骨喰の件 鯰尾は自分が直接手出ししないべきと見做されている
「骨喰君ちょっといいか?」
「…何だ」
「いや、君は表情が読めないから直接聞こうかと」
骨喰は面食らったような顔をした。
「改善できるならそれに越した事はないだろう?無反応だと、そのままでいいのか、変えるべきなのか、わからないじゃないか」
「…放っておいてくれ」
「放っておいても解決するならそうするよ。でも君、自分で解決する心算があるわけでもないだろう。僕は自分の仕事はきっちりやる主義なんだ」
「・・・」
赤鴉は簡単に引くつもりはないと感じ取り、骨喰は溜息をついた。
「思ったこと感じた事を表に出すってのは意外と大事だぞ?隠して押し込めてって続けると自分でもわからなくなってくるからな」
「…それは経験談か?」
「んー…経験って言うか、現在進行形?俺の場合、押し込めてたとかってのはちょっと違うんだけどなー」
「…は?」
「いやな、まあ色々あって、感情と理性が断線しちまっててな。理性の俺には感情の私が思う事がよくわからんのだよ」
「…何を言っているのか理解できないんだが」
「まあ理解されようと思って説明してないからな。つぅか、自分でもよぅわからんのに、人に判らせる事も人のを判る事もできんわ」
「・・・」
「別に自分の言葉じゃなくて借り物の言葉でもいいから、言葉にするって大事なんだ。吐き出したいものは吐き出した方がすっきりするしな。言霊があるからネガティブな言葉は口に出さん方がいいとも言われるけど、もやもやのままで抱え込んだままにしてても何も面白くないからな」
「…つまり?」
「なんとなく気分にあってる歌探して歌うといいと思うよ」
「…歌」
「漫画とかの台詞を音読するよりは絵面が怪しくないだろ」
赤鴉はにぃと笑ってみせる。骨喰は胡散臭そうに眉をしかめた。
「単純に思いっきり声を出すとそれでストレス解消になるってのもある。…ってわけでちょっくらカラオケしようぜ☆」
「…俺は付き合うと言った覚えはない」
「付き合わないと言われた覚えもないな」
揚げ足を取りつつ赤鴉は骨喰の手を引く。
「やりたいことがないなら僕の遊びに付き合ってくれたっていいだろう。人生は楽しんだ方が良いぞ。その方が楽しいからな」
「…遊び相手が欲しいだけなら他の奴を誘えばいいだろう」
「どっちもメインだから、骨喰君じゃなきゃ意味がない」
「・・・」
骨喰はまた溜息をついた。
「…俺は、歌なんて知らないぞ」
「大丈夫、どうせオンボーカルの音源しか持ってないから」
「…それは大丈夫な理由になるのか?」
「JPOPはメロディ構成が単純だから一番聞けば二番のメロディもわかるじゃん?」
「…知らん」
「それに、口に出すのがメインだから合ってなくてもいいんだよ」
本丸の西のはずれ、奥まった一室がスタジオスペースに改造されていた。防音室仕様である。放送設備もある。
「…妙な部屋だな」
「シアタースペースにも出来るようにしてあるけど、肝心の映像データが殆どないからねぇ。映画はあんまり見ないから」
アニメ映画のやつが幾らかあるくらいで。と部屋の一角の棚を差していう。そして、カラオケ仕様に室内をセッティングした。ボード型端末を骨喰に渡す。
「とりあえず曲データに歌詞が紐付けしてあるから、ざっくり検索したら適当に出てくると思うぞ」
「・・・」
「♪~」
赤鴉は歌を口ずさみながらマイクを用意している。骨喰は端末に視線を落とした。
「あ、赤鴉さん、と、骨喰君…?」
部屋の扉を開けた物吉は中から響いてきた音楽で面食らった。
「…ん?どうした、物吉君。…あ、君も加わるか?」
「…ええと、これはどういう状況でしょうか」
「俺が骨喰君誘ってカラオケしてたの。…今は忘却メドレー状態だけど」
といっても、歌詞に忘って字が入ってる曲を片っ端から流してる状態だから忘れたいも忘れてほしいも忘れられないも忘れてしまったも忘れただろうかも忘れられたも全部ごたまぜなのだが。
「僕は、あまり歌には詳しくありませんけれど…」
「俺も詳しくない」
「別にうまく歌わなくてもいいんだよ、本人が楽しければ。音楽ってそんなもんだぜ」
「はあ…」
「自分の思ったことをあまり言葉にしないのは物吉君も同じだろう。付き合ってくれ」
「え、はい」
赤鴉がマイクを物吉に渡す。
「物吉君はキーワード何にする?結構色んなの対応できるぞ、多分」
まあ、汎用性のあるワードの方が無難だけれど。
「え?えーと…それでは、"幸運"で」
「幸運なー(こじらせてるなー)」
「♪~」
「――何で俺は仲間外れなんです?」
「骨喰君誘ってカラオケしてたところに物吉君も来たから引っ張り込んだだけだよ。鯰尾君も参加する?」
「ええ、折角なんで」
鯰尾はマイクを受け取る。
「兄弟は知っている歌があるのか?」
「ないけど、骨喰たちにできるなら、俺もできるっしょ。えい」
「今何か妙な曲名が見えた気がするんだが」
物吉が歌い終わると、割り込みで入った鯰尾の選んだ曲が流れ始める。
「曲入れといた僕も僕だけど、よりにもよってこれ」
赤鴉は大笑いしている。
「…?」
「♪~(某マンボウが死んでる歌)」
「…これはひどい」
赤鴉はわりと楽しそうに歌っている。物吉はおろおろしている。鯰尾は対抗心が出てきたのか、こちらも歌っている。
「♪~」
狙っているのか、そんなことはないのか、鯰尾が適当に選ぶ曲は色ものが多かった。何でだ。
「…現世には、変わった曲が多いんですね」
「覚えなくていい」
覚えない方がいい、と言っても間違いないだろう。宴会芸にもならない。…楽しそうにしているのは、悪くないと思うのだが。
「――主さま…」
こんのすけが歌詞を見てうわあという顔をしている。
「…いえ、主さまなら歌詞を理解しきれてないけど響きだけで面白がってるという可能性もありますから」
くろのすけが現実逃避気味に言う。まあ、実際、赤鴉は"デリヘル"が何なのかわかっていない。但し、もっと露骨な替え歌も知っているのでアレ。
「ん?どうしたの?こんのすけ、くろのすけ」
「…ちなみに主さまは"デリヘル"が何かはご存じで?」
「なんかサービス業だろ?詳しくは知らないけど」
間違ってはいない。
「…いえ、わざわざ解説することでもないのですが」
深く溜息をついた管狐に赤鴉はきょとんと首を傾げた。ちなみに脇差たちもそのはっきりとした意味まではわかっていない。
「♪エターナルフォースブリザード!」
「主さま、そろそろ遊びに一旦切りを付ける時間です」
「ん?そう?」
赤鴉は時計を確かめてあちゃあという顔をする。
「あ、本当だ。時間確認したらなんかお腹すいてきた…」
「では、僕が赤鴉さんの代わりに厨の手伝いに行ってまいりますね」
「え、いや、大丈夫。此処片したらちゃんと行くし」
「赤鴉さんは休憩していてください」
「いやいやいや、別に平気だってば」
「僕だってもう大丈夫ですよ」
「であれば、この先どうするのかを決めていただきたいのですが」
くろのすけが口を挟む。物吉は僅かに視線を泳がせた。
「えっと、それは…」
「俺はもうちょっと時間がほしいかなー。…どうするかは、大体決まったけど」
「…俺は、少し迷っている」
「自分が後悔しないと思える方を選べばいいんじゃないか。…どんな選択肢があるか知らないが」
俺は他の審神者がどう接してるかの具体的な事とかは知らないしなあ、と赤鴉は呟く。そもそも彼女は、他の審神者に、本丸に来てから会った事がない。通常であれば演習や万屋に出かけた時に会う機会があるものだが、そのどちらにも行った事はないし、これからも行く事はないだろう。この本丸の門は、そのどちらとも繋がっていない。妖横町くらいしか繋がっていないのである。
「どうするのが、一番良いのでしょうね」
「…その様子じゃ、刀解は選択肢に入ってないんだ?」
「やっぱり僕は、誰かの役に立ちたいですから。…僕がどれくらい役に立てるのかはわかりませんけど」
「…引き取り手は幾らでもいるんじゃない、物吉はレア刀なんだし」
「珍しいことと、主さまの役に立てることは同一ではありません。僕は飾りではなく実戦刀として役に立ちたいんです」
「…俺だって、俺の事ちゃんと使ってくれる主さんの方が良いよ」
「…そこまで決まっているなら道は一つなんじゃないのか」
戦いに出られなければ役に立てない、と以前言っていただろう、と骨喰は言う。この本丸は出陣も遠征も行っていない。仕事放棄ではなく、政府が門を戦場に繋げない仕様にしているからだ。