ホワイト引継ぎネタ(審神者にブラックじゃないとは言ってない)
未来人感マシマシ
審神者と初期刀は似る
多分配属二、三か月くらい
「…審神者やめてぇ」
溜息と共に吐き出したのは偽らざる俺の本音だ。正直、メンタルが弱いという自覚はある。でも、我慢する必要性を感じられねーんだもん。
「やめるのはいいけど、俺もついていける方法にしてよ」
「それなー」
蛍丸。俺の初期刀。大きくて小さな神様。俺が引継ぎ審神者なんて面倒なものになった原因の一つ。いや、蛍丸が悪いわけじゃないんだけど。
いっそ、部下が蛍丸一人なら、こんな気持ちにならずに済んだろうに。
「っていうか、サボってるとまた小言言われるよ?」
「だって俺、主婦になりにきたわけじゃねぇもーん」
「…まあ、前時代的だよね。女が家事全般やれ、ってのは」
「今時、就業状態無視して女だから家事しろとかありえねぇ。しかも全く機械化されてねぇ重労働だし」
百歩譲って、ハウスキーパーAIの管理ならともかく、料理洗濯掃除全部丸々手作業だし。いつの時代の専業主婦だよ。俺の実家だって掃除ロボと洗濯ロボはいるぞ。料理はアシスタントAIだけだけど。
「…主、女扱いされるの嫌いだしね」
「別に男扱いされたいわけでもないけどね」
ジェンダーの問題は難しいのである。まあ別に、自分の肉体的性別に違和感を持ってたりするわけでもないが。あえて強引にまとめるなら、男とか女とかじゃなくて、人格を持った個人、一人の人間として見てほしいわけである。
まあ、面倒くさがってるのも否定しないけど。
「同じことやっても蛍は褒められて、俺は怒られることがある論理的な理由がないし!俺と蛍の仲を引き裂きたいわけ???」
まあ、あいつらの好感度が下がるだけなんだけどね。男尊女卑ってやつ?
「まあ、その点は俺も子供扱いされてる感じでむかついてるんだけどねー。いくら姿が子供だからってさー」
拗ねた様子でそんなことをいう様はまるっきり子供のようだが、そうではないことを俺は知っている。というか、刀剣男士は外見年齢と精神年齢は一致しないんじゃないかと思っている。ある程度躯に引きずられる面はあるのかもしれないが。
こういうのってどう対処したらいいんだろ。先輩とか担当とかに相談する?でも先輩はともかく、担当はなー。あいつも刀剣とかこんのすけとかと同じく旧弊の価値観で生きてる人間な気がするんだよなー。セクハラとかモラハラとかしてくるし。先輩も頼りになるかっていうと微妙なライン?だし。いい人ではあるんだけどなー。
んーでも、相談するなら先輩かなー。
「…よし」
「どしたの?」
「先輩に相談してみよう」
「先輩って、あの人だよね。初期刀が槍の」
「うん、
丁度運よく暇が開いてるというので、蛍を連れて先輩の本丸を訪ねた。
「よぉ、猫鳥。元気してたかー?」
「ストレスもりもりで最悪です。ぶっちゃけ、審神者やめたい」
「うぇえ…大丈夫か…?」
「っていうか、猫鳥、俺が贈った半面は?気に入った感じだっただろ?」
「それが、聞いてくださいよ先輩。未熟だからナメられるってんならまだしも、女だからってモラハラしてくるんです!女は身綺麗にして家事だけやってればいい、って、俺審神者なんですけど!!!半面は見苦しいからって没収されました!」
正確に言うと、顔を隠すのは不細工を隠しているのだと疑われるからやめろとかそんなことを言っていた気がするが、わけのわからない理屈で取り上げられたことは変わりないので。
「普通にダメな奴じゃん。っていうか、いつの時代の人間だよ、お前の前任」
「具体的にいつの人かは知らないですけど、過去から夫婦一緒に連れてこられた感じの人だったみたいです。奥さんも審神者できないレベルだけど素質はあったとかで。子供たちが独立した後、老後から審神者になった感じで、二人とも寿命で死んだみたいですけど」
ちなみに奥さんの方が先に死んで、旦那もそれを追うように死んだようだ。まあ、よくあるパターンである。
「あー…奥さんの方と比べられてるわけね…」
「主は結婚どころか恋人もいないのにねー」
「欲しいと思ったこともないけどね」
「それで花嫁修業させられりゃあ、そりゃ怒るよなあ…」
いぐざくとりー。嫁に行く予定も婿をもらう予定もないのである。可能性としてはずっと独身てのが一番有力。相手もいないしね。
「まあ、主が行き遅れても俺がもらうから、そういう心配はいらないんだけどね」
「まあ、猫鳥ならその気になればすぐ恋人も作れそうだけど」
何か刀剣どもがいい加減なこと言ってるがそれはともかく。
「審神者ってどうしたら辞められるんです?」
「いや…そこはワンクッション置こう?本丸移るとか…今の本丸ってどうやって決まったんだっけ?」
「なんか現在審神者が空位の本丸の中で霊力相性と成績を考慮して選定されたとかなんとか。一応、成績は悪くないし、ホワイトなんですよ、一応」
ただ、何度か引継ぎは失敗しているらしい。多分これまでの引継ぎにもモラハラかましたんだろう。
「…猫鳥は初期刀が初期刀だもんなあ。軍部的には期待株のはずだしなあ…」
「その点は一般人に対して過大評価だと思いますけどね。…引き継いでから呪術の研究がまったく進められてないし…」
一応、前任は審神者としてはそれなりに優秀だったらしい。夫婦でやってたからかもしれないが。刀剣たちはその頃のやり方を続けることで成績を維持している。
つまり、俺の指示を仰ぐことなく、勝手に出陣遠征などを行っている。俺は霊力を供給してるだけの人ということである。俺である必要皆無だ。霊力電池でいいなら他のやつに頼んでほしい。
「…正しく猫鳥には役不足な本丸なんだなあ、いっそ、ブラックの立て直しとかの方が良かったんじゃないか?」
「相性だろ。猫鳥は色々尖ってるからなあ」
「主の実力を認識できてないからね、あいつら。俺が初期刀だって意味もわかってないし。女の子は審神者ができないと思ってるんだよ」
「だめじゃん」
「…あー、前例があるわけだからなあ…」
演習とかで余所の女審神者を見たことがないのかという話でもあるが。少なくとも、優秀な女審神者というものは存在している。
「…どうだろうなあ。人事部は担当次第なところあるし、かといって監査部案件かっていうと…」
「監査部って、ブラック案件とか違法行為の取り締まりをやってる部署なんじゃないんですか?」
「それとピュアホワイトとか諸事情で通報された時の対処とかもやってるね。猫鳥の案件は…審神者にブラック、ってのに当てはまるかがだなー。暴力とかないだろ?虐待ってのもまた違うし…モラハラが問題行為じゃないわけじゃないし、主と認められなくて勝手な行動されるってのは問題があるけど、成績は落としてないらしいし」
「…当然、前任の
戦績の話とか、前任の初期刀の蜂須賀のところに持ってかれるからな。一応管理権限は俺が握ってるはずなんだが。
「んー…変則的だけど、幽閉されて飼い殺しにされてる審神者と同等の扱いってことで監査部にもってく?状況が改善するかわからないけど」
「俺はとりあえず蛍丸と一緒に今の本丸を出られたらいいです」
「んー…じゃあ、今日はこのままうちに泊まっちゃう?」
「…それは流石に迷惑になるのでは?」
「二人ぐらい大丈夫だって。猫鳥は部屋に物を置かないタイプだし」
「まあ、勝手に触られないためには、常に(四次元収納で)持ち歩くのが一番ですからね」
本丸の自室に私物は置いていない。支給品とか、使い捨てのものとか、万屋で簡単に買えるものとかだけだ。ぶっちゃけ、この後本丸に戻ることがないとしても私は困らない。蛍はわからないが。
「んー、俺も本当に大切なものは全部持ち歩いてるから大丈夫だよ、主」
「完全に仲間に対する扱いじゃないんだよなー」
先に手を出してきたのはあちらである。俺は悪くない。
「言ったらなんだが、猫鳥の方にも問題がないわけじゃないと思うぞ?」
「俺だって自分に非がないとは思ってませんよ。耐えられることと耐えられないことがあるだけで」
客観的に見て、どっちもどっちに見る人もいることは知っている。だが、私は汚いと思う者を触れないタイプの潔癖症である。好感度のない相手の分泌物の付いている可能性のある物体など、触れるのも嫌だ。洗うとか、ない。本気でない。
「まあ、価値観の違いだよね」
「まあ、仲良くできないやつってのはいるよなあ」
「…和睦できないんじゃしょうがないか」
まあそういうことである。
「あれ、猫鳥さん。何でうちに?」
「…緊急避難的に、お邪魔しています。まあ、今日は泊めてもらうというだけなので」
「へー、何だかよくわからないけど、大変ですね。ところで、乗っ取り事案って知ってます?」
「態々他人のものを欲しがるとか難儀ですよね。俺は中古品より新品の方がいいです」
「厳しい意見ありがとうございまーす」
正直、俺は先輩の脇差たちがなんとなく苦手である。特に何があったというわけでもないのだが。
「…いや、猫鳥さんを疑ったことはないですよ?明らかに自分の刀大好きでしたし」
「考えたこともないことの容疑を掛けられていたという訳でないのなら幸いです」
「…猫鳥は"本物"だから疑うまでもないだろう。おそらく、その気になれば、ひと月もあれば八割がた集められる」
「よくわかんないけど、それ多分過大評価ですよ。こうして初期刀と二人で避難することになってるわけですし」
「それは軍部の判断ミスだろう」
それな。
「骨喰が言うならそうなんだろうけど…軍部ってそんなバカだっけ?いや、まあ、時々大ポカやらかすのは知ってるけど。特に人事」
「愛し子が本丸の運営に失敗するのは周囲の介入があった時が八割だ」
運営に失敗も何も、関わらせてくれねーんだよなー