刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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修羅場不可避


知らぬは一人ばかりなり3

 

 

 

 

「…こんのすけ、頼みがあるんだけど」

「何でしょうか、碧鳥様」

「…夜、一緒に寝てくれないか?俺、一人寝ができないんだ」

「えっ」

「…いや、同室か隣の部屋に人がいれば大丈夫なんだが、此処の刀剣に頼むわけにもいかないだろう?…あちらも嫌だろうし」

「こんのすけは構いませんが、ええと、それは…」

「小さい頃から寝室が家族と共同の雑魚寝でね。他者の気配がある方が落ち着くんだ」

「はあ…」

「大丈夫、いびきも寝相も悪くないはずだから。死んでるみたいに寝てた、って言われたこともあるし」

「ええまあ、添い寝となれば潰される心配をせざるをえないですが、私が言いたいのはそれではなくてですね…」

「?」

「碧鳥様は女性ですよね?」

「ああ、一応性別としてはそうだな」

「刀剣男士と添い寝や壁一枚は貞操の危機を心配してください」

「俺は別にそういう対象にはならないと思うんだが」

「何を根拠に言ってやがりますかあなたは」

「それに、打刀以上の刀とは添い寝しないよ、流石に」

…んー、いやでも、魘されてたりとかしたらするかもしれないな。俺が手を握ってるとかすれば安眠できるのであれば、だけど。

「脇差ならやるんですか」

「区別付けるならその辺かなって。未成年に見えるし」

ただし中身まで子供だとは言っていない。

「百歩譲って短刀なら良いとしても、脇差はアウトでしょう」

「そうか?」

ぶっちゃけ、アウト判定なの大体太刀だと思うんだよね。平安組とか。長物組は一周回って大丈夫感あるし。打刀はどちらかというと本刃に怒られるし。

「碧鳥様…」

 

 

 

「…?」

「…あんたは、珍しくもない刀の俺でも、大切にして、可愛がってくれる?」

「…そういうのは、契約を結ぶ相手に聞く事じゃないのか」

加州君のことも、勿論大切にしているつもりだが、今の所僕がこの加州清光をどうこうする予定はない。だって、俺の加州じゃないし。というか、わざわざ夜中に訪ねてきて聞く事か、それ…。

「じゃあ、あんたは契約を結んだら可愛がってくれるの?」

「俺は自分の刀は皆大事だよ」

あー…眠い。難しい話したくない。頭使いたくない。

「加州清光は良い刀だよ。沢山の審神者が知ってる」

「…あんたはどう思ってるの」

「頼りにならない刀剣はいない。それぞれ適材適所があるだけだ」

個々に対して思ってることは本刃以外に言う事でもないな。皆俺の大切な、頼りになる部下だ。…なんか歌仙さんたちが恋しくなってきた。帰ったら皆を抱きしめたりなでなでしたりしようそうしよう。離れた分甘やかさないとだしね。

「…俺も、最初からあんたの刀剣だったら良かったのに」

「…そうじゃないからこそ、そう思うんじゃないかな」

うちの子たちは自分が余所の子だったら、なんて考えた事もないと思う。考える意味もないだろうし。

「・・・」

 

 

 

「食糧庫に食品が溢れていたけれど、君の仕業かい?」

「食事作りそのものを式に任せるにしても、そもそも料理に使う食材がないことには始まらないからね。大体、三十人分以上毎食作ろうと思えばあれでも足りるか怪しい位だと思うんだが」

そもそも食糧庫が人数に合わせた拡張をしていない様子だったしな。後でちゃんといじっとかないと。他にも調整が必要なところとかあるかもしれないけど、まず浄化清掃が必要らしいからなあ。

「…僕たちも料理はできるけども」

「分担してやらないと負担が大きいだろう。絶対量も多いし」

二十人未満くらいならなんとかならんこともないかな、って気はするけど、三十超えるともうてんてこ舞いだよね。そもそも、おさんどんの為に喚んでるわけじゃないんだし。

 

 

 

「♪~」

 

…ん?

「どうした、何処か調子が悪いのか?」

「い、いや…そういうわけではないのだ…」

じゃあ何で蹲ってるんだお前。

「…その、何だ」

「うん」

「………君は歌が上手いな」

「あっは。ありがとう。つい、歌を聞いていると歌ってしまう癖があってね。いや、単純に好きなのもあるのだけど」

んー…さっき歌ってたのって何だっけ?覚えてないな。変なのは歌ってないとは思うが。シモいのとか。

「無断で聞いてしまっていてすまない」

「気にするな。聞かれたくないのならそもそも誰が来てもおかしくない所で歌う方が悪いのだし。…いや、全く恥ずかしくない訳じゃないが、謝られるようなことでもないさ」

というか、何で謝られてるんだ?

「…だが、あの恋唄は俺が聞くべきものではないだろう」

「?君が何を言いたいのかいまいちわからないんだが。恋愛じゃない歌を探す方が大変だぞ、J-popは」

「…いや、だが、あの歌を聞くべきは俺ではないだろう」

「んー…?別に誰に向けて歌っていたわけでもないんだからそんな事言われても困るんだが」

「・・・」

何故目を泳がせる。緑君此処までシャイじゃないしなあ。何なんだ。個体差か。

「…君には、ずっと共に過ごしたいと願う相手がいるのではないのか」

「んー……人としての短い生を共に過ごしたいと思う相手は、いないとは言わないけれど、俺に恋愛的な意味で好きな相手はいないよ」

僕がいつか死ぬまでのそう長くもない時間を、あの子たちと共に過ごせるのなら、それはそれで幸せなことだろう。傍から見てどうかはわからないが。

「では、君は…。…いや、立ち入ったことを聞いたな、すまない」

「いや。多少なりとこんのすけや政府から情報が入っているかもしれないが、君らにとって俺は得体のしれない人間なんだろう。見極めようと思っても何ら不思議はない」

まあ、俺もそう自分のことを話すつもりはないのだが。

 

 

 

「♪~」

「碧鳥さん、ちょっといい?」

「…ん?俺に何か用か」

「碧鳥さんは、短刀の事どう思ってる?」

「どう…とは?」

漠然とし過ぎて意図が読めない。

「僕たちを見て、どう思う?鍛刀でもドロップでも結構やってくるんだけど」

「…短刀は生存低いし刀装一つしか持てないから五面とかには出来れば向かわせたくないが、夜戦では頼りになるな。…鍛刀やドロップで同一の刀剣がやってくるからどう、と言われても…"君"は君一振りだろう。他に何振り乱藤四郎がいても、"君"は君だけだ」

個体が違えば別刃になる(といってもまあ、根本的には同一ではあるだろうが)んだから…沢山来るから折れても構わないなどとは僕には思えない。そもそも使い捨てにするのは運用効率の面から見ても悪手だろう。短刀の手入れに必要な資材なんてたかが知れてるし、そもそも手入れの必要ない運用をするのが一番いい。

心情的な話は言うまでもないが。

「勿論、僕は君以外の乱藤四郎に会った事がないわけじゃあないけれど、乱藤四郎ならどれでも同じだとは思わないし…他の刀剣でもそうだ」

まあ、僕の刀剣じゃないからどれでも同じっちゃ同じなのだが。

「碧鳥さんにとっては、僕も特別な一振りってこと?」

「…これから深く関わることになればそうなるだろうね」

んー、うちの乱ちゃんはもっとぐいぐいくる感じだから、やっぱ個体差ってあるんだなあ。

 

 

 

「僕、新しい主さんを迎えるなら碧鳥さんがいいなあ」

「優しそうな人、ですよねぇ」

「少なくとも、チビどもを使い潰したりはしないだろうな」

「乱兄さんが良い人だって思うなら、本当にいい人ですよね」

「…あの人は中々厄介なお人だと思うがな」

「薬研は思わないの?あの人がいいって」

「そりゃあ、主として迎えるならあんなお人がいいとは俺も思うさ。…だが、そんなよくできたお人が何で此処に寄越されたんだ?」

「「「・・・」」」

「わざわざ此処を引き継がなくても、あの人なら立派な本丸を作れるのは間違いないだろ?何でまたうちみたいな中途半端なところに寄越されたんだ」

誰も何も言えない。だって、この本丸にはどうしても残しておかねばならないと政府が考える要素はないのだ。それなりの数と練度は一応あるが、優秀な審神者を寄越さなければならない程でもない。

 

 

 

「碧鳥殿は、この本丸を引き継いでくださるのですか?」

「…何故?」

「…いえ、失言でした。お忘れください」

「…君は、俺に主になってほしいと思ってそう言っているのか、なってほしくないと思ってそう言っているのとどちらだ?」

「…私たちは道具です。主を選ぶ権利などありません」

「けど、人間みたいに好き嫌いが出来てしまった以上、選べるなら、と思ってしまうのも仕方のないことだ」

「・・・」

「んー…そうだな。今の俺にこの本丸を引き受ける予定はないよ」

「、」

「…というか、一人の審神者が複数の本丸を運営する、なんて話、聞いた覚えがないんだが」

「…え?」

「…あれ。俺の立場は伝えられてないのか?俺は自分の本丸が優秀だから、短期間なら審神者不在でも問題なく回るだろう、って政府に泊まりがけでこの本丸立て直してこいって言われて来たんだが」

「…見習いを終えられたばかりの方ではなかったのですか?」

「いや、これでも一年ちょい経ってる中堅だぞ。というか、俺見習い研修無しで本丸配属されたし」

 

 

 

「…そうか、何か認識に齟齬があるような気はしてたが、引き継ぎだと思われてたのか。確認は大事だなあ」

さっさと俺の本丸に戻りたい。なんかいやな予感がする。何かこう…事案的な。

噂には聞いたことがあるんだよね、所謂乗っ取りってやつ?曲がりなりにも実装刀剣一通り揃えちゃってる以上、標的にならないとは言い切れない訳で。まあ、だからセキュリティいじってきたんだけど。

「こんのすけー」

「何でございましょうか、碧鳥様」

「何で俺が中堅本丸の審神者だって此処の子たちに伝えてなかったんだ?」

「え…は?」

「…なに、その反応はこんのすけも俺が既に他の本丸で着任済みの審神者だって伝えられてなかったのか?」

「碧鳥様は、新任の方では、なかったのですか?」

「いや、五十と二振り揃えて、確認された戦場は一通り踏破してる中堅審神者だよ。ちなみに四十振りが練度上限に達したんで二軍育成中」

「それは中堅どころかベテランだと思うのですが」

「ベテランじゃないよ。俺先日審神者歴一年になったところだもん。ひよっことは言えないかもしれないが、ベテラン名乗れる程務めてない」

「超有望株じゃないですか…!」

「そうか?」

別に普通だろ。先人の知恵も拝借してるし、舗装された道歩いてきたようなものなんだから。言う程試行錯誤とかなしにやってこれたし、しいて言うならうちの子たちが優秀なんだ。

「そんな方が、何故此処にいるのですか」

「って言われても、別に志願して此処にいるわけじゃないし。辞令を拒否するわけにもいかなかっただけで」

俺の方が聞きたいくらいだって。

 

 

 

改めて、俺が引き継ぎじゃなくてこの本丸の状態を整えたりしに来た余所の審神者だって伝えた結果、なんか刀剣たちがお通夜状態になった。何でだ。

「…そっか、だからあんな返事だったのか」

「…俺は特に勘違いさせるような事も嘘も言った覚えはなかったんだがなあ」

言ってない…よな?

「いや、主が連れてかれて別の審神者が来たら、そいつが引き継ぎなんだって思うだろ、普通」

「俺は引き継ぎに来た審神者だと言った覚えはないぞ。まあ、こんのすけが事前に伝えてるもんだと思って本丸持ちと名乗ってなかったのは怠慢かもしれないが」

心底不思議でたまらないのだが、

「俺みたいな"普通の"審神者なら幾らでもいるだろ。何でそんなお通夜状態なんだ。顔も霊力も魂も家格性格その他諸々、俺より好条件の審神者は幾らでも居ると思うぞ。…まあ、うちのには己を喚んだ俺こそ最上、みたいなこと言われてるが」

俺が主であることに不満などあるはずがない、望んで降りた場所なんだから、って。でも、此処の刀剣にとっての最上は俺ではないはずだ。ベターである可能性はあるかもしれないが。

「…やっぱり、あんたの刀剣は幸せだね。俺の主も、あんたみたいな人だったらよかったよ」

「んー、ありがとう。こっちの都合で喚んで戦ってもらってる以上、その選択を後悔させたくないって思ってやってるんだ。…俺は、一人で戦える程強くないから」

今の俺がいるのはあの子たちのおかげだ。支えてくれる彼らがいるから、俺は審神者として前線に出る事が出来る。臆さずに前を向いていられる。

「…うちの主はそんなこと欠片も思ってなかったと思うぜ」

「まあ、色んな審神者がいるだろうしなあ。価値観、志願理由その他諸々」

「…僕、碧鳥さんの"特別な乱藤四郎"になりたかったな」

「…ありがとう。そう思ってもらえて光栄だ。…まあ、うちの乱ちゃんに知られたら怒られそうだが」

主様には僕がいるでしょ、何余所の刀に色目使ってるのさー、とかなんとか。いや、色目を使った覚えはないのだけれど。

「碧鳥さんのところの僕って、どんな風?」

「どう?って…んー…僕より女子力高い美少女で正直尊敬している。否、可愛い格好が好きなだけで、別に女の子になりたいってわけでもないのは知ってるんだが。…あ、後、先日めでたく練度上限達成したな」

「…そっか。…なんか、嫉妬も出来ないなあ」

「別に比べる必要はないさ。君は君だ。うちの乱ちゃんとは別の乱藤四郎で、好みや考え方なんかも違うかもしれないし、過ごしてきた環境も違う。うちのは俺の影響を結構受けてるらしいし、同一でないのも当然だろう」

亜種レベルで違うのは流石にいない…はずだが。

「そんな風に僕を肯定してくれても、僕はあなたの"特別"にはなれないんでしょう?」

「んー…まあ、俺は"うちの子"が一番大事だから、"一番"はあげられないな」

結構焼き餅焼きが多いんだよな、うちの子たちは。

 

 

 

 

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