝敗を決める最後の一撃が迫ってくる。

 

「ッッ‼︎」

 

 限界を超えて、複製の魔眼を起動させる。

 魔術を選択している余裕なんてない。がむしゃらなのはクロウリーも同じで、最後の一撃を絞り出す。

 

「──繭村、倫太郎ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ‼︎‼︎」

 

 脳天めがけて射出された一条の閃光。

 それを睨みつけ、倫太郎は渾身の力で最後の剣を振り抜いた。

 

 

 

 

 どさり、という音がして、立っている人影はいなくなった。

 血生臭い風が荒地を駆け抜け、その不気味な静寂を際立たせる。

 

「────…………」

 

 クロウリーは、呆然として天を眺めていた。

 彼女は動かない。動けないのではなく、単純に動く気になれないのだった。倫太郎が死に物狂いで届かせた傷は浅く、決して致命傷には至らぬものだったが──魔眼の機能と彼女の魔術回路は、見事に全てが両断されていた。

 これでは戦えない。事実上、敗北したのは倫太郎ではなく、アレイスター・クロウリーの方であった。

 

「アレイスター……クロウリー……」

 

 そんな事を思っていると、自分を呼ぶ声がする。

 視線をそちらに向けると、二人……肩を支え合って、よろよろと立ち上がる人影があった。

 

「……僕の、いや……僕たちの、勝ちだ」

 

「ああ……お前は「(わたし)の全てを、貴様の全てで凌駕する」と言った。その「全て」には、最初からそこの小娘も含まれていたわけだ」

 

 全てと全て、互いが持てるものを限界まで注ぎ込んだ戦いだった。

 そう考えると、この決着に不満はない。

 クロウリーにはなかったもの、最初から諦めてしまったものを倫太郎は頑なに信じていたからこそ、あの土壇場で彼女は敗北した。

 

「………………」

 

 何を言っていいのか分からないのか、楓も、倫太郎も口をつぐむ。

 その姿を見て苦笑した。華やかなる勝利に際してどう振る舞えばいいかも知らぬ青二才どもに負けたとは、死んでも悔やみ続けるしかないだろうな、と。

 

「ごふッ……がはっ」

 

 と、突然クロウリーが盛大な量の血を口からぶちまけた。それだけではなく、体のあちこちから穿たれたような血が溢れ出す。

 倫太郎も予想外のことだったのだろう。思わずといった様子で駆け寄ろうとするが、そんなことをする体力はない。二人で立っているのが精一杯だ。それを知って、クロウリーは目線だけで制止した。

 

「……お前、いったい何をしたんだ」

 

「分からない……か。己は、あの時……普通の魔術ではない、他人の固有結界を模倣(コピー)したんだよ。その結果が……これだ。己は、心象と相容れない固有結界を取り込んでしまったことで自己矛盾を引き起こし……内部から、崩壊する」

 

 彼女が引きずり出した、とある男が用いる投影魔術。

 それは本来投影魔術ではなく、術者の「固有結界」を起因とする魔術であり──結果的に、彼女は自分の体内に、他者の固有結界を構築してしまうことになったのだ。

 その無茶無謀の結果が今、現れている。

 身体中から剣が飛び出して、クロウリーの全身をあますことなく切り裂いていた。臓器も、四肢も、あらゆる箇所が寸断される。

 

「そんなになるって知ってて、なんで……」

 

「理由など、一つしかない……負けたくなかったんだよ、己は」

 

 楓の問いに、クロウリーは観念したような顔で答える。

 

「己は、長き探索と旅路の果てに「この答え」を見出したが……それでも、これが正しいのかどうかは……己自身には分からなかった。だから、愚直にこれしかないと信じて進んできた」

 

 クロウリーの願い。神代の魔王をもう一度蘇らせ、全人類にとっての絶対脅威を作り上げる事で、かつてない世界全ての繋がりを作り出すこと。

 その願いはどこまでも無垢で、そして、その方法はどこまでも非情だった。

 

「だから、負けられないと思った。己とは対極の考えを持つ貴様らに……勝てたのならば、「きっと己は正しい」という確証を得られると思ったのさ。……魔王は、既に動き始めている。あとは……この答え(けつろん)が正しいという答え合わせができたのなら……もう、生きている必要すらも……ない」

 

「だから捨て身の剣を使ってでも、お前は……僕に」

 

 倫太郎は、今なお剣に全身を穿たれ続けるクロウリーを見下ろして、無言のままに木刀を構えた。

 手が震える。

 けれど、自分の手で終わらせてやったほうがいい、と倫太郎は思った。もはや彼女は手遅れだ。生きたまま全身を切り刻まれ、ゆっくりと死に向かうよりは、ここで命を絶つほうがずっといい。

 だが、その顔は、やはり苦悶に満ちていたらしい。クロウリーはそんな倫太郎に向かって口を開く。

 

「やめて、おけ。貴様が、無理に……手を汚す必要は……ない。間違った答えを選択したらしい、己には……相応しい、末路だよ」

 

 決着の刹那、倫太郎はクロウリーを確実に殺せていた。

 それでもそれをしなかったのは、彼の根底に根付いた優しさであり、それを捻じ曲げる必要はない、とクロウリーは思う。

 だってそれは、ずっと昔に彼女が世界に溢れていればいいのにと願った、尊くて輝かしいモノなのだから。

 

「………………お前は、間違ってなんかないよ」

 

 倫太郎は、クロウリーにそう呟いた。

 

「最初に言っただろう。お前の根底にある願いはきっと正しい。だからどっちが正しくて、どっちが間違ってる、なんて考えは意味がないんだ」

 

 その言葉に、クロウリーは輝きの消えた黄金の瞳を見開く。

 これは、倫太郎が、アサシンと戦う中で学んだことだ。

 正しさには様々な形がある。それを一律に善悪で切り分けることはできない。だから、真正面からぶつかり合って、どちらが正しいかを強引に決めるしかない。これは、そういう話なのだ。

 

「……思っても、みなかった。青二才に……諭されるとは……な」

 

「ふん……悪かったね、だいたい──……」

 

 倫太郎がその言葉に反論しようとして口を開き、そして、彼は続く言葉を発することなく口を閉じた。

 死んでいた。

 アレイスター・クロウリー。生ける伝説と呼ばれた魔術使いは、全人類の幸福を夢見た理想家は、もうとっくに絶命していた。

 

「「………………」」

 

 無言のまま、二人はその死を悼むように立ち尽くす。

 なにを言うべきか、よく分からない。

 ただ、勝ったという実感は湧かず、勝利への喜びもなく。大激闘を制したにしては、あまりに寂しい幕切れだった。

 

「倫太郎……私たちは、勝ったのかな」

 

「さあ、どうだろう……僕には、心の奥で人間を信じたがってたアイツが僕たちに勝ちを譲ってくれたような、そんな気もする」

 

「……そう、かもね……」

 

 へたりこむように、二人は寄り添ったまま地面に座り込んだ。

 繭村家の魔術刻印は優秀だ。右腕を失う大怪我だが、既に出血は止まりつつある。が、倫太郎が剣を再び存分に振るう機会は、永遠に失われてしまったのだろう。

 それはきっと、楓も同じだ。破裂した左腕は、きっともうまともに動かせるようにはなるまい。互いに大きなものを犠牲にして、そうしてようやく自分達の正しさを押し通せる、そんな死闘だった。

 

「血が止まってない。軽くだけど、治癒魔術をかけておこう……いい?」

 

「うん、お願いする……」

 

 倫太郎のほうが重傷だろうに、他人を優先するのはやはり彼らしい。その優しさに甘えることにして、楓は向き合うように身体を向ける。

 時間を置かず、柔らかい光が二人を照らし出した。

 それを覗き込むようにすると、こつん、と、二人の額がぶつかる。自然と抵抗感とか恥ずかしさはなくて、彼らはずっと、その姿勢のまま暖かな光を受け止める。

 

「「………………」」

 

 自然、残った右手と左手を重ね合わせ、硬く繋いでいた。

 

 戦いの報酬として得られた温もりを、掌で確かめるように。

 そして、人間は繋がることができると信じたクロウリーに、それは正しいと伝えるかのように────ずっと。

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