刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

115 / 193
触れる
へたれと卑屈は違うんだなあ…


この狭い箱庭で3

 

 

「っ」

咄嗟に手が出た。

「…怪我は、ないか?」

「ああ、大丈夫だ。…寧ろ、あんたこそ頭ぶったりしてないか?」

「俺はこれくらいで怪我するほど軟じゃない」

「そうか。ならいいんだが…」

抱えられた状態で小鳥は光世を見上げる。此処まで接近するのは珍しい。懐かれてはいるが、光世は小鳥に触れないようにしているのである。

「…?どうかし…!」

自分が小鳥を抱えたままだったことを思い出し、光世はばっと手を離した。

「…なんか、その反応は傷つくんだが」

「…すまない」

「そのすまない、は何に対する謝罪なのさ。寧ろ俺の方が庇ってくれてありがとう、って言わなきゃいけないぐらいなのに」

「それは…」

「光世は細かいこと気にしすぎなんだよ。僕は別に特に何も嫌がってないのに」

「…俺は」

口ごもる光世に小鳥は訝しげな視線を向ける。

「…恐らく、一度許されてしまえば、歯止めがきかなくなる。俺はあんたを傷つけたくない」

「そんな大袈裟な」

「大袈裟じゃない」

光世は僅かに眉をしかめる。

「呪いがあんたにどんな悪さをするかわからないし、俺の霊力はあんたを傷つけるかもしれない」

「光世は初対面の時からそんなこと言ってるけど、僕は光世の傍にいてそんな不具合があった覚えはないぜ。っていうか、病魔を退ける刀が人間に悪さをするわけじゃないだろう。寧ろ守刀の類なんじゃないのか」

小鳥は光世の顔を手で包んでその目をまっすぐに見つめる。

「光世は俺を害そうというつもりはないんだろう?」

「勿論、俺は小鳥を害すつもりはない。害そうなんて、思っちゃいない」

「なら、大丈夫だろう」

「…大丈夫じゃ、ない」

言葉を絞り出すようにして、光世は言う。

「あんたは、俺がどんなことを考えてるか分からないからそんな事を言うんだ」

「…そりゃあ、他者の気持ちなんて教えてもらわなきゃわからないよ。エスパーじゃないんだから」

「…あんたはきっと、俺を嫌いになる」

「そんなの聞いてみなきゃわからない。…いや、本当にわからない」

「・・・」

光世は小鳥の頬に手を添える。

「俺はあんたに触れたい。抱きしめたい。…口付けたい。それ以上のことも」

「えっ。…えっ」

「あんたが好きなんだ。好きで、好きで…俺のものにしてしまいたい」

「それは、あの…そういう意味で、なのか?…いや、すまん、ちょっと…理解できない。嫌だとか、そういう意味じゃないんだが…そういう感情を持ったことも持たれたこともないから、なんというか…」

しどろもどろになって目を泳がせようとする小鳥に、光世は僅かに眉尻を下げた。

「…困らせてすまない。こんな気持ち、迷惑、だよな」

「いや、なんというか…突然言われても困るけど、迷惑…迷惑…?」

小鳥は本気で悩んでいる。

「俺、光世のことは割と好きだぞ。友情とかの方面であって、惚れた腫れたではないけど。そもそもそういう目で見てなかったし。けど、うー…」

「…いや、いいんだ。俺が悪かった」

「逃げるな」

「!」

「…俺も逃げない。だから、あんたも逃げるな」

「…小鳥」

「…うん。わからん」

小鳥は光世をまっすぐに見上げて言う。

「触れて、抱きしめるのは、嫌じゃない。けど、ちゅーとか、それ以上のこととかはやったことないからわからない。光世のことをそういう意味で好きになれるかもわからない。とりあえず、嫌悪感はないけど」

「…それは、してもいいという意味か?」

「………状況は選んでくれ」

そう言われて漸く、光世は自分たちがどういう状況にあったか思い出した。今いる場所は本丸ではない。誰が通りかかるともしれない(ただし可能性は限りなく低い)道の真ん中だ。ある意味、式たちの前でやるよりはマシだが、五十歩百歩というやつだろう。

「…すまない」

「そんなすぐ謝るなっての。なんというか、俺も煽るようなこと言ったわけだし」

「・・・」

光世は少し考え、小鳥の手を取って立ち上がる。

「…続きは、帰ってからだな」

「お、おう」

光世は少し困ったように微笑う。

「俺は刀だからな。人よりは気が長いと思う。あまり性急にならないように気を付ける」

「…まあ、段階を踏んでくれると助かる」

なんとなく、いい感じに流れを作られれば、雰囲気で流されてしまいそうな気がする。まあ、それで後悔する羽目にならなければ、それもありっちゃありなのではなかろうか。後悔しないのならば。…いや、うん、やってみなきゃわからないことなんだけど。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。