歌仙は多分中庭が見える部屋とか使ってる
「僕は物吉貞宗といいます。こちらは鯰尾藤四郎、そしてこっちが骨喰藤四郎です」
「俺は赤鴉。えーと、物吉君、鯰尾君、骨喰君、と呼べばいいのかな?」
「はい、僕はそれで構いません」
「滞在中に使う部屋は客間か空き部屋から好きに選んでくれ。
紅の衣装に鹿面の式、白の衣装に鴎面の式、白地に赤紫の衣装の山羊面の式が姿を見せる。そして物吉たちにむけて礼をした。
「ええと、赤鴉様、」
「様付けなんてしなくていい。…疲れているなら休めばいい。此処はその為の場所だ。此処でどう過ごすかは自分で決めれば良い。こちらから強制はしないし、まぁ危害を加えてきたり暴れたりしないなら好きにしろ」
「でも、僕の役目は、持ち主の方に幸運をもたらすことですから…」
「僕は今の所君たちの主じゃない。この本丸の審神者というだけだ。僕から君に強制できることがあるとすれば、本丸とそこに暮らすものに危害を加えさせない、という事くらいだし、君たちが僕にしなければならない事はない」
「・・・」
「意味が判らないなら今はそれでもいい。とりあえず、自分の過ごす部屋を選んで来てくれ。食事の時間になったら式が知らせるだろうから、それまで自由にしてくれ」
「あの、何かお手伝いすることとか、ありますか?」
「そうだね…僕は今から、昼餉を作りに行くところだけど、君は料理はできるのかい?」
「簡単なものであれば、いくらか経験があります」
「なら、少し手伝いを頼もうかな。今日の昼餉はうどんにしようと思っているんだ」
「わかりました」
物吉は安心したように微笑する。
「あれ、物吉君。どうした?お腹すいてるのか?」
「いえ、何かお手伝いを、と思って…」
「んー…随分疲労が溜まってるように見えるんだが、大丈夫か?まぁ、自分から言い出したんなら止めはしないが」
「まあ、適度に休息を取るべきだというのは僕も同意するよ。疲労困憊で無理をするなんて雅じゃないからね」
「えっと、赤鴉、さんこそ、お腹がすいていらっしゃるんですか?」
「時間帯的に空いてないとは言わないが、この本丸の厨は歌仙と俺が主に回してるんだ。他の奴も手が空いてる時に手伝ってもらったりするけど」
「別に、僕に全面的に任せてくれても良いのだけれどね」
「生トマトが食卓に並ぶことを僕は許さない。いいか、絶対だ」
「…根に持ちすぎじゃないかい。赤茄子は彩りも栄養も優れている野菜だというのに」
「僕は生トマトの味も臭いも触感も見目も全て嫌いなんだ。加工したのとか煮溶けたとかは平気だからそっちにしてくれ」
「ケチャップやミートソースというやつかい。まあ悪くはないと思うけれど、風流に欠けるね」
「俺未だに歌仙の風流基準がさっぱりなんだけど」
はっきり言及されたものは記憶しているが、そこから言及されていないものに類推出来ない。
「風流は理屈で愛でるものではないよ」
「何もしないのは落ち着かないので、何かお手伝いがしたいのですが」
「…って言われても、特にないんだよな。料理以外の家事と本丸の維持管理にあたることは式の子たちに頼んでるし、内番は終わってるし、急ぎの仕事はないし。んー…」
赤鴉はゆるりと首を傾げる。
「…そうだなあ、全くもって急ぎではないし、優先度の低い事なんだが」
「はい」
「資料室の資料整理、くらいかな」
「資料整理ですか?」
「応。一応、全部データベース登録されてて、書名著者名検索には対応してるんだが、内容とかジャンルとかはちゃんと登録してないのもあるんだよな。そういうのは管理番号自体入手順仮置きになってるし。で、それをちゃんとしなきゃな、と思いつつちゃんと読んで決めなきゃならんので後回しになっている」
「つまり、資料を読んで、それについてまとめればいいんですね?」
「資料を端末で参照した時のフォーマットが可能な限り埋まってればそれでいいんだけどな。…あ、端末使える?」
「…簡単なものなら」
「んー…まあ、実際やってみせるから、やる気があるなら見て覚えてくれ」
「はい」
「資料室というから学術書などばかりかと思えば、そうでもないんですね」
「見方を変えたら何でも"資料"だからな。書庫とか図書室とか言うやつもいるが、書籍類ではない資料もあるから、俺は資料室かな、と」
「…艶本があるみたいなんですが」
「世間には色んな趣味嗜好があって興味深いよな」
「………そうですね」
「…一応言っておくが、僕に現実の男性になんやかんやする趣味はないからな」
「え、あ、はい」
「物吉君、物吉君、僕から提案しておいてあれだが、そう根を詰めてやることではないからね。暇潰し位のノリで十分だ」
「え、あ、はい…」
物吉が戸惑っているのを見てとって赤鴉は苦笑した。
「急ぎの仕事じゃないし、全部やってくれなくても構わない。気が向いた奴だけ読んで、情報をまとめておいてくれればいい。寧ろ本を読むのがメインくらいでいいぞ」
と言った後で、あ、という顔をする。
「本読むのあんまり得意じゃなかったらごめんな。何か他の考える」
「いえ…前の本丸ではあまり本を読む機会はありませんでしたが、苦手という事はないですから」
「そうなのか?…まあ、世の中には色んな考えの人がいるしな」
赤鴉は一人で納得して立ち上がる。読み終わった本を棚に戻して時計を見た。
「そろそろ夕餉の準備を始める時間かな」
「お手伝いします」
「いやいや、今日くらい食べる専門に回ってくれ。ささやかだが君たちの歓迎会のようなことがしたい」
と言ってもまあ、鯰尾たちは歓迎されたくないのかもしれないが。
「それは…」
「客人をもてなすのも家主の役目の内だろう?…あ、君らって食べ物の好き嫌いはあるのか?」
「…いえ、特には」
赤鴉は若干しょぼんとしている物吉の頭をぽんぽんと撫でる。
「頑張るのは一旦疲れを癒してからでも十分さ。その気になれば何時からでも頑張る事は出来るからな」
「御剣殿、手順を無視して進めようとするのはやめていただけませんか」
「多少順番が前後しても同じだろう?」
「いや、調味料とか食材とか、入れる順番が出来に影響するものもそこそこあるからな。手順は守るに越した事はないぞ。…というか、メシマズがメシマズになる要因の一つが、作り慣れてない料理になんとなく自分でアレンジを加えることだって言うからな」
「…私はメシマズではないぞ」
「今の所はね」
「…主は御剣殿に容赦がないな」
「アマノがやんわり言って止まる輩だと思う?」
「・・・」
その沈黙が何よりの答えである。
「…もしや、融通がきかないと言われているのか?」
「融通って言うか、自分の判断を最優先するタイプだろ?」
「うむ…」
「鯰尾兄、骨喰兄」
「なに、厚。俺たちに何か用?」
「辛気臭い顔してたから様子見に来たぜ。二振りが前に居た本丸がどんな所かは知らないけど、絶対うちとは違うからさ、大将の裏とか考えなくていいんだぜ」
「・・・」
鯰尾はひとしきりぐちゃぐちゃ考え込むような顔をしてから言う。
「…あの
「いや、それはそれでいいと思う。けど、御剣様の前で大将に敵意を見せるのは遠回しの自殺だから、そこだけは気を付けてくれよなって」
「…やっぱり拙いの?」
「御剣様がこの本丸の現状を受け入れてるのは、大将が危険にされる可能性が低いから、だから」
「ああ…」
「実際来たのは鯰尾兄たちで二組目だし、前の二振りはそういう迂闊なことしてないから実際そうなった時あの剣がどうするかはわからないけど…碌な事にはならないと思う」
なにしろ、持ち主さえ祟る剣だ。敵対者と見做されれば容赦される理由がない。
「おや、物吉殿」
「数珠丸さん、どうかされましたか?」
「それは寧ろ私の台詞ですよ。…何やら気が沈んでいるようですね」
「え、いえ…僕は大丈夫ですから」
「…主から書物を読む事を勧められたのですか?」
「…ええ、まあ…」
「主は読みものが好きなのです」
数珠丸の言葉に物吉は目をぱちくりさせる。
「…いえ、正確には、新しい物事を知るのが好き、と言うべきなのかもしれませんね。此処にある本も、大半は主が過去に読破しているものだそうです。そこから、なにかしら面白いと思ったものを選んで置いているのだと」
「…赤鴉さんは、此処の本は全て把握しているんですか?」
「まだ読んでいないものもあるそうですし、覚えるのは苦手だそうですから、全てではないでしょうね」
「そう…ですか」
物吉の沈んだ様子に、数珠丸はおや、と眉を上げる。
「どうかされましたか?」
「…僕は、赤鴉さんを困らせてしまっているのでしょうか」
「…勝手も価値観も異なるのですから、最初の内は上手くゆかないのも仕方のないことですよ。それに、主は嘘の吐けない方ですから、本当に嫌になればはっきりそう仰います」
「でも…」
「主も審神者になって日が浅いですから、刀剣男士との接し方を学んでいる最中です。"あなたのような方"とはどう接すれば良いのか、試行錯誤している所、といっても間違いではありません。ですから、あなたの我を通そうとするのも、ある意味で主の為であり、後に来る刀剣の為ですよ。…ものわかりの良い方だけが送られてくるとも限りませんし」
「・・・」
「間違いに気付くためには、間違いを指摘してくれるものが必要なのです」
「赤鴉さん、資料室の事なのですが…」
「ん?何だ」
「…困らせてしまって、申し訳ありません」
「…何について謝られているのか、さっぱりなんだが」
「必要のない仕事を捻り出させてしまったようですから…」
「いや、優先度低いし、やらなくてもなんとかなるっちゃなるが、捻りだしたって程じゃないぞ。やっといた方が便利なのは確かだしな」
「でも、資料室の本は読んでいらっしゃるものの方が多いんですよね?」
「俺は一回読めば一字一句間違えずに覚えられる記憶超人ってわけじゃないぜ?表紙みたら読んだかどうかと印象に残ってる部分くらいは出てくるが、結構記憶違いもするしなあ」
「…でも、僕に任せる方が、手間でしょう?」
「…優先度低い理由の一つはだな」
「え、はい」
「俺は内容の要約とか、感想まとめるとか、そういう作業がとても苦手だからだ」
「はあ…」
「学生の頃は作文より読書感想文の方が苦手だったし、授業で感想書けって言われて適当に無難なの捻りだして書いたつもりが先生にそう来るとは思わなかった、って言われたし」
「一体何を書いたんだい」
歌仙がひょいと話に入ってくる。
「徒然草の、坊さんが宴会で鼎被って踊ったら抜けなくなって困った話あるだろ。あれ、衛生的にどうなんだろうなー、千切れた耳鼻とかどうしたんだろうなー、というような事を書いたら、そこに注目するとは思わなかった、と言われたんだ」
「…第五十三段のことかな。まあ確かに、そこは本題ではないね。書かれていないし、実際目の前でやられたら気にするかもしれないが」
「いや、俺本題に関してはアホだなぁ、としか思わなかったけど、そう書くわけにもいかないだろ」
「・・・」
歌仙は溜息をついた。
「…まあ、馬鹿正直にそう書いたら拙いと思い至れたところは評価しても良いのだけれどね…」
「まあそういうわけで、苦手なんだよ、感想書いたりまとめたりするのは」
本読むのは好きなんだけどなぁ。
「あらすじをそのまま書けば良いのでは?」
「物語で、あらすじが付いてる奴ならそれでいいんだけどなー」
そういうのないのもあるからなぁ。
「僕は、解説するのはともかく、あらすじだけ抜き出すというのは好きではないな。雅じゃない」
「古典は理解するために一定の教養が必須だったりするしねー」
俺の読書量はどっちかというと活字中毒のそれだから、頭使わないで読めるラノベとかの方が好き。
「君にその気があれば解説するのも吝かではないのだけれどね」
書庫に幾つかあっただろう。
「まあ、泉鏡花とか、内容気になるけど文体で投げてたのあるから、助かるのは助かるけど、まあ、暇になってからでいいかなー。絵本とかはともかく、複数人で読むには向かないし」
「…まあ、それはそうかもしれないね」
「おつかれさま」
赤鴉はそういって物吉の頭を撫でる。物吉は色々こみ上げてきて、泣きたくなった。
「っ、僕は」
「頑張った子は労われるべきだと僕は思うよ。成果とはまた別にね」
成果のない努力は徒労だが、努力するだけではどうにもならないものもある。例えば、運の絡むことだとか、感情の絡むことだとか。
「でも、ぼくは、あるじさまに、こううんをとどけることは、できませんでした」
「…言ってはなんだけれどね」
赤鴉は神妙な顔をして言う。
「0には何を掛けても0だよ」
物吉の涙が引っ込んだ。
「いや、何を指してそう言っているかにもよるけれどね。実際の所運の問題ではないのだけれど、精神衛生上運の所為にしておいた方が都合が良い事、というのも世にはあるからね」
空元気の物吉と警戒心バリバリの鯰尾と無気力骨喰
ズオバミは同室使うかな 空元気ってかワーホリだこれ