刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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一か月前後くらい経った


君は知らない4

 

「…すまん、一つ買い忘れたものがあった。此処で待っていてくれるか、小鳥」

「ん?ああ」

店の前に小鳥を残し、大包平は今出てきたばかりの店に戻る。小鳥は小さく欠伸をして空を見上げた。良い天気である。出入り口のすぐ前で立ち止まっているのも邪魔なので、少し横にずれる。

ふと、小鳥の耳がうめき声のようなものを捉えた。見回すと、いわゆる路地裏に人が倒れ伏している。

「え、だ、大丈夫か?あんた」

小鳥は思わず、その人影に近づく。血や埃で汚れた白い衣装をまとった青年である。何やら負傷している様子がある。

「っ…治療を…"白き癒しの光を"」

小鳥は青年に手をかざして治癒呪術を使う。じわりと傷が癒え、青年が鈍い動きで目を開け、小鳥を見る。

「あんた何でこんなところに倒れてるんだ?誰かに襲われたのか?」

「きみ…」

金色の瞳が小鳥を映し、眩しそうに細められる。縋るように伸ばされた手は、しかし見た目より強い力で小鳥の手首を掴んだ。

「俺たちを、助けてくれないか…?」

「えっ、えっ、助けて、って言われても…」

ぎりっと青年の手に力が込められる。

「いっ…わかった、聞く、聞くからっ…」

「ありがとな、お嬢ちゃん」

青年は手を離そうとはしない。

「ただ、俺、今連れを待ってるところで」

「俺の仲間たちは今も苦しんでいるんだ。できるだけ早く助けてやりたい」

「でも俺の」

「助けてくれるんだろう?」

「っ…」

今更ながらに拙いものに関わってしまったと小鳥は怯える。青年は引きずるように小鳥を引っ張っていった。青年は口元だけでどうにか笑みのような表情を作って言う。

「きみに危害を加えるつもりはない。見たところ、きみは何処かの本丸の見習いか引継ぎの審神者だろう?順調とはいっていないようだが」

「…?だとしたら何だって言うんだ」

「うちの本丸の引継ぎは碌でもないやつでな…君に代わってほしいんだ」

「それは承服しかね、っ」

「あの女が審神者に収まっている限り俺たちは苦しまなきゃならないんだ、頼む」

口では頼むと言っているが、その目は拒否は許さないと言っている。店からもう随分離されてしまった。

「大包平…」

「――小鳥!」

「!お」

「こっちだ」

ぐい、と引かれ、何らかの境界を越えたことを小鳥も感じ取った。妖横町の喧騒が遠い。

「…本丸には正面からでなく裏口から入るべきか…?少なくとも、準備が整うより前に、嬢ちゃんがあの女に見つかると拙いな…」

青年は小鳥の手を引いてなおも歩いていく。

本丸には基本的に防衛上の理由で門は一方向にしか開いていないことが多い。つくりによっては搦め手が存在する場合もあるが、特に屋敷造りの場合、建物自体に裏口はあっても門は一つのみで裏門や通用門などは設けない場合が多い。本丸はあくまでも歴史修正主義者と戦うための前線基地である。襲撃を受けることも想定されている。

門をくぐるなり、空気の淀み具合に小鳥は思わず口を押えた。青年はあまりそれらを気にした様子がない。

勝手口から屋敷に入ると、黒衣の青年が料理をしていた。

「鶴さん?!…その子は?!」

「しっ、静かに、光坊。これからあの女にクーデターを起こす」

「クーデター、って…」

「みんなあの女に不満を持ってる。違うか?」

「それは…でも、彼女はこの本丸の審神者だ」

「そんあもの、審神者の首を挿げ替えればいい。このお嬢ちゃんをこの本丸の新しい審神者にする」

「…鶴さん、それ本気で言ってるの?」

「前の主が此処を出て行ったのだって、後釜がいたからこそだろう?俺たち全員の同意があればあの女を追い出せるはずだ」

「それはそうかもしれないけど…」

黒服の青年が小鳥を見る。小鳥は気分悪そうに眉をしかめている。

「…悪い子ではなさそうに見えるけど、後々彼女みたいにならないって言えるかい?」

「その時はその時だが、そうならないようにそもそも俺たちが目を光らせていればいいだろう?」

「…言っても聞かなさそうだね、鶴さんは。で、具体的にどうするつもりなの?」

 

 

 

「鶴丸国永、その方は一体何処から連れてきたのですか」

「こんのすけか。どうでもいいだろ?どっかの見習いか引継ぎだろうし」

「よくありません!そもそも、本丸の乗っ取りは重罪なのですよ?いくら、刀剣の支持が得られたとしても」

「同意の上で何で罪になるんだ」

「あなたも何故このようなことをされようと思ったのです!」

「いや、そもそも俺はこの人が路地裏で倒れてたから介抱しただけで、この本丸のことなんて…っ」

「きみは、俺たちを助けてくれるんだろう?」

「・・・」

「鶴丸国永、その方から手を放しなさい。幼気な新人審神者を脅して犯罪に加担させるなど、許されません!」

「脅してるなんて、人聞きが悪い。仮契約一振だけで、他の刀とは縁もないような状態なら、こっちに来た方がためになるってもんだろう?隔離されてるようなもんってことなんじゃないのか」

 

「それは…」

「隔離されてるってのは否定しないけど、勝手に人を不幸だって決めつけないでくれるか。僕は本丸に大包平と二人ぼっちなのが嫌とか思ってないし。大包平は悪くないし」

「大包平?…そいつはこの本丸にいないから、そいつごと本丸に引き抜いてもいいぜ?」

「断る。君たちみたいに人の話を聞かないで勝手に決めつけてくるやつが俺は心底嫌いなんだ。俺は、君たちとは絶対契約しない!」

「――小鳥、此処か!!」

「大包平!」

「…!この特異な霊波パターンは…いずれかの二つ名持ちですね?…いえ、大包平で二つ名持ちなど…」

大包平は舌打ちをする。

「今日は厄日か。くろのすけではないようだが、監査部に繋がりを持っているこんのすけか」

「…今の審神者様に引継ぎがなされた時に、遅かれ早かれブラック化するのではないかと見られていましたからね」

「…俺は、小鳥さえ無事に返してくれればこの本丸のことなど知った事ではないが」

「仮契約のみで主と呼ぶこともしないやつがよく言ったもんだな」

「むっ…こちらの事情を知らない癖に、勝手なことを」

大包平はキッと鶴丸を睨みつける。

「そもそも、お前に邪魔されたが、俺は今日小鳥に」

「俺に?」

「・・・」

きょとんとした小鳥を見て大包平は言葉を濁し、小鳥の手首を掴んでいた鶴丸の腕を掴む。

「とにかく、小鳥から手を放せ」

「嫌だ」

鶴丸はますます手に力を籠める。小鳥が痛みに顔をしかめる。

「貴様、その首落とされたいか、鶴丸国永!」

「ほう、君はお嬢ちゃんの前で俺の首を落とせるのか?」

「・・・」

大包平は無言で刀を抜いた。普段は音を立てもしない、柄頭に結わえられた鈴が警告音じみた音を立てている。

「…大包平」

「目を閉じていろ、小鳥」

「えっ」

「、」

小鳥の手首を掴んでいた鶴丸の手首が斬り飛ばされる。小鳥はぺたりとしりもちをついた。手首だけがしつこく縋りついている。

「おまえ…!」

「帰るぞ、小鳥」

大包平は小鳥の手首を掴んだままだった手を引き剥がして捨てると、片腕だけで抱き上げた。

「…うぅ、ひっく、おおかねひらぁ~」

「怖かったな。もう大丈夫だ」

「…警告霊波が一致しました。あなたは、"首斬"の大包平ですね。データベース上には封印措置となっていますが…何故顕現してこんなところに」

「何故も何も…小鳥は俺の"愛し子"で、小鳥を俺のところに寄越したのは政府(おまえたち)だろう。俺の顕現が解けんように度々本丸に審神者を送り込んできていたくせに、何を言っている」

「何を言っていると言われましてもあなたの本丸のことは私の管轄外ですが!?というか、封印本丸に人柱を送り込んでいる派閥があるという噂は本当だったのですね」

「…どういうことだ…?」

「この大包平は小鳥様を守るためならどんな首でも落とすということですよ…この場はお帰りいただくのが最善ですかね…」

「…嫌だ。俺はあの子が欲しい」

「…それが本音ですか」

こんのすけが渋い顔をする。鶴丸は片手で刀を抜いた。

「…もう片方も落とされたいか。それとも、頭を落とされねば止まらないか」

小鳥がぎゅっと大包平の服を掴む。

「怖いのなら見なければいい。耳も塞いでいい。小鳥がこいつのことを覚えていてやる必要はない」

「・・・」

小鳥は少し困った顔で、更に手に力を込めた。

「酷い言い草じゃないか」

「己を傷つけた者のことなど、いつまでも覚えていない方がいいに決まっているだろう。まさか、自覚がなかったのか」

「…俺がその子を傷つけた?そんなつもりはないが」

「お前にその気がなくとも小鳥は傷ついている。言い訳は見苦しいぞ」

 

 

 

「――監査部だ!」

「!」

「・・・」

「…まあ、そうなりますよね…」

警告霊波の照合など、何か拙いことが起こっていると言っているようなものである。半面を付けた刀剣(おそらく膝丸)が警戒した様子で室内を見る。

「…どういう状況だ?」

「…横恋慕…ですかね」

「此処の刀剣が俺の"愛し子"を拐したから取り返しに来ただけだ」

「…"首斬"に愛し子がいるはずがないんだが…どうなんだ、膝丸。抱えられてるあの子だろう?」

「…。…あの童子、確かにあいつの愛し子だが、御大の加護も付いてる…っていうか、御大の愛し子だぞ」

「待って???」

「御大、というと…神剣の類ですか?そのような方が、人柱に?正気ですか?!」

「そこの鶴丸国永の神格がほとんど喪われているのも、御大の愛し子に手を出したペナルティか。…犯人捜しをするなら、祟られている者を探した方が早いんじゃないか」

「待って、冗談にしても笑えない」

「俺は任務中に冗談は言わん」

「ですよねー…」

「…大包平」

「どうした、小鳥」

「…あの人たちは、何で大包平のことをくびきり?って呼ぶの?」

「…その方がわかりやすいからだろう。大包平は俺以外にもいるからな」

大包平は小鳥の頭を撫でる。

「お前は、首斬と呼ぶ必要はない。お前の大包平は俺だけだ」

「…うん」

 

 

 

 




アマノの加護で小鳥に手を出すと神格が下がるけど、神格が下がってると加護に気付けない

NTRでブラックになった普通の本丸 呪具アリだが、どうしても抗えないというほどでもない(極めた短刀とかは主と移った) 思い込みが激しい だいぶ妖寄りになってる


"首斬"の大包平:骨喰と平野(高練度)を生贄に鍛刀された。守刀としての属性が強く、術師により斬首を守護のためのみと制限されている  
斬首:部位限定必中概念攻撃スキル
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