刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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更に数日後
所属刀剣は被りもある


君の手、僕の手4

 

 

 

レベル帯で何グループかに別れ、隊を組んで戦場を攻略していった。純粋に戦場のドロップと、政府から送られてきた引き継ぎ刀剣で本丸は随分賑やかになった。小鳥は自分が見分けられるからと、被りを気にしない。まあ、同じものがドロップした場合、刀剣たちが小鳥に渡さないので、同一の刀剣を顕現した事はないのだが。

その辺の関係で、本丸の刀剣に幾つかの派閥が出来てしまっている。小鳥は膝丸以外は同じ扱いだが。

「…で、そいつはだんまりと」

「刀掛に置いていこうとすると抗議されるが」

話題になっているのは二振り目の鶴丸国永(練度5、引き継ぎ)通称国永のことである。初対面で小鳥に本体を強引に握らせて顕現を解いてしまった。顕現しようとしても応えないので、とりあえず小鳥が腰に佩いて持ち歩いている。

「…俺には武道の心得はないんだがなあ」

などと見鬼の力を(無意識に)自己封印してしまっている小鳥はのんきに言っているが、霊的なものも当然のように見える膝丸たちは渋い顔をしている。国永が恍惚の表情で小鳥の腰に抱き付いているからである。

まあ、個刃差もあるが、主に振るわれたいと願うのは刀剣にとって自然なことである。国永はそういう感情が強い方なのだろう。

「…顕現を解けば主が佩いてくれるというなら、俺だってそうしたいぞ」

鶴丸がぼそりと呟く。目がマジだ。

「持ち歩くのはともかく、鈍器として振り回す事しか出来ないんだけど」

「鈍器結構、主の手で使われ、主の役に立てるのであればそれで本望だ」

「鈍器が必要になるような状況に遭遇したくないなあ」

「そもそも小鳥が危険に晒されるような状況は、望むところではないからな」

「主は戦場に直接出る事はないからな」

 

 

 

「主さんが持つなら、太刀より脇差の方が良いと思うんですが…取り回しとか重さとか。主さんの体格は短刀に近いわけですし」

「武道技能はないから、棒を鈍器として振り回す程度の使い方しか出来ないけどね。後、体格に関しては蛍丸も短刀なみだよ?」

堀川は苦笑する。

「彼は例外みたいなものですからね…でも、少なくともその太刀は早々に叩き起こすか刀解するか連結してしまうかした方が良いと思いますよ。あんまり主さんが特別扱いしてると、焼き餅妬く刀もいますからね」

「特別扱い…まあ、特別扱いといえば特別扱いか。別に良い扱いとも思えないんだが」

「主の佩刀が悪い扱いのわけないじゃないですか」

「余程の緊急事態ならともかく、飾りにしかならないけど。それに、顕現してない以上自分の意思で動けないだろう」

「・・・」

堀川は陶酔の表情で小鳥の腕に腕を絡ませている国永(霊体)を見る。

「…主さん、刀剣男士は顕現してなくても、本体の周囲にあるものは認識できるんですよ。周りの声とかもね」

「…ってことは、こいつ寝たふりみたいなものなんだ?」

「寝たふり…まあ、主さんから見ればそういう感じなんですね…」

「?」

堀川は僅かに視線を泳がせる。

「…まあ、国永もその内、ただの刀でいるより自分で動きたくなるだろ。鶴丸は退屈嫌いだし」

「…そうですかねぇ」

「これがどういうつもりなのかは知らないが、まあ抱っこセラピーみたいなもんだろ。…と思わないと正直俺も面倒くさい。長物を持ち歩く習慣はないし、時々意味もなく放り投げたくなる」

「投げていいと思いますけど」

真顔で言った堀川に小鳥は苦笑した。

「投げて傷が付いたら困るだろ。手入れしなきゃいけなくなるし。そうでなくともそういう衝動が来る時って一種の破壊衝動見たいなものだから」

池に投げ込むかもしれない。

「…いっそ、そうして手入れして上げた方が喜ぶかもしれませんよ」

「いくらこの本丸では手入れと刀装にしか資材を使わないとはいっても、無駄遣いはよくないんじゃないかなぁ」

マッチポンプって無駄遣いっぽい。

 

 

 

鶯丸は国永(霊体)を見てムッとして、顕現を解いてしまった。音を立てて鶯丸の本体である太刀が床に落ちる。

「え、え、え…?」

小鳥は戸惑いながら太刀を拾い上げる。呼びかけてもうんともすんとも言わない。助けを求めるように堀川を見る。堀川は苦笑した。

「…焼き餅ですね」

「…鶯丸俺の事そんなに好きじゃないよね?それでも妬くもんなの?」

「いえ…鶯丸さんも主さんのことは…嫌いじゃないですよ?」

鶯丸(霊体)はぎゅう、と小鳥に抱き付きながら国永の頬を抓っている。このまま放っておけばキャットファイトに発展するだろう。

「んー…とりあえず鶯丸もこっちに佩いておくか」

と言って小鳥は鶯丸の本体を国永とは反対側の腰に佩いた。鶯丸が誉桜を零すが小鳥は気付かない。

「…なんだかんだいって、教えられなくても相手にとって適切な対応ができるのが主さんのすごいところなんですよね…」

「何か言った?」

「いえ、何でもないです」

苦笑して、堀川は言う。

「そろそろ八つ時ですね。光忠さんが何か用意して下さってると思いますし、厨に行ってみましょう」

 

 

 

「主、あんまりおじいちゃんたちを甘やかしたらダメだよ、付け上がるから」

「主ちゃん、嫌な事はちゃんと嫌だって言わないとダメだよ?」

同一でありながら刀剣たちにも判るほどの差異のある太刀が二振り、厨にやってきた小鳥に話しかける。

「甘やかしてることになるのか?…まあ、邪魔になったら刀掛台に放置するから。…というか、光忠、それ俺がお前に言ったことだろ」

燭台切光忠は、一日違いでこの本丸にやってきた。といっても、光忠は他の本丸で過ごした時間が年単位であるそうだが。明確な差異があるのは、勿論光忠の方である。光忠は顔半分に酷いケロイド状になった呪傷がある。手入れで治らないそれを、光忠は前髪で隠すようにしている。小鳥の浄化で少しずつ薄くなってはいるらしいが。

「そう言ってくれた主ちゃんがそうしていないのなら、問題だろう?」

「んー、持ち歩く習慣がないから慣れないってくらいだしなあ」

「ところで、今日は燭台切さんも厨にいたんですね」

「偶にはね。僕も主に手料理を食べてもらいたくってさ」

「それで僕は歌仙君に言われて見張っていたんだよね」

光忠が苦笑する。燭台切は意味もなくフランベしたり、裏山で狩猟した獲物(ジビエ)を持ちこんだり、などといった前科がある。故に、厨組メンバーとしてはカウントされていないのである。

「何作ってたの?」

「サン・セバスチャンだよ。詳しくは実物を見てのお楽しみ、ってやつだね」

「飲み物はカフェオレでいいかな。甘いケーキだから飲み物は甘過ぎない方が良いと思うんだけど」

「んー、どんなケーキかわからないし、任せるよ」

 

 

切り分けられたケーキの断面は(バター)(チョコ)の市松模様が綺麗に浮かんでいる。燭台切はそれに泡立てた生クリームをとろりとかけた。

「かっこよくできたかな?」

「うん、綺麗なケーキだね」

「手間のかかりそうなケーキですね」

「彼、ちゃんと測らないで目分量で切ろうとしたりしたからね…」

光忠が苦笑する。

「外つ国の石畳をイメージして考え出されたケーキだそうだよ」

「燭台切が雪を積もらせちゃったけどねえ」

そう言いながら、小鳥はケーキを一口頬張って顔を綻ばせた。

「ところで主」

「?」

「僕、燭台切じゃなくて光忠がいいんだ」

もぐもぐごくんと口の中を空にしてから小鳥は言う。

「燭台切を光忠と呼ぶなら光忠は何と呼べばいいんだ?みっちゃんか?」

「え、それなら僕がみっちゃんがいい」

「じゃあそれで」

「え、そんな簡単に変えちゃっていいんですか?」

「呼び名なんてラベル付けみたいなもんだから、判別がついて本人が嫌がらなければ何でもいい。呼びやすさとか、親密さが籠ってそうな響きとかあるかもしれないが、俺としてはそう差を付けているつもりはない」

小鳥は少し眠そうにしている。

「主ちゃん眠いの?お布団出そうか?」

「…いや、いい。そういう気分じゃない」

「「――主、主命をください!」」

「しゅめいをください!」

「主、俺の方が役に立てます!」

「・・・」

五振りのへし切長谷部が姿を現す。

「主の第一の長谷部である俺が、一番ですよね?」

「練度は俺が一番高い」

「おれだって、まけません」

「主の手で顕現された俺が信頼を得ているに決まっているだろう」

「・・・」

小鳥はマイペースにケーキを平らげ、みっちゃんに礼を言った後、長谷部たちに向き直る。

「長谷部と国重は軽騎兵と軽歩兵の特上を五つずつ以上補充しておいてくれるか。はせべは堀川達と厨組の手伝いに入ってくれ。へっしーとハセオは今から道場へ行くから同行頼む」

「「主命とあらば」」

「しゅめいとあらば!」

「しゅめ…え?」

「…俺もですか?」

「剣舞の相手をしてくれ」

「…わかりました」

「主命とあらば!」

「え、主、剣舞するの?僕も見たい」

「君は使った道具の片付けがあるだろう」

 

 

 

道場では同田貫と鳴狐が手合わせをしている。それを鯰尾と骨喰が見学していた。

「あ、主さんとハセオさんと……えっと、どうしたんです?」

「少し体を動かしに来た」

小鳥は鞘ごと国永を抜く。身体能力を上昇させる補助呪術が起動している事を示す光翼が浮かび上がる。

「木刀でも鞘払いしない本体でも適切だと思う方を使ってくれ」

刀剣たちには、国永が小鳥の腕に手を添えているように見える。

「…主、行うのは剣舞なんですよね?」

「そのつもりだが」

「っていうか、主さん鶴丸さん振るうんですか?ずるい!」

「鶴丸ではなく国永だ。…否、僕は武道の心得はないが、刀から技術を読み取って身体制御の方に回したら真似事くらいならできるかなって。まあ、実験?国永はレベル低い分引き出せる情報少なそうだし、負担も大きくなり過ぎないかなって」

「主さんが碌でもない事思い付いたのはわかりました」

「高レベルのやつ真似しようとしても、基礎能力の問題で俺が持たなさそうだしな」

小鳥は口元に小さく笑みを浮かべる。

「"さあ、驚いてもらおうか!"」

「…お相手いたしましょう」

ハセオが鞘払いしない本体を構える。補助呪術のおかげか、小鳥は刀を片手で構えている。

「…あれ、ハセオさんですよね?大丈夫かな」

「…葛藤があるらしいとはいえ、アイツも主に怪我をさせたりはしないだろう」

 

 

 

"剣舞"は、国永の彼女に振るわれたい、という欲求を満たす為のものである。ハセオを相手に暫く打ち合って、少しは満足したのか、誉桜を撒き散らしつつも国永(霊体)は引っ込んだ。代わりに鶯丸が不機嫌になったが。直接的に判らなくとも、何となくそれを感じ取ってか、小鳥は国永を戻した後鶯丸を手にした。

「へっしー相手頼む。…鯰尾とかでもいいけど」

「俺が相手になろう」

骨喰が木刀を手にして歩み出る。その視線は嬉しそうに小鳥の手に己の手を重ねている鶯丸(霊体)に注がれている。

「じゃあ骨喰頼む」

主に刀を向けることへの逡巡で即座に返事できなかったへっしーが複雑そうな顔をした。

「"実力を見せてもらおうか"」

「骨喰藤四郎、参る」

 

 

 

レベル差の分か、国永の時より動きが良かった。とはいえ、本業が対応できない程でもない。ただ、彼らの知る鶯丸の動きそのもの、というわけでもないように思う。

「…うん、やっぱり俺の側の経験値が足りなさ過ぎて実戦は無理だな。緊急時のはったりくらいにはなるかもしれないが」

勿論、経験を積めばいずれは、という可能性はあるのだが。もっとも、膝丸たちが戦場に出すのを嫌がるが。

「主が戦う必要はない」

「あっは」

小鳥は苦笑の様な表情を浮かべる。

「いや、俺も積極的に戦場に出たいわけじゃないが、俺に振り回されたい(物理)のはそこそこいるようだから、最低限使えるようになった方がいいかなって」

「あ、俺も主さんに振るわれたいです!」

今すぐとは言わないけど、と鯰尾は付け加える。小鳥が疲れているであろうことが見てとれるからだ。道場の壁にもたれかかるようにして座り込んでいる。

「まあ、機会があれば」

 

 

 

「主、どうだ、じじいと共に茶でもせんか?」

「んー…折角だからもらう」

小鳥は促されるまま三日月の隣に座る。

「主は練りきりは好きか?ほれ、これは愛らしいものだろう」

「確かに可愛いな」

三日月が差し出したのは、ウサギとメジロを模した練りきりだった。国永と鶯丸がガタガタ言っている。

「ははは、やらんぞ」

「・・・」

「いや、刀に餡子を付けたら錆びてしまうだろう?」

「ん、ああ」

 

 

 

「…いつも通り、食欲旺盛なようで何よりだよ。夕餉の前に三日月殿に餌付けされていたみたいだけど」

歌仙の言葉に小鳥はきょとんとする。

「甘いものは別腹というだろう。そんなに不思議な事か?」

「いや、食事量そのものよりも、それだけ食べて全く体型が変わらない方が不思議かな。前の主は、本丸の食事は美味し過ぎて太る、とよく零していたのだけど」

「んー…食べた分消費してるってことじゃないかな。今日は昼から随分運動したし」

「…まあ、理論的にはそうなるのだろうけどね…」

「というか、俺一応腹八分目は守ってると思うんだが」

「…えっ?」

 

 

 

「小鳥の部屋に刀掛台は置いていない筈だろう。どうするつもりだ」

「んー…まあ、作るって手もあるけど…近侍室の方に置いとくかな。寝顔見守られる趣味はないし」

「…それがいい。顕現するだけの霊力はあるだろうしな」

顕現するつもりがあるかはともかく。国永はともかく、鶯丸は対抗心のようなものだろうから、小鳥が国永を佩くのをやめたらまた出てくるだろう。それまでに他のを佩くようになったらまたわからないが。

「…俺は、仲良くできなくても、まともに話せる方がいいなあ」

「…そいつらは(愛情表現が)捻くれているだけだろう。その二振りはともかく、君を嫌っていて人型を保っているようなのはいない」

「…いや、あたりが微妙な子たちにも、嫌われているとは思ってないけどね」

好かれているとも思わないのだが。

「…小鳥の負担になりそうな相手なら拒絶しても良いのだぞ」

「んー、別に、そんな嫌なこと要求されるわけでもないし、特に嫌だと思った事ないから。…それに、やっぱり俺、静かすぎるのは苦手だったみたい」

小鳥は肩をすくめる。膝丸は瞠目する。

「元々、大家族育ちで…っていっても、両手の指ではちょっと余ってしまう、という程度だったのだけど、同じ空間に他の人間が一人もいないという状況にあまり慣れていなくてね。人の気配を感じられないと落ち着かないんだ」

小鳥は苦笑の様な表情を浮かべる。

「膝丸が、よく傍にいてくれるひとで、んー…感謝してる?んだ。式神たちも何かしら気配の発生源にはなってくれるんだけど、俺が一番誰かの存在を認識できるのはやっぱり、"声"だから」

式神たちは、こんのすけ以外喋らない。意思の疎通そのものは可能だが。

「…その、なんだ。改めて感謝されるようなことでもない。俺の都合でしていたことでもある。…小鳥は、色々と危ういところがあるからな」

 

 

 

 

 

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