Fate/crescent 蒼月の少女【完結】   作:モモのすけ

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九十話 最期の(いかずち)

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■‼︎‼︎』

 

 凄まじい威力を秘めた一撃が、大地を砕く。気概を削ぐ。

 

「ぜえっ、ぜえっ、ぜえっ…‼︎」

 

 四肢が重い。息が荒い。頭が割れそうに痛い。

 もう一振りの「月の刃(チャンドラハース)」を握る手が、だんだんと下がってくる。

 そんな俺とは対照的に、目の前の巨人になんら変わったところはない。顔の輪郭がわからなくなるほど泥で汚染されながらも、凶星の如くぎらめく双眸だけがこちらを睨んでいる。

 バーサーカーが突進するのに合わせて、俺は月の刃を握り直した。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■──ッ‼︎』

 

「おォああああああああああああああああああ‼︎‼︎」

 

 突っ込んできたバーサーカーの剣戟を受け流せず、俺は地面に深く足をめり込ませながら、押し込まれつつある剣を支える。

 ガガガガガガガッ、と地面を抉る轟音を立てながら、俺はバーサーカーに押される形で一気に十メートル以上は後退した。

 呼吸が荒い。無理して魔力に意識を集中し、それらを全て足元に回す。

 

「ッ‼︎」

 

 爆発音を立てて炸裂したのは魔力放出の雷。

 それは俺の体を運び、瞬く間にバーサーカーの懐へと移動させた。ぐるんと体を回し、剣を振り抜いた姿勢のバーサーカーに一撃を見舞う。

 思い描いたとおりの、寸分違わぬ軌道。

 それはバーサーカーの胸板へと吸い込まれ、そして──見事にそのど真ん中へと激突し、まるで岩壁に斬りかかったかのように弾かれていた。

 

『■■■■■■■■■■■■■‼︎』

 

 それにも構わず、バーサーカーがその剛腕を振り回す。

 咄嗟の防御は間に合ったが、剣越しに、凄まじい衝撃が俺の身体を駆け抜けた。

 

「ぎっ、あ────────‼︎⁉︎」

 

 カッ飛ばされて、地面を削りながら停止する。

 裂けた皮膚も、ヒビが入った骨も、あらゆる傷は立ち上がった頃には治癒されていた。だが、失われた体力までは回復してくれない。

 息荒く、握りしめる月の刃を杖代わりにして、俺は巨人を赤く点滅する視界の中心に据える。

 

「こい、つ、は……どこ、まで……」

 

 果たして何度死にかけて何度殺すことができたのか、それすら数えている余裕はなかった。

 消耗戦は、向こうの圧倒的な優勢で進んでいる。

 神性を有するものに対する圧倒的な有利条件があってなお、この劣勢は覆し難い。なにせ──、

 

(やっぱり剣が通らない……こいつ、死ぬたびにこっちの攻撃に対する耐性を得てるのか……‼︎⁉︎)

 

 最初、ヘラクレスを初めて「殺した」時──チャンドラハースの刃はいとも容易く巌の肉体を断ち、その命を奪ってみせた。

 それが今や、弾かれるばかりで僅かな傷もつけられない。

 しくじった、と心から後悔する。複数の攻撃手段を用意できない以上、何度も攻撃するのではなく──最初から全力をかけた一撃を見舞えば、或いは十三の命全てを一息のうちに削り切ることができたのかもしれない。セイバーなら、早い段階でそれを悟り、もっと違う方法を考えていたはずだ。

 やはり力を借りているだけでは──彼女にも目の前の敵にも、遠く及ばないという事なのか。

 

(せめて、空が晴れていたら…………‼︎)

 

 歯噛みする。セイバーの剣、チャンドラハースは強力な神造兵装だが、同時に月の満ち欠けによって威力が左右される特性も持つ。

 が、今宵はせっかくの満月──最大出力を振るうことのできる稀有な機会だというのに、空は一向に暗雲を敷き詰めたまま。一筋の月光すらも確認できない。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ‼︎』

 

 そんな劣勢を読み取っているのかいないのか、バーサーカーは隻腕をかざして吠え猛る。

 その大地すらも揺るがす威圧感に、圧倒されかけて俺は歯を食いしばった。

 迫る巨刃。

 ほとんど考えるよりも早く、研ぎ澄まされた直感が最適な回避行動を選び取る。

 

「ッ‼︎」

 

 空気を断ち切る轟音が耳を打つ。バク転と宙返りを繰り返して、高々と振り抜かれた大剣の刀身を蹴り、勢いよく巨人の頭上へと躍り出た。

 「魔王特権」──瞬く間に月の刃は膨張し、バーサーカーの巨躯、その更に三倍以上の超大剣となって振りかざされた。

 

「──────‼︎‼︎」

 

 真一文字にそれを振り下ろす。バーサーカーの額と大剣は寸分違わず激突し、地面が大きく陥没した。

 しかし、バーサーカーは尚も怯まない。

 黒泥に塗り潰された貌の中心、赤き双眸がこちらを見据える。走り抜ける緊張感。そして──、

 

「……なんッ……⁉︎」

 

 バーサーカーが反撃を繰り出さんとしたその瞬間、巨人の背後で、凄まじい光量が爆発した。

 視界が途切れる。白に塗り潰された視界で、俺は思わず目を細めた。

 しまった、と、全身の細胞が警告する。

 この巨人を眼前にして、僅かな時間であろうと、視界を潰されたのは致命傷に繋がる。ぎり、と歯を食いしばって次の攻撃に備えるが、

 

「……………攻撃が、止ん……だ?」

 

 セイバーがいるであろう塔から放たれる爆発的な光の奔流は、高く高く宙へと伸びていき──黒々とした雲海に突き刺さって、光の粒子を振りまいていた。

 そして。

 バーサーカーは、何らかの機能にエラーを起こしたロボットみたいなぎこちなさで、がくんと巨大な膝をついている。

 

(…………──‼︎‼︎)

 

 ほぼ何も考えずに、俺は月の刃を高々と掲げていた。

 身体も頭も、とうに壊れる寸前だ。空中戦艦(ヴィマーナ)を作り、月の刃(チャンドラハース)を作り……都合二回の無茶によって、ただでさえほとんど失われていたタイムリミットはもうほとんど残っていない。

 

 無茶ができるのは、あと一回──。

 

 だがここであと一回限りの「無茶」を切るわけにはいかない。セイバーの所に辿り着く前にくたばれば、それこそ俺がここにいる意味が失われるのだから。

 

「は──あ──ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァ……‼︎‼︎」

 

 蒼雷を束ねて、一点収束──刀身へと預ける。

 活路は一つ。俺が死ぬ限界寸前まで火力を振り絞って、この大英雄を一撃で突破する他ない。

 幸い、バーサーカーは動かない。

 掲げられた月の刃が震え出し、空気を揺るがして烈風を生む。ぶちぶちぶち、と頭の中で致命的な何かが千切れていく音がした。視界はいつからか赤く染まって治らない。それでもまだ保つ。保たせる。

 

「ア゛──あ──あああああああああッ‼︎‼︎」

 

 そして、その時が来た。

 僅か数秒後、このまま力を振り絞り続ければ死ぬと確実に理解できたその瞬間──月の刃を、渾身の力で振り下ろした。

 

 ──音が消え、全てが白く塗り潰される。

 

 その威力は、果たしてどれほどのものだったのか。

 放たれた蒼雷がバーサーカーを呑み込み、そのまま背後の塔へと激突したのは理解できた。

 

「はっ…………はっ、はっ……」

 

 眼前に広がる光景を意味のある情報として理解するのに、なぜか、五秒以上はかかってしまった。

 何かを考えるのも億劫で、だから、目の前だけを見ることにする。

 上半身の七割を欠損した巨人が、黒焦げになった身体を晒して石像のように沈黙していた。最早ぴくりとも動かないそれは、機能を終えたようにゆっくりとこちらに倒れてきて──、

 

 その瞬間、世界が逆に回っていた。

 

 ぐるぐると加速していく世界。洗濯機の中に放り込まれたみたいだな、と何かを考えるのもおぼつかなくなった頭で思っていた。長い長い滞空時間を経て、俺は思い切り地面に叩きつけられる。

 

「ご……、ッ」

 

 不気味に痙攣する指を引きつらせて、俺は地面をつかんで立ち上がろうとした。

 何故立ち上がろうとするのか、それもよく分からなかったが。

 しかし一向に再起できる気配はなく、俺はごろん、と仰向けになる。

 そこで、初めてわかった。反転する視界に移ったのは、剣を水平に振り抜いたまま息絶えたバーサーカーの姿と──地面に転がる誰かの両脚。

 

「…………あ、が…………」

 

 太ももあたりから下がなくなっている。

 それなのに、何も感じないのが怖かった。

 目眩を覚えるほどの血が今も垂れ流しになっているのに、痛みどころか感覚もない。いや、ずっと前から感覚なんて消えていたし、嗅覚も、聴覚もほとんど動いていなかった。

 着実に、元の「死体」に戻りつつある。

 そんな死に損ないを眼前に殺し切らんと、更なる蘇生を果たした巨人が迫ってきた。

 そう、蘇生。単純な話だ。一度死んでも蘇る怪物と、死ぬのを寸前で押しとどめているだけの怪物。──どちらが強いかなんて、最初から明らかだった。

 

(だめだ……再生…………が、間に…………合わ、な)

 

 ふらつく視界に大剣が映る。

 躊躇う理由も理性もなく、それは十全の力をもって振り下ろされ──、

 

「──────、……?」

 

 目をゆっくりと開けて、生きていることを理解する。振り下ろされたはずの大剣は、しかし、俺の身体を潰すことはなかった。

 何者かが放った攻撃によって、バーサーカーの攻撃は僅かに逸らされたのだ。怪物の赤黒く燃ゆる双眸が、その闖入者を睨みつける。

 対して。

 その闖入者は、聞き覚えのある雷鳴を轟かせ、その小さな身体を堂々と晒していた。

 

「見てられんな、そのザマは」

 

 それが、俺が全く予想のしなかった人物だっただけに、手放しかけていた意識が醒めていくような気がした。

 

「お前……ライ……ダー……?」

 

「足があろうがなかろうがとっとと立て、ガキ。……俺とは違って、テメエにゃ「なすべき事」があるんだろう」

 

 獰猛な紫電は、いつ見ても変わることがない。

 しかし、その衣装には既に大量の血がこびりついており、かなりの傷を負っているのであろうことは理解できた。

 それでも彼の気迫は揺るがず、上位者然とした視線がこちらを見据えている。

 

「なんで、お前」

 

「ンの──つべこべ言ってる暇があると思うかッ……‼︎」

 

 はっ、とした時には、バーサーカーの巨躯が弾丸じみた速度でライダーに襲いかかっていた。

 それを迅雷じみた素早さで避けながら、ライダーはこちらを確かに睨みつける。

 

 

「──────いいから走れ、間抜けェッ‼︎」

 

 

 その声が、壊れかけた脳に突き刺さる。

 そう、それはまさに、不可視の稲妻だった。

 彼の言葉に弾かれたように、再生の終わった両脚に力を込める。着々と近づく死は確かだが、全身に漲る魔力は衰えることがない。

 走れる。

 

「────……………悪い‼︎‼︎」

 

 疑問も言葉も全部飲み込んで、俺は駆け出した。

 道は開けた。もう立ち塞がる障害はない。

 

 走り、目指すは聳え立つ巨塔の(いただき)

 そこできっと、セイバーは待っている──。

 

 

 

 

 

 

 ……はあ、とライダーは嘆息した。

 勢いよく駆け出していった少年を見て、ついで、やや放たれたところで息を荒げる巨人を見やる。

 彼は、地面に半ばめり込む形で止まっていた。

 バーサーカーの拳を受け流しきれず、ここまで吹き飛ばされたのだ。実のところ、ライダーにもうまともな戦闘をこなせる体力は残っていない。アナスタシアの治癒のお陰で体は動くが、それ止まりだ。

 

「あ〜……………あ」

 

 なんでこんなことをしているんだか、と自問自答して、ライダーは汚れた金髪を掻き上げた。

 

「テメエのせいだぜ、マスター……」

 

 繋がっていたはずの経路(パス)は既に絶たれており、もう、彼の四肢は光の粒子となって消え始めていた。

 それが意味することは一つだけだ。

 あの女(マスター)は死んだ。歪ながらもヒトの未来を願ったあの魔術使いは、もう死んだのだ。

 

「──……テメエがくたばったら、俺は何をすればいい?」

 

 ぼんやりと、月の見えない夜空を見上げた。

 そうして、初めて言葉を交わした時のことを、思い出す。

 

 

『……あの魔王ラーヴァナを……この現世にもう一度蘇らせる、ですって? 本気ですか?』

 

『ああ。その為に貴様を喚んだのだ、騎兵(ライダー)

 

 

 何から何まで、ふざけているとしか思えなかった。

 自分をかの「雷帝」と知りながら、なおも使役せんとするその傲慢。成功するかも分からぬ計画を果たさんとする愚かさ。そして、誰もが諦めるような馬鹿げた理想を信じ抜く覚悟。

 故にこそ、ライダーは凡百の魔術師に付き従うよりは何倍も面白そうだと──彼女のサーヴァントとして、その働きを果たしてきた。

 

 

『……ああ、そうして己は長い間世界を放浪した。色々なものを見た。人々の美しさにも触れたが、もっと多くの悪意にも触れた。まあ、そうしたものが多い場所に好んで向かっていたことは否定できないが』

 

『そうして、テメェは一つの結論に至ったと?』

 

『その通り。──人種性別倫理宗教、数多のバックボーンが生み出す"差異"はどこまでいっても人間の結びつきを拒み、否定する。故に人間の中から悪意は消えず、世界から争いが消えることはない……』

 

『闘争は人間の根底にあるものの一つだ。そりゃあそうだろうな、「争いの無い平和な世界」なんざ所詮は幻想だ』

 

『だが、己は見てみたかったのだ。全ての人間が争うことなく、くだらぬ悪意を捨てて支え合えるような世界を。その世界が一瞬でも構築されれば、一度でも「前例」を作ってしまえば、人間はその可能性をより拡げることができる……そう思った』

 

 

 珍しく酔った彼女がそう零したことを、彼はまだ覚えている。

 

 その時は、捻じ曲がってる、とだけ返しておいたが。実のところ、ライダーはその言葉に、アレイスター・クロウリーという人間の覚悟を見た。

 ──いつからだろう。

 最初は「馬鹿の妄言」だと思っていた彼女の理想に、本気で付き合うのも悪くない、なんて気になっていたのは。

 皇帝としての自分を忘れ、一人の従者(サーヴァント)として、マスターの手足となって戦うことに楽しみを感じていたのは。

 

「ッたく、それなのに……楽しくなってきたところで、よ」

 

 しかし、彼女は死んだ。

 彼には分かる。あの女は素直にくたばるような人間ではない。もしそうだったなら、戦いと血にまみれた長い人生のどこかで、とうの昔に死んでいたはずだ。

 それが、そんな女が戦いの中で死を選んだという事は──つまり、「自分が誤っていた」と、彼女自身が認めたという事だ。

 

「……勝手に答えを出して、勝手に満足して、勝手に死にやがって。この暴君(おれ)以上の勝手とは笑わせてくれる」

 

 軽く舌打ちして、ライダーは思う。

 マスターが死んだことで、自分はほとんど猶予を残さずに消滅する。その最後の僅かばかりの時を、ただ何もせずに過ごして消えるのもいい、悪くはあるまいと思った。

 

 ────だが、見てしまったのだ。

 

 勝ち目はなく、体は着実に死んでいくというのに、愚直にも巨人(ヘラクレス)に挑み続ける男を。

 目を逸らそうとしたが、できなかった。

 彼の瞳には、「なすべき事」とやらを果たすために一人で世界全ての悪を打ち破った女と、同じように、自分の理想を信じて長い時を歩み続けた女の姿が焼き付いてしまっていた。

 

 ────だから、これはただの気まぐれだ。

 

 「なすべき事」などではない。皇帝は誰にも縛られない。

 だから、自分が望んだことだけをする。義務感とか使命感ではなく、ただ、己が欲求を満たすためだけに動く。

 

「真名固定。認識置換、神格設定完了」

 

 伸ばした手の先。

 天から堕ちた落雷が、一直線に彼の身体を貫いた。

 荒れ狂う暴威。それは荒れ狂いながら収束すると、長く水平に伸びていき、やがて一つの形に落ち着いた。

 

 神槍、「雷霆(ケラウノス)」。

 マスターの智略と神業あってようやく彼が扱う権利を与えられた、本来ならば使用できないはずの宝具(ぶき)である。

 

 

「なあ、クロウリー」

 

 

 振りまかれる膨大な神威にヘラクレスが反応する。

 そう、これはかの主神ゼウスの槍だ。格落ちを重ねた紛い物であろうと、その威力は数多の宝具の中でも頂点の領域に位置する。ギリシャの英霊であれば、例え理性を失っていようと、その脅威は理解できよう。

 体が消えていく速度が加速する。

 構わず、ライダーは力強く地面を踏みしめた。

 

「楽しかったよ、お前と戦うことができて。……そこそこな」

 

 その危険性を察知したバーサーカーが、跳ぶ。

 天空で独楽のように縦に回転すると、そのまま傷一つない大剣を構え、こちらを一刀両断せんと迫ってくる。

 全体重、全エネルギーを乗せた渾身の一撃だ。

 

「だから、存分に暴れさせてもらった恩くらいは返してやる。テメエの勝手の代償は、俺が始末をつけておくさ」

 

 対して、ライダーはゆっくりと槍を構えた。

 遠投げの構え。

 この聖杯戦争において、ついぞ一度も使用されなかった最強無比たる主神の槍が、膨張して閃光を撒き散らす。

 

「ああ──文句は言うなよ。元より俺は暴君だ……素直さ器用さなんて、ハナから求めちゃいなかっただろう?」

 

 そう言って、彼は笑った。

 その笑い声は、雷霆の炸裂音に揉まれて消えたが──確かに、世界を震わせていた。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■──────ッッッッッ‼︎!』

 

 吠え猛る狂戦士。その双眸に、最後まで畏れはなく。

 かの勇士の姿に敬意を評しながら──、

 

三 界 滅 す(ケラウノス)神 話 の 終 局(ティーターノマキア)‼︎‼︎」

 

 ライダーは、その命を賭した最後の一撃を解き放った。

 

 その一撃は、サーヴァントの宝具という範疇にすら収まらぬであろう圧倒的破壊力をもって、狂戦士の身体を包み込み、噛み砕き、残存ストックの全てを一息のうちに消滅させた。

 

 ゴッッッッッッッ──‼︎‼︎‼︎‼︎ と、世界が揺れる。

 

 現世に蘇った神の一撃は、バーサーカーを打ち砕くだけに留まらない。神威を忘れた大地に、草木に、空気に、この惑星そのものにその余波を刻み込みながら、一直線に天へと向かっていく。

 そして、天空へと到達してようやく、神の雷はその暴威を解放した。大塚市近辺の上空を覆っていた暗雲が、一欠片も残らずに吹き散らされる。空は晴れ渡り、星の瞬く夜空が姿を見せる。

 降り注ぐ黄金のベール。黄金の満月が、遂にその姿を現したのだ。

 しかし、その下に立っているものはもういない。

 狂戦士の咆哮も、暴君の雷鳴も聞こえない。

 

 既に──彼は、この世界から消滅していたのだった。

 

 

 

 

 その月光を浴びて、一人。

 遥かなる塔の頂点で、ゆっくりと瞼を開けた少女がいた。

 

「──────、────」

 

 心地のいい微睡みから目覚めたように、彼女はゆっくりと頭を振ると──自分を包み込む不快な肉の塊を瞬きだけで消し飛ばし、悠々と世界へ歩き出した。

 その長髪は、闇よりもなお深き漆黒。

 絶対零度を閉じ込めたかのような碧色の瞳が、眼下に黒々と広がる大地を睥睨する。セイバーと呼ばれた少女は、最早その頃の全てを忘却し、同時にかつての全てを獲得していた。

 

 煌々と輝く黄金の満月は、まるで彼女の再誕を讃えるかのように、その月光を降り注がせる──。




【ライダー】
真名:イヴァン雷帝
初代かつ原初の皇帝ツァーリにして、雷帝と畏れられた男。
アレイスター・クロウリーのサーヴァントとして召喚され、様々な曲面で健斗達と戦った。
代行者アナスタシアを見逃すなどの命令違反こそ行ったものの、「雷帝」たる彼にしては、あり得ぬほど従順にクロウリーの命令を聞き、遂行してみせた。彼が非凡であるからこそ、非凡の極みたるクロウリーには興味深く思うところがあり、結果的に相性は良かったと言える。もっとも、ライダー自身がマスターとの交流を深める中で彼女の信念を認めたという点はもっとも大きく、彼が最後まで彼女のサーヴァントとして戦う気になった最大の理由はそこにある。
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