Fate/crescent 蒼月の少女【完結】   作:モモ太郎

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あとがき+各キャラクター設定集

【あとがき】

ここまでのご愛読ありがとうございました。

思い返すと色々至らぬ面もあり、どうすれば面白くなるかなあという試行錯誤と足踏みの繰り返しでしたが、どうにかこうにか完結させることができました。長編の二次創作小説は初めての挑戦でしたが、ひとつの作品を完結させることができた、という嬉しさと喜びは得難いものだなあとしみじみ感じております。こうして更新を続けられたのも、読者様の評価や励みになる感想あってのことです。それら一つ一つに心からお礼を申し上げます。本当に支えになりました。

ここでは本編で採用されなかった設定や、登場人物の一人一人を描写する上で気を付けたことなどを、2年前から残存しているメモを元にまとめてあります。あくまであとがきのおまけ、私の自己満足に近いものですので、気楽に流し読んでいただくだけでも結構です。

 

改めて、ご愛読ありがとうございました。

 

 

 

【登場人物ごとの諸設定】

 

・セイバー

 

 このお話のメインヒロイン。真名は「羅刹の王ラーヴァナ 」であり、「月の刃を操る、童顔の小さめな女の子」というイメージは構想段階からほぼ不変でした。イメージカラーは分かりやすさから「蒼」になりました。セイバーは最初に考えつき、ほとんど何も設定を弄らずとも動いてくれたキャラクターですので、書いていて一番楽しく、スムーズに動かすことができる人物でした。これは対となる主人公である健斗にも言えます。

 このお話は、根幹に「迷いながらも、自分の道を自分で定める」ことをテーマとして設定…しようとしていたフシがあるので、登場人物はだいたい自分の信念、生きる目標、正義といったものを見失っています。セイバーは信念が定まっていない人その①。彼女は幼い頃に「魔王」という存在に成り果て、以後は感情を封殺して殺戮兵器として生きてきた過去を持つため、そもそも「自分の道を定める」以前の時間に精神は置き去りにされています。そのため、健斗と絡む中で子どもっぽい面を目立たせたり、他の英霊に比べてもメンタル的な弱さ、未熟さが際立つように描写しようと努力しました。ただちょっと過剰だった気もするなあと反省しています。また、数千年をかけた恋(自覚はない)ゆえにセイバーから健斗への好意は物凄いものがあります。唯一のヒロインながら最初から好感度がメーターを振り切っているという…。それを踏まえて、ケントにだけは雰囲気が変わったり、話し方ががらりと変わったりと、初期からセイバーからの好意を多めに描写しました。ただし時間をかけすぎたせいで彼への好意は変にねじくれている、という設定もあったので、自分は決して健斗の隣にいるべきではない、という自戒を前提とした控えめなアクションが多いです。が、終盤になるにつれて想いの方が強くなってしまい、同時に健斗の言葉で素直さを取り戻していくため、そこの細かな描写が物凄くハードだった印象があります。

 セイバーと健斗を中心として展開する設定とお話については、こちらもほぼ構想段階と変わりませんでした。数千年前における健斗(前世)が、ただ一人だけ、セイバーに「お前は魔王ではない」と告げる。その後再開した健斗(現代)とセイバーが一蓮托生の契約を結んで聖杯戦争が始まり、その後色々なあれこれを乗り越えるも、セイバーが最後にして最強の敵として立ち塞がる。最終的に、主人公である健斗は今一度「魔王ではない」と彼女を救い出す「勇者」、ヒロインであるセイバーは救われるべき「姫」のポジションに据え、セイバーが救われる形で幕を閉じる……というのが概要です。特に、かつて勇者ラーマに滅ぼされる「魔王」であった彼女が、羨望の対象であった勇者に対する「姫」の役回りを(意図せずとも)演じるという展開はずっと書きたいと思っていたシーンなので、ある程度綺麗にまとめられることができて安心しています。また、最後の展開は「長い階段(森林公園/塔)を上る→健斗が死ぬ→はじまりの公園で二人が再開する」という、冒頭の流れを繰り返す形になっています。

 最終話ののち、セイバーは迷うこともなく、何かに囚われることもなく、あたりまえの人(力はもう失っているものの一応羅刹族、非人間ではあります。ほとんど人間とは変わりはありませんが)として生きていきます。当然ながら、この奇跡はこの時間軸に限定されるものであり、「英霊の座」に刻まれたセイバーが魔王でなくなる、なんてことはありません。ただし、この記録を得たことによって大きく成長したセイバーは、もう自分の力に呑まれることもなく、何を信じるかも自分で決めることができる一人前のサーヴァントに変貌します。

 

 

・志原健斗 

 

 このお話の主人公。ヒロインとなるセイバーが非常識と非日常の塊のようなキャラクターなので、それとうまく対比構造が作れるように、それと後半における非常識・異質な存在へ変化していく過程が引き立つように、なるべく平凡でどこにでもいるような存在として書き始めました。名前は「シロウ」と同じように、三文字のカタカナ呼びで親しみやすさが感じられる名前がいい、という観点から色々な候補が上がり、その中から「ケント」に決まりました。構想段階では「健斗」ではなく「絢斗」。

 言動も普通、倫理観も普通、体力も普通(展開の関係で魔術回路の質はかなり高いですが)と、基本的には「ただの一般人」な健斗ですが、他人と比べて一つだけ異常に飛び抜けている点があります。それが、だいたい道に迷っているこのお話の登場人物達の中で、彼は「セイバーが魔王ではない、ただの優しい女の子であることを証明する」という自分なりの信念を最初から最後まで貫いていることです。倫太郎や楓どころか、セイバーやアサシンといった英霊達まで迷いに迷っているこのお話の中で、健斗ははっきりとした意思と強固な信念を持っています。その芯の通った揺るがなさが彼の最大の特色だと思っていたので、たとえ悪夢の中で何回殺されようが実際に殺されようが、決してそこだけはブレさせまいと思っていました。これは、自分の生き方に迷うセイバーとの対比を際立たせたかったという理由が根底にありますが、後々考えてみるとどうしても無個性気味な健斗のいい特徴になってくれたので、これで良かったなあと思います。

 また、健斗は生かすか殺すかで迷ったキャラの一人です。聖杯もろとも消滅する、という結末は中盤あたりから考えていましたが、その後の健斗の扱いについては終盤まで未定だったために苦労しました。最終的に、セイバーが奇跡を乗り越えて健斗と再開したというのに、再び彼を殺めてしまって終わりでは過去の焼き直しをした意味がない、という結論に至り、同時に健斗が生きていない限り決してセイバーは救われないなとも思ったため、健斗はセイバーの元に戻ってくることになりました。

 ちなみに、健斗はセイバーのことを「理屈は抜きに信頼できる、安心できる」と直感的に悟っており、その相性の良さはこの聖杯戦争における主従関係の中でもダントツのトップを誇ります(主従といえるような厳格な関係かは相当怪しいですが)。

 

・繭村倫太郎

 

 倫太郎は、このお話における「もう一人の主人公」として誕生しました。魔術に関して無知である主人公の健斗のみでは、聖杯戦争の状況や、魔術絡みのあれこれなどを描写できないため、そういった面から物語を組み立てるために生まれたのが倫太郎です。SNにおける凛に近い立ち位置なので、この土地の管理者であり、優等生でありと、似せた要素をいくつか配置しておきました。逆に士郎に似た要素として、剣を使う、魔術使い、精神に歪さを抱えている、といった点があります。実は髪も赤銅色。

 倫太郎は信念が定まっていない人その②です。序盤の倫太郎は自分の生きる意味を見出せず、繭村家のために自分の意思すらも犠牲にしている、いわば出力(命令)で動くだけの機械として生きています。また、魔術そのものが苦手という弱点もあって、繭村家のために完璧に行動する「完全なロボット」になるために、倫太郎は魔術への苦手意識克服(=聖杯に託す願いは「勇気」)を目指します。アサシンはそれが僅かに残った「自分らしさ」すらも消し去ろうとしている自滅願望であると見抜きながらも、彼を導くために契約を結ぶ…という流れで彼らの戦いは始まりました。

 倫太郎のこうした歪な精神構造を書くのは本当に本当に難易度が高く、正直なところ最も手を焼かされました。なんとか形にはしたものの、あまり上手く描けなかったなと後悔するばかりです。健斗と違って、事前に設定を固め切れていなかったのも原因ですね…。ただ、信念を定めて吹っ切れた後の倫太郎に関しては、健斗と同じくすらすらと書いていくことができたように思います。せっかく成長した士郎が登場するので、彼には「剣」を使う先達の魔術師として少しばかり世話を焼いてもらいました。「体を剣と変えるには、君はあまりに優しすぎる」という士郎の言葉は、似た記号を持つ士郎と倫太郎の差異を象徴する台詞だと思っています。

 倫太郎が口にする「剣鬼抜刀(けんきばっとう)!」なる詠唱は、士郎における「投影開始(トレース・オン)」のような、お決まりの詠唱が欲しいというところから考えつきました。とはいえ英語の詠唱はとことん和風な倫太郎に似合わないと感じたため、あくまで日本語の剣鬼抜刀という形で落ち着きました。FGOにおける宮本武蔵の宝具口上 も参考にしています。

 

・アサシン

 

 倫太郎サイドのヒロイン(一人目)にして、実は信念が定まっていない人その③です。早い段階で敵側にバーサーカー(ヘラクレス)が立ち塞がることは決まっていたので、「十二の試練」vs「直視の魔眼」という夢の対決が見たいなあ、というかなり安直な理由で魔眼の保有が決まったような記憶があります。あとはそこから広げていき、両眼を覆い隠す包帯をぐるぐる巻いた痩せぎすの少女、という形で完成しました。

 最初、弱気な倫太郎を引っ張っていく役として、モードレッドのように男勝りな口調でキャラを作っていました。ただ、そうすると楓と役割が被ってしまうため、同じ目線で一緒にもがき、背中を押してくれる楓に対して、一歩先のところから常に見守り、その手を引っ張ってくれるようなキャラとして振る舞うことになりました。アサシンの言葉は倫太郎の本質や核心を突きつつも、彼(あと楓)に成長を促すような言葉が多く、人生の先達者としていくつもの助言をしてくれます。

 しかし、人を殺すことに対して何も感じない、という暗殺者らしい特徴を有してはいるものの、根っこのところで正義を信じており、自分の行いに矛盾と疑問を抱えながら生きているという点で、彼女も迷っている一人です。信念が定まっていないというよりも、その信念の正しさを信じられていない、といった感じ。物語の終盤、今まで導いてきた倫太郎に逆に教えられる事で、彼女もまた成長する…という展開は自然と湧いてきたもので、倫太郎との別れ、そしてライダー戦〜消滅までの展開は、本編中でもかなり気に入っている箇所の一つです。

 ちなみに、最初はヒロインとして描写するつもりはなく、あくまで楓と倫太郎の関係を見守る従者として描くつもりでした。それがいつの間にか倫太郎の唇を奪うまでに至ったのは、書いた自分でも驚いています。実は楓よりも遥かにボディタッチが多い…!ちなみにハサンの一人ではありますが、例の髑髏のお面はつけていません。

 宝具「妄想死滅」の能力は、「生きているものならば〜」と言われる「直視の魔眼」の力をどこまでも拡大させていけばどうなるのだろう?という考えから捻り出した宝具です。この惑星すらも殺せるのかどうか、という問いに対して本人は「それが生きているのなら」と答えていますが、これは理論上可能であるというだけで、仮に星を殺そうとした場合、殺し切るよりも早く彼女の脳が機能を停止してしまいます。そこまでの力を持ってしまうと、それは英霊の一宝具に留まる次元の力ではないように感じるので…。

 

・志原楓

 

 倫太郎サイドのヒロイン(二人目)、かつ信念が定まってない人その④。「主人公の義妹で魔術師」という設定は最初から決まっていましたが、倫太郎の設定がなかった頃は健斗に対する二人目のヒロインにする案もありました。結果的に倫太郎と因縁のあるヒロインとして完成し、そこから倫太郎同様士郎と凛の要素を組み込んでいった感じです。具体的には「強化魔術しか使えない」「落ちこぼれ」であるところは士郎、髪型や口調はやや凛に寄せてみました。初期の倫太郎に対するやさぐれっぷりは、ボツになった健斗の不良設定をやや受け継いでいるような気もします。もうちょっと優しめに書いてあげてもよかったかもしれません。「忍者の末裔」という設定がありますが、これは「侍」とか「武士」のようなイメージを持つ倫太郎と真逆になるように調節した結果です。

 魔術に関しては、宝石を使い捨てられるような家柄でもなかったため、「強化」一本でひたすら頑張る魔術師という形になりました。魔術をなんでも使える倫太郎との対比を描く意味もあります。

 彼女の内面は倫太郎ほど歪に形成されてはいませんが、置かれた境遇と思春期の不安定さもあって、崩れてしまいそうな脆さを有しています。倫太郎と楓の過去に関する構想は最初から決まっていて、すれ違いから二人の距離は大きく断絶してしまう、というものでした。ただ、学校での戦いやマリウスとの戦いについては詳しく決まっておらず、プロットから発展させる形でなんとか決まっていきました。

 彼女の武器であるキャスターの籠手は、徒手魔術だけではインパクトに欠けるな、と思ったところから生まれたものです。最終話のあと、吹っ切れた楓が魔術師をやめることは一つの終わり方として決まっていたため、引退の理由を作りやすくするために負荷を無視した五段階の出力調整機能が付けられました。

 キャスターとの関係性は一貫していて、「伝説の陰陽師」であるキャスターに憧れた楓と、自分にはない心の輝きを持つ楓に憧れるキャスターという、実は互いに互いをリスペクトしている関係性です。名前を最後に告げて締める、という契約の夜の描写は、凛とアーチャーのやり取りをオマージュさせて頂きました。逆に、決戦の前に他人から魔力を借り受ける、という展開はUBW√の士郎をオマージュしています。

 

・キャスター

 

 楓のサーヴァント。彼はその特殊な内面ゆえ、生き方に迷ったりといったことはありません。そのぶん倫太郎よりも遥かに内面が普通の人間とは異なる、非人間のサーヴァントです。最初から「心がない」という

設定はありましたが、もう少し序盤からそうした描写を挟んでおいても良かったかな、と思います。セイバーがキャスターを苦手としていたり、信用できないと言っていたのはこれが理由です。

 あの安倍晴明ということで、最高位のキャスターの証である「千里眼」を持っています。が、「過去を見通せる」という千里眼は私が書き切るにはあまりに反則で強力過ぎたため、作中で最も扱いに困ってしまいました。なにも考えずに強い能力を与えてしまうとかえってその設定に振り回されてしまう典型ですね…。その他、英霊に匹敵する強さを持つ神将を何体も使役したり、式神を操ったり、莫大な数の陰陽術を操ったり、道具を作って補助をしたり、回復役もこなせたりと、総合力であればほとんどの英霊を上回ることができるのがキャスターです。最初から楓の魔力量が低いために全力を出せない、ということは決まっていたので、そこから本来はものすごく強い、さらに少ない魔力量でも器用に立ち回れる、という設定になりました。セイバーを救うための手段を供給してくれたりと、逆に物語を作るうえで彼の万能さに助けられたところも多いです。

 

・アナスタシア

 

 アーチャーのマスターであり、信念が定まってない人その⑤です。マスターの中に一人くらいは代行者がいてほしいというところから始まり、金髪の異国人、高校生〜大学生の中間くらいの女の子という形で収りました。少女と呼べるギリギリくらいの容姿をイメージしていたので、地の文で少女と呼んでいいのか否か、自分で決めたことながら本編を通じてずっと迷っていた記憶があります。性格は「真面目」とプロットの頃から書いてあったため、最初は冷徹・機械的な「真面目」→柔らかさと明るさが共存する「真面目」という風な変遷を描こうと決めました。

 彼女の最も特徴的な面としては「聖典」との融合体であることですが、これは物語の終盤に「この世全ての悪」を今度こそ地表から消し去る必要があり、そのために必要なものを考える中で「悪と罪を赦す聖典」、忌み数であるNo13の構想が決まりました。人が等しく背負う原罪を赦す、という行為は、アンリマユの存在の成り立ちそのものを否定するものであり、この世界で唯一アンリマユに対する特攻作用を持つ概念武装になり得る……という内容ですが、聖典まわりの設定は難解で未だにこれで良いのか自信がなかったりします。

 実は最も生死に関して迷ったキャラクターであり、最後の最後まで決めぐあねたものの、結果的には生死不明という形で締めくくることになりました。

 

・アーチャー

 

 アナスタシアのサーヴァント。健斗や楓と異なり、マスターの戦闘力が純粋に高いため、バランスを取る意味でもある程度強さは抑え、かつ前衛(前に出る)タイプのアナスタシアに対する後衛ポジションに収まる英霊にしよう、ということで狙撃手シモ・ヘイヘに決まりました。

 アナスタシアの心を溶かす役割は槙野が担当するため、彼はその変化を見守りつつ、時折アドバイスをしたりからかったりする良き戦友という役回りになっています。アナスタシアとの真面目←→不真面目な凸凹関係も描きたかったのですが、根が軍人なのであまり不真面目感は出せませんでした。本編を通じて、予想よりアナスタシアに振り回されていたなあという印象もあります。

 戦闘能力のほぼ全てを狙撃能力に割いている、ひたすら尖った能力値をしているタイプ。その分遠距離で相手をした時の強さは破格で、格上の存在であるセイバーを一撃で沈めたりと、当初の「弱め」という方針の割に強力な英霊になっていました。近距離に近づかれるとほぼ「詰み」ですが、その分遠距離戦においては無敵に近いため、安全地帯から一人一人と処理していけばあっさり優勝できてしまいそうなサーヴァントでもあります。その分、前に出てある程度戦えるアナスタシアとの相性は(性格的な差異を除けば)抜群です。

 

・マリウス・ディミトリアス&フィム

 

 バーサーカーのマスター組。楓の悲惨な境遇を目立たせるためにも、一人は「英国の典型的な魔術師タイプ」が欲しいというところから、健斗を簡単に殺害できるバーサーカーのマスターに決まりました。

 構想時点ではフィムの存在はなく、マリウスはあくまで途中退場するバーサーカーのマスターという設定しかありませんでした。ただ、それだけでは味気ない敵役で終わってしまうなあということで、逆にこのお話のおけるテーマ(信念に生きる)を示す役割を任せることになりました。結果的には求められていた敵役としてだけでなく、倫太郎に道を示すきっかけになってくれたりと、構想以上に色々なことをしてくれたキャラになってくれました。

 バーサーカーといえば傍に少女がいてほしいということで、マリウスに同行するキャラクターになったのがフィムです。バーサーカーの魔力消費問題を解決する役割と、マリウスの人柄を掘り下げる役割を担ってくれています。聖杯戦争という過酷な戦いを通じて成長していく健斗やセイバー、楓や倫太郎、アナスタシアといった登場人物の中で、彼女の物語は「マリウスとの出会い〜マリウスとの死別」で全て完結しています。聖杯戦争と距離を置いたところで展開〜完結する話が一つくらいはあると新鮮かな、という思いから、マリウスとフィムのお話は今の形になりました。生きていく道を決める最中で迷う作中の登場人物たちに対して、フィムはなんとかその道のスタートラインに立つまで、というイメージで描写しています。

 

・バーサーカー

 

 バーサーカー、アキレウスの役割は最初からずっと決まっていて、中盤で立ち塞がる巨大な壁(中ボス)の立ち位置です。この聖杯戦争におけるマスターの存在を無視した単独戦力としては文句なしのNo1であり、セイバーをも僅差で上回ります(本当に僅差ゆえ、令呪ひとつの切り方で勝敗が変わってしまいますが)。

 言うまでもなくこれはFate/Stay nightにおけるバーサーカーをイメージしており、「強い部類に入るセイバーを圧倒できるほどにひたすら強い英霊」ということで、狂戦士適正も持つアキレウスに決定しました。健斗とセイバー、両者ともに一度敗北を喫した因縁の相手であり、そういう意味でも彼らの成長を描く良き敵役になってくれたなあと思います。セイバーとの決着戦は個人的にかなり気に入っている戦闘の一つです。

 

・アレイスター・クロウリー

 

 この作品における黒幕。最後の敵。「聖杯戦争を模倣してしまう、規格外の魔術師」という設定から発展していき、色々な肉付けがされていったように思います。実は彼女の名前が決定したのは設定段階の終盤で、これだけの魔術師なのだから歴史上の人物と紐付けたいという考えから、かのアレイスター・クロウリーの正体、という設定になりました。

 全てを裏から操る黒幕、絶対強者にあたる彼女の設定には、Fate/SNにおいて最強の敵として君臨するギルガメッシュをイメージしたところが多いです。複製の魔眼を元にさまざまなコピー魔術を乱射するという戦法は「王の財宝」から考えついたものですし、「(わたし)」という特殊な一人称もギルガメッシュの「(オレ)」をイメージしています。他には髪色、自信満々かつ不遜な態度なども。それゆえ、物語の終盤における倫太郎との会話もUBWにおける士郎とギルガメッシュの会話をやや踏襲しています。倫太郎のみが彼女の弱点を突くことができる、というところも同様にオマージュしてあります。唯一にして最大の差異は、彼女が「本物」ではなく「贋作者」であることでしょうか。立ち位置まで士郎とギルと同じでは面白くないため、そこだけは逆転させて描きたい、という思いが執筆前からあったため、ちっぽけな「本物」と最強の「贋作」の戦いを描き切れて良かったと思います。

 死を偽って手にした放浪生活の中で心が荒み切り、魔王を再誕させるという手段に走った彼女ですが、根の部分は人類の幸福を願う優しい魔術使い(=誰かのために魔術を使う魔術師)です。また、しっかりアレイスター・クロウリーでもあるので、史実に残る面白エピソードを実行したくらいには奇抜で面白い女性でもあります。といった設定はあるのですが、最大の敵という立場上、そういったユニークな面をほとんど書く余裕が無かったのが残念ですね…。

 

・ライダー

 

 アレイスター・クロウリーが使役するサーヴァント。彼女が単体で反則級に強いため、そこまで強いサーヴァントを設定する予定はありませんでしたが、結果的にだいぶ強い英霊になっていました。

 クロウリーと同じく敵役であることから、ある程度それっぽい英霊で、ということから冷酷・非道なイメージの強いイヴァン4世に決定した記憶があります。皇帝かつ雷という分かりやすいイメージがあったため、性格や能力に関してはほぼ迷わずに決めることができました。

 作品の更新中にFGOで実装されてしまったサーヴァントでもあります。当時は設定の粗さなんかが浮き彫りになってしまうのでは…と戦々恐々でした。

 揺るがぬ敵のポジションは守りつつも、妻の名前を持つ少女、アナスタシアとの関係性を描きたいという思いがあり、物語が収束し始める中盤からは彼女との絡みが増えていきます。が、敵でありながら敵にしたくない、好意とも嫌悪ともつかないライダーの特殊な感情を描写するのは思ったよりも難しく、彼らのシーンを描くのは難易度がとても高かったです。結果的には悪態はつきつつも彼女を助けてしまう、好きな子に対して素直になれない小学生男子のようなムーブを貫くことになりましたが、これはこれで悪くないかなあとそこそこ気に入っています。

 本編を通じてヴィラン的な振る舞いが似合っていますが、根の部分は人民を守護し信仰に生きる皇帝、ということは忘れずに描写しようと心がけました。アサシンに対する称賛であったり、マスターであるクロウリーやアナスタシアに対する真摯な想いなどでそれを描けていればと思います。振る舞いと根の部分に大きなギャップがあるあたり、マスターと似たもの同士なところがあるので、結果的に彼女のサーヴァントに彼を選んで良かったなあと感じます。

 

・ランサー&士郎&凛

 

 唯一誰が何を召喚するか決まらず、オリジナルのキャラクター二人(マスターと英霊)を一から考えるのにも限界があったため、原作からお借りしてしまった例外的なポジジョンの三人です。

 原作であるFate/SNが好きだからこそ、その登場人物を自分勝手に作るこの小説に登場させるのはプレッシャー的な面で抵抗があったのですが、上記の流れで登場することになりました。彼らのドラマや成長、魅せ場はきっちり最後まで原作で描かれているため、この作品ではあくまで少しだけ登場する程度にしよう…と最初に決めたのですが、熟練した目線と観点から未熟な健斗たちをリードできるだけでなく、その知識から分析・解説も行える「大人」な士郎と凛の立ち位置がとても動かしやすく、結局この三人にかなり頼ることになってしまいました。恐れ多い…。


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