本丸では乗っ取り関係の攻防が繰り広げられている
レア難民本丸 ひたすら運がない ポケットのアレで三日月小狐はいる 確定ドロップ系はいる
「…早速帰りたい」
一応、セキュリティいじって留守中の指示も出してきたけれど、余所の本丸のこととかすごくどうでもいい。いや、拒否権ないから仕方ないんだけど。しかもお供無しだし。人見知りをなんだと思ってるんだ。
「もしや、あなたが新しい審神者様ですか?」
「あ、こんのすけだ。…いや、こんのすけって何処でもこんのすけって呼び名でいいのか?」
「ええ、私この本丸のこんのすけでございます」
「俺の事は…まあ、碧鳥と呼んでくれ」
ペンギン隊長じゃギャグになっちゃうしな。人鳥でもよかったけど。
「碧鳥様ですね、よろしくお願いします」
「ん、よろしく。…此処の本丸立て直せって言われてきたんだが、具体的にはどうなってて何をすればいいんだ?」
所謂難民ブラック過労本丸だったらしい。かろうじて態と折ったりはしていないそうだが。俺の役目はとりあえず今いる刀剣のケアらしい。
…いや、何で本当俺なんだ。ミスキャストだろう。俺そういうの専門外だぞ。
「…何か空気の悪い本丸だとは思ってたけども…」
いつもの戦令装がなかったらまずかったかもしれない。勘弁してくれ。
…っていうか、こんのすけもあんまり毛艶が良くないんだよなあ。うちのはすごいフカフカで狐組とかと張り合うくらいなのに。
「な、何でございましょう、碧鳥様」
「何かお前毛艶悪いな。ちゃんとケアとかしてないのか?」
んー…怪我とかはしてない、かな?疲労心労の類かな。
「え、あ、あの、碧鳥様?」
「…応急処置みたいなもんだが、これで少しは良くなったか?」
式神の類は霊力の巡りに体調が影響されるらしい。
「え、あ、はい…い、いえ、私より刀剣男士にこの霊力をお使いください」
「大丈夫大丈夫。…まあ、一度に六振り以上手入れしたことはないが、それで体調崩したりしたことないし、政府曰く俺は霊力量はぶっちぎり特A級らしいから」
とにかく霊力流せば大概の術は力技で発動できるレベルだとかなんとか。失礼な評価だ。ちゃんと理論説明してもらえれば理解するっての。…まあ、霊力量コントロールは苦手なんだが。強化呪術使う時とか燐光出ちゃうし(余剰霊力が放出されて光ったりする現象、未熟の証みたいなもんらしい)繊細なコントロールの必要な術とか使いたくない。
「ですが…」
「どうせ一日で解決するような話でもないんだろう。霊力なんて規則正しい生活してれば十分生成されるもんなんだから気にするな」
…といっても、実の所俺は自分に本当にそんな霊力があるのかよくわからないのだが。まあ、こうして審神者やれてるし、呪術も使えるのだからあるのだろうけども。
「…はあ」
「大体、手入れは一度に四つまでしかできないし、短縮には手伝い札がいるし、そもそも資材がないと手入れできないし」
…そういや、何振り手入れが必要な状態なんだ?
三十弱の刀剣から何とも言えない視線を向けられ、俺はとても帰りたくなった。まあ、此処で帰るわけにもいかないのだけど。っていうか、空気が、すごく、重い!
「…まずは体調を整えよう。時間がかかるやつからちゃっちゃと札使って手入れする。俺が直接やるのが不安だって言うなら式に任せるから、順番に手入れ部屋に入ってくれ」
問答無用で飛びかかってきたりしない分、気が立ってたりはしないみたいだが、単純に怪我と疲労だけ、ってこともなさそうだな。食事も用意した方がいい感じか?料理はあんまり得意じゃないんだが。んー…プリンでも作るか。そうと決まればちゃっちゃと動かないとな。数がいるから。
「碧鳥様、何処へゆかれるのですか?」
「疲れてる時は甘いものがいいんだぞ。食事や睡眠の不足と疲労、どれか二つ揃うと気分から病よりになっちまうとも言うしな。疲れてるから気分が落ち込むんだ。休ませるなら俺が動かないとな」
とりあえず材料発注して…器も一緒に頼んだ方がいいかな。調理器具は…なくても作ればいいだけか。手伝いの式は…三体もいれば十分かな。
「いえ、あの…」
余っても俺が食べる分になるだけだから多めに作るとして…とりあえず、四十個は作るだろ。それに、お菓子で腹を膨らませるのもアレだし、パンケーキを焼くか。とりあえず百枚くらい…トッピングは蜂蜜とジャムと餡子とチョコソースあたりでいいかな。いや、バター系もいるかな?
「碧鳥様~」
「…ん?どうかしたのか、こんのすけ」
「刀剣男士たち皆置いてけぼりになっております」
「別に動けるやつから動いてくれればいいんだが」
「神ならぬ身で救えるものがあるとすれば、救われたいと俺の手を取ってくれるものだけだからな。俺に出来るのは選択肢と俺の意思を示すことくらいだ」
風呂も用意しとくか。式を四体も向かわせておけばなんとかなるかな。
「碧鳥様…」
式の子たちもお菓子とか食べられるんだよな…いや、流石に後回しかな。こんのすけの分は考えてもいいかもしれないけど。…味見と頼んだら食べてくれるかな。
「♪~」
そういやこれだけ大量に、作り置きじゃなく何か作るってのも久しぶりだな。…いや、バレンタインぶりだからそこまででもない、か?まあいいか。
『チャオー』
「お、蒸し上がったみたいだな。次の奴に入れ替えてくれ」
俺はパンケーキを焼くのに忙しい。生地量産しても一度に焼くのは一つずつしかできないからなあ。焼き口の数もそうだが、二つも三つも見きれん。式にフライパン持たせるのは流石に不安だし。
「こんのすけ、それちょっと味見してみてくれないか?」
「へ?味見ですか?」
「俺は"美味しい"かどうかにちょっと疎くてな。…あ、スプーンとか持てないか?コウチャ、あーんしてやってくれるか?熱そうだったらふーふーもオプションで」
『チャオチャオ』
「え、いえ、結構です。私、それぐらいであれば自分でなんとかできますのでもがもが」
プリンはともかく、パンケーキは冷めないうちに食べさせたいな。一応、結界術の応用で保温とかやれない事もないけど、あっち系はあんま得意じゃないし。完全遮断とか酷い。
「…すごい状態だな」
「手際がいいってのもあるけど、呪術かな、皿とかが飛び交ってるのは」
ん?この声は歌仙兼定と燭台切光忠か。…ちゃんと手入れは受けてきたようだな、よしよし。
「冷めたら不味いってことはないとは思うが、出来れば温かい内に食べてくれ。トッピングはそこにセットになってるのを好きに使うといい。スタンダードなのは蜂蜜、バターあたりかな。通販で取り寄せたの、封切ってないから」
んー、生クリームとフルーツとかもあってよかったかもなあ。しかし流石にその辺は手を加えないと出せないからなあ。
『クックー』
おいこらウーロンお前何カトラリーで遊んでるんだ。
『チャオー』
ん、風呂の方の準備が出来たのか。御苦労御苦労。おやつをやろう。
「…食べろ、と言われてもね」
「別に毒とかは入ってないぜ。食べ物を玩具にしたら駄目だからな。ただ単に…んー…お腹すいてると悲しい気持ちになるだろ。少しでも腹を満たした方が気分が前向きになると思っただけだ」
「・・・」
「碧鳥様はけして妙なものは入れておられませんでした。見ていたこんのすけが保証いたします」
「…もしかして、全員分作ってるのかい」
「いらないと直接拒否されてない以上、全員分用意しない理由はない」
特に誰かを特別扱いする理由もない。全部等しく"余所の刀剣"だし。
「…いただきます」
…よく考えると、刀剣て割と大喰らいだったよな。一人二三枚じゃ足りないか?いやでも、全員が食べてくれるとも限らないしなあ。
「・・・」
「!どうした、燭台切、何か妙なものでも」
「え?妙なものなんて入ってない、とっても美味しいホットケーキだよ」
…パンケーキのつもりで作ってたんだが…まあ、厳密な違いとかないしな。まあいいか。
「…なら、何故泣いてるんだい」
「え?…あれ、本当だ。おかしいな、そんなつもりはなかったんだけど」
ん?何で泣いてるんだお前。別に泣くようなもんじゃないだろう。…だよな?
「…うん、でも、そうだね…歌仙君も食べてみたらわかると思うよ」
何が?
「…いただこうか」
何の話してるのか気になるが、手を離せる状態じゃないしなあ。
「…ああ、これは…とても"やさしい"味がするね」
お前は一体何を言っているんだ。
「大丈夫そうなら他の子たちにも食べさせてくれると助かるんだがな」
「そうだね。他の子たちにも食べさせてあげないとね…この大皿は広間の方に持って行っていいのかな」
「おー。…あ、リョクチャ、食器類とかの運搬してやってくれ」
『チャオ…!』
「あ、いや、お皿くらい自分たちで運べるよ」
「量があるんだから手は多い方がいいだろう。心配せずともそいつらは見た目よりタフだぞ」
短刀たちと同じでな。まあ、あえて能力に偏りを付けてあるんだが。
「…えっと、この子たちは君の式、でいいんだよね?」
「ああ。可愛いだろう」
「・・・」
何だその苦笑は。チャオ可愛いだろう。天使だろう。思わずなでなでしたくなるぷるつやボディまできっちり再現してるんだぞ。可愛いだろう。
「…まあ、面妖ではあるが、可愛げがなくもないな」
歌仙さんにももうちょっとオブラートに包んで同じ事言われたよ。何なの、歌仙兼定は僕と可愛いの趣味が合わないもんなの?…他は同意を得られることもあるのになあ。