へたれと卑屈は違うんだなあ…
「っ」
咄嗟に手が出た。
「…怪我は、ないか?」
「ああ、大丈夫だ。…寧ろ、あんたこそ頭ぶったりしてないか?」
「俺はこれくらいで怪我するほど軟じゃない」
「そうか。ならいいんだが…」
抱えられた状態で小鳥は光世を見上げる。此処まで接近するのは珍しい。懐かれてはいるが、光世は小鳥に触れないようにしているのである。
「…?どうかし…!」
自分が小鳥を抱えたままだったことを思い出し、光世はばっと手を離した。
「…なんか、その反応は傷つくんだが」
「…すまない」
「そのすまない、は何に対する謝罪なのさ。寧ろ俺の方が庇ってくれてありがとう、って言わなきゃいけないぐらいなのに」
「それは…」
「光世は細かいこと気にしすぎなんだよ。僕は別に特に何も嫌がってないのに」
「…俺は」
口ごもる光世に小鳥は訝しげな視線を向ける。
「…恐らく、一度許されてしまえば、歯止めがきかなくなる。俺はあんたを傷つけたくない」
「そんな大袈裟な」
「大袈裟じゃない」
光世は僅かに眉をしかめる。
「呪いがあんたにどんな悪さをするかわからないし、俺の霊力はあんたを傷つけるかもしれない」
「光世は初対面の時からそんなこと言ってるけど、僕は光世の傍にいてそんな不具合があった覚えはないぜ。っていうか、病魔を退ける刀が人間に悪さをするわけじゃないだろう。寧ろ守刀の類なんじゃないのか」
小鳥は光世の顔を手で包んでその目をまっすぐに見つめる。
「光世は俺を害そうというつもりはないんだろう?」
「勿論、俺は小鳥を害すつもりはない。害そうなんて、思っちゃいない」
「なら、大丈夫だろう」
「…大丈夫じゃ、ない」
言葉を絞り出すようにして、光世は言う。
「あんたは、俺がどんなことを考えてるか分からないからそんな事を言うんだ」
「…そりゃあ、他者の気持ちなんて教えてもらわなきゃわからないよ。エスパーじゃないんだから」
「…あんたはきっと、俺を嫌いになる」
「そんなの聞いてみなきゃわからない。…いや、本当にわからない」
「・・・」
光世は小鳥の頬に手を添える。
「俺はあんたに触れたい。抱きしめたい。…口付けたい。それ以上のことも」
「えっ。…えっ」
「あんたが好きなんだ。好きで、好きで…俺のものにしてしまいたい」
「それは、あの…そういう意味で、なのか?…いや、すまん、ちょっと…理解できない。嫌だとか、そういう意味じゃないんだが…そういう感情を持ったことも持たれたこともないから、なんというか…」
しどろもどろになって目を泳がせようとする小鳥に、光世は僅かに眉尻を下げた。
「…困らせてすまない。こんな気持ち、迷惑、だよな」
「いや、なんというか…突然言われても困るけど、迷惑…迷惑…?」
小鳥は本気で悩んでいる。
「俺、光世のことは割と好きだぞ。友情とかの方面であって、惚れた腫れたではないけど。そもそもそういう目で見てなかったし。けど、うー…」
「…いや、いいんだ。俺が悪かった」
「逃げるな」
「!」
「…俺も逃げない。だから、あんたも逃げるな」
「…小鳥」
「…うん。わからん」
小鳥は光世をまっすぐに見上げて言う。
「触れて、抱きしめるのは、嫌じゃない。けど、ちゅーとか、それ以上のこととかはやったことないからわからない。光世のことをそういう意味で好きになれるかもわからない。とりあえず、嫌悪感はないけど」
「…それは、してもいいという意味か?」
「………状況は選んでくれ」
そう言われて漸く、光世は自分たちがどういう状況にあったか思い出した。今いる場所は本丸ではない。誰が通りかかるともしれない(ただし可能性は限りなく低い)道の真ん中だ。ある意味、式たちの前でやるよりはマシだが、五十歩百歩というやつだろう。
「…すまない」
「そんなすぐ謝るなっての。なんというか、俺も煽るようなこと言ったわけだし」
「・・・」
光世は少し考え、小鳥の手を取って立ち上がる。
「…続きは、帰ってからだな」
「お、おう」
光世は少し困ったように微笑う。
「俺は刀だからな。人よりは気が長いと思う。あまり性急にならないように気を付ける」
「…まあ、段階を踏んでくれると助かる」
なんとなく、いい感じに流れを作られれば、雰囲気で流されてしまいそうな気がする。まあ、それで後悔する羽目にならなければ、それもありっちゃありなのではなかろうか。後悔しないのならば。…いや、うん、やってみなきゃわからないことなんだけど。