敵意を向けられるのは慣れている。だけど、慣れていることと平気なことは別のことだ。
「今日は二人組か」
太刀と短刀、だろうか。似通った洋装をしている。軍服風とでも言おうか。虎君もそういえば同系列だったから、彼らが噂に聞く兄弟沢山の粟田口派だろうか。同じ流派の刀剣はある程度服装に似通ったところがあるらしいので。…まあ、元の主繋がりで似ている者もいるらしいが。
「昨日は、弟が世話になったようで」
おうおう、目が笑ってないぜ兄ちゃん。
「ああ、久しぶりに童心を思い出したよ。…子供は思い切り体を動かす方がいいんだろうが、俺じゃあついていけないもんだからすまなかったが」
体力も機動力もないからなあ。
「・・・」
…この二人と部屋にこもりたくないな。書類仕事は後回しにしよう。
「近侍だか見張りだか知らないが、付いて回るつもりならもうちょっとうまく敵意を隠してくれないか?」
腹が痛くなってくる。そもそも人と接することが俺にはストレスなんだから相手が敵意を持っているというのはもうお察しというやつである。
紫色の瞳の短刀と金色の瞳の太刀は視線を交わす。
「何のことだ?小鳥さん」
「人は見たいものを見たいように見るものだ。既に俺を敵と見定めているのなら、見極めるも何もないだろう」
まあ、俺自身穿った見方をしていることがないわけではないのだろうが…相手に敵意があるかないかはわかる。…敵意がないのにこちらに不利益を被らせるやつが一番厄介なのだが。
「…何を言いたいんだかわからないな」
目が笑ってねーぞ。
「鏡でも見てみたらどうだ?」
繕おうったって無駄なことだ。そもそも前提として俺は彼らが友好的でないと思っているのだから。
「・・・」
「そんなに我らは敵意を見せていましたかな」
「目が笑ってないのに笑おうとしているだろう」
本当に友好的であればそんな顔はしない。それに、笑顔というのは、元は威嚇の表情だとも言う。
「胡散臭い笑顔だ」
表面だけ取り繕って誤魔化せる相手だと思っているなら心外だ。俺は、そういうやつが一番嫌いなのだ。
「…はは、そのようなことを言われたのは初めてですよ」
見る目のない奴ばかりだったのか、そもそもそんな顔をしてみせたのが、これが初めてのことなのか。…多分前者だろう。なんとなくそんな気がする。
刀剣たちの俺に対する感情はおそらく三種類に分けられる。まず、敵意を持っている者。次に、敵意も興味もない者。そして、敵意はないが興味がある者。虎君は三つ目の更に特殊ケースだろう。
まあ別にだから何ということもないのだ。俺はもう、寧ろさっさと殺してくれればいいと思う。俺は、己に非があった覚えがないので、あいつらが僕を嫌うのはあいつらの事情だろう。他人の気持ちを変えることなどできない。相手が変わる気にならなければ。
俺に出来ることはない。
「隣、いいかな?」
「…好きにしろ」
「それじゃ、遠慮なく」
胡散臭いやつだな、と思う。多分、本音を綺麗に隠して微笑んでいられるタイプだ。…敵意は感じないからマシだが。
「君ってさ、自殺志願者なの?」
「死ななきゃならないなら潔く死ぬが、自ら死のうとは思っていない」
「でも、殺されないように動こうとはしてないよね」
「変わる気のない奴の気持ちは変えられない」
そして、俺に敵意を向けているのは変わる気のない者だ。
「…勿体つけないでさっさと殺せばいい。時間をかけようがかけまいが、同じだ。見ているのが"俺"じゃない以上、俺が何をしたって変わらない」
「…皆が皆、君が死んだ方がいいと思っているわけじゃないよ」
「主張されない意見は存在しないのと変わらない」
…ああ、困らせているな。こんなの八つ当たりと同じだ。カッコ悪い。
「…まあ、僕のことは気にしなくていいよ。引き継ぎって言われた時点で嫌な予感がしてたし、本当に僕がいなくなって困る人はいないだろうから」
家族はきっと悲しむだろうけれど、それだけだ。僕はいてもいなくてもそう変わらないから。
「…僕は神剣ではないけれど、幽霊退治はしたことはあるから、霊的なことにもある程度鼻が利くんだ」
いきなりなんだ。
「…多分ね、君を斬ったら、僕たちは取り返しのつかないことになると思うんだ。君は少なくとも邪悪な存在ではありえないわけだから」
「俺は自分の死後のことに手は出さねーぜ」
というか、そこまで責任は持てない。物理的にどうすることもできないだろうし。
「…ある意味、見てみたくもあるけどね」