「…痣になっているな。痛くないか?小鳥」
「まだちょっと、じんじんする…かな」
鶴丸に強く掴まれていた小鳥の手首には、くっきりと指の痕がついている。
「とりあえず…冷やした方がいいのか?」
「かなあ」
現在地は監査部の管轄の政府施設である。名目上は保護となっている、が。
「応急処置に冷湿布を貼るか?」
「…妙な仕掛けがないのなら、もらおう」
「俺たちは随分警戒されているらしいな」
「信用する理由があると思うのか?」
大包平は監査官を睥睨する。監査官は肩をすくめた。
「勘違いされがちだが、監査部は別に審神者や刀剣男士の敵というわけじゃない。道理を外れるものが出ないように監査しているんだ」
「今回に関しては、非があるのは政府だぞ」
「ああ、だから、具体的に誰が悪いのかを特定するために、その子に聞き取りをさせてほしいんだが」
「・・・」
「審神者のパーソナルな情報は、契約の有無に関わらず、原則刀剣男士には聞かせないことになっているだろう?」
「俺の目の届かないところでお前たちが小鳥に悪さをしない保証がない」
「そういう君自身がその子に危害を…いや、失言だった。すまない」
大包平に睨みつけられ、監査官は降参のポーズをした。膝丸が大包平を見ながら言う。
「差し障りのないところだけ聞けばいいんじゃないか。直接聞けなくとも、御大の加護を受けている愛し子なんてそうそういるものではないのだから、すぐに特定できるだろう」
「先月の採用試験…先輩が言ってたダークホースか!一週間で失踪したって話だったが…」
「は?失踪したも何も、先輩に最低限の呪術を学んだ後、審神者の実務については実際に本丸にいって教えてもらってくれって言われて即引継ぎに向かわされたと思ったら大包平しかいない本丸だったんですけど???」
「まごうことなき政府がブラック案件だな。というか、正規の採用コースのはずなのに何故そのような非正規コースをたどっているんだ?」
「それな…」
「え、審神者ってそういうもんじゃないの?」
「見習いとして現役の審神者について学ぶ場合でも、事前に基本講習を受ける。しいていえば、刀剣の扱いを心得ていることが事前の試験でわかっていれば、そこは省けるが、基本講習は本来全ての審神者が受けることになっているんだが…」
「まあ、非正規のルートで審神者になったものやされたものは逆にまず受けていないがな」
「僕ちゃんと正規ルートで応募して試験を受けて採用されたはずなんですけど???…まあ、鍛刀禁止令は出されたけど」
「愛し子が
そもそも愛し子の傍に加護神がいない状況というのも相当特殊なのだが。
「御大は滅多に加護を与えない代わりに愛が深い方だからな。多分全て把握しているぞ」
「それ政府ヤバくない?」
「ヤバくないということはないだろうな」
「ですよねー」
「御大でなくとも、愛し子を虐げられて怒らない神などいないだろう」
「…そういえば、御大、って誰?いや、僕が最終試験で降ろしたヒトなんだろうけど」
「え、自分に加護を与えたものが何か把握してなかったの?」
「そもそも加護もらってるとか、今日が初耳ですけど?」
「御大の名は恐れ多くて告げられん。だが、そうだな…我が国でも一二を争う苛烈な逸話を持った神剣だ。認められずに触れたものどころか目にしたものまで祟ると言われている」
「あ、なんか真面目にガチヤバい案件ですね?…優しそうなヒトだと思ったんだけどなぁ」
「御大が、優しそう…?」
「愛し子の前で猫を被るタイプだったのか、あの方は」
「なんかもうその反応でヤバいヒトなのがわかるよね」
「祟られるからそういうことを言わないでくれるか」
「・・・」
そういうことを言われる時点で(ry
「…てっきり、呪術師の家系の秘蔵っ子とかが、身分を隠して参加したとかかと思ってたんだけど、そうじゃなくて本当に一般人なの?」
「元・完全な一般人ですけど?」
「一般人は普通神剣を降ろせない。応えるかどうかは勿論、応えてくれても顕現に必要な霊力は桁違いだ。一発で干乾びかねん。しかも、試験会場でだろう?本丸であれば、本丸の補助とかがあるが…」
「そんなこと言われても」
「こうなったからには、首斬の封印措置は解除せざるを得ないだろうが…本人たちの希望としてはどうなんだ?本丸を移るか、そのまま凍結の解除だけにするか」
「移る、というのは、小鳥に他の本丸を引き継がせる、ということか」
「…まあ、そういうことだな。新しい本丸にしても、鍛刀禁止だと頭数が揃えられないだろう」
「本丸の移動がなくとも、刀剣単位での引継ぎはあるかもしれんがな。寧ろ、ない可能性の方が低い」
「・・・」
大包平があからさまに嫌そうな顔をした。
「俺は別にどっちでもいいけど。大包平は?」
「…更に汚い本丸に移るというわけでないのなら、異動でも構わないが」
なお本丸の浄化具合